16 スタンピードの始まりと魔法少女
更新が遅くなって申し訳ありません。
<(_ _)>
次は週明けにはなんとか…。
「…実は、最初に助けていただいたときからジニーさんのことは見えていたんです。」
河井さんに言われてみると、確かに思い当たるふしはいくつもあった。
河井さんを救出した時に怪我をした暴力団団員たちを私が“魔法でヒーリング”して手当てをしていたのだけれど、『包帯とか巻く振り』をしていたから、ごまかせたかと 思っていたけど…ごまかせていなかったのだね。
確かに血をドバドバ出すような怪我していた人が急に血が出なくなったら不自然極まりないよね。
その後も家でみんなで話をする際も河井さんの視線がちらちらジニーの方に向いているような気がしていたのも…気のせいではなかったわけだ。
「華蓮さんもジニーさんもご家族にも隠していらっしゃるようだから、 口に出さない方がいいのかと思いまして…。」
これは土門氏同様に、河井さんにも全て明かした方が良さそうだね…。
「河井さんにはいろいろ説明した方が良さそうなんだけど…まずは“あいつ”を先になんとかしないとね。」
そいつはベージュ色のシルクハットをかぶり、ベージュ色のトレンチコートをまとっていた。
顔は帽子の陰になって見えないが、全身から凶悪な妖気が駄々洩れになっていた。
「おや、これは先ほどのお嬢さんではないですか!」
ややハスキーな声のその“男”はシルクハットとトレンチコートを投げ捨てた。
私もジニーもその姿を見て絶句した。
そいつには目も鼻も口も耳もない不気味な顔をしていた。
しかし、本当の問題はそこではなかった。
そのマッチョな大男は白いふんどし一丁でボディビルダーがするようなポージングをしていたのだ!!
“服裂け男”に続いて、どうして私たちの前にはこんなのばかり出てくるんだ!!
「はっはっは!恐怖のあまり声も出ないようなだ!!」
「『怖いのは平気でそんな恰好をしているあんたの頭の中だ!!』」
「なに?!私がのっぺらぼうだからではないのか?!」
「今時のっぺらぼうくらいでそんなに怖がらないから!
それより、口もないのに、どうしてそんなにでかい声でしゃべれるんだ?!」
「これは…」
そいつは顔がないはずなのに、なぜかドヤ顔をしたような雰囲気で自慢げに叫んだ。
「俺は腹話術の達人なのだ!」
「口がなければ腹話術もへったくれもないだろ!」
おい!なんで私のセリフの愕然とした表情をしているわけ?!というか、目も鼻も口もないのに、なんでそんなに表情が読みやすいの?!
しばし、うなだれて愕然としていたのっぺらぼうだったが、やがて顔を上げると私に向き直った。
「私はどうやらとんでもない勘違いをしていたようだ。君の言葉で目が覚めたよ、ありがとう!
もう一度やり直してみるよ!」
言うなり、のっぺらぼうは私に笑顔?を向けると走り去っていった。
何に目が覚めたのか、何をどうやり直すのか、突っ込みたいところや山ほどあったが、気付いたときにはのっぺらぼうの姿は消えていた。
『それじゃあ、華蓮の部屋に一緒に行ってから美奈ちゃんには私の口から経緯を説明しようかな♪』
ニコニコしながら話すジニーに私と河井さんは同意した。
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(SIDE?????)
「なんだと?!貴様はそれで、メリア王女を見逃したのか!
よくそれで魔王軍13魔将を名乗っていられるな!!」
仲間の一人から叱責されて、平服していた男は肩をすくめる。
「返す言葉もございません。しかし、問題はそれ以上に“ゴリアテをも斬り捨てた”カレンという真の勇者の方です。
“疾風のソール”が全く抵抗すらできずに一刀のもとに斬り捨てられました。
私も攻撃したら、間違いなく何もできずにやられていたでしょう。
残念ですが、やつの太刀筋が全く見えませんでした。」
男の言葉に全員が言葉を失った。
あっさり投降したゲストランド王城の連中の言葉だからと少し軽視していたが、目の前の仲間が自身の失態をとりつくろうでなく、淡々とカレンという勇者のことを語っているのだ。
もはや相手実力を疑っている場合ではなさそうだと感じ取っていた。
「ならば、すぐにワニナのユニバーサルダンジョンに仕掛けた仕組みを使って、全面侵攻だ!
