17 強者同士のタイマン勝負と魔法少女
久しぶりの更新になってしまいました。
(;'∀')
その日はすっかり油断していた。
こう見えても歴戦の宇宙刑事なので、敵意にはものすごく敏感なのだ。
逆を言えば、まったく敵意のない相手にはたまに意表を突かれるときもある。
「河井さん!今、宙に浮かんでいる女性と話をしていましたよね?!」
暴走族・烈風会の元副長”風間氏が華蓮の部屋に叫びながら入ってきたときには本当にびっくりさせられた。
その時は華蓮、河井さんの他にも土門氏も部屋で一緒にお茶をしたいたのだが…。
「風間!お前もジニーさんが見えるのか?!そいつはすげー!」
そして、土門氏も相変わらずやらかしてくれる。
「ええ?!総長もその女性が見えるんですね!!!
よかった!“俺たち”華蓮さんの横に宙に浮く可愛い女性の姿が見えるようになって、自分達の頭がおかしくなったかと心配だったんですよ!!」
なんか、“俺たち”とか言っているよね。非常に嫌な予感がするんだけど…。
まもなく、烈風会の元幹部連中が集まってきた。
口々に「俺たちは正常だったんだ!」と叫びながらお互いの肩を叩いて喜びあっているよ。
そして、全員私と華蓮の方に迫ってきた。
「「「一体全体何が起きたんでしょうか?!」」」
ええい!そんなに迫ってくるな!暑苦しい!!
(SIDE華蓮)
私とジニーが元烈風会の幹部連中に迫られてタジタジとなっていると、彼らを制するように土門氏が動いてくれた。
「みんな、落ち着け!華蓮さんもジニーさんもお前たちの勢いにタジタジになられているじゃないか!俺が説明するからしっかりと聞けよ!」
そして、土門氏はとうとうと語り始めた。
身振り手振りを交えながら、土門氏は私とジニーがいかに素晴らしいかを語り続ける。
聞いていて、背中がむず痒くなってくるのだけれど、さらに問題なのは、聞いている風間さんを始めとする烈風会改め“風を感じる会”の幹部メンバー達が目をキラキラ輝かせながら話を聞いているのだ。
しかも、口々に「華蓮さんすげー!」とか、「ジニーの姐御最高!」とか口に出しているのだから、私の恥ずかしさが倍増しているのだ。
ふと隣に浮いているジニーさんは…満足そうにうんうんうなずいているよ?!ジニーさん、私とはかなり感性が違うよね?!
そんな時、すっくと河井さんが立ち上がった。
そうだ!河井さん!この人たちに言ってやってよ!!
「土門さん、待ってください!華蓮さんは確かに勇気があって、すごく強いのですが、それ以上に“怪我をしたやくざさんの治療”をしたりと、ものすごく“思いやりにあふれている”のです!」
それからは、土門氏に代わって、河井さんがとうとうと語り始めた。
みんなは先ほどの土門氏の話以上に盛り上がり、私はさらなる羞恥プレイに転がりまわった。
ジニーさんは…「華蓮てば、本当にいい子なんだよ!」といろいろ付け加えて、事態をさらに悪化させてくれた。ちくしょう!
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「おー!クリスか?!ひさしぶりだのう!」
クリスの師匠呼びに歩み寄ってきていた“轟雷の”トールがクリスを見てガハハと笑った。
「おんしも相当強くなったようだし、いっちょ“模擬戦”やっとこうか!」
いやいや、おっさん、何言ってんの?!
「はっはっは!師匠こそ、衰えるどころか、以前よりもさらに覇気が増しておられますね!
この戦いが終わったら、ぜひ一戦おねがいしますね♪」
さすがはクリス!師匠の扱いがうまいね。
「そして、そのお嬢さんもものすごく強いようだが、クリスの知り合いかね?」
「ええ、素晴らしい仲間で、華蓮さんと言うのですよ♪
この防衛戦が終わったら、一緒にゲストランド王城に殴り込みをかけるのです。」
「なんじゃとう!そんな面白そうなこと、わしらも混ぜろ!」
クリスの言葉に反応し、トールさんが私たちに向けて駆け寄ってきた。
「そして、華蓮さんよ!わしと模擬戦をやろう!今すぐやろう!」
おっさん!どんだけ模擬戦が好きなの?!
