第一章 入学
この作品はBL作品です。
春になり、桜が咲き誇る季節になった。
美しく咲き誇る桜を見つめながら、桜並木の下を歩く。
この桜並木を真っ直ぐ進むと、咲夜学園と言う男子学校に行き着く。
外部と遮断された完全寮生の学園は、嘘か本当か…確認も出来ない噂が流れている。
まず、イケメンが多く世の中の女子にとって地上の天国と言う噂。
これはまず、嘘ではない…顔だけに言うのなら。
学園の生徒会長は代々容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群…と言った所謂完璧な人がこなしてきていると言うこと。
そして…またの名をBL学園と良い、何故か同性愛者が多く存在しており、この閉ざされた空間が同性愛を育んでいる…と言う噂。
例えノーマルでも同性愛者になってしうまうとか…しまわないとか…
そんな不安要素を含む噂が流れる学園も、明日に入学式を控えている。
そして、今日はそんな入学者の入寮日。
偏差値が高く、有名校の咲夜学園には毎年多くの優秀な男子生徒が集まる。
そして、今桜並木を見上げながら身体に比べて大きな鞄を肩からかけて歩く小柄な少年もその入学者の一人だった。
少年と言っても、髪と目の色素が薄く、華奢で白く中性的な顔立ちをしていた。
そのせいか、周りに居る咲夜学園に入学するであろう生徒が振り返っている。
少年はまったく気にも止めていないが…
少年が大きな鞄を肩にかけ直し、辿り着いた大きな学園を見上げた。
その昔、男好きで金持ちの女学園長が建てたと言う咲夜学園…
その辺の金持ちとは桁違いの財産を所持していたので学園の広さは計り知れない。
「うわぁー…でかっ」
少年はポカリと口を開け、そう呟いた。
声まで高めで中性的なイメージを与える。
「俺、頑張らなきゃ…」
少年はそう独り言のように呟き、学園の門をくぐった。
これから先、何が待っているのか…
その胸は少しの期待と、少しの不安でせめぎ合っていた。
門をくぐるとそこは別世界。
さっきまでの可憐な桜並木が一変してしまった。
ピンクが不似合いな風景が目の前に広がっていた。
男しかいない……
男子校だしそれなりに覚悟はしていたし、確かにみんな顔が良い。
それにしても、部活動の勧誘やら野次馬やらで門の中はごった返している。
そこは全員男なのだ…暑苦しい。
少年は眉間に皺を寄せて、その風景をその場に立ちつくして見ていた。
いや…近寄れないぞコレ…
「どうしたの?君。」
そんな立ちつくしていた少年に一人の男が満面の笑みでそう話しかけた。
男に男が媚び売ってどうする…
少年は小さく男にそう呟いたが男には聞こえなかった。
「いや…想像以上に人が多いなーっと思って。」
少年も少し引きつっていたものの笑顔でそう返した。
男は大きく声を出して笑い、少年の頭をポンポンと叩いた。
「大丈夫、そんなの最初だけだし。ってかこんな所で驚くのは早いぞ。入学式になったらもっと多いし暑苦しいからな。」
男はそう言って少年の頭から手を離した。
馴れ馴れしい奴…
そう思い男を睨みつける。
上から目線が気にくわない…
まぁ、少年にとって此処の学園の殆どは上から目線だろうが…
「それじゃ、俺行くわ。まだすることあるからさ。じゃーねー」
男はそう言って軽く手を挙げて人混みに消えていった。
…なんだあれは。
そう思って呆然と暫く立ちつくしていたが少年も意を決して人混みに紛れた。
他の男と比べてお世辞にも体格が良いと言えない少年はすぐにもみくちゃにされてしまったが、やっとの事で受付までたどり着いた。
受付には沢山の人が並んでおり、少年もその列に混じった。
くっそ…みんなでかいな。
そんなことを思っていると、少年の出番が回ってきた。
「じゃ、名前を教えてー」
っと受付のやんわりした雰囲気を持つ人に言われた。
「あ、西条光紀って言います。」
少年…基光紀はそう言って受付の人に微笑みかけた。
「西条君は207号室だよ。もうルームメイトの子は来てるから鍵は開いてるよ。仲良くねー」
そう言われて、「はい、ありがとうございます」と言い、小さく会釈して二階を目指した。
「…207号室は…あ、此処だ。」
光紀は207号室と書かれた扉の前で少し深呼吸をしてドアをノックした。
暫くして、部屋の中からパタパタと足音がしてその足音に緊張してしまう。
これから三年間ずっと一緒の部屋で過ごすのだ…
相性悪かったらどうしようとか、怖い人だったらどうしようかと言う不安が胸をよぎる。
緊張で手に汗すらかいてきた…
その時、ゆっくり部屋のドアが開いた。
「あぁー…同室の人?」
