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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

山道

作者: ぺんしる

時代は、第二次世界大戦まで遡ります。

 険しい山道は人生のように長く続き、老人はその山道の中腹のベンチに腰掛けていた。その山の高さ、日差し強さ、セミの泣き声に大きくため息をつくと、老人は、あらかじめ持ってきた茶色の革バックから、赤色の、少しくすんだ水筒を取り出し、水を飲む。砂漠の喉、水を渇望する体、心にたりない何か。そのほんの少しを潤すように、食道に純粋なH2Oが流れ込む。

 ゴクッ ゴクッ 老人の顎の下にある不自然な隆起物が音に合わせて動いた。それがどのような原理で動いているのか、老人は知らない。好奇心旺盛でないのは昔からであって、それを改善しようともせずに生きていたために、もしかしたらあったかもしれない未知を渇望する口を完全に閉ざしてしまったのだろう。それは成長か衰退か、もう知る由もない。

 老人はベンチから立ち上がると、そのまだ光を伴った眼を、山頂に向けて、ゆっくりとまた歩き出した。


 

近藤は、歳の割に大人びた子供だった。危険なことを同級生がしていたら注意する、教師な親に怒られたときには、膝をついて謝り、数少ないお小遣いは、そのほとんどが貯金箱に入っている。つまりは、後先考えずに物事をすることがない。

そのためか、近藤はいつのまにか学校一の優等生として、多くの人から慕われていた。教師も、家族も、友達も、またその家族も、一様に近藤を、羨望の眼差しで見つめていた。それを近藤は満更でもない様子で、さらに高みを目指すような表情で、その足を進めていたのだった。

しかし、人が今まで信じていた心持ちが、あだになる日は必ず来る。そのようにして人間は成長するのだが、今まで近藤はそのようなことが一度も無かった。もしかしたらそれが近藤の唯一の欠点とも言えるかもしれない。


―――その日、近藤は友達の中村と学校から帰っていた。将来の軍人を育てるために作られたその学校も、もはや意味がないのではないかと近藤は思う。ラジオから日本の勝利を願う人々の声が電子として流れてくるが、米軍の空襲の酷さからすると、近藤はもう勝ち目は無いと踏んでいた。

近藤は、米軍に対して、言葉に言い表せないほどの憎しみを覚えている。しかしそれは、身近な人が犠牲になったという、生々しく地団駄を踏むような憎しみではなく、国が滅ぼされるという危機感からの義務的な憎しみだった。それは、日本国民全員が抱いてる思いに違いないが、その憎悪が純粋なものでないことに気づいていたのは近藤のように冷静なものだけだったのだ。

――もうこの国も長くないな

一人近藤はため息をつくと、幼い頃から見慣れてきた街を眺めて、隣の家の中村と話をしていた。正確には言い争っていた。

「日本は強いんだって先公も言ってたじゃないか。」

中村が唾を飛ばして舌を回すが、近藤はそれを否定して

「お前は少し考えろ。この間も隣の町で空襲が起きただろ。もう日本はボロボロなんだぜ。」

「あれは日本の竹槍戦法で撃退しただろ」

「ってお前、竹槍で爆撃機を本当に落とせると思ってるのか。」

大和魂があれば竹槍で爆撃機を落とせると言う荒唐無稽な話を、先公や生徒は真面目に信じているのだ。

――末期なのだ。それに…

近藤は予想していた。米軍は何度も空襲を行なっている。しかし、防空壕のおかげで人の数はあまり減っていない。アメリカ側としてはこれでは日本の無条件降伏に持ち込めないのだ。となると米軍の予想される次の攻撃はただ一つ。

防空壕も意味を為さないほどの爆弾の投下だろう。

 そして、近藤の住む街は、日本を支える工業都市の一つなのだ。狙われるなら、当然ここだろう。確定要素が少ないので、まだ誰にも話したことがなかったが、そのうち近藤の家族や友達を出来る限り連れて、この街を逃げようと考えている。まだ誰にも話したことはなかったが、そろそろみんなに伝えなければならない。

