14 事態の急変と魔法少女
(SIDE????)
「どういうことですか?妖精の国が“日本でたくさんの人が異世界召喚されて大変だ”とか大騒ぎになっていますよ!!」
「ええ、それこそが私が“依頼主”に頼まれた目的を達成するのに必要なことですからね。
想定していたよりたくさんの人たちが“条件を満たした”ようで、私もうれしい限りです。」
「待ってよ!召喚された人たちはどうなっちゃうんだよ?」
「順調にいけば、“魔王様”とご対面できるのではないでしょうか?」
「魔王なんかと対面したら、勝ち目なんかあるわけないだろ!」
「それが、“あなたの見出した”華蓮さんは魔王軍旗下の精鋭を“一刀両断”したそうですよ。
いやあ、本当に素晴らしいですね♪」
「おい!華蓮は本当に無事なのか?!」
「ええ?!今更心配なんかされているんですか?
我々と手を組んだ時点で、あなたはもう彼女の味方なんかじゃないことなんか、わかりきっているじゃありませんか♪」
“猫型の妖精”の前で、黒ずくめのローブをまとった男は肩をすくめている。
「僕は、“今までにない成果を出せる”と聞いたからあんたらの話に乗ったんだ!組んだ魔法少女が魔王と戦うようになるとか、聞いてないぞ!」
「リスクもなしに大きな成果が得られるわけがないじゃないですか♪
じゃあ、華蓮さんが魔王を退治するとか、そういう成果を出されたらまたお伝えしますよ♪」
そう言うとローブの男の姿は煙のように消え失せた。
コハクはその様を呆然と見つめることしかできなかった。
(しかし、華蓮さんに仕込んでいた“マーカー”が召喚の途中で解除されたのは誤算でしたね。彼女たちくらい有望な人たちはできれば“直接”観戦したかったんですが…。)
“転移先”で黒ローブは独りごちていた。
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それから数日間、私たちのパーティは順調にダンジョンを攻略しながら主に“私とクリスの連携”の訓練と、実戦の中でのユリアン君へのエリザベス嬢の魔法指導は順調に進んでいった。
クリスは天才肌の上、思考も行動も柔軟なようで、まもなく私たち2人(正確には3人)の連携はとてもスムーズにいくようになった。
クリスは剣を使っての戦闘から、光魔法での攻撃、防御、支援など幅広い行動を取れるオールラウンダーであり、ジニーの見たところ、“13魔将土蜘蛛”とも単体で勝てるレベルの実力者で間違いないようだ。
2人で連携すれば、あのクラス数人を相手取っても勝てるだろうし、私一人よりも殲滅力が大きく上がるので、クリスと組めば相当な戦力アップと言うことになるらしい。
そして、我々は40階までの中層までを順調に攻略し、いよいよ明日から41階層からの深層に挑むにあたって、攻略対策会議を行っていた。
『ユリアン君も順調に実力を伸ばし、ほぼC級冒険者相当の魔術師として動けるというのは素晴らしいことだよね。
それも、単なる魔術師と違い、曲がりなりにも騎士としての身のこなしがあるから、より足手まといにはなりにくいよね。
だから、明日から深層と言ってもそこまで大きく危険になるわけではないはずだね、“普通”ならだけど。』
「ジニーさん。なにかご懸念がおありのようですね?」
ジニーの含んだいい方にクリスが反応する。
『みなさん、うすうす気づいておられそうだけど、私たちが出会ったきっかけの“深層のミノタウロスロード”が4階層に出てきていた異常事態の原因がわかっていないままだよね。
そして、これからその原因たる事件が起きたと思われる深層に入っていくわけだから、リスクが大きく増えると思うんだ。
その覚悟はあるのかな?』
「も、もちろんです!堅実に皆さんの足手まといにならないように動きます!」
「私も全力でユリアンを守る!…他の方たちはあのクラスが出ても大丈夫なようだし…。」
ジニーの真剣な問いにユリアン君とベルゼさんが力強く返事をする。
ベルゼさんがユリアン君を守る発言をした後は、2人とも赤くなっていたけど…。
「とっても素晴らしい答えが返ってきてよかったよ。
本当にヤバそうな場合は私と華蓮さんに任せて、ベスとベルゼさん、ユリアン君の3人でなんとか離脱してほしい。
我々2人ならで魔王そのものとかが出てくればともかく、ダンジョンで起きうるくらいの事態であれば、なんとか切り抜けられると思う。
ベス、その時は頼んだよ。」
「もちろんよ。華蓮さんとクリスも引き際は間違えないようにね。」
クリスの投げかけに、エリザベス嬢が響くように答える。
この2人はすごく息が合っていて、そのまま結婚してもうまくいきそうなのに、どうしてクリスはわざわざ“真実の愛”を別の相手に、それも“美少年”に求めるのだろうね?
