3 2人の合わせ技と魔法少女
魔法少女?になった私はコハクと共に妖魔に乗っ取られた妖怪や人間と戦う日々を送ることになった。
とはいえ、実際に戦闘になったのは1カ月に1~2回であり、しかも敵の数が多く苦労することはあってもほとんど苦戦することはなかった。
それは万が一があってはいけないと今までの何倍も剣道の練習に打ち込んだからであり、その甲斐あって、あっという間に道場では大の大人を差し置いて、師匠以外は敵なしになっていった。
それに伴い鎧もますます、“いかつい形”に変わっていき、コハクによると、“一見して百戦錬磨の武将”になっていった。
それでもたまに苦戦することはあり、特に『妖刀正村』が妖魔に乗っ取られた剣道の師範を操ってきたときなどは、持っていた刀が妖刀に斬られて大ピンチになったものだ。
斬られる寸前に死ぬ気で真剣白刃取りに成功し、その後私の身体を乗っ取ろうとする妖刀との30分以上の精神戦は本当に神経を削られることになった。
最後には私の気合が勝って、妖刀は新たな魔法少女の愛刀に変じてくれたのでした。
妖刀…もとい、新たな愛刀の威力はそれはそれはすごいものだった。“正村”を装備したことで、攻撃力がけた違いに高くなっただけでなく、“見た目”も当社比約1.5倍くらい迫力が増したのだった。
自室の鏡を見たとき、自身が戦国物のゲームの主人公、それも“妖怪武将”にでもなった気分になって、本当に脱力感を覚えたものだ。
その後しばらくは自分の“見た目”は気にしないようにしながらの妖魔退治と修練の日々が続いたのだった。
妖刀…もとい、愛刀の力が強すぎて、戦闘が作業になってからしばらくたったある日のことだった。
背筋に今までに感じたことのない悪寒が走り、私はコハクを引っ張るように近くの裏山に走っていった。
宵闇の中、山の中腹に炎が上がり、そこを目指して人間離れした速度で走っている私は今回の騒動の原因が恐らく“妖魔ではない”だろうと感じていた。
間もなく私は自身の予感が当たったことを襲い掛かってきた怪物の姿を見て確信した。
全身が銀色の蜂によく似た機械製と思しき怪物が『Kiiiiiii』と警告音みたいな音を発しながら襲い掛かってきたのだ。
次々を襲ってくる機械製の蜂を切り捨てていくと、その残骸は私の後ろに流れて行って次々と爆発していった。
『 グワウーー!! 』
闇を切り裂くようなすさまじい叫び声を上げて、そいつは姿を現した。
頭がヒヒ、身体と四肢が獅子?で尻尾が蛇のように見える全身が銀色の化け物が私を睨みつけていた。(童話では体が狸で四肢が虎なのだとか…。)
そう、こいつは今までの機械昆虫と違って、明かに知性があり、全身から凶暴な気が溢れかえっていたのだ。
(こいつ、今までの妖魔とはけた違いの化け物だ!)
そう察した私はすぐに刀を構えたが、機械化鵺の動きは私の予想をはるかに上回った。
ふいに鵺は私の目の前から姿を消すと、私の体は後方に吹き飛ばされていた。
(こいつ、動きの速さもけた違いだ!)
ふらつきながらもなんとか立ち上がり、全身の神経を研ぎ澄ます。
目に頼っていたのでは対応できないことを本能的に悟り、私は全身の力を抜いて、奴の気配に対応できるようにした。
(そこだ!)
渾身の気合を込めて斬りつけると、確かな手ごたえを感じた。
しかし、その直後、左わきにすさまじい痛みを感じると同時に、さっきよりも強い衝撃で私は吹き飛ばされた。
左のおなかから明らかにたくさん血を流しながら、すさまじい痛みの中で私は必死で立ち上がる。こんな化け物を街に出したら、誰も止めることができずに大勢の人が死んでしまう!
