11 舞台裏の詳細な説明と魔法少女
「……私きれい?」
「これでも、きれい?!!」
推定“口裂け女”と思しき女性型の妖異が声を掛けた土門氏の眼前で立ち上がると、奇妙なポーズを取った。
その直後、我々全員が驚愕した。
口裂け女?が着ていた服が弾け飛び、顔はきれいな女性だが、どう見ても“筋肉隆々の”背の高い男がポージングをしていたのだ!!
『これじゃあ、口裂け女じゃなくて、“服裂け女”だよ!どう見ても“男”だけど!!』
ジニー!上手いこと言っている場合じゃないよ!
「おのれ、妖怪め!一体何が目的でこんなことをしている?!」
おおっと?!土門氏が霊刀を抜刀して、服裂け女を睨みつけている。
そして、元暴走族総長なのに、単純に斬りかかったりせずに対話を試みているあたりはさすがだと思う。
「知れたこと!私は“筋肉の伝道師”だ!マッスルを鍛える価値をこの“肉体美”で訴えているのだ!」
服裂け女は新たなポーズを取りながら、土門氏の問いに答える。
「被害者がいないなら、その答えにも納得できよう。
だが、退魔僧を含む、多くの人が意識不明状態で苦しんでいるんだ!お前のしていることはただの自己満足だ!」
おおっ?!土門氏、かっこいい!!
「ふ、口では何とでも言えるわ!では、私を力ずくで止めて見せろ!
行くぞ!“マッスルビーム”!!」
服裂け女がポージングすると、その全身が発光し、その圧力で土門氏が私たちの近くまで吹き飛ばされた。
「土門さん!」
慌てて、咲夜さんが土門氏に駆け寄る。
「まだだ!まだ俺の心は折れてはいない!」
よろめきながらも土門氏が立ち上がる。
『服裂け女の発光と共に霊的な圧力がすさまじい勢いで増加したね。
下手な人があれを受けていたら死んでいてもおかしくない。
退魔僧の人も耐えられなかった、耐えて立ち上がる土門氏はさすがだね。』
ジニー、詳細な解説ありがとう。
「土門さん、あなたは咲夜さんを守ってください。
私が行きます!」
さらに行こうとした土門氏を制し、私は刀を抜かずに服裂け女に歩みよっていく。
「ほお。今度はお嬢さんが向かってくるのか。
だが、私の“筋肉美”に耐えられるかな?!
『確かに、あんたの霊的な圧力は相当なものだ。
だがね、あんたの筋肉は見せかけだけの偽物だ!!』
ジニーが叫ぶと同時に立体映像のジニーの姿は消え、私の体を青白い光が包んだ。
そして、全身をフィットする金色のスーツをまとった宇宙刑事としてのジニーの姿に変わった。
『鍛えこまれた本当の筋肉はこうやって使うんだ!』
ジニー(と私)は滑るように服裂け女に突っ込んでいくと、みぞおちに“掌底”を叩き込んだ。
服裂け女はあっけなく、吹き飛んでいった。
そこからは、ジニーの独壇場だった。
服裂け女のあらゆる攻撃をかわし、封じ、文字通りぼこぼこにしていった。
まもなく、ボロボロになった服裂け女は私たちに土下座をしていた。
「申し訳ありませんでした!」
『いいか、筋肉は“見せる”ものではない、“実践”するものだ!
それも無関係の者を巻き込まずに、実践者同士で精進するものだ!』
あの、ジニーさん?話がどんどん変な方にそれていっている気がするんだけど…。
「わかりました!皆様にはご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。
これからは真の“筋肉道”を実践してまいります。」
出会った当初の狂気に満ちた目から“すがすがしい目”に変貌した服裂け女は私たちに挨拶をして旅立っていった。
「ジニーさん。あれ、放っておいてよかったんでしょうか?」
咲夜さんが至極もっともな疑問を口にする。
『大丈夫だと思うよ。間違った考え方に囚われていたとはいえ、もともと人を傷つけようという意思はなかったようだしね。』
ジニーの言葉に咲夜さんは一応安心したようだったが…。
数日後、ジニーの言葉は確かに間違っていなかったことが判明した。
またもや家の用事で北見剣道場に寄ったところ、新たな妹弟子?いや弟弟子が道場に入門していたのだ。
「ご無沙汰しています!華蓮さん!」
ニコニコしながら、マッチョなお兄さんが私に挨拶をしてきた。
その隣ではすがすがしい笑顔で土門氏が立っている。
私の姿を見ると、鉄斎叔父が小声で私に話しかけてきた。
「ちょっと変わっているけど、いい青年が土門君の紹介で入門してくれたよ。
ところで、真田由香里さん…て本名なのかね?」
「……戸籍を確認したわけではないので何とも…。」
そうか、“服裂け女”さんの本名…または“源氏名”は真田由香里さんだったのだね…。
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「“予定通り”じゃないでしょ!!あなた1人ならともかく、“ユリアン君”も一緒にパーティに加えようとかどういうことなのよ?!」
「はっはっは、安心したまえ。ユリアン君には振られたから、本来の予定通りに私一人でカレンさんとパーティを組むように変更したんだ。」
ワニナの街のギルドマスターの部屋にいきなり突撃をかましてきたエリザベス公爵令嬢とクリス王子の会話の内容が酷い件について…。
普通はこういう場合は“突撃をかました”立場の人の発言が酷い場合が多いのだけれども、今回はクリス王子の話がぶっとび過ぎてるんだけど…。
「とりあえず、中に入って3人で話しませんか?」
私がエリザベス嬢に話を向けると、エリザベス嬢が私の方を見た後…。
「先日は助けていただいて、ありがとうございます!