そんな話をしていた時、クリスが左手にはめていた腕輪が鈴のなるような音をさせると同時に黄色く光り始めた。
「むむ?!“通信の魔道具”に連絡が入ってきている。
みんな、確認するから少し待ってくれないか?
ほほお、ゲストランド王国に潜入してもらっていた“魔道工作員”が急遽戻ってきたそうだ。
そして、私に直々に話があるからと、まもなくこの町に到着するそうだ。」
ゲストランドは私が最初に召喚されたくにだから、例の私の情報をクリス達に伝えた工作員さんだね。
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「ゲストランド王城が魔王軍によって陥落しました。」
冒険者ギルドのギルドマスタールームで我々パーティとギルドマスター、サブマスターはいきなりとんでもない情報を聞かされることになった。
ちなみにかの情報員さんは名前はキーラさんと言うそうだが、私が旅立つときにお金などを用意してくれた、オーラがまともな文官さんだった。
『他国の工作員の方がオーラがまともとか、あの国の王城はどれだけ腐っていたわけ?!』
あきれるジニーには私も全面的に賛成だ。
「その時の詳しい状況を教えてくれるかな?」
クリス王子の問いに意外とイケオジのキーラさんが説明してくれる。
私が城を飛び出してから、間もなく、召喚勇者と聖女の三人に加えて、召喚魔術師のメリア王女の4人と、王城付きの中堅どころの騎士2人と魔術師1人、斥候1人でパーティを組んでダンジョンアタックを始めようとしたのだという。
ただし、王都の近くのダンジョンではなく、ここワニナの街のダンジョン、それもユニバーサルダンジョンを攻略するのだという。
既に魔王軍は勇者を召喚したらしいゲストランドに目をつけていたわけだが、派遣した魔王軍13魔将が帰ってこない…つまり、13魔将を倒せる戦力がいる…と警戒しているはずだ。
だから、お城には戦力を集中させて守りを固めつつ、『修行をする勇者を国外に派遣』することで、そちらにも『魔王軍の目を向けさせたい』と考えたのだとか。
名だたるS級冒険者“仮面の騎士”を始め、ギルドに集う冒険者がゲストランドのダンジョンより高レベルで、街自体の守りも厚いワニナの街に『ゲストランドの勇者(の一部)が修行に行った』という情報があれば、ワイズ王国の方が魔王国に近いこともあり、魔王軍からの防波堤になってくれるのではないかと期待したそうだ。
ところが、魔王軍は13魔将の土蜘蛛が行方不明になったことをゲストランド王国の想定以上に重要視していたようで、複数の隠密能力に長けた13魔将やその配下で徹底的に情報収集をしたのだそうだ。
(それがわかったのは“王城陥落”後に城を落とした13魔将たちが自慢げに語ったからだとか。)
魔王軍は王城近くの森の中に“転移用の魔術ゲート”を設置し、そこから何人もの魔王軍13魔将やその配下の精鋭部隊で城に攻め込み、あっという間にゲストランド王城を占領してしまったのだ。
13魔将たちはあまりにも強く、近衛騎士団があっという間に壊滅し、それを見た王族や宮廷魔術師たちはとっとと降伏してしまったそうだ。
あの王様や枢機卿は“気持ちいくらいにへりくだって”降伏し、キーラさんは別の意味で感動したのだという。
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魔王軍は降伏した相手は自分達の支配下に置きつつ、そのまま統治機構を活用する方針なのだという。