もはや一刻の猶予もならん!」
「お待ちください!ギガント将軍!あのダンジョンではまだ充分な魔力がたまっていると言えないのですが?!」
「もはやそんなことを言っている場合ではない!カレンという勇者の能力がそこまでのものなら、遠からず我々の仕掛けごと、ユニバーサルダンジョンが攻略される。なにしろS級冒険者の“仮面の騎士”とも同行しているという情報まである。
その二人にダンジョン攻略後どこで何をされるかわかったものではない!
そうなる前にワニナの街ごと奴らを全力で叩き潰すのだ!」
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
(SIDE?????)
「なんだとう!ゲストランド王城が魔族の攻撃で陥落しただと?!」
仲間から耳打ちされた大男は叫んだ。
仲間と一緒の訓練が終わり、休憩をしようとしていた時のことだった。
大男、S級冒険者の“轟雷のトール”は立ち上がると叫んだ。
「ようし、お前ら、早速ゲストランド王城へ行くぞ!城を占領している不埒な魔族どもをぶっ飛ばして人間の手に城をとりかえすぞ!!」
がっはっはっはと大声で笑いながら持っていた巨大な槍斧を嬉しそうにぶんぶんと振り回す。
「待ってください!いくらなんでも一国の城を落とすくらい力のある魔族たちの軍にいきなり殴り込みをかけるなんて無謀すぎます!」
トールにゲストランド王城陥落の知らせを伝えた女性神官が眉を顰める。
「わっはっはっは!いくらわしでもちゃんと情報収集してから行くに決まっておろうが!
なんとなく嫌な予感がして、ワイズ王国内に来ておいてよかったわ。
まずはゲストランドに近いワニナの街に行くぞ!
上手くいけば、わしの一番弟子とも合流できるかもしれんからの。」
「一番弟子と言うと、“あの方”ですか…。」
「そうじゃ。わしと同じS級冒険者になったとかいう話だったからの。
久しぶりに“手合わせ”をするのが本当に楽しみだ!
トールは再び槍斧を振り回すと嬉しそうに笑った。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
「さあ、それじゃあ早速ゲストランド王城へ殴り込みにいこうか♪」
「クリス、ちょっと待った!早めにゲストランド王城へ行くこと自体は賛成だけど、ユニバーサルダンジョンが大丈夫か一応確認しよう。その後で王城へ行けばいいんじゃないかな?」
なんと、クリス王子は明日にでも殴りこむどころか、今から行くつもりだったようだ。気持ちはわからないでもないけど、“感覚的に”ユニバーサルダンジョンの状態が気になるんだよね。
「ほほお、ワニナの街はダンジョンからいつモンスターたちが大量に出てきても大丈夫なように街守りはしっかりしているんだけどね。
いつも以上に警戒しておけば、モンスターたちの大襲撃があっても大丈夫なはずなんだが…。
それとも、華蓮さんのことだからなにか思うところがあるのかな?」
「うん、私もジニーもここしばらくダンジョンから漂う雰囲気に異様なものを感じていてね。
どうも魔王軍の仕業っぽく感じているんだけど…。」
そこまで私が言ったとき、会議室にギルドのサブマスが駆け込んできた。
「大変です!ユニバーサルダンジョンで大規模なスタンピードが発生しました!
