第二章 出会い
「おい、光紀起きろ。初っぱなから寝坊する気か?」
聞き慣れないテノールが聞こえる。
まだ眠いんだけど…
「あと少し……」
そう言って寝返りをうつと、暫くして無言で布団を剥ぎ取られた。
春とは言えまだ朝方は冷える。
一気に心地良い布団から冷たい外気に触れ、仕方なく重い瞼を開けた。
…って悠斗…
少しづつ視界がクリアになってきて、意識もはっきりし始める。
急いで上半身をベッドから起こし、目を擦る。
そうだった、昨日から寮で悠斗と生活し始めたのだ。
ってまた勝手に入ってきてる…
「起きたか?遅刻すんぞ。」
悠斗がそう言って頭をポンポンと叩く。
…なんかガキ扱いされている気分である。
今日は、咲夜学園の入学式。
入学式は9時からで受付が8時30分から。
光紀は時計に目をやり固まった。
時計の針は8時15分を示している。
…15分……?
目の前で布団を持っている悠斗に目をやると、もう準備万端で制服を着ていた。
「!!何でもっと早く起こしてくれないんだよ!!」
やけくそになって、急いでベッドから飛び降りる。
まず、顔を洗って歯を磨いて…朝は食べる時間がないだろうから取りあえず必要なものを鞄に詰め込んで制服を着て…
そんな風に急いで頭で間に合うような時間割りを考える。
そうして、制服に着替えようと、着ていたスウェットを脱ごうとしたとき、やはりノックもないままドアが開いた。
「光紀ー朝飯は?……ごめん。」
上半身裸状態の光紀を目撃し、最初は声に勢いがあったがドアが閉まる頃には小さい呟きに変わっていた。
なんだ?悠斗の奴…変なの。
暫く悠斗が出て行ったドアを見つめていたが、時間がないことを思い出し、急いで制服に着替えた。
所要時間僅か5分。
お陰で諦めていた朝飯にありつけた。
朝食が終わっても、受付開始まで後少し時間がある。
自分の起きてから準備するまでのスピードに自分で驚いた。
俺、やればできるじゃん☆
「おーい、光紀ーいこーぜー」
玄関の方から悠斗の声が聞こえた。
「今いくー」
部屋に引き返し、鞄を肩にかけて部屋を出た。
今日から学校生活も始まるのだ。
徒歩5分の所にある学校。
そこに悠斗と歩いていった。
行く途中も昨日ほどは混んでなかったけどやはり男ばっかりで暑苦しい。
そして、やっぱり悠斗に視線が集まっているわけで…
居づらいのでそれとなく悠斗と距離を置いた。
「どうした光紀?ほら、もっと近くに居ないとはぐれるだろ?」
悠斗はそんな人たちの視線に気付いていないのか気にしていないのか…
光紀の手を取って引き寄せた。
勿論、力もないし貧弱な光紀は引き寄せられた勢いで悠斗に突っ込んだ。
「ごめん…ってかお前引っ張りすぎ。」
急いで悠斗から離れてそう言うと、悠斗はごめんっと笑っていた。
まぁ…その笑顔に免じて許してやらないこともない…
結局そんなやり取りをやっていたら学校についた。
学校までに受け付けを済ませて、クラス表が貼られて居るのでクラス表の前に移動した。
だが、そこにはすでに人が沢山居て身長の低い光紀には全く見えないわけで…
不満げに後ろの方にたっていると、悠斗が
「あー、光紀と俺一緒だ。三組だって行こうぜ。」
っと笑いながらそう言った。
悠斗は身長が高い。
だから見えるらしい…
ムカツク。
そう思いつつ、悠斗に続いた。
でも…同じクラスに知っている奴が居て良かったと思う。
じゃないと、やっぱり緊張するし。
三組につくと、もう数人席に着いており雑談をしていた。
が、光紀と悠斗が入ってくるとやはり注目する。
光紀はそれに反応して小さく俯き教室の一番前に貼られた座席表を見に教卓がある所まで向かった。
「…俺悠斗の前の席だ。」
そう言うと、上から
「本当だ。あぁー…これ出席順だからな。」
っと言って光紀の頭をポンポンと優しく叩く。
これはどうやら悠斗の癖のようで何回かやられた。
だけど、そんな大きな手に頭を包み込まれるのはそんなに嫌いではない。
…って何俺その……女みたいな思考に。
っと思い自分の顔を小さくつねった。
俺はノーマルだ。
