4 異世界での旅立ちと魔法少女
何かを得るということは何かを失うことだという。
星間犯罪者との遭遇はジニーという大切な友人を得ると同時に、学校生活のかなりの部分を失うことになった。
ジニーと融合したことで、私の動体視力と反射神経、そしていざという時の膂力はけた違いに高くなっており、最初は私はそのことを把握できていなかった。
だから、『普通の人間に対する手加減』の仕方がまったく分かっていなかったのだ。
それが表面化したのはジニーと融合してすぐのことだった。
星間犯罪者の一人が自身の洗脳能力を使い、とあるやくざの事務所を乗っ取って、犯罪を目論んだことがあった。
そいつは生きたままの人間(宇宙人含む)をむさぼり食うのが趣味で、そのやくざをスケープゴートにしようとしていたらしい。
とある女子高生をやくざを使って拉致し、いざお食事…となる前の段階で私が踏み込んだのだった。
洗脳されたやくざさんたちは同士撃ちを厭わず銃をぶっ放すは、ドスを振り回すわで、ほぼ『同士撃ち』の阿鼻叫喚の状態になった。
私は動ける奴を木刀でどんどん無力化していき、まったくの無傷だったけど。
ロープでぐるぐる巻きにされた女子高生を開放した後、私は一番奥の部屋にいた、ラスボスと対峙した。
あっさり一刀両断して終わったけど。これで機械化鵺より強いということなんだから、今の自分がいかにチートになったかということだよね。
そして、同士撃ちになって死にそうになっていたやくざさんたちの魔法での治療がなんどか終わった時に機動隊が踏み込んできたのだ。
なんでもやくざさん所有のビルで大騒動が起きているということで近所の人が通報したのだそうだ。
踏み込んできた機動隊の人たちは固まった。
片隅のソファで震えるようにして座っている(攫われた)セーラー服の女子高生。
なにやら片づけをしているジャージの女子高生(私)。
銃撃の跡や長ドスが散らばっており、全員気絶しているやくざたち。
第三者から見たら意味不明の図だよね?!
当然私と女子高生は説明を求められたのだった。
まず、女子高生・河井さんが説明を始めた。
下校途中にいきなり正体不明の人たちに眠り薬?を嗅がされて気を失った。
気が付くと、凶悪な人相の連中の事務所で猿ぐつわを噛まされて、ロープで縛られており、恐怖で気を失いそうになっていた。
そこに木刀を持った女の子が駆け込んできて、凶悪なやくざをちぎっては投げ、ちぎっては投げて、制圧し、自分を解放すると、奥の部屋のボスらしい人物のいる場所に踏み込んでいき、しばらくして戻ってきた。
そして、怪我をしてるやくざたちを治療していた。
私を助けてくれただけでも信じられないくらいすごいのに、ボコったやくざの手当てをするとか、神様みたいな人だ…と。
しまったー!!早々と助けたのは失敗だったか?!でも、放っておくという選択肢があったかというと…。
機動隊の隊長は私を信じられないものを見るような目で見ながら尋ねた。
「君は一体何者なのだ?」と。
私はジニーと必死で脳内会議を繰り広げながらなんとか説明した。
私は近所の剣道場に通う女子高生だ。
友達と思しき女子高生が攫われたので、慌てて後をつけていって、木刀片手に踏み込んだのだ。
その後のことは無我夢中でよくわからなくなっているが、やくざがドスを抜いたり、銃を撃ったりしたので、テンパりすぎて必死に動いていたのだけは覚えている。
攫われた女の子は知り合いではなかったものの、危険な場所から逃げてもらいたいと思ったから、必死で助けた。
さらに友達が攫われていてはいけないからと奥の部屋まで踏み入ったら、正気を失ったボスがいたので、ボコっておいた…みたいな話をした。
私が一通り話し終えると、隊長さんは自身のこめかみを抑えながらため息をついた。
「もうしかして、君は近所の道場で評判の剣士の北見華蓮さんだね。
あそこの道場では警察関係者が何人も門下生でいて、有段者がごろごろしているんだ。
あなたはそういった警官の猛者よりも強いという話もよく聞いている。
でもね、君も女の子なんだから、なにかあったら取り返しがつかないんだよ。
大切な友達を助けたいという気持ちはとても素晴らしいと思うけど、こういう時には警察を頼るものなんだよ。
今回は偶然鉄砲の弾が当たらなかったから大事に至らなかったけど、自分のことももっと大切にしてあげなさい。」
隊長さんはとても親身になってこんこんと私に説教をしてくれた。
はい、おっしゃる通りです。普通の女の子なら絶対にやってはいけない行動です。
でも、今回は警察に通報していたら、機動隊が壊滅していたと思います。さらに、かりに鉄砲の弾が当たっても何とでもなるし、そもそもチンピラごときが撃った(撃とうとした)鉄砲の弾くらいは簡単に躱せるんです…なんてことは言えるわけがないですよね。
この『やくざ事務所単身襲撃事件』は町内で非常に大きな話題になり、それまで学校では『剣道一本やりの面白みに欠ける女の子』という見方をされていたのが、『やくざの事務所に特攻をかける狂戦士』という見方に変わってしまい、私のまともな高校生活が終わりを告げてしまったのだった。
さらに1週間後、星間犯罪者の一人が今度は関東最大のケンカ上等の暴走族を乗っ取り、◎斗の拳ばりの展開になりかねなかったところを何とか回避する騒動も起きてしまった。
この時は暴走族の総長以外のほぼ全員が乗っ取られているときの記憶を失っており、総長だけはうっすらと『怪しい存在に乗っ取られた記憶がある』状態だった。
『特攻狂戦士』女子高生にボコボコにされた大暴走族『烈風会』は解散し、ケンカが恐ろしく強くて全国に名をとどろかせていた総長土門龍二はなんと私に『舎弟』入りを申し入れてきた。
学校の帰り道に『土下座して舎弟入りを希望』してくんだよ!なにやっちゃってくれてんの?!それも、赤と金色に染めたロン毛で特攻服を着たガタイのいいお兄さんがやるから目立つこと、目立つこと!