皆様、すぐに街の南門に集合してください!」
ダンジョンと言うものは“資源製造装置”兼“モンスター製造装置”であり、国にとってはダンジョン内の資源(モンスターの死体も貴重な資源扱い)を確保するための“金の生る木”という扱いになるのだそうだ。
ただし、“モンスターの製造数と倒す数”のバランスが崩れると、“生産過剰になったモンスター”がダンジョンの外にあふれ出すことが時々あるのだとか。
それをモンスターたちの大襲撃と呼び、規模が大きい時は近くの街のみならず、国レベルでも大きな被害が出ることがあるのだそうだ。
ワイズ王国でも最大級のダンジョン、ユニバーサルダンジョンでもスタンピードで大きな被害が出たことがあり、そのために“モンスターの間引き”は常に意識して行われてきたのだそうだ。
だが、魔王軍はダンジョンを操作して“人為的なスタンピード”を行い得るということのようだ。
「ほほお、こいつは想定以上ですね。」
街の城壁の上から見えるモンスターたちの雲霞の如く大軍を見ながらすすしい顔でクリスがモンスターたちを見やっている。
どうもゴブリンやらオークやらの単体ではそこまで強くないモンスターがほとんどのようだけど、この数はどんでもないよね?!
『へえ、ところどころ、それなりに強いやつがいるけど、ほとんどは雑魚ばっかりだね。
とっとと蹴散らして、ゲストランド王城へ行こうぜ!』
うちのジニーさんはクリスより上手だったよ?!
なんてことを考えていたら、モンスターたちの後ろからひと際大きな影が動き出した。
でかい!迷宮内で出会った身の丈が軽く3メートルを超える一つ目巨人とかの最大級の魔物をさらに上回る高さの四つ足の化け物だ!
見た目はずんぐりむっくりの亀のようだが、凶悪な目つきや身体全体から発する強大なオーラから迷宮内でもであったことのない恐ろしい怪物であることが一目でわかった。
「あれは地龍の一種で“走り龍”と言われる種類の奴らだね。
空こそ飛ばないが、恐ろしく固いうろこをまとった体で体当たりされたら、ここの城壁ではひとたまりもないだろうね。
おおっ?!しかもそれが3匹もいるのか!こいつは大変だ!」
ちっとも大変そうでない話し方でクリスがこちらを見る。
「では、私と華蓮さんでまず一匹ずつ倒しましょう。残りは2人の早い方が仕留めることにしましょうか♪」
まるで緊張感を感じさせない軽い口調でクリスが言う。
そんな感じでいいのか…と思わないでもないけど、連中の“後ろに控える気配”を感じていたら、こいつらはただの“前座”だとわかる。
象よりもでかい走り龍たちは象どころか、高速道路を走るトラック並みの速度でこちらに突っ込んでくる。
確かにこれでは頑丈そうなこの街の城壁でもヤバそうだ。
でも、モンスターたちの後ろにいる“黒幕ぽい気配”の連中と比べたら、こいつはまだまだ雑魚と言っていい存在だ。
私=ジニーは奴のそばを走り抜けながら、一刀のもとで走り龍を真っ二つに切り裂いた。
そして、クリスの方を見やると、光魔法で作った剣が両眼に突き刺さって、走り龍はぶっ倒れた。
さすがはクリス!剣の破壊力は私よりかなり劣るものの、巧みな隙のない戦い方はすごいね。
では、残った一匹は近い私が…えええええ!!!
あの巨体の走り龍が誰かにぶっとばされたよ?!
しかも、頭が胴体にめり込んで、即死状態じゃん?!
「がーっはっはっはっは!!全然手ごたえがないのう!
もう少しマシな奴は出てこんのかいな。」
でかい槍斧を持った筋肉の塊みたいなおっさんがモンスターたちを眺めて笑っている。
今の戦いぶりと全身からほとばしるオーラから私たちがぶった切った13魔将以上の強者なのは間違いなのだけれど…。
「し…師匠?!」
クリスがあっけに取られて出した言葉は…。
それって、クリスが師事していたS級冒険者の“轟雷のトール”さん?!
(続く)
いつもお読みいただき、ありがとうございます。