表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Heaven's Gate  作者: みずたにみゆう
>第4編<
33/37

33章:風炎激突

 ロスタリカ共和国とサイデルトキア王国の国境付近に向け、バイムコーアからハノイ地区に歩を進めていたサイネル将軍とカルロス一軍は、マカオ平原近郊でキャンプを張った。


 傭兵部隊とは聞いていたが、思っていたよりも士気が高く、二日でマカオに来たこともあり、行軍は順調だった。二万という大軍が各々の疲れを癒す為に羽を伸ばしている。


 基本的にはロスタリカ兵ではあるが、サイデルトキアから流れついた王国兵も混じっていた。


「しかし、不思議なものですな。まさか、貴国と共に戦う日が来るなんて」

 と、カルロスが口を開く。


「確かに」


 サイネル将軍としても、恒久平和を掲げていたライリス様と共に、長年他国との友好を深める為に尽力してきた。


 それでも、現実問題として、国と国との関係は複雑だ。


 交易を中心に良好な関係を築いていたものの、軍人同士が仲良くする訳には行かなかった。互いに牽制し合い、腹を探り合い、少しでも火種を作らずにギリギリの関係を維持するのが精一杯だった。


 コウエンが提案したカルロスを味方に付ける作戦を聞いた時はどうなるかと内心冷や冷やしていたが、結果として北サイデルトキア奪還の為に力を貸してくれている。


 国民を守る為ならば命を賭して戦う覚悟であることは揺らがないが、一時休戦ではなく、永続的に戦いのない世界に出来ないのだろうかという軍人らしからぬ気持ちが湧き上がってくる。



「サイネル将軍、カルロス副元首、大変です! 南方ハノイに陣取っていた中隊が、魔族と交戦を始めたようです!」


「なんだとっ!? まだ、サイデルトキア国境まではかなりあるというのに」


「魔族軍は馬のような魔獣に跨って一気に国境を突破してきた模様です。その数五百騎!」


「ぐっ……! なかなかの数だ」


「騎兵の勢いで国境警備隊の守りを力付くで破って来たか……。どうやら、先手を打たれてしまったようだ」


 報告通りならば、ロスタリカ共和国内に魔族軍が進軍を始めたということになる。


 ラスタを誘き出す為に大々的に触れ回っていた所ではあるが、セラフィスという王はやはり機を逃さない相手のようだ。


「本陣各位に通達! 休憩は終わりだ! 今から急ぎハノイに向け行軍を再開する!」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ラスタとブルームの剣戟は幾十幾百と続く。


 互いに一歩を遅れを取らず、その速度はまさに神速。


 少し距離を取って戦況を見守るリーナ達は、その動きを追うだけで精一杯だ。


「速すぎるよ! 全然ふたりの動きについていけない……!」


 ふたりの能力は、完全に拮抗しているようだった。


 時々ラスタが炎撃を放つが、即座にブルームが風撃を放ち、それを掻き消す。


 一方のブルームが風の刃を放てば、ラスタが炎の盾を生成して防ぐ。


「はぁぁぁぁ!!!!」


「このクソアマぁ!!!!」


 ガキィィン!!!!


 ふたりの剣戟がぶつかり合い、周囲に地響きが走る。衝撃破が近隣の家屋を震わせる。


 同盟本部はもはや爆撃を受けたように悲惨な状態になっていた。


「マズいな、本部が壊滅してしまう」


 ブルームは一旦後ろに引くと、市街地の中心から外れた人気の少ない場所へと移動を始める。


「このアマ、逃がさねえぞ!!」


 ラスタはブルームを追って、光の如き速さで移動していく。



「リーナさん! 被害は甚大です。今のうちに本部内に残されていた人を救助、避難させます!」


「うん、分かった!」


 すると、様子を窺っていたグングニルが口を開いた。


「待て、主ら。ここはリズモンドに任せておけば良かろう。我々はあのふたりを追うぞ」


「でも……!」


「グングニル殿の言う通りだ。ここは私の国、拠点でもある。戦力になる貴様らはすぐにでもあの魔人を追って行くが良い」


 リズモンドも同意見だったようだ。窓ガラスが破壊され、その破片で右肩を負傷しているようだったが、意に介せずリーナ達を行かせようとする。


「ありがとうございます。では、ブルーム様を追います」


「ああ、後は任せろ」


「うん!」


「コウエン将軍に嬢ちゃん。我に掴まるが良い。飛ばすぞ」


 グングニルは自分の両手でコウエンとリーナを抱きかかえる。


「はっ!!」


 彼が声を発すると同時に、猛烈な勢いで視界が揺れた。


 グングニルは目にも止まらぬ速さで地を蹴って、その場を移動し出したようだ。


 余りの速さに、コウエンとリーナは目を回す。


(ちょ、ちょっと、なんて速さなの!?)