「前から三列目だって、ほら。」
っと促されて席に着いた。
まだ前の隣も来てないようだ。
誰が来るんだろう…っと考えていると、悠斗が後ろから光紀の服を引っ張った。
「何だよ。」
そう言って振り返ると、悠斗は机に突っ伏していつもは見えない頭が見える。
「ん?暇だから。光紀なんか喋って。」
っと上目遣いで笑っていった。
そんな悠斗の行動も綺麗にしか見えない。
だから…その……不覚にも少しドキリッと胸が高鳴った。
そして俺はもちろんそんな悠斗のお願いを断れるはずもなく悠斗と喋っていた。
まぁ、悠斗と喋るのは嫌いじゃない…って言うか声が好きだから沢山喋って欲しいと思う。
そのままずっと悠斗と喋っているとどんどん人が増えていった。
隣の人も来て、笑顔で挨拶してくれた。
なぜか悠斗は不機嫌そうだったけど…
後、入学式が始まるまでに5分。
未だに前の席の人は来てない。しかも二人とも。
二人して風邪でも引いたのかなーなんてことを考えていると、先生が入ってきた。
「おはよー、じゃ出席とるなー」
先生はそう言って出席を取っていく。
若い男の先生だった。
出席を取り始めて暫くたったとき
ドタッ ドタッ
っと廊下を走る音がして後ろの扉が荒々しく開けられた。
「「遅れましたー…」」
そう言って入ってきたのは同じ顔の二人組。
多分双子だろう。
「遅いぞー」
っと先生はそれだけ言って双子の分の出席も取った。
双子たちは息を切らしながら席についた。
身長が高く整った顔立ちの双子。
シンメトリーが神秘的だが…
どっちも髪が赤くてピアスもアクセもじゃらじゃら。
目にもカラーコンタクトを入れているようで綺麗な緑色だ。
「じゃ、もうすぐ入場だから並べー」
っと先生が言うとみんな動き始めた。
光紀も廊下に出ようと席から立ち上がったとき
「「あぁー…君」」
っと双子は綺麗なハモりで光紀の肩を掴んだ。
しかも両方から。
「何ですか?」
後ろを振り返ってそう言うとそこにはシンメトリーに並んだ双子。
「後ろの席の子でしょ?自己紹介しとこうと思ってさ。」
っと右側が笑った。
前の席はこの人らしい。
全然見分けつかないけど。
「あぁー、俺の名前は西条光紀。宜しく。」
そう言うと、双子は同時に微笑んで
「前の席の俺は小泉宏」
「っで、前の前の席がコイツの兄の小泉洋」
「「よろしくー」」
っとチームワーク抜群の自己紹介をした。
双子ってこんなに以心伝心するものなのかぁー…っと関心していると。
「おい、光紀。行くぞ。」
っと前に悠斗がたっていた。
なんかやっぱり不機嫌のようだ。
「ん。」
そう言ってその場を離れようとして気がついた。
…光紀以外はこの3人は身長180はある。
あれ?なんか一人凄く小さい…
っと思って見回す。
見下ろされている…
なんか凄く屈辱的だった。
「…早く行くぞ。」
何となく当たる感じの不機嫌そうな声で光紀はそう言い捨てて教室から出て行った。
くっそー…まだ高校1年だから伸びるもんねー
…まだちょっと他の人より小さいだけで…
「なぁーそこの兄ちゃん。」
っと後ろから肩を掴まれて振り返った。
そこには光紀と同じくらいの少年が立っていた。
黒い髪はワックスで遊ばされているが、目が大きく睫毛も長いので格好いいと言うよりは可愛いと言う印象を与える。
鉛は関西?
「え?俺?」
っと光紀が自分を指さしながら言うと、少年は可愛らしい笑顔を浮かべて大きく頭を縦に振った。
「俺な、野々村和哉って言うねん。これ身長順らしいからさ身長何センチ?」
っと聞いてきた。
確かにこの中でこんなに小さいのは光紀と燈路だけだ。
だから声をかけてきたらしかった。
「俺は西条光紀って言うんだ。身長は…その157センチ。」
っと言った。
くっそ…こんな所で最重要機密を漏らすこととなるとは…
屈辱をさっきから味わいすぎだろうっと思う。
「えぇー、じゃ俺の方が高いやん。俺は160やもん。」
っと腕を頭の後ろで組んで笑った。
…こんな可愛い奴にまで負けているのか……
そう思うと悲しくなってきた。
絶対まだ伸びるからな!!