立ち上がった私は左前足を切り落とされた機械化鵺が、発光する赤髪の美女に殴り倒される様を目撃して、呆然としていた。
その美女は身体にフィットする金色のスーツを着ていたが、その動きの速さは私を圧倒した機械化鵺をさらに上回っていたのだ!
何か所もその美女にぶん殴られた鵺はあちこちから火を噴きながらその場に崩れ落ちた。
それを見届けて、私は何とか自身に治癒魔法をかけると、その場に倒れこんでしまった。
機械化鵺は何とか退治され、それを退治した美女はどう見ても悪人には見えなかったのだ。
「大丈夫か?!」
その美女は私を見やると心配そうに駆け寄ってきた。
口を開くのも億劫だった私はなんとか彼女に右手を振って答えた。
「く!なんて深い傷だ!これでは普通の治療をしていたのでは間に合わない!こうなったら…」
美女が私に触れると同時に私は気を失った。
『気分はいかが?』
私は頭の中に響く女性の声で目を覚ました。
聞いたことのない声だが、優しい響きの声に特に不安は感じなかった。
ところで、あの後私はどうなったのだろう。
『私はジミー・ハイド。星間警察の刑事をしていて、主に凶悪犯の取り締まりをしていいるんだ。』
なんと、私はどうやら特撮ドラマの宇宙刑事が活躍する場面を目撃したらしい。
『大変言いにくいのだが、君は凶悪犯の攻撃を受けて致命傷を負っていた。だから…』
「ちょっと待ってください!私は自分に治癒魔法をかけていましたから、時間がたてば完全に元の状態に戻ったはずなんです。」
『なんだってー!!!』
ジニーの話によると、どう見ても助からなさそうな私の状態を見て、宇宙人である自分と融合させることで命を救おうとしたのだそうだ。
魔法のない星から来たジニーにはそのことがまったくわからなかったわけなんだけど。
しばらく2人で脳内会話をした結果、ジニーの乗ってきた宇宙船の設備では2人を分離することは不可能で、星間警察の母星に戻るか、設備の整った病院船を地球に乗り入れるかの二択になるのだとか。
でっかい病院船が地球に来たら地球がどえらい騒ぎになるので、実質星間警察の母星に帰るしかないそうなのだが…。
『私が追ってきたのは凶悪な星間マフィアの犯罪実行犯たちで、全員自身に強力な生体改造を行っているんだ。正確な人数は不明だが、先ほどの怪物みたいなのがあと何人かいるはずだ。そいつらを全員捕縛か、“処理”すれば母星に戻ることもできるんだが…。』
「え?追ってきているのはジニーだけなの?」
『いや、もう数名いるはずなんだ。ただ、地球が星間グループに無所属であるため、大っぴらに動けないためと奴らに誰が追っているのかばれないために、“潜入捜査”していることからメンバー同士はお互いにも知らされていないんだ。
大変申し訳ないんだが、華蓮にはしばらく捜査に協力してもらう必要があるんだ。』
ジニーは小柄な癒し系の美女の自身の姿を脳内のイメージで投影して、その姿で私に思い切り頭を下げていた。
「あれ?さっきの背の高い美女は?」
『あれも私なんだ。今の姿は通常モードで、戦闘モードになると、背が伸びて、筋力や瞬発力などがけた違いに高くなるんだ。』
結局私にはジニーに協力する以外に選択の余地がなかった。宇宙刑事がてこずるような凶悪犯が地球に潜伏していたままでは私自身がとても安心して生活できそうになかったからだ。
私たち二人が融合したことは悪いことばかりではなかった。ジニーの宇宙刑事としての能力に私の魔法少女としての技能を足すことで、明かな戦力アップになったからだ。
凶悪犯たちの中でも一番の小物だった機械化鵺に私は大苦戦したわけだし、ジニー単体でも負傷していない状態の鵺なら簡単に倒せたかどうかはわからなかったそうだ。
