2.
え、ちょっと待って。わたし猫耳、生えてるんですけど。
「そりゃあんた、猫の獣人だもんね」
「...にゃー」
「ねぇ、ほんとに大丈夫?」
うさぎの耳を生やした美少女が変な虫でも見るかのような目で言う。きゅるるんとした可愛い顔でそういう表情しない方がいいよ。
彼女はわたしの幼なじみ。兎獣人のフィー。
ふわふわ甘い美少女顔だが、人妻で2児の母。
暇つぶしと気晴らしを兼ねて、ときどき遊びにやってくる。というのは建前で、忙しい家事と育児、さらには溺愛旦那の包囲網をかいくぐり、わたしを心配して様子を見に来てくれているのを知っている。
「まさか前世持ちとはねぇ」
「ねー」
「で?どんな前世だったのよ」
「...不眠に悩まされる事務員」
「まんま今のあんたじゃん」
あははと笑い飛ばされていっそ清々しい。
おっしゃる通り。あまりにも状況が似すぎていて、現世に混乱をきたすほどシンクロしてしまっていた。
わたしは猫獣人のリディア。
ギルドの事務員として働いている。
ここは獣人と人が共存する国。獣人の中には稀に前世の記憶を持って生まれるものがいる。わたしはそれに当てはまる。
前世持ちだからといって特別なことは何もない。前世を思い出すタイミングや方法も様々で、わたしは夢を通して前世を見ていた。
日本という国で事務の仕事を生業とする女性。不眠という共通点を介して深く入り込んでしまったようだ。はっきりと認識した今、もうあの人を夢に見ることはなくなった。日本で暮らした記憶は残っている。
あの日、金髪美少年のクラウドに眠らせてもらったわたしは、かつてないほどに満ち足りた気分で目が覚めた。よく寝た、という充足感に感動してしばらく放心していた。
様子を見にきたクラウドに思わず抱きついたのは感動を分かち合いたかったからだったけど、若い男の子に突然襲いかかったことは反省している。