そのことが判明し、ゲストランド王国の貴族たちは権威があってヘタレな貴族ほど、魔王軍に投降する姿勢を見せだしているようだ。
「ゲストランド王国内のことも問題ですが、国で一番守りが固いはずの王城が“奇襲攻撃で占領されうる”というのは各国にとって恐ろしいことですね。
幸いワイズ王国の王城は守備戦力が“魔法防御も含めて”ゲストランド王城とはけた違いに固いですから、今回と同程度の攻撃なら問題なく切り抜けられると思われます。」
キールさんの言葉にクリスもエリザベス嬢もうなずいている。
冒険者換算でS級相当の騎士団長率いる近衛騎士団の戦闘能力は近隣諸国でも最強クラスであり、しかも国王やリチャード第1王子もA級相当の剣の腕であり、軍を率いての指揮能力も高いのだそうだ。
またS級相当の宮廷魔術師を筆頭にした王宮魔術師団は周辺への警戒も怠りなく、ゲストランドの時のように仮に転移ゲートが設置されようものなら、即座に感知できるだろうということだ。
「私はそれらの情報をまとめたうえで、用意していた“転移魔法”で王城に戻ったのです。
これでも宮廷魔術師団のひとりですので。」
なんと、キールさんは潜入工作に長けた魔術工作員の1人だったそうだ。
「魔族たちはゲストランド王城を墜とした後、13魔将の土蜘蛛を圧倒した“勇者カレン”さんを酷く警戒していてね。
カレンさん、及び、召喚された他の勇者たちや召喚した召喚術師のメリア王女を捜索しようとしているようです。」
「華蓮さんはともかく、他の召喚された勇者とメリア王女は危険だね。
幸い今は子のダンジョン近辺にいるはずだから、冒険者ギルドと共同で彼らを保護する必要がありそうだ。」
私たちはクリスの提言にしたがって、まずは情報収集のためにワニナのギルドに行くことにした。
ギルドへの移動途中に下町の方から大きな爆発音が響いてきた。
嫌な予感がした私とクリスが先行して爆発現場に向かうと、路地裏で倉庫か何かが爆発して崩壊した跡と思しき残骸と、その中で崩れて崩壊しつつある、高位魔族らしき残骸を見つけた。
さらに辺りを見回すと、ぼろぼろのローブをまとった小柄な人影が急いでその場から離れようとしていた。
よろよろとその場から動こうとしている人物のローブが少しめくれると…。
「メリア王女!」
意図されず召喚されてしまった私に親切だったメリア王女の憔悴した顔が目に入ってきた。
「あなたは…?!…カレンさん?!!」
メリア王女は私に向かって歩いてこようとしたが、途中で力尽きたのか、しゃがみこんでしまった。
魔族との戦闘で怪我でもしたのだろうか?!
「大丈夫ですか!お怪我はありませんか?!!」
「…怪我は大丈夫です。ですが…。」
もしかして戦闘で魔力を使いすぎて衰弱されているだろうか?
ぐーーーーーー!!
という大きな音がしたかと思うと、メリア王女は懇願するように私を見た。
「おなかが空いて死にそうなのです。何か食べ物を…。」
……ええと、メリア王女。あなたに一体何が起きたのでしょうか…?
(続く)
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
そろそろストックがヤバいです。ストックが尽きたら、週1くらいの投稿になるかもしれません。
何としてでも完結はさせますので、そこはご安心ください。