 一呼吸分の決意を固めて、中村に言った。

「突然で申し訳ないが、信じて欲しい。」

 中村は驚く。

「急にどうしたんだよ、近藤。」

「俺はこの街を出る。中村も家族と一緒にここを出よう。」

 中村は目を見開き、

「………どうしてだよ。」

 中村は動揺しながらも、こちらの考えを根拠なしに否定しない。近藤は幼なじみのこのような性格を気に入っていた。

 近藤はこの街の危険性を中村に話す。支離滅裂な話だった。話しているうちに自分でもその推論を笑い飛ばしたくなってくる。でも、

(自分が米軍だったらそうするだろう)

 中村は、反論した。いつものように、論争という名の遊びだと思って、論拠のない反論をしていたが、こちらが本気だと分かり始めると、顔を歪ませて怒り出した。お前が何を言っているのかわかってんのか。そういう怒りを乗せたため息が、近藤を不安にした。この街を見捨てるのか。負けを認めるのか。しかし、そのような反論を近藤は予想していた。

(なぜ命を失う危険のある選択肢を選ぶのだろうか)

 近藤は命を失うことを軽視してはいなかった。何よりも大切なものは自分の命だと考えている。

 だから、近藤は戦争が嫌いだった。命を投げ出す事の価値がわからなかった。今回の近藤の提案だって、みんなから反対されるのはわかっていたが、その理由については理解できない。みんなは近藤のことを、素晴らしい、才能がある、人間でない何かみたいだ、と囃したてたが、近藤にとっては、戦争を肯定するような周りの人々こそが人間ではない何かのような不気味さを感じた。自分より他人を優先するのは、まるで怪物みたいだ。

 そのような異常な考えには染まらない。それが、近藤が近藤たらしめる性格の全てだった。

 言い合いは長く続いたが、中村はこちらの考えが覆らないことを知ると、吹っ切れた顔をして言う。

「しょうがねーな。お前は俺が何言っても聞く耳を持たないんだろ。わかった。どうせなら逃げてやろうぜ。」

「ああ、ありがとうな」

 はじめに中村を説得したのには理由があった。彼は優しいのだ。誰かが困っているときに、手を差し伸ばさずにはいられないような。

 その善意を利用するようで悪いが、近藤も味方が欲しいのだ。いくら自分が優秀だからと言って、こんな馬鹿馬鹿しい提案を、みんなが二つ返事で受け入れていると考えているほど、近藤は自惚れてはいない。せめて、中村がいれば、少しは説得力が増すだろう。

「これから、俺と中村の家族にこのことを伝えて、街の外に出るように説得する。手伝ってくれ。」

「わかったよ。」

 そう言って二人は、高い山の中腹にある、集落へと向かっていった。



 老人は、木漏れ日の差す山道を、一歩一歩踏みしめていた。土と光の濃淡は、絵具では表しがたい、芸術の境地の類だった。そして、そこに溶け込むように老人もまた、大きな絵画の中にいた。周りには、腐った木材が点在していて、そこから白蟻のような生物が顔を覗かせていた。

 老人は、それらを一瞥すると、緩慢な動作で歩き出し、さらに奥へと進んだ。



 近藤が母に怒鳴られて、謝らなかったのはこれが初めてかもしれない。罪悪感が想像以上にのしかかるものだ、と思った。

「馬鹿なこと言わないで。ねぇ」

 泣き出しそうな声で、肩を揺さぶられながら、近藤は母の懇願を聞いていた。

 近藤は中村と別れた後、自分の家に帰り、母の説得を試みた。初めは近藤の考えをあやすように否定した母だったが、近藤が頑ななことを知ると、泣きそうになりながら懇願してきた。

「あなた、この街を見捨てるなんて考えられない。お父さんだって、みんなのために頑張っていると言うのに。」

近藤の父は今徴兵されているのだ。もう今生きているか死んでいるのかもわからない。そんな不確定な要素のために自分の身を犠牲にするなと叫びたかった。

近藤は父が嫌いなわけではない。家を離れる時には幾分かの悲しさがあり、ふと父の存在の有無に思いを馳せる時の虚無感があった。だけど、赤紙が父の元にきたときの彼の生き生きとした表情は気に食わなかった。まるで自分の身を国に捧げるとでも言いたげな、近藤にとって狂気を覚えるような。