「はっはっは!相変らずですね、師匠♪
おおっと?!本命が動き出したようです!!」
魔物の軍団の中から、ひと際存在感のある集団がこちらに滑るように近づいてくる。
全員ヒト型だが、角が生えていたり、牙が異様に長かったり、蝙蝠のような翼を生やしていたりと“異形”で、しかも例外なく凶悪な形相をしている。
その連中の中からひと際存在感のある大柄な奴が前に一歩踏み出してきた。
大柄なトールさんより一回りも大きく、マッチョでがっしりとした肉体。頭からはヤギのように日本の角が上に伸び、背中には蝙蝠のような大きな翼を生やしている。凶悪な人相をしており、口からは牙が覗いている。
黒光りする全身鎧を羽織り、漆黒の刃を持つ、巨大な両手剣を手にしている。
全身からあふれる凶悪な“オーラ”も踏まえて、“地獄の悪魔”はこんな感じではないかと想像させられる。
「あの“走り龍”を簡単に倒すとは貴様らただものではないな。
だが、我ら13魔将全てを相手にしては勝ち目はあるまい。
俺は13魔将筆頭にして、魔王軍侵攻部隊指揮官“ガザール将軍”だ!」
ガザールが叫ぶと、その体から強烈な“覇気”が辺りに発散され、びりびりと響き渡った。
後で聞いたところだと、城壁の上から見ていた兵士たちの多くは震え上がり、しばらく動けなかったという。
「へえ、これはたいしたものだねえ。」
クリスは感心したようにうなずいているけど、大して堪えているようには見えない。
さすがだね。
「ほほお、あんたが大将か。さすがにかなりやるようだな。」
トールさんもしばし、感心したようにうなずいている。
そして、私の方を見て口を開いた。
「ところで、あいつをやっつける前にあんたと軽く“模擬戦”をやりたいんだが、どうかな?」
おっさん!!何言ってんの?!!!今の状況わかってます?!!
「師匠!!いくら何でも空気を読んでください!」
嗜めるようにクリスが言う。
「だって、この中でどう見ても一番強いのは華蓮さんだろ?
わし、一番強いやつと戦うために生きておるからの♪」
胸を張って答えるトールのおっさん。
本当に頭がくらくらしそう…。
「師匠!いい加減にしてください!
模擬戦なら、“連中を一掃”した後、私も華蓮さんもいくらでも付き合いますから!
今は魔王軍の連中をやっつけることに集中しましょう!」
クリス、言っていることはそれなりに筋は通っているけど、私もトールさんとの模擬戦に“いくらでも付き合う”必要があるわけ?!
そして、2人ともその発言が“魔王軍へのものすごい挑発になっている”こと、わかってやってます?…どちらにしても“蹴散らさなければならない”相手だけれど…。
「ふざけるな!貴様らを蹴散らすのは我々だ!
お前たち、全力でこいつらを叩き潰せ!!」
予想通り、 ガザール将軍と13魔将たちは激怒して突っ込んできた。
それに対して…。
「よっしゃー!ガザールとかいう敵の棟梁はわしがもらった!!」
トールさんは嬉々としてガザール将軍に向けて突っ込んでいった。
私とクリスは目配せをし合って、他の13魔将たちを掃討することにした。
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(SIDEガザール)
おかしい!なんなんだこの男は?!