「え?あっうん。」
中から出てきたのは長身痩躯の男でつり目が少々怖いが黒髪で美しいとか神秘的とか…そんな感じの印象を与える人だった。
声は耳に心地良いテノール。
少し、その姿に見入ってしまった。
本当に綺麗な人だ…男だけど……
返事するのが精一杯なくらい綺麗な人…
こんなに同性に綺麗すぎて緊張するのは多分初めてだ。
「俺は、篠原悠斗って言うんだ。三年間よろしくな。」
そう言って綺麗な顔で綺麗にそして優雅に微笑む…
俺こんな人と同室で何時も緊張して過ごすのだろうか…
そう思うと気が重くなるが、いい人そうで安心した。
「俺は西条光紀。よろしく。」
っと言ってちゃんと微笑みかえせたと思う…
そのまま悠斗に促されるまま部屋に上げて貰った。
「部屋、結構広いし二部屋に別れてるから。どっちか好きな方選んで良いよ。まぁ、広さは一緒だけど。」
悠斗にそう言われて、光紀は左側の部屋を選んだ。
中を覗くとベッドと壁に収納スペースがあるだけで殺風景な部屋だった。
荷物は午後には届くそうで、全部業者の人がその部屋まで運んでくれるコトになっている。
やっぱりお金持ち学校は違う。
部屋で、持ってきた服をしまおうと鞄をベッドの上にひっくり返していたとき、部屋に悠斗が入ってきた。
「料理とかは各自でするらしいけど、どうする?役割分担して交代制にする?」
そう言われて、初めて私的時間を共有するのだと気付きいた。
全然意識がなかった…
「あぁー…交代制で。」
「じゃ、リビングとかは自分のものの管理はしろよ?テレビはリビングにもあるけど各部屋にも持ち込みOKだし。まぁ、テレビゲームとか映画を見たいとか別にリビングでもして良いし。洗濯は自分で自分の分はしろよ?」
悠斗は一気にそう言って最後に「OK?」っと幼い笑みを見せた。
その笑みに少し驚いた。
こんな風にも笑うのか…
「ん。」
なんとなく、やっぱり悠斗の前では調子が出ない。
綺麗すぎて緊張する。
あぁー…三年間心配だ。
「じゃ、俺部屋に居るから聞きたいことあったら聞けよ?」
っと言って光紀の頭をポンと一回撫でて部屋を出て行った。
綺麗だけど優しいいい人だ…
「ふー…」
悠斗が居なくなり緊張が解けて、服が散乱するベッドに倒れ込んだ。
「俺…大丈夫だよな?」
同性愛者が多いと言う噂に少し不安になっていたし、警戒もしていたが、悠斗はそう言う風には見えないし、大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。
午後になり、荷物も悠斗と光紀の二人分が部屋に届いた。
それを全部業者の人が手際よく指示した所に置いてくれて、荷物も少なかったのもあり夕方になる前に準備は終わった。
暫く光紀は部屋で読書をしていると、部屋に悠斗が入ってきた。
悠斗は人の部屋にノックなしで入ってくる。
まぁ、同性だし困らないけど…
「今晩どうする?食料ないし…食堂で食う?」
悠斗に言われて頷くと、「じゃ、いこうぜ」っと言われて財布と携帯をズボンのポケットに突っ込み部屋を後にした。
廊下ですれ違うたびに注目されているように感じる…
悠斗のせいだ…
なんとなく自分が悠斗と比較されているようで恥ずかしかった。
食堂に着くと時間が早いせいか空いていた。
悠斗と一緒に食券を買って(光紀はカレー、悠斗はパスタを頼んだ。)無事晩飯を手に入れた。
それにしても驚くのは食堂の広さもだがメニューの多さだ。
何種類あるのか…
同じ席に着き、二人で「いただきます。」っと言って食事を初めてたわいもない話で盛り上がった。
例えば、中学校の話だったり、咲夜学園に来たときの驚きだったり…
暫くすると、人も増えてきて周りも騒がしくなってきた。
悠斗は食べ終わっているが、光紀が食べ終えていない。
と言うか、食べるスピードが恐らく標準の男子よりも遅い…
しかし、悠斗は光紀が食べ終わるのを待っているので光紀も一生懸命急いで食べていた。
食べ終えて、食器を片づけているとやはり周りの視線が集まっている。
光紀は若干居心地の悪さを覚えつつ、悠斗と部屋に上がった。
その後も部屋では結構なれてきたのか緊張することもなく、落ち着いて過ごせた。
風呂も行って寝る前は二人でTVを見て夜もふけってきたから寝る。
うん、ちゃんと三年間持ちそうだ…
光紀は安堵に包まれて眠りについた。
明日から始まる悪夢も知らずに―
初めましてナヅキです。
初めての投稿とともにBL作品も初めてでございまして…至らない点が多いことと思いますが、温かい目で見守って下さいませ。
今後この話がどう展開していくのか作者にも分かりませんが更新を精一杯頑張ります。