5.
手料理をふるまう約束に、わたしはお弁当を選んだ。
もちろん不安はあった。味がわからないのは致命的だ。
だからこそ細心の注意を払い、ザ・無難なお弁当を作った。まるで実験を行うかのように調味料を加減した。
一応味見はしたが、美味しいのか不味いのかさっぱり分からない。
...罰ゲームじゃなく、お礼になるといいけど。
ぱぁぁっ。という効果音が聞こえた気がした。
「これっ...ぼくに?」
お昼休み。
ちょいちょいと手招きをしてクラウドを呼び出した。
サプライズお弁当だ。サプライズになったのは単にわたしが予告するのを忘れただけだけど。クラウドが昼食にギルドの食堂を利用しているのは知っていたからね。
自惚れでなければ、クラウドは感動に打ち震えているように見えた。弁当箱を両手で捧げ持つようにしている。
「あのね、クラウド」
ん?と夕日色の瞳が応える。
「わたし...料理はちょっと、かなり、下手なんだよね」
「大丈夫です」
「いや、でも...」
「だいじょうぶです」
「そ、そう?」
「はい」
なにが大丈夫なのか分からないが、本人がそう言うならこれ以上何も付け加えないでおこう。
クラウドは手の中の弁当箱を見つめ、なにやらブツブツ言っている。
「...信じられない。最高です。ぼくのために」
文句でもあるのだろうかと不審に思っていると、クラウドと目が合った。
瞬間。その顔がとろり、と蕩けた。
「リディアさん、ありがとうございます」
とびきりの笑顔でそう言われて、思わず息をとめた。
この子、大丈夫だろうか。
お弁当ひとつでこんなに喜んで。
肉食女子に狙われたら簡単に攻略されてしまうのでは...?
それはさておき、クラウドのその喜びようを見たら、怖かったけど作ってよかったと心から思った。
あとは食後の彼が無事であることを祈るばかりだ。
この笑顔が曇ったところは見たくないなと、そんなことを思った。