「父は、帰ってきます。」

「あなたが、お父さんから帰る場所を奪うようなことをしようとするあなたが、そんなこと言わないでよ」

「父は、もし帰ってきた時に、みんながいないことを悲しく思うはずです。」

「そうだけど…」

 母は信じられないのだ。父が帰ってくることを願っていても、心の底では不安を拭いきれない。もし本当に信じていたなら、近藤の提案を受け入れてくれるはずなのだ。でも、母は動かない。父の生存の可能性の低さが、母を罪悪感で縛り付ける。自分だけが生き延びようとしていいはずがない。そう考えているのが、近藤にはありありと伝わるのだ。

そんなことをしなくてもいいのにと近藤は思っていた。

 母は言う。

「私はみんなが暮らしてきた家を守りたいの。守らなきゃいけないの。」

「それでみんな死んでしまったら、元も子もないでしょう。」

「そうじゃないの。」

母は冷たい声で言うと、こちらを哀れむような目で見て

「あなたには、完璧なあなたにはわからないわ。」

と言った。

 その瞬間、近藤の心の中をナイフで突かれたような、冷たく、激しい痛みを覚えた。

―――あなたにはわからない。

 もしかして、何か重大なことを見落としてるのか。

 いや、なんであれ、自分の命を優先しないのは間違っている。僕は正しいはずだ。そう言い聞かせた。

 そして、もう母が考えを変えないことを悟った。

「じゃあ、僕だけでこの街を出ます。」

「えっ、何で、あなたがいなくなったら…」

「また帰ってきます。心配しないで。」

 後ろで泣き崩れている母を置き去りにして、近藤は走り出した。自分の命を優先するために、自分だけでも逃げる。非情な近藤の行動は、ある意味合理的で、だから近藤は躊躇いもなくこの街から逃げることにした。



老人は、屈んだ。そしてそのまま、山の斜面を掘る。色あせた記憶を現実に射影して、確信を持って、手を動かす。その手はシワだらけで、その流動的な褐色の肌が老人の生と死を同時に表現していた。額の汗も、途切れ途切れの息遣いも、土の存在と混ざり、詩的な感情すらを呼び起こす。

やがて、斜面は崩れて、空洞が現れる。



 近藤は走っていた。家族を見捨てたが、中村は一緒に連れて行こうと思った。中村の家の方向に走っていると、中村もこちらに向かって走ってきてるのが見えた。

「中村、俺の家は認めてくれなかった。俺と中村の家族だけでこの街を…」

「近藤」

中村は近藤の名前を呼ぶと、真剣な顔で

「俺はこの街に残ることにした。」

こう言い放ったのだ。

「…何でだよ。お前は一緒にきてくれるんじゃなかったのかよ。」

「すまない。」

中村は、鋭く射抜くような目でこちらを見ると、

「俺は、父ちゃんのいない間、家族を守るって決めたんだ。家族が反対するなら俺も行かない。そのための自分の命なんて、惜しくはないよ。」

「っお前、それでいいのかよ。自分の命が惜しくないなんて、何言ってんだよ。逃げようぜ。」

叫ぶように近藤は言った。中村が何を言っているのか理解できない。

 大丈夫だ。中村は優しい。必死で説得すれば、一緒に逃げてくれるはず。もう一度決意を固めてくれるはず。そうだ、そうだよ。不安になることなんてない。近藤は自分に言い聞かせた。

 一人で逃げることに躊躇いはなかったが、寂しさは募るかもしれない。家族は死ぬかもしれない。近藤と仲の良かった中村と一緒に逃げることで、近藤の心はどれだけ救われるだろう。

