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ゲーミングチェア探偵がビームで犯人を破壊するまで@2,677,500と900秒  作者: あおいしろくま
第一章_探偵がビームで依頼人大学生カンイチを破壊するまで@××秒
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第2話「探偵の密会」

登場人物

長月箕/女性探偵。極度の面倒臭がり。30年後はゴミ屋敷在住(推定)。

蒲田芳雄/男性刑事。行きつけのラーメン屋の新メニューで粘膜を破壊された。

 カンイチがゲーム≪AGDs≫で聞き込みを行った同日、午後7時28分。


 一人の女性がゲーミングチェアの上で目を覚ました。

 薄着のままゲームにログインしていたせいかなのか、寒さに体を震わせる。

 スリープ状態のPCを復帰させると、ボイスチャットに3件の着信。連絡先はすべて≪K.Y.≫。

 予定通りの連絡を確認した女性は、大きな溜息を吐く。

 そのまま、のろのろとデスク横のヘッドセットを装着し、通話ボタンをクリックした。


「おはようございますッス、長月さん。今日は一段と遅い出席ッスね」

「……切るよ」

「それは勘弁してほしいッス。もう報告書で残業はこりごりッスから」

「だって面倒くさいんだよ」


 女性のややハスキーな声が薄暗い部屋に木霊する。

 ディスプレイには『VoiceOnly』の表示。

 スピーカーから聞こえてくる声は若い男性のもの。アラサーくらいの雰囲気だ。

 もっとも、長月と呼ばれた女性は男性のフルネームも年齢も、職業も知っていた。

 彼の名前は蒲田芳雄。年齢は32歳。職業は刑事だ。


「どうせ、今日も『今週の依頼は0件』だろう? それを言うためだけに週1で定例会なんて、面倒くさいことこの上ないとは思わないかい」

「まぁまぁそう言わずに。こっちとしては、長月さんに依頼するような事件がポンポン起こっちゃかなわないんスよ」

「せめてテキストチャットだけにするとか、方法はあるだろうに」

「自分もその方が助かるんスけどね。約束の時間から30分も待たされなくいいッスから。とにかく、こっちにも事情ってモンがあるんス」


 女性が押し黙り、空気が重くなる。

 彼女にはその事情がだいたい想像できていた。しかしそれは、彼女にとってあまり愉快なものではなかった。


「ちなみに、今日はどういう遅刻の理由を考えてきたんスか?」

「話を変えるのにそういう話題の振り方をするのかい? ≪K.Y.≫さん」

「あ、そのスラングわかるんスか!? 確かによく考えたらそんなに歳変わ……」

「黙りたまえ。遅れたのは、向こうで変な奴に捕まったからさ」

「長月さんよりも変な奴ッスか?」


 彼女はついさっきまで話を聞いていた、青年のアバターを思い出す。


「あの子の話では、リアルで行方不明になったという恋人? を探しているという話だったよ」

「へぇ、人探し。それはまた奇遇な話ッスね。で、正式に『受けた』んスか?」

「まさか。面倒なだけさ」

「探し物なんて長月さんなら一発でしょ。ついでに手数料も頂戴すれば万々歳じゃないスか」

「失せ物探しはともかく、人探しは専門外さ。それこそ、そっちの領分だろう」

「そういうのは所轄に行ってもらう感じッスねぇ」

「どちらにしても、面倒は御免だ。何より面倒くさい」

「そんなんじゃ商売あがったりスよ。ま、ウチや長月さんの仕事が少ないのは、世間的には良いことなのかも知れないスけど」


 画面越しに刑事が溜息を吐く息遣いが聞こえた。

 刑事のこういう雑談を面倒くさいと感じるようになったのは、いつからだっただろうか。

 そんなことも、彼女はもう思い出せそうになかった。


「面倒くさいついでに、通話も切っていいかい」

「大丈夫スよ。定例会は以上ッス。ではまた来週。あ、来週は機材のメンテがあるんで、直接伺うっス。それまでには部屋の掃除、しといてほしいスね」

「……善処するよ」

「それと来週は事情があって水曜日じゃなくて、木曜日にお伺いするっス。忘れないでくださいね」

「はいはい、それも善処いたしますよ。それじゃ」

「ほんとに忘れないでくだ――」


 蒲田の言葉を待たず、長月はウィンドウを閉じる。

 ボイスチャットのルームから退出すると、彼女はゲーミングチェアに深くもたれ込んだ。


 だらりと椅子から足を投げ出すと、下灰色のパーカーの裾から赤い下着と太ももが覗いている。

 そもそも彼女はパーカーと下着以外の衣類を身に付けていなかった。

 おまけに、彼女の座る椅子の周りは、雑多な日用品やゴミで散らかっている。

 長月はそれら全てを『面倒くさい』の一言で片付けていた。


「はぁ……、また面倒くさいことになりそうだ」


 長月は面倒くさい事柄を嗅ぎ分ける直感が優れていた。

 若い見た目に似合わない、これまでの経験に由来する直感。

 その直感で面倒な事態を避けたり、避けられなかったりしていた。その直感が、面倒ごとが近づく気配を察知していたのだ。


 そして、こういう直感が働いたとき、得てして手遅れだったりするということもまた、経験から知っていた。

 とりあえず、彼女はもう一度向こうへとログインするべく、ヘッドセットをVRゲーム用のものに持ち替えた。

 周りに積みあがったゴミからは目を背けながら。

三話まで毎日投稿致します。

次回は第三話「探偵は何処に」。2021/01/31(日)投稿の予定です。

面白いと思ってくださった方はブックマーク&評価をよろしくお願い致します。

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