3.
クラウド・ハリス。
あの日、わたしを介抱してくれた恩人。
金色の髪と夕暮れ色の瞳の見目麗しい少年だ。あどけない容貌は幼く見えたが、18歳らしい。
らしい、というのが付き合いの浅さを物語っている。
数年前に、とんでもなく優秀な新人が入ったという噂を耳にしていたものの、彼の姿を目にしたことはなかった。
ここ数年ぼんやりと生きているわたしには、ギルドを騒がせたというその出来事もあまり記憶にない。加えて彼は入職後すぐに王都へ派遣されたらしく、ここ副都のギルドへ戻ってきたのは2か月前。わたしが彼と接点を持ったのはここ最近のことで、話をしたことも数えるほどなのだ。
しかし、わたしはかつて義理や人情を重んじる日本人だった。受けた恩はきっちり返さなければなるまい。
「あー・・・クラウド、くん」
「なんですか、その呼び方」
ふふ、とこぼれた笑みは人懐っこい。
「いや、なんとなく」
「クラウドでいいですよ」
「クラウド」
「はい」
「この間は迷惑かけてごめんね。わたし前世持ちだったみたいでさ、あの時はすごく混乱していて、休ませてくれて助かったよ」
「そうだったんですか。大変でしたね。でもそっか、だからかな」
「ん?」
「先輩、少し雰囲気が変わりましたね」
「そう、かな?自分では何も変わってないつもりなんだけど」
前世が現世に影響するかどうかは知らないけど、日本で暮らしていたあの人は確かにわたしだったと思う。適当でズボラで楽観的なところが特に似ている。
「...その、よかったら今度ごはん行かない?おごらせてよ。迷惑かけたし、お礼も兼ねて」
「わ、やった」
「どこのお店がいい?」
「えっと、リディアさん...ちょっとわがまま言ってもいいですか?」
「なぁに?あんまり高くない所にしてね」
「ぼく、先輩の手料理が食べたいです」
「・・・手料理」
「だめですか?」
美しい少年に上目遣いで甘えるようにねだられて、断ることができるだろうか。いや、断れない。
手料理に自信があるなんて情報は流していないはずだが、むしろ苦手な領域だが、恩人が望むなら心を込めて作ろうではないか。
了承すると花が綻ぶように笑う。その姿があまりに可憐で心配になる。変な虫がつかないといいけど。
そういえば、クラウドは獣人なのかな?
耳も尻尾も見えるところにはないよね。
人間なのかもしれない。
ぼんやりそんなことを考えていると視線を感じた。気のせいじゃなければ、クラウドがすごく優しい眼差しでこちらを見ていた。
その夕暮れ色の瞳に既視感を覚える。
あの子もこんな瞳をしてた。優しくて温かい沈む太陽の色。どうしてだろう。胸が騒ぐ。