 その速さはかつて死闘を繰り広げたフレディにも匹敵するような速さだった。


(この人が、ブルームの師匠……!?)


 とんでもない人物が自分たちの味方になってくれたのだと、この時、リーナは初めて知ったのだった。



 ◆ ◇ ◆



 ブルームが降り立った場所は、同盟本部から西方にある港に隣接した場所だった。


 夜間帯ということもあって、人通りも少なく、建物も少ない。戦闘を続けるには被害を最小限に食い止められる場所だと言えた。


「ここは……?」


 ブルームを追ってその場に降り立ったラスタは、辺りを見回した。


「くそっ、懐かしい場所だな」


「ああ、図らずもまたこの場所に来てしまったようだ」


 ラスタは苦虫を嚙み潰したような顔をして辺りを見回した。



 この地は、ブルームとラスタが初めて出会った地だった。


 ターゲットの魔族を追っていたラスタが、横から入ってきたブルームに討伐されてしまい、禍根を残すことになった場所。


 当時のブルームは非常に冷徹で、魔族を見つければ、問答無用で斬り殺していた。仕事の作法や同業者による暗黙の了解等も一切関係ない。


 ラスタが追っていた魔族は多額の賞金が賭けられた中級魔族だったが、ブルームは見つけるや否やその中級魔族を一網打尽にしていた。


 当然ながら彼女の生い立ちを知らないラスタからすれば、多額の賞金を横から掻っ攫った卑怯者でしかない。


 あれから四年余りの月日が経過していたが、ラスタにとって、あのような屈辱的な事件は以来起こっていない。


 ましてや、サイデルトキアで再会してからはブルームに負け続けている。


 かつて盟友として実力を認め合った立場であるライザとは違い、明確にライバルと言える存在がブルームなのだ。



「敢えてこの場所に移動したって言うのか、嗚呼ん?」

 と、ラスタは額に今にもはち切れそうな太い血管を浮き上がらせながら問う。


「そういう訳ではない。人通りの少ない場所を選んだ迄だ」


 ラスタは改めて『炎魔装甲』を発動させると、ブルームに向き合う。


「ならば、決着を着けようじゃねえか」


「ああ。ここなら周りに遠慮なく本気を出せる」


 ブルームは風魔雷神剣を構えると、精神を集中させる。


 大地が震え、辺り一帯にピリッとした空気が張り詰める。


「あ?」


 美しく大地を照らしていた月が暗雲に覆われ、一条の稲妻がブルームに打ち付けられる。


「風魔雷神剣、『風魔装甲』!」


 猛烈な爆発と共に、風雷を身に纏ったブルームが姿を現した。ラスタの装甲とは違い、元々の身体の線を維持してかなりフィットしたものだった。外見だけではその凄さは分かりにくいが、彼女が放つ威圧感は強烈だった。