あの時は本当に命の危険を感じました!」
エリザベス嬢は私に向かって真摯な表情で深々と頭を下げてきた。
すごいよ!オーラからしてまともな人ぽかったけれど、本当にクリス王子と違って、行動からしてまともそうだ。
「ところで、あの、そちらの…。」
言いながら、エリザベス嬢は宙に浮いているジニーをちらちら見ながら、何を言っていいものやら困っている風だ。
「ええ、その説明も含めて、しばらく3人でお話しさせていただきたいのです。」
私が話を振り、3人での密談が始まることになった。
「すごいですわ!真の勇者様には『守護神様』が付いておられるのですね!」
エリザベスさんが興奮しながらジニーを見て、ジニーも「いやあ、それほどでも」とか言いながら、嬉しそうに手を振っている。
エリザベスさんは今回の婚約破棄事件に関してさらに詳しいことを説明してくれた。
クリス王子とエリザベスさんは同い年で、5歳の時に婚約が決まったのだそうだ。
子供のころから幼馴染としてよく一緒に過ごしたので、“友達としては”仲が良かったのだそうだ。
クリス王子はよく『王族はめんどくさいから実力をつけて、冒険者になって城を飛び出すんだ』みたいなことを言っており、最初は冗談か可愛らしいがかなわないとわかっている夢を語っていると思っていたのだとか。
しかし、エリザベスにはなんでも“正直すぎるくらい明かす”上に、確実に剣や魔法の技術を身に付けながらも“言動が変わらない”姿にクリス王子は“本気で目指している”のみならず、“実現できる才能や実力がある”と感じだしたのだそうだ。
まずいことに、クリス王子の才能に気づいた国王夫妻が国外から“破天荒なS級冒険者”をクリスの師匠に招き、一緒に訓練をすることになったのだ。
最初は渋っていたその冒険者“轟雷のトール”もクリスの才能とやる気、自身と似通った破天荒な性格に意気投合し、自身の持っているものを全力で教えにかかったのだという。
ある時トールは
「もうお前に教えることは大してない。
お前さんは必ず俺を超える冒険者になる。
お前さんを見ていたら、俺の血がたぎって仕方なくなった。
先に冒険者に戻って、待っているから、お前も必ず来い!」
そう言い残して城を出奔していったのそうだ。
その後、クリスはさらに“仮面の冒険者”としての活動に力を入れるようになり、エリザベスも“何かの時”のためにと魔術他の技術を磨き続け、現在A級相当の魔術師としての腕はあるのだという。
『2人ともすごいよね。それだけの力を得るための修練はすごく大変だったはずだよ。そして、2人ともオーラを見るからに明らかに13魔将土蜘蛛に蹂躙されたゲストランド王国の騎士団長よりも総合力が高いみたいだし。』
「ジニーさん、見ただけで実力がわかられるのですか?」
クリス王子がジニーの言葉に食いついてくる。
『大まかな実力だけどね。あの騎士団長はここのギルマスと大して変わらないくらいの実力者だったようだけど、さすがにクリス王子と大差ない実力だった土蜘蛛には手も足も出なかったね。』
「ということは、S級冒険者は概ね、13魔将に相当する力があるということですか…。
そして、その13魔将を圧倒したカレンさんは私よりも強いわけですね。」
クリス王子が肩をすくめながら言う。
『確かに感じられる“地力”は私たちがクリス王子よりやや上のようだけど、あなたは“筋肉バカ”の土蜘蛛よりはずっとやりにくそうだよ。もし土蜘蛛と戦っていたら、あなたが勝ったんじゃないかな。』
おおっ?!百戦錬磨のジニーさんから見たら、クリス王子はかなりの強者ということなのだね。
「ではでは、私をパーティに加えてくださるのでしょうか?」
クリス王子が子供のようにキラキラとした目で私たちを見つめてくる。
「クリス、落ち着きなさい!いきなり正規のパーティを組むのは躊躇されるかもしれないでしょ。
まずはカレンさんいろいろ慣れていただくことも含めて、ここのダンジョン探索用に“お試しパーティ”を組むというのはいかがでしょうか?」
にっこり笑って、エリザベスさんが我々に提案してくる。
『私はその条件で構わないけど、華蓮は?』
「私も問題ないと思うよ。」
「それでは、ジニーさん、カレンさん、クリスをよろしくお願いします。
それと、このダンジョン限定で私もパーティに加えていただけますか?」
「え?エリザベスは“クロマーク公爵の追及”とか、後始末でさらにやることがあるんじゃないのかい?」
「確かにあなたがユリアン君を巻き込んだことで、やらなければいけない“後始末”はすごく増えたのは確かだけどね…。
でも、まずこのダンジョン探索であなたが暴走しないかどうかしっかり見張らないといけないからね!」
「え?何を言っているんだい。このS級冒険者の“仮面の騎士”がそんなことするはずがないじゃないか。」
「予定外にユリアン君を巻き込んでおいたばかりの状況でそれを言っても全く説得力がないからね?!!
…ところで、ユリアン君に振られた状況を詳しく教えてくれないかしら?」
「あれは、このお芝居の準備を進めているときのことだった。」
校内を1人で歩いているとき、顔見知りのユリアンくんがかがんで何かをしているのがクリスの目に入った。
よく見ると怪我をした小鳥に回復魔法をかけて治療を施しているのが分かった。
「その回復して飛び立つ小鳥を見ている優しい瞳に私は“キュン”と来たんだ!
あれは“一目ぼれ”としか言いようがなかったよ!」
キラキラと目を輝かせながら語るクリス王子に私とジニーは固まり、エリザベスさんは完全に頭を抱えていた。
(続く)