最初は威勢のいいだけの蛮族かと思っていた。
力は強いとは言え、所詮は人間レベル。魔王軍でも屈指の膂力を誇る俺の攻撃を奴は躱したり、武器で柔軟に受け流したりと、ちっとも決定打にさせない。
魔法のかかった強力な武器で反撃に出てきて、俺自体も深くないとはいえ何度も傷を負わされた。
こと白兵戦に於いては俺と同レベルかもしかしたら少し上回るかもしれない。
だが、ただの戦士では『魔道戦士』である、この俺には勝てはしない。
俺は炎の攻撃魔法を剣戟の攻撃に混ぜ、さらに傷ついたらすぐに再生魔法で癒していった。
まもなく、万全の態勢で立っている俺の前で、傷だらけになった奴は片膝をついてこちらを睨みつけていた。
「大口をたたくだけのことはあった。だが、これでおしまいだ!」
俺がもっといる大剣にさらに炎をまとわせて、止めの一撃を放とうとしたその時、奴の体が金色の光を放った。
とっさに後ずさって、再び奴の姿を見ると……傷一つなく、精力に満ち満ちたやつが自信満々に槍斧を構えて立っていた。
「はーっはっはっはっは!さすがは魔族の将軍だけあって、やるのう!
だが、わしもこれで完全復活じゃ!
さあ、第二ラウンドを始めようか!!」
奴は強力な治癒魔法も使えるのか?!
これは簡単には倒せない…とそこまで考えて、ふと奴の後ろを見ると、真の勇者と思しきカレンと言う女が余裕の表情でこちらを見ているのに気づいた。
慌てて周りを見回すと、部下である13魔将たちの姿はなかった。
なんだとう!!まさか、この短時間の間に奴らは13魔将たちを全滅させたのか?!
武人としては刺し違えてでもカレンという勇者に挑むべきかもしれないが、奴らの戦力の情報は生きて俺が持ち帰る必要がある!
俺は奥の手であるとある魔術を発動させた。
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(SIDE華蓮)
一番強そうなやつをトールさんが相手をしている間に私とクリスは残った13魔将を掃討にかかるとしますか。
「ジニー、行くよ!」
『OK!白銀装着!!』
ジニーが叫ぶと同時に私の体はジニー本来の物と置き換わり、さらに私たちの全身を白銀の光が覆う。
わずか一ミリ秒後には私たちの全身を白銀に輝く“超金属製”のコンバットスーツが覆っていた。
「『宇宙刑事ジニー&華蓮見参!!』」
ジニーによると、この完全宇宙刑事モードになる時はポーズを付けて叫ぶものなのだそうだ。
「『正村、シャイニングブレード・モード!!』」
私たちは13魔将たちに突っ込んでいき、連中をバッタバッタと切り倒していく。
身体操作能力は通常のジニーの宇宙刑事モードとほぼ同じだが、攻撃力と防御力がけた違いに上がるのだ。
おかげで、13魔将達の様々な魔法や炎、冷気などの攻撃を意に介さずに、私たちは無双を続けた。
クリスも何人かの13魔将を倒して、こちらに歩み寄ってきた。
「まったく、華蓮さんたちはすごすぎるね。
私が2人倒しているうちに、あなたたちは残り全員倒してしまったのだから。」
そこで、私は宇宙刑事モードを解除する。
このモードは精神エネルギーの消費が非常に高いため、あまり長時間は持続できないんだよね。
そして、トールさんとガザール将軍の戦いはトールさんが不利な状況のようだったので、手を出そうかと思った瞬間…トールさんの全身が光に包まれた。
光が収まった時には、トールさんは完全復活し、今まで以上の精力にあふれていた。
「師匠は光魔術も達人クラスだからね。これからいよいよ本領発揮かな♪」
なるほど、クリスが光魔術も得意なのはトールさんへの師事もあったのだね。
そこで仲間がいなくなったガザール将軍は舌打ちをすると、辺りが深紅の光に包み込まれた。
私たちは目を閉じながらも警戒を怠らず身構えていたが…光が消えるとガザール将軍の姿も消えていた。
「どうやら逃げたようですね。」
「ほんとだね。」
クリスの問いに私はうなずく。
「はーっはっはっはっは!!
ガザール将軍よ!今度こそ決着をつけるぞ!!」
トールさんは彼方を見つめながらやる気満々のようだ。
なお、この後統制が取れなくなった迷宮出の怪物たちの掃討にかなり時間と労力がかかっただけでなく、元気が余って仕方がない“トールさんとの模擬戦”にまで付き合わされて、私は“精神的に”疲労困憊になりました。
(続く)
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
<(_ _)>
次の更新は『登場人物紹介』の予定です。