しかし、2人で力を合わせた状態なら、あのクラスの敵なら比較的簡単に撃破できるとジニーの搭乗してきた宇宙船のコンピューターがシミュレーションの結果を出したのだ。
こうして始まった、二人三脚の宇宙刑事活動は比較的スムーズに進んでいった。
私の学校生活を大きく犠牲にしての結果だが…。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
「ふざけんな!俺を甘く見るんじゃねえ!」
激高した拳士勇者の柳田が漆黒の化け物ゴリアテに正拳突きをお見舞いしようとする。
ゴリアテは軽く左にステップしてその突きをかわしざま、回し蹴りを柳田に叩き込んで、そのまま吹き飛ばす。
10メートル近く吹き飛ばされた柳田は、気絶して、ぴくぴくと痙攣している。
「あらあ、勇者1号は弱すぎね。次いらっしゃい♪」
ゴリアテは小ばかにするように騎士たちを挑発している。
「バカにしやがって!聖剣の威力を思い知れ!」
王国に伝わる聖剣を賜った剣の勇者の真田は輝く聖剣を抜き放つと、ゴリアテに斬りかかっていく。
ゴリアテは剣劇を持っていた漆黒の剣で受け流すと、わき腹から伸びた巨大な蜘蛛の足が真田をはじき飛ばした。
数メートル飛ばされたうずくまりながらも必死で起き上がろうとしているようだが、ろっ骨が折れているのだろう。力がうまく入らないようで、そのままもだえ苦しんでいる。
「勇者2号も全然だめね♪聖剣があってもこんな貧弱な腕じゃあ、魔王様どころか、私たち13魔将の足元にも及ばないわね。」
ゴリアテは肩を溜息をつきながら肩をすくめた。
「この化け物がー!!」
はじかれたように騎士団長が巨大な剣を振りかぶる。
人食い鬼すら両断しそうなすさまじい剣撃を、しかし、ゴリアテはがっちりと受け止めた。
「んんん♪さすがに騎士団長ともなれば、ひよっこ勇者たちよりずっとマシなようね。でも、それだけじゃあ足りないわよ♪」
ゴリアテのわき腹から漆黒の蜘蛛の足四つが一気に騎士団長に襲い掛かる。
騎士団長も10メートル近く吹き飛ばされると、気絶して動かなくなる。
「さあて、めぼしい実力者はもういないようね。それじゃあ……勇者を召喚した魔術師を消して、二度と勇者なんぞを召喚できないようにしようかしら♪」
ゴリアテは嫌な笑いを浮かべると、動きが止まっていた召喚魔術師メリアの元に駆け出した。
近くの騎士たちが慌ててゴリアテの前に立ちふさがろうとするが、ゴリアテはわき腹から生えた4本の足で彼らを軽く吹き飛ばす。
そして、メリアに斬りつけた漆黒の剣が……私の剣戟に弾き飛ばされて、ゴリアテはたたらを踏む。
メリアの前に立ちふさがり、青白く輝く愛刀正村を正眼に構えた私の姿を見て、ゴリアテはしばし唖然とする。
「これは驚いたわ!とんだ伏兵がいたものね。あなたはひよっこ勇者たちとは比べ物にならないくらい危険なようね。成長しきらないうちに始末するわ!」
私が左に回りながらすり足で前進するのに合わせ、ゴリアテは今まで以上の覇気を全身から飛ばすと、剣を振り上げ、わきから生えた四肢を構えて私に突き進んできた。
お互いがすれ違った後、私の左ほおから一筋の血が流れ、ゴリアテは……蜘蛛の四肢のうち、2本が地面に落ちていった。
そして私とゴリアテは再び向かい合う。
「やるわね。これは相打ちになってでもあなたを仕留めないといけないわね。」
ゴリアテは再び闘志をたぎらせて私を睨みつけ、私の方は……。
『よくも…よくも華蓮の顔に傷をつけたな!!
絶対にゆるさねええ!!!』
ジニーが怒りを爆発させ、私の体を青白い光が覆った。
(続く)