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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界改革 5 クルトの過去から3年目(リヒト視点)



「車の下から声が聞こえないの? 貴族の財産ってなに? 貴族は民を守るものじゃないの? 民は国の財産じゃないの?人の命より車なの? 」

と満身創痍の少年が絶叫していた。





10月に入ってから、クルトから11月18日に休暇届けが出されていた。理由は私用。

業務自体の進行上、この時期問題はないので、許可はしたが、クルトに理由が聞けない。

いや、聞こうとしたんだ。でも「すみません。」と目を伏せる。

いつもなら、なんでも顔に出す、独り言が多く、くるくるよくまわる表情をもつクルトが陰る。


クルトは前世サラリーマンだった習慣から、始業時間30分前にはデスクについている。

俺が来ると、俺のスケジュールを把握しているので、朝一番の仕事が始められるように資料を準備してくれている。

が、毎月18日だけは、少し遅れてくる。これも気になっていたが、このことを聞くと目を伏せ、「ちょっと私用です。」と小さく返事をするだけ。



11月18日、当日、クルトが不在なのがものすごく不安で、なぜかクルトが消えてしまいそう気がして、たまらなくなる。

わけのわからない焦燥感に仕事も手が付かないところにノックが。 

開けるとローリング・フォン・ へルドルフ。35歳、スキのない鋭い眼光の美丈夫。 元魔法部隊隊長 2年前より王城師団総統閣下が立っていた。

面会予定にはなかったのだか、相手が相手のため、無碍にもできず、中に通す。


「クルト・ベルガーはいるか?」と聞かれたので

「いえ。本日は休みを取っています。どうかされましたか?クルト・ベルガーに用がありましたか?」と聞くと

「あぁ、今日は11月18日か。そうか。いないのか。」と目を伏せる。

「それが なにか、クルト・ベルガーとは懇意だったのですか。」と

「いや、俺はよく知っているが、クルト・ベルガーは俺の名前だけしか知らないだろうな。」と。


「3年前11月18日早朝の商業地区で馬車の衝突事故を知っているか?」と言われたので、あまりの凄惨な事故だったので、報告が上がっているのを覚えている。

その事故がきっかけで、路面改革をしようと思い、青写真を描き始めたんだ。

「覚えております。」

「あの事故の現場にクルト・ベルガーがいた。」俺は息をのんだ。

「本当に悲惨な事故だった。あの地区は早朝からの市がたち、人の往来も激しい。

あの日、モール伯爵家の馬車が乗合馬車に無理に追い越しをかけ接触。これが結構スピードが出ていたようで、幌をかぶせただけの乗合馬車の乗客はほとんどが投げ出された。石畳に打ちつかれて、その場で6名が即死。馬車も倒れて、巻き添えを食らった通行人が十数名

後方に走っていた馬車がよけきれずに南側のレストランに突っ込み炎上、伯爵家の馬車は北側の商業施設に激突。

死亡者16名、重軽傷者32名の大事故だった。

これには早くから20名の守護警備隊が出動はしていたが、肝心の責任者の副隊長が伯爵家の護送に自らと部下14名を連れて行ったそうだ。

俺が現場に行ったときは、5名の守護警備隊、20名の消防隊、5名の治癒隊、十数名の民間人が動いていた。

陣頭指揮をとっているのがクルト・ベルガー。目を疑ったよ。ほんとうにどこにでもいるような少年が指揮をとっていた。

信じられるか?

あの場で泣きながら、救出された人間に重体・重傷者、軽傷者の患者を分け、意識のない人間に揺り動かす身内に適切な処置方法を施すことができる子どもなんて。

親の亡骸にすがる子どもをかばって北側の商業施設から落ちてきたレンガの下敷きになりながらも、出血しながらも、よろよろと歩きながら馬車の下敷きになっている人を助けようとする人間が守護警備隊ではなく、子どもなんだと。

守護警備がベルガーに伯爵家の馬車に手を触れないよう恫喝したとき、

クルト・ベルガーの身を切るような絶叫

「車の下から声が聞こえないの? 貴族の財産ってなに? 貴族は民を守るものじゃないの? 民は国の財産じゃないの?人の命より車なの? 」

そこにいるもの全員が殴られた気持ちになったよ。

そこにいる貴族は貴族というだけで優遇されて当たり前と慢心してた心の部分を責められ

相手が貴族というだけで、すべてをあきらめた庶民は、守るべきものをなにかと考えたと思う。


また後で聞いた話だが、レストラン火事の避難誘導もクルト・ベルガーが行っていた。『こちらから順に避難をしてください。できれば、子どもと女性をなるべく優先して。煙をすわないように。』と言ったらしい。がそこにいた貴族が『そこは貴族優先ではないのか?』と言い反論したところ、『いえ、命優先です。全員を安全に助けるのが最優先です。』と。

救助後、貴族がわめていたが、ベルガーの叫びを聞いていた民衆に怒鳴り返されていた。


この事故、本来の守護警備に任せていたら、この被害で収まらないと、のちの事故検証で分かったよ。

あの発想はどこからくるものか。彼の救助法はその後の守護警備の模範と再編をさせてもらった。


後で知ったんだが、被害者の中にクルト・ベルガーの多くの友人と親友がいたらしい。

あの日から3年、まだ心の整理はつかないだろうな。」と、


「あの後クルト・ベルガーを調べたさ。この国に必要な人材だと思ったから、いや、正直なところ俺が欲しいと思った。

剣だけでなく、頭脳や考え方、または臨機応変に立ち回れる柔軟性とまっすぐな正義感。すべてが好ましいと思ったからだ。

俺はクルト・ベルガーが志望している師団へ異動届をだした。クルト・ベルガーは必ず、実力で入団してくる。

入団してきたら、そこで3年勤務の実績を作ってから、後は俺の補佐に任命しようと画策してたんだがな。先を越されてしまったよ。まっクルト・ベルガーにとってはそのほうがよかったのかもしれないよな。


食堂で幸せそうにお前さんと一緒に魚料理食べている姿みたらな。


クルト・ベルガーはたぶん共同墓地東側ヴォルフ家の墓の前にいる。亡くなった親友の墓だ。

寒いしそろそろ迎えに行ってやんな。」といって第二師団のコートを渡してきた。

「リヒト・フォン・ルックナー宰相補佐官が嫌になったら、いつでも第二師団に帰ってこいと伝えろよ。」と。

「それと、これ、あの車の下から助けられた子から、クルト・ベルガー宛だ。文字は書けないから、絵を描いたそうだ。感謝の気持ちだそうだ。」





俺は急いで、自分のコートを持ち、共同墓地に走った。

そこに、竹皮に包まれた大きなにぎりと水筒、木剣を持ったクルトがいた。

「バル、俺ちょっとだけだけど、この1年頑張ったんだよ。

俺を助けてくれて、支えてくれる人にも出会った。だから、みてて。みててねバル。」と言ってこぶしを墓にむけた。泣きたいのをこらえているクルトがいた。


おれは、クルトのあまりの小さく見える背中に、コートをかぶせ、コートの上から抱きしめた。

そして、「車の下から救出された子からだ。『感謝の気持ち』だそうだ」と言って絵を見せた。



紙いっぱいに描かれた花の中に満面の笑顔の子ども。



クルトは静かに泣いていた。







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― 新着の感想 ―
[良い点] リヒトさん救済の回、恋する男の感なのかバルの命日のクルトのいつもと違う様子に何かを感じてますね。その不安、クルトの隣に自分とは違う人物がいた可能性、今なおクルトの心の中にこれから変わること…
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