 ちょうどその場に到着したリーナ達は、ブルームの変貌ぶりに目を丸くする。


「これって、ラスタと同じ魔装甲だよね!?」


「そうですね。でも魔族ではないブルーム様に魔装甲が出来る筈は……!」


 すると、グングニルが嬉しそうにニヤリと笑う。


「なぁに、カームニスに滞在していた際に我が叩き込んでやった迄のこと」


「す、凄い!!」


 このグングニルという老兵、只者ではない。



「待たせたな、ラスタ」


「丁度良い。退屈過ぎて欠伸が出そうになっていた所だ」


 ラスタとブルームは改めて睨み合う。


 張り詰めた空気が肌にヒリヒリと痛い。空気が薄く、息苦しくなる。


 動き出したのは同時だった。


 ふたりが剣戟を交わすと、その衝撃で地面が抉れ、四方八方に地割れが発生する。



 離れてみていたリーナ達の足場にも亀裂が走った。


「同盟本部に居た時とは比じゃない力だよ!」


「ブルーム様、凄い!」


 双方、とんでもない出力だ。常人なら最早立っていることもままならない。


 まさに互角。


 本気を出して力は増したが、ふたりは一歩も譲らない。


「この決闘、一瞬で勝敗が決するやもしれぬ」


 グングニルは構えていたオレイカルコスの槍を下ろすと、改めてふたりを見守ることにしたのだった。



 ブルームは精神を集中させると、風魔雷神剣に力を集めていく。


 剣先に猛烈な想念が圧縮されていき、緑とも青とも言えないような不思議な色を帯びていく。


「はぁぁぁぁぁ! 風魔春雷斬奉天!!」


 剣は元々の形状からその色や姿を変え、この世のあらゆるものを切り裂かんばかりの鋭利な剣と化していた。


「調子に乗るな、クソアマぁぁぁぁ! 炎蛇荒神斬滅殺!!」


 ふたりが渾身の技を発動して剣を交える。


 二スタ市を一瞬で消し炭にした魔導要塞バイアクヘーの一撃にも劣らぬ地球を震わすような爆音が鳴った。


 夜中である筈なのに、空が明るくなり、月をも掻き消す程の勢いだ。


 お互いの剣が激しく軋み、行き場を失った力が互いの魔装甲に反射する。


 激しい力が互いの装甲を貫き、削りあう。


「「ぐっ……!!」」


 双方同時に苦悶の表情を浮かべ、全身が切り刻まれる。


 互いに一歩引いて着地し、その場で膝を付く。


 辺りの地形が原型を留めない程に削り取られ、衝撃によって遠方へと押し込められた海の水が津波となって港に押し戻されてくる。防波堤であった筈の場所に波が打ち付けられ、水が舞って霧散する。


 絶対無敵とも呼べるはずの魔装甲が一部破壊され、ブルームは左肩を抉られ、ラスタは左脇腹を抉られていた。


 双方、なかなかの深手ではないだろうか。


「ハァハァハァ……」


 ブルームは想念を集めて削られた装甲を戻そうとするが、思ったよりもダメージが大きいのか、編み切れない。その場に倒れ込みそうになるのを必死になって堪える。


「フッ、息が上がっているようだ。随分とお疲れのようだな」

 と、『炎魔装甲』を編み直したラスタがニヤリと笑う。


「ハァハァ……、くそっ!!」



 刹那、強烈な光の矢が彼らを襲う。


「なっ……!?」


 虚を突かれブルームに隙が出来る。


 その隙を当然ながら、ラスタが見逃す訳は無いのだが、


「炎蛇斬!」


 ブルームを斬り付けるのではなく、光の矢に向かって技を放っていた。


 炎で出来た蛇に絡まれ、放たれたビームは相殺される。


「ラスタ、何故わたしを!?」


「黙れ! てめぇを助けた訳じゃねぇよ」


 ラスタはブルームではなく、光の矢が照射された方向をキリッと睨み付けた。


「ティファレト、何のつもりだ!!」


 リーナとコウエンは、思わぬ人物の登場に目を丸くした。


「……え……、ティアナ?」


 そこには、成長した姿のティアナが居た。


 以前の容姿に比べ五歳程成長しており、身長も髪の長さも伸びており、髪は後ろで束ねていた。身体つきも女性らしくなって胸も膨らみを増しており、すっかり大人になっていた。外見はだいぶ変わってはいたが、顔つきを見ればティアナであることは間違いなかった。


 だが、魂はここに在らずと言った感じで、虚な目をしてこちらを見詰めていた。


「ふふ、愚かよのう」


 ティアナから発せられた声は彼女のものではなかった。


「えっ、ティアナの声じゃない!?」


「此奴は太陽の《クリフォート》ティファレト。我が従順な操り人形なり」


「ティファレト……?」


「ティアナさんの心を洗脳し、ぶつけてくるとはなんと卑怯なことか」

 と、操られていることを把握したコウエンが、苦虫を噛み潰したように険しい顔をした。



「よし、彼女の相手は我がいたそう」


「グングニル!?」


「旧知の仲である主らでは冷静に対処することは叶わぬだろう。一切の関わりを持たぬ我であれば、躊躇なく仕留めることは可能だ」


「仕留めるって……!? ダメ! ダメだよ! ティアナは殺せない!」


「だが、この娘は間違いなく上級魔族≪クリフォート≫だ。波動を見て分からぬのか? 力をセーブして何とかなる相手ではない!」


「それでも、リーナにとっては最大の恋敵だとしても、ライザの大事な人なんだ! 再会もさせずに殺すなんてことは出来ない!」


「リーナ……」


 リーナは真っ直ぐな目でグングニルを見つめた。ここは一歩も譲らないという強い意志の籠った瞳だった。


 グングニルは、リーナの頭に大きな掌をぽんと乗せた。


「ふっ、承知した。なら、生捕りにするぞ! 協力せい!」


「うん、ありがと!」


 リーナはポシェットに入れていた魔法石を取り出すと、南方に向かって勢いよく放り投げた。石は空中で弾け、眩い橙色の光を発した。


 これはライザに緊急事態を知らせる為の合図だ。色に応じて、自分達がどういう状況なのかを知らせる決まりだった。


 今発光させたのは橙。ティアナを発見した時の合図だ。


(ライザ、気付いて! ティアナが見つかったよ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