「じゃ、全員並んだなーいくぞー。」
っと目の前に居る先生が間延びした声でそう言った。
力が抜ける…
そのまま、先生の案内で体育館まで連れて行かれそのまま入場。
説明も何もされていないのに…
そう思っていたらが前の方に用意された椅子に座る指示だけもらい。
後は立つ、座る、礼の繰り返しだった。
「じゃ、生徒会長からの挨拶。」
そう言われて生徒会長が出てきた…
ってん?オイオイオイオイあれって
「新入生諸君ーこんにちわ、生徒会長の篠原燈路斗です。」
声も顔もあの笑顔も…全く一緒だ。
昨日あったあの男に媚びうるワケ分からない行動満載の人だ。
確かに綺麗な人だけど…生徒会長だったんだ。
そう思って適当に会長の挨拶を聞き流す。
会長の挨拶も終わり、暫くしてやっと退場。
先輩達の力強い拍手に送り出されて、やっと体育館を出れた。
昨日、会長が言っていたように本当に全校生徒集まった体育館は暑苦しかった。
今日は、入学式だけで新入生は帰れる。
各自でもう解散していいとのことで体育館前は新入生でごった返していた。
「なぁー光紀。教室に鞄取りにいこー」
っと俺の後ろに居た和哉に言われて光紀は頷いた。
悠斗も見あたらないし…
教室で待っていれば来るだろうと、和哉と歩き出した。
その時、後ろから肩を力強く捕まれて振り返ると生徒会長が居た。
「やぁ、光紀君。君話し聞いてなかっただろ?」
っと耳元で低く甘い声で囁かれた。
背中に悪寒が走り、鳥肌が立った。
ってか…何であれだけ人が居るのに壇上から分かるんだ…
「え…やだなー聞いてましたよ。」
っと引きつった笑顔で言うと、頬をつねられた。
「……痛っ」
そう言ってつねられた頬をさする。
ひりひりする。
その生徒会長の行動に何か文句を言おうと思い、口を開いたとき後ろから強く引っ張られた。
「うっわぁ。」
そう言って、後ろにそのまま倒れ込むと誰かの身体に支えられる。
見上げるとそこには悠斗が居た。
「お前、いきなりひっぱんな。」
そう言って、急いで体制を立て直す。
変な誤解を受けたら大変だ。
だが、悠斗は光紀のコトなんて見ずに、真っ直ぐに生徒会長を睨み付けている。
眉間には深くしわが刻まれ、明らかに嫌ってる?
「…光紀、変なことされなかった?」
そう言って、優しい笑顔で悠斗が光紀を見下ろす。
光紀は小さく頷くと悠斗は小さく頷いて生徒会長の胸ぐらを掴んだ。
「オイ、バカ兄貴…光紀に話しかけるな、触れるな、見るな、同じ空気吸うな、汚れる。」
っと言って今にも手を出しそうな勢いだ。
…って兄貴?
その言葉に少し思考が飛ぶ。
悠斗の名字は篠原…生徒会長も篠原…
一緒?
「…悠斗……」
生徒会長の胸ぐらを掴み脅しをしている悠斗の制服の裾を掴んで引く。
「会長と悠斗って…兄弟?」
そう言うと、悠斗は会長から光紀を遠ざけ小さい声で
「そうだよ…残念ながら。」
っと言って溜息をついた。
言われてみればどっちも綺麗だし…身長も高い。
美男子兄弟かぁーなんて思っていたら
「もう行くぞ、光紀。」
っと悠斗が歩き出したので、和哉の手を取って悠斗に続いた。
会長の横を通り過ぎる時、会長が小さいメモを渡してきた。
何だろうと思いつつ、そのまま教室に上がった。
教室で鞄を持って、悠斗と双子と和哉と寮まで歩いて帰った。
なぜか双子は光紀の後ろに張り付いてるし両サイドは和哉と悠斗で固められる。
…小さく見えるから止めて貰えませんか?
そう言いたかったけど、結局言えないまま寮にたどり着いた。
双子と和哉は階が違うので別れて、悠斗と部屋まで戻った。
部屋についてドアを閉めた時、悠斗に手を捕まれた。
「…光紀、兄貴は危ないから絶対一人じゃ近づいたらダメだ。分かった?」
凄く心配そうにそう言われて、ただ理由も聞けずに頷くことしか出来なかった。
「分かったらいい…」
そう言われて、強く捕まれていた手を解放された。
その後は各自の部屋に戻った。
光紀は部屋について鞄を投げ出し、制服を脱ぎ始めた。
っとその時、ポケットから小さなメモが落ちた。
さっき会長に貰ったものだ。
メモを開けると綺麗な字で
『光紀君へ
明日の放課後、生徒会室に来て下さい。
大事な話がありまーす。
会長。』
っと書かれていた。
しかし、さっき悠斗に一人で会うなと言われたし…
よっぽど重要なら言いに来るだろうと、メモは机に放置しておいた。
しかし、その手紙には続きがある。
小さく小さく書かれた文字に光紀は気がつかなかったが…
『PS、来なかったら誘拐するからね。』
…これは悪魔からの拒否権のない招待状に違いない。
なんか…無駄に沢山のキャラ登場です。