36章:奪還
複数の魔族鉄騎隊に囲まれたサイネル将軍とカルロスは必死に応戦していた。
「はっ!!」
サイネル将軍がに敵に剣を突き立てて動きを止めると、
「せいっ!!」
カルロスが敵の喉を掻っ切る。
互いに魔導の力は持ち合わせておらず、己の腕っぷしのみで協力しながら一体ずつ確実に仕留めていく。
それでも戦況は劣勢だった。
純粋な兵の数だけでは三カ国同盟軍の方が圧倒的に勝っている。
だが、敵の馬は魔獣と化しており、普通の馬と比べると体格も俊敏性も高い。更にこちらは闇夜に目がなかなか慣れないこともあり、正面からぶつかり合うと勝ち目は無かった。
各兵は魔族鉄騎兵隊に蹂躙されており、次々と命を奪われていた。
統制を失った三カ国同盟兵は散り散りになって逃げ惑い、死体の山が築き上げられていく。
満月に照らされ、大地が真っ赤に染まっているのが分かる。
それでも、その背に乗る魔族の兵士としての練度はそこまで高く無いようで、馬ではなく騎乗者の方を狙うことで何とか勝機を見出していた。
「くそっ、このままでは!」
「こうなっては仕方ない。わたしが殿を務める。カルロス殿は後退して、バイムコーアに居るブルーム殿達と合流して体制を立て直して欲しい」
「しかし!」
「このまま全滅することだけは何があっても許されぬことだ! 若き副元首よ。今は耐えて、再起を掛けるのだ」
「……承知した。生き抜いてくれ、大将軍」
「わたしを誰だと思っている。そう易々とは討ち取られたりせぬよ」
サイネル将軍とその側近はカルロスを護るように方円の陣を組むと、その円を反転して鶴翼の陣を展開し、敵の進軍を阻んでいく。力では不利とは言え、数ではこちらが勝っているだけに使えた陣形だ。
その切り返しは見事で、カルロスと側近の数騎は馬を切り返すと北方へと駆け出した。
(待っていてください、大将軍。必ず援軍を引き連れて戻って参ります!)
◆ ◇ ◆
サイネル将軍は、カルロスが問題なく丘の先に消えて行ったことを確認した。
「よし、カルロス殿は上手く戦場を離脱出来たようだな」
「はい、問題ございません」
(頼んだぞ、カルロス殿!)
「ならば、ここからは我らサイデルトキア軍人の腕の見せ所だ! 一騎足りともここから先には通してはならん!」
「はっ!!」
サイネル将軍とその側近達は覚悟を決め直すと、剣を真っ直ぐ敵に向けて構える。
「鋒矢の陣を組み、敵本隊を一点集中突破せよ!」
先頭のサイネル将軍の合図を口火に、後方に位置していた中央部隊を前に突き出して陣形を組み直すと、全騎馬隊が一丸となって敵の鉄騎兵に向けて駆け出す。
「「「うおぉぉ!!!!」」」
マカオ平原中に響き渡るような爆音を奏でながら、サイネル軍は敵部隊に突っ込む。
敵には然程優れた指揮官は居ないのだろう。サイネル軍の動きに適応することなく、そのままバラバラに突っ込んでくる。
双方の騎兵が激しく衝突し、轟音を奏でる。その衝撃で何騎もの騎馬が宙に吹き飛ぶ。
サイネル将軍は剣を突き立て、敵兵を次々と屠っていく。
「ここで折れたら負けだ! 死んでも突破するぞ!!」
サイネル将軍の怒号が飛ぶ。
兵は奮い立ち、敵兵と交戦を繰り返す。
「サイネル将軍、助太刀いたそう!」
東方から声が上がったと思った瞬間、魔法弾が発射された。
敵の鉄機兵隊のど真ん中に炸裂し、辺りが一瞬爆裂に包まれる。馬がいななきを上げ、敵兵が何人も地面に叩きつけられる。
「これは一体……!?」
「良かった、間に合ったようじゃな」
「あなたはリーナの叔父殿ではないか!」
「この地はワシの勝手知ったるマカオの地。余所者に好き勝手されては困る。アラスタル! カイト! 両端の敵兵を頼んだぞ!」
「「はい!!」」
弟子のふたりも一緒に馳せ参じてくれていたようだ。
左右に分かれて展開し、各々魔法弾を発動させる。リーナの叔父程の威力は無いが、虚を突かれた敵兵には十二分に効果はあったようだ。
騎兵はその機動力と突破力を強みとするが、弓兵や魔導兵のような遠隔タイプとは相性が悪かった。
恐らく騎兵と歩兵中心のサイネル部隊の編成を見たセラフィスが、上位にあたる鉄騎兵で不意を突く作戦に出たのだろう。
だが、受け方のサイネル将軍自身も予想して無かった魔導兵の応援は、魔族軍を混乱させるには十分だった。
重装備で馬に乗っていることが仇になり、細かい軌道修正の出来ない彼等は魔法弾の格好のマトになっていく。
気を逃さず、サイネル将軍達も体制を立て直し、魔族軍に立ち向かっていく。
先ほど迄とは打って変わって戦況は一転し、三カ国同盟軍の優位に変わった。
「恩に着るぞ、叔父殿」