おかげで私の『特攻狂戦士』イメージが学校で完全に確立されてしまったんだけど?!
その翌日、私は剣道の師匠で父の弟でもある北見鉄斎叔父から道場でのけいこの後、呼び出しを喰らった。
「少々剣の腕が上がったからと言って、やくざの事務所や暴走族の本拠地に殴り込みをかけるとは何事であるか」と。
大の大人が震え上がる恐ろしい形相で、「気合を入れなおしてやるから俺に本気でかかってきてみろ!」
と言われ、私はしぶしぶ試合を挑んだ。
結果は……私の圧倒的な勝利だった。
やくざさんや暴走族の人たちをいとも簡単にボコってしまったことで、かなりの使い手であるはずの叔父相手ですら、手加減が必要なことはわかっていた。
いたのだが、『どの程度の手加減が適切』なのかまでは把握しきれていなかったのだ。
3回ほど吹き飛ばされた叔父は、そもままふらふらっと立ち上がると、完全にうつろな表情になったまま、私のことも目に入らなくなり、そのまま帰ってしまった。
翌日、いつも気合の溢れていた叔父は別人にしか見えないくらい悄然とした状態で、私に賞状を渡してきた。
『北見一刀流免許皆伝』……えええええ??!!
「私からお前さんに教えることは一切ない。いや、あそこまで実力の差があったのではむしろ私が華蓮に頭を下げて教わらなければいけないレベルだ。
しかも、これから年と共にむしろ腕が衰えていく私と違い、華蓮はこれからさらに腕を上げていくことだろう。
さらに昨晩、この道場の弟子たちの警官の上司にあたる、機動隊の後藤隊長から女子高生を救ったときの逸話を聞かせてもらったよ。
華蓮、お前さんは自身の腕におごったのではなく、単に女の子の身を案じただけだったのだな。
私は心情の上でも実力的の上でもお前さんを信じてやれなかったのだな。本当に師匠失格だ。」
えええ!!叔父さん、土下座なんてしなくていいから!!!私がやくざや暴走族に討ち入りをしたのは『星間犯罪者』に対するやむをえない行動だっただけで、叔父さんが誤解しても仕方ない案件だから!!……とも言えずに、私は『免許皆伝の賞状』を持って帰った。
その後、私の修練はもっぱら一人(正確にはジニーと二人三脚)で行うことになった。
なお、鉄斎叔父はそれまで『鬼の鉄斎』と言われるこわもての道場主だったのが、いつも笑顔を絶やさない温厚な道場主に変貌したそうだ。
そして、苛烈な攻撃的な剣から、『一見穏やかな変幻自在の剣』に変貌し、腕前はむしろ上がったのだとか…。
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『よくも…よくも華蓮の顔に傷をつけたな!!
絶対にゆるさねええ!!!』
ジニーが激怒し、私の中のジニーの『氣』が爆発的に膨れ上がった。
私の体が青白く光り輝いた後、その姿は私より一回り背の高い赤髪の金色の全身にフィットするスーツを着た美女・宇宙刑事としてのジニーの姿に変じていた。
さらに強烈な光を放つようになった妖刀・正村を正眼に構えた状態で。
「ど、どういうことなの?!オーラがまるで別人だわ!それに、これでは魔王さまにすら匹敵しかねない化け物だわ!
…残念だけどここは引くしか…。」
「気付くのが遅い!『雷光斬』!!」
ジニーは身体能力も地球人とは比較にならないくらい高いが、さらに超能力も地球人よりさらにけた違いに高いのだ。
そのサイキックパワーを妖刀に込めることで、爆発的な破壊力を発揮する。
『私たち』の手でぶった斬られたゴリアテは青白い炎を上げて、あっという間に燃え尽きた。
人間?が燃え尽きる様に私はびっくりしたのだが、後日強大な魔力で身体を作っている大物魔族は膨大なエネルギージを喰らうと、身体が崩壊するのだという。
周りの人たちが呆然としながら、勇者たちを蹂躙したゴリアテの最期を見ているのをしり目に、ジニーがきびきびと動き出した。
「私は今から諸悪の根源の魔王を倒しに旅に出る。
一緒に召喚された勇者さんたちは足手まといにしかなりそうにないから、私一人でとっとと行ってくる!
余分な装備などはいらないから、簡単な地図と旅の路銀だけを渡すように!」
様子を見ていた文官の一人、衣装も立派でオーラも比較的マシなおじさんに私たちは声をかけた。
「わかりました。すぐにご用意させます。」
おじさん文官が近くにいた女官に何やら命じると、まもなく、その女官がそこそこの大きさの巾着袋を持ってきた。
「この中に旅行者が二か月分くらい過ごせるだけのお金が入っています。本来ならもう少しご用意させていただくのですが…。」
「かまわない。魔王軍も尖兵が倒されたとなると、動きが早まる可能性がある。では、出発するぞ!」
私たちは城の中庭の訓練場から、城壁を飛び越えるように跳躍して、そのまま城を跡にした。
こうしていよいよ私たちの『異世界無双の旅』は始まったのだった。
(続く)