第30話「大会前週」
登場人物
カンイチ/彼女を探す大学生。リカへリベンジを誓う。
ミノ/ゲーミング探偵。助手バカの気がある。
ヴィヴ/ミノのライバル。ログインは不定期。
大会が開催されるまでの一週間、カンイチはひたすら特訓に時間を費やした。
今日は、ミノを相手に正しい行動を選択するためのスパーリングを行っていた。
「……参りました」
決闘終了後、敗北したカンイチはミノへ頭を下げた。
「悪くないね。……これならモノになるかもしれない」
「本当ですか? ミノさんには武器を変えてもらっても全然勝ててないですけど……」
「私だからね。そう簡単に助手クンに負けるわけにはいかないよ」
ミノは実戦の相手を想定するために、母数が多いと思われる剣派生の武器を片っ端から使っている。本来の得物ではない武器を使っていても、ミノは強かった。
「それに、ワイルドカードも使っている。リカリカは君相手には使わないと言っていたんだろう」
「どうしてそれを……ああ、視たんですね」
ミノは悪くないと言ってくれるけれど、このままではリカには手が届かないとカンイチ自身は感じていた。
「どうすれば、ハルのようにカードのポテンシャルを引き出せるんでしょうか?」
「あの子の場合はセンスによる部分が大きいから、あまり見習わないで欲しいんだが……。練習方法くらいなら教えられるよ」
「お願いします!」
目を輝かせるカンイチを見て、ミノは照れたように顔を背ける。
「正しいフォームに矯正すれば、攻撃技の威力を高められるのはわかるね」
カンイチは頷いた。
「フォームの矯正には、自分の映像を記録して正しいフォームと比較する方法が有効だ」
「なるほど、客観的に見るわけですね」
「詳しいやり方やお手本は動画サイトを漁ればヒットするだろう。一人で練習できる方法を見つけるのも大事なことだよ」
「了解です! 早速調べてきますね!!」
「地道な練習になるからほどほどにな」
最後のミノの助言にカンイチは答えず、早速ログアウトしようとする。
「少し待ちたまえ」
「え? 何かありますか?」
「助手に貸しだ。持っておきたまえ」
ミノは一枚のカードを差し出した。
それはカンイチの使う“アックス”のカードだった。それも人気かつ高価で先日買えなかったカードの内の一枚だ。
「持ってって……?」
驚きのあまり、カンイチは言葉に詰まってしまった。
「こんなもらえないですよ……」
「誰もやるとは言っていないぞ。あくまで貸しだ」
ミノは顔を斜めに背けている。カンイチからはわずかに緩んだ口元だけが見えた。
「優勝したら賞金も出る。それで返してくれたまえ」
「ミノさん……」
カンイチは丁寧な手つきでカードをしまう。
「……俺、頑張りますよ」
カンイチは今度こそログアウトしていった。
その場に残されたミノはどこか嬉しそうに、溜息をついた。
それからおよそ半時間後。
ミノはヴィヴと決闘を行っていた。
ここしばらく忙しくしていたヴィヴは、ミノとの決闘を大いに楽しんだ。一方、ミノもまた楽しそうに武器を振るった。
「今日はやけに嬉しそうね? 何かいいことでもあったの?」
「わかるかい?」
「わかりやすいのよ。あんたは」
決闘が終わり、二人は武器を収めた。
ヴィヴは事務所の台所へ向かい、お茶の支度をした。
「聞いたわよ。あんたの助手、闘杯に出るらしいじゃない。随分と気合を入れてるみたいね」
「流石、耳が早いね」
「あんたみたいに、あたしは向こうでも引きこもっているわけじゃないから」
二人で決闘を行った日は、負けた方がお茶の支度をする。それがいつの間にか決まっていた二人の不問律だった。ヴィヴが探偵事務所の台所に慣れているのもそのためだ。
ヴィヴは急須と湯呑み、お茶請けをお盆に乗せて畳間へと運んでくる。
ミノは早くもこたつに足をつっこんでだらけていた。
「で、実際のところどうなのよ? “間に合わない”んじゃないの?」
「だろうね。必要決闘数が全く足りない」
「やっぱり? となると、ワイルドカードなしで挑むことになるのね……。流石に厳しいわね。全国区の大会ってわけじゃないけど、荷が重いのは間違いないでしょう」
「助手クンには負けられない理由があるみたいだよ」
「どうせそれもあんたのせいなんでしょ。想像ついてるわよ」
ヴィヴはミノの能力を知っている。それを活かして探偵を営んでいることも知っているし、捜査に協力したことさえあった。
「で、ターゲットは誰なの?」
「リカリカ、“デスサイズ”リカだよ」
「……相手が悪過ぎよ。普通に無理ゲーじゃない」
ヴィヴは湯呑みをちゃぶ台の上に置く、お茶の表面が大きく揺れた。
「厳しいのは間違いない。けれど、いい線まで行くと思うよ。私はね」
「へぇ……?」
ヴィヴはミノの顔を見つめた。ミノの言葉を心底意外に思っているようだった。
「まさか“鴉”の連中が参加している、なんてことはないはずだからね」
「……そうね。ま、楽しみにしておくわ。当日は見に行けないけど」
「人気者も大変だね」
「後でリプレイくらいは見せてもらうわ。解説付きでね」
次回は第31話「控室」。2021/04/05(月)投稿予定です。
面白いと思ってくださった方はブックマーク&評価をよろしくお願い致します。
今話より週2回投稿になる予定です。
楽しみにしてくださっていた方々、申し訳ございません。
定期更新は続けて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。