 近藤は、激しい恐怖に包まれて、戸惑いながら行った。

「本気、なのか。」

「ああ、第一近藤のその推論は、何を根拠に言ってんだ?」

「…根拠はない。だけど、もしかしたら死ぬかもしれない選択肢と、必ず生き残る選択肢があったら、後者を選ぶに決まってんだろ。」

「それでも、俺は家族を守んなきゃならない。」

「みんなを連れて逃げればいいだろ!何が不満なんだよ。」

「俺の家族は、この街に残るって言ったんだ。父が戦ってんのに、自分たちだけ逃げられないって。」

「そんな、馬鹿だ。」

「俺もそう思うぜ。近藤。」

「…っだったら!」

「それでも、俺はあいつらを守るんだ。」

中村は言い切って、さらに言う。

「父さんは今生きているのか死んでいるのかもわからない。でも、国のために戦っているのは事実だ。それなのに、俺たちは腰を抜かして逃げることなんてできない。この街を守りたい。…って言うのを母さんが言ってた。馬鹿だよな。近藤が言ってたように死ぬかもしれないのに。母さんだって俺だって、街を守ることなんてできない。母さんはできることとできないことの区別がついていない。」

 中村は自虐するような笑みで語ると、でも、と続けた。

「俺は、そんな母さんを守んなきゃいけない。俺の兄弟だって守んなきゃいけない。守れないのはわかってるけど、逃げることは許されない。」

「何でだよ、誰に許されないんだよ。」

「俺自身が、許さない。」

そう言う中村の表情は、氷が張ったみたいに冷たく、もうその氷を打ち砕くことができなのだと、近藤は悟った。

「近藤、それにお前の考えが杞憂だったら、またみんなで笑えるだろ。」

「―――っ。やっぱお前は、頭が悪い。」

「だから、お前にはわからない。」

 そう言われた言葉は、二度目であり、近藤は自分がひどく間違った選択をしているのではないかと錯覚した。近藤は中村の同行をため息ひとつで諦めると、

「悪いが、俺は一人で逃げる。その選択が間違っているって教えてやるよ。」

「わかった。じゃあな、近藤。」

 そう言って中村は踵を返す。

 近藤はその途端、そこの見えない暗闇の中に放り出されたような、つかみどころのない感情を覚えたのだった。



老人は穴の中を進む。その穴は、人一人が立って歩けるくらいの大きなもので、かつては入念に固められていたであろう土の壁は、長い時をかけて崩れそうになっていた。足音が不安定な様子から、足場もいつ崩れるかわかったものではない。それでも、老人の進む足取りは強く、目は光を灯したままだった。

やがて老人は穴の奥にたどり着く。老人は周りを見渡すと、土を手当たり次第に掘り返していった。



近藤は走っていた、山頂を目指して、さらに山を降ったところにある隣町を目指して、そして、もっと遠くの安住の地を目指して。

やがて、山頂にたどり着く。近藤は一度足を止め、街を振り返る。この街を守りたいのは事実で、それは近藤も同じだった。それでも、町と自分の生存を天秤に置くと、どうしても後者に傾くのだ。

「きっと戻ってくるからな。」

 近藤は一人呟き、街を後にしようとした。

 その時、耳が潰れるほどの轟音が後ろから響き、近藤は振り返った。目を閉じてしまいそうになるほど強い風が吹き、砂埃を起こす。

 山頂から見えた街の光景、街の真ん中に、大きな大きな雲が横たわっていた。その大きな雲は形を成し、どんどん大きくなっていく。

 

 それは、きのこのような形をしていた。


近藤は、自分の推論が正しかったと理解した。大きな爆弾一つは、おそらく街を覆い尽くすほどの威力を持っているはずだ。

その時、前方から耐えられないほどの熱波が襲った。体が熱い。ひりつくような痛みが全身を襲い、近藤は耐えきれずに走り出す。山を降って、街から遠く逃げるために、もつれる足を懸命に動かし、生存を追いかけた。

「熱い!」

もう一度熱波が襲い、息をすることさえできずに、ただ山を下る。痛みは恐怖に変わり、叫びながら獣のように走った。足は関節が固まり、まともに走れなかった。

熱はさらに現実味を帯びて、走ることをやめてしまいそうになったが、近藤の意地がそれを許さない。近藤の頭は、母のこと、中村のこと、街の人たちのことを考える余裕すらもなくしていた。死に抗うように走っている近藤に、神童などと呼ばれていた面影は、もうなかった。