サイネル将軍は敵兵を斬り伏せながら礼を伝える。
「こちらこそ、応援のタイミングが際どくなり済まない。我々は下手にロスタリカ副元首軍に姿を晒す訳には行かなくてな」
共和政府とは敵対関係にある魔導道場の面々は、表立って同盟軍に協力することは叶わなかった。
「成る程、そういうことか……。だか、結果としては絶妙なタイミングだったと言えそうだ」
下手に援軍の存在を知っていたら、ここ迄必死になって魔族軍に向き合えて無かったであろう。事前に察知されていた可能性もあった筈だ。
歴戦の戦士サイネルは、これまでの戦も含め、戦の女神に気に入られていると言えそうだ。
その時だった。
夜空が真っ白に光ったかと思うと、アラスタルに向けて火炎弾が照射された。
「なっ……!」
虚を突かれたアラスタルは敵の攻撃をそのまま受けてしまう。
アラスタルとその周辺の仲間や敵兵もひっくるめて業火に包まれる。
「アラスタル!!」
リーナの叔父とサイネル将軍が夜空を見上げると、翼竜部隊が三機、大きく弧を描きながらこちらを睨み付けていた。
「くそっ! 敵も魔導を操れる隠し玉を用意していたということか!!」
サイネル将軍は悔しそうに剣を地面に打ち立てる。
翼竜達はここぞとばかりに攻め立て、炎を吹き立ててくる。
「味方も敵も関係無しか! やってくれるな!!」
サイネル軍の兵士に向かって飛び掛かってくるものの、勢い余って味方の鉄騎兵諸共吹き飛ばしているようだ。やはり、騎乗者の練度はそこまで高くはないようだ。
「叔父殿、カイト殿! このままではマズイ! わたし達であの翼竜兵を討ち取るぞ!」
「承知した!」
「アラスタル、どうか生きていてくれよ! 俺がリーナにどやされてしまう!」
カイトは助けに向かいたい気持ちをぐっと抑える。
三人はそれぞれ武器を構えると、頭上の翼竜兵に向き合う。
リーナの叔父とカイトはそれぞれ想念を集め、魔法弾を発して翼竜を攻撃するが、サイネル将軍にはそういった遠距離攻撃の手段は持ち合わせておらず、空中からの鋭い爪に何度も抉られそうになりながら、剣で相殺していく。
「くそっ!」
サイネル将軍は地面に突き刺さっていた敵兵の槍を掴み取ると、全身全霊の力を込めて放り投げた。
ブオン、と猛烈な音がして、上空の翼竜の脳天を貫いていた。
操舵者はそのまま地面に激しく打ち付けられ、ぐしゃりと潰れた。
「ケシュア族の村で療養中にグングニル殿に教えてもらった槍術が役に立ったようだ」
サイネル将軍は更に別の槍を拾うと、
「叔父殿、今から投擲するこの槍に魔導の力を与えてくれ!」
と連携技を提案する。
「承知した」
とリーナの叔父は、想念を集めて雷撃を生成すると、サイネル将軍が投げた槍に撃ち付ける。
槍は雷撃を帯びて激しく力を迸らせながらリーナの叔父と向き合っていた翼竜の翼を捉えた。
「ぎゃっ!!」
通常の槍であれば翼に少し傷を付ける程度であろうが、雷撃を帯びたその槍は、翼竜とその操舵者を感電させ、宙を舞うことも出来ずそのまま地面へと叩き付けられた。
劣勢を理解したのか、残された最後の翼竜兵は反転して南方へと逃げ出した。
各個撃破され地上に残された鉄騎兵も撤退の構えを見せ始める。
リーナの叔父は先ほどよりも更に綿密に想念を集めると、南方に向かって技を発動させた。
「大地の聖霊よ。我に力を貸して、眼前に広がる悪しき者共を打ち払い給え!! テラ・ファング!!」
南方に逃げていく敵兵達の駆け進む大地が大きく揺れ出し、そして、無数の自然の槍となって大きく隆起した。
勢い良く疾走していた鉄騎兵達は突如発生した大地の牙の前に静止することも出来ず、次々と牙に突き刺さっていく。
複数の魔獣や魔族達の断末魔が一斉に響き渡った瞬間だった。
「す、凄い……!」
サイネル将軍は、眼前の光景に目を疑った。
「なあに、別に大したことは何も無い。ある程度の魔導を習った者ならば誰でも発動可能な技だよ。少し広域発動させたのと、敵自身の機動力を上手く活用して、威力を数十倍に増幅させて貰った迄だ」
「いやはや、それでもなかなかのものだと言える。本当に感謝するぞ」
「カイトよ、アラスタルの手当を急いでくれ!」
「はい、先生!」
「よし、このまま一気に攻勢に転じるぞ! 負傷者はここに残ってカイト殿と共に治療に専念せよ! 動ける者は私と共にハノイの国境を奪還に向かう!!」
「はっ!!」
完全に形勢逆転した瞬間だった。
サイネル将軍率いる三カ国同盟軍は、先ほどの勢いのまま、一晩のうちにハノイ市南端にあるロスタリカ国境まで破竹の勢いで奪還を成し遂げたのであった。