 ただ、幸いなことにこの山の中には鉱脈が眠っていて、それが爆弾から放出された放射能を妨げた。このことによって近藤は一命を取り留めるのだった。



 老人はただ穴を掘る。ただそれだけのために生まれてきたような目をして、ただそれだけのために命を投げ捨てることのできるような顔をして、動物のように、その穴、かつての防空壕と対峙していた。

 ずいぶんと時間が進み、やがて老人は目的のものを掘り起こす。震える手が、埋まっていたものを取り出して、

「…母さん。」

と呟いた。



 近藤が山の麓に降りて、近くの池に飛び込んだ。全身の火傷を負った近藤は、池に飛び込まずにはいられなかった。ひりつく肌を冷やして、池から上がる。

 近藤はそのまま地面へと倒れた。

(俺は生き延びたんだ。よかった。)

 近藤は満身創痍な状態であり、生き延びた安心感に眠ってしまいそうになった。しかし、それは山の向こう側から響く数々の絶叫に妨げられた。


それは、聞いていられないほど悲痛な叫びだった。人間とは思えないほどの絶叫が山の向こう側から響いてくる。それも何百と、何千と。近藤は、その中に自分の母親や、幼馴染み、仲の良かった人たちがいると考えると、耐えられなかった。

涙が止めどなく溢れてきた。

堰を切ったように、近藤の感情が爆発して、声を出して泣く。嗚咽を響かせて、顔をぐちゃぐちゃにしながら、近藤は悲鳴を上げた。大切な人が失われていく。手に入れたものがこぼれ落ちていく悲壮感が、襲いかかる。それは、後悔だった。

 自分は何を後悔しているのか、生き残ったことは誇るべき。みんなを見捨てたことも、自分の命と比べたら安い。そう思っているのに、この後悔はなんだ。何故後悔するのだろうか。

 その疑問は、長い間泣いて、ふと解決した。

―――そうか、俺はみんなと一緒に死にたかったのかもしれない。

 近藤は置き去りにされた。置き去りにされて初めて、自分の本当の望みを知った。近藤は自分が忌み嫌っていた感情が、母や中村が、お前にはわからないと言っていた感情が、初め理解した。

 でも、それはもう遅い。一人逃げることを選択してしまった近藤に救いなどはないのだから。

 近藤はまた嗚咽をあげて、いつまでも泣いていた。

(また帰ってくる)

 そう誓いながら。


1945年8月15日に戦争が終結した。それは、人々の怒りや憎しみを置いてけぼりにして、一方的に宣言された。そして、近藤が目の当たりにした爆発は、広島の原爆として語り継がれることになる。



老人は、さらに掘り進める。

 そこから出てきたのは、大量の人骨だった。それぞれが腐敗して、原型を留めてないが、老人には、不思議とそれが老人の母や幼馴染み、山の中腹に住んでいた近所の人たちのものだどわかった。

 そして、老人はあのときの誓いを果たしたのだと感じた。長い時を超えて、帰ってきたのだと知った。

 老人はひとつ笑みを作ると、その骨をまた埋めた。そうして、穴の外に出る。木々の間から差し込んだ光が老人を照らす。

 老人は緩慢な動作で山道へと戻る。

山道はまた長く続いていて、そこから頂上に繋がっている。それは長い長い人生のように。

だが、老人は山頂に目を向けず、ゆっくりと下山していったのだった。






 


読んでくださってありがとうございます。


世界には様々な山があります。山は登るもので、何かを隔てるものでもあります。その山に立ち向かうことが人生なのではないかと思います。


山道は人それぞれあり、登ったり降ったりしていきます。転げて落ちてしまうこともあるでしょう。


でも、そこまでして山を登る価値はなんでしょう。生きる意味とはなんでしょう。


山頂に何があるのか、それを知る旅が人生なのだと思います。

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