帝国までアルカナイ
ベルム大佐との戦いの後エリカは軍を辞めた。
あの戦いには意味はあったのだろうか?
約束を交わし、命をかけて俺は戦って勝った。
それなのになぜエリカは除隊されたのだろうか?
それを問うた所で、エリカは、
「私は勝てば思い通りになる約束はしていない。あくまで閣下に従うと言った筈だ」
と取り合ってはくれなかった。
だがエリカは思いの外、今回の采配には納得している様子だった。
「修平、すまないそれを持ってくれ」
そう言って渡されたのはエリカの象徴とも言える銀色に輝く鎧だった。
「エリカ……本当に良かったのか?」
「なんだ? 私がクビになったことか?」
そう、エリカはもう少佐ではない。
「辞めさせられる事をクビを切られるというが、ほれ見てみろ? 私の首は繋がっているではないか?」
正直笑えない冗談だ。
エリカは10歳の頃から軍にいたのだという。正確には軍の養成所らしいがその為魔法や戦う為の技術や知識一筋と言った具合に仕上がっている。
そんなエリカが軍を辞めてどうするのだろうか?
「おい修平、早くしないと竜車が来てしまうぞ」
俺の気持ちなど梅雨知らず、エリカと俺は軍の備品を返す為にサクサクと荷物をまとめている。
「あのさぁ、エリカは返した後どうするつもりなんだ?」
「これからの事か? 婿でも取って私の領地でまったりと過ごすのもいいな」
軍人としての肩の荷が降りたのか、それともただ強がっているのかは俺にはわからなかった。
「領地? そんなの持っていたのか?」
「私は幾度となく大隊を率いて勝利して来たのだぞ? 褒賞を合わせれば男爵に近いくらいの領地はあるからな」
この世界の軍はイコール騎士。
少佐ともなれば貴族みたいなものなのか。
「それを聞いて安心したよ、それで俺は婿候補には入っていないのか?」
「ふむ。婿希望か? そうだな、修平ならいいぞ?」
「へ? 本当に?」
「ああ、お前は私の事が大好きだからな」
自信満々にそう言ったエリカがなぜか物凄く愛おしく感じた。エリカとの貴族生活とか家族計画が捗りそうだ。
「まぁ、そうするにしても修平の家族に挨拶くらいは出来るようにしないとな」
エリカが俺を好きと言わなかったのは、本気なのか、はぐらかされたのかは分からないが、俺が帰れる様にを意識してくれているのがわかる。
荷物を纏めると俺たちは竜車に乗りこみ、備品の返却に向かうと、移動中にエリカは俺に聞いた。
「修平の持っているスマホとやらはここでは使えないのか?」
「電源は入るし、電池は無くならないみたいだけどこいつは使えないんだ」
「使えない? 何か問題でも有るのか?」
「スマホを使うには電波のやり取りが必要なんだよ。と言ってもエリカには分からないかも知れないけど」
流石にキャリアや基地局の話をしてもエリカにはわからないだろうと俺は考えた。
「電波? 修平の世界にはそういうものがあるのだな……ただ……」
「ただ? 何か気になる事でもあるのか?」
「少しそれを見せてくれないか?」
この世界では見た事が無く気になったのだろうと、俺はスマホをエリカに手渡した。
「やはりな……」
エリカはそう言って確かめる様にスマホを調べる様に見る。
「このスマホなのだが、微かにだが魔力を感じる」
「魔力? そんな話は聞いた事ないぞ? まあ、電気では動いているけどな」
「いや、正確には魔力とそれを動かす術式があるのだ。それもかなり複雑な術式だ」
「機械自体がそういう物なのかもしれないな……ただのスマホなんだけど?」
「しかも常にこの術式は起動している。もしかしたら繋げられるかもしれないぞ?」
エリカは嘘はつかない。
だからもしかしたら本当に繋げられるのかもしれないと思った。
「本当か? ちょっとやってみてくれよ!」
「うーん、だが、私には無理だな……」
「そっか……エリカは戦闘向けだからかな?」
「それもあるが、魔道具を作っている様な所に行けば何か出来るかも知れない」
「エリカ達にとっては異世界のアイテムだからなぁ……」
「終わったら行ってみるか? どうせ私は無職だから自由だぞ?」
相変わらず笑えない冗談を飛ばすエリカに俺は苦笑いするも、研究所に行けない今となっては、帰る為の唯一の手がかりになる。
「いいのか?」
「構わない、何度も言わせるな」
俺たちが返しに行くと門であっさり引き取られ、そのままエリカの行きつけの道具屋に向かった。
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「これはこれは、少佐。本日は何か?」
「アルク殿、すまないが少佐は、クビになったんだ……」
エリカがよく行く道具屋に着くと、店主は驚いた様に言った。
「まさか、百戦錬磨の"赤翼の騎士"と謳われた……」
「その名前はもうやめてくれないか?」
"赤翼の騎士"?やはりエリカはかなり有名なのだろう。二つ名ん持っている、だがエリカの炎の矢の技を見たまんまのネーミングに納得する。
「エリカ様、言いたくなったらで構いませんよ。 所で今日は何の用事でしょう?」
「簡単で構わない、私の装備を見繕ってくれないか? 金は今払う」
「生憎剣はございますが、女性用の鎧は軽い物しかありませんぞ?」
「構わない、護身用だ。魔法ばかり使ってはおれんからな……」
エリカは今、ほとんどの装備を返してしまっている。とりあえず有り合わせを揃えておきたいのだろう。
「アルク殿、それともう一つ、魔道具を取り扱っている所を紹介して欲しいのだが……」
装備を纏めるアルクは手を止める。
「魔道具ですか? それなら紹介出来なくは無いですが、魔道具は庶民には売れませんぞ?」
「構わない、商売したいわけではないのだ。少しこれを見てほしい」
そう言ってエリカはスマホをアルクに見せた。
「これは……!? はて、なんでしょうか?」
その反応でわからないのかよ!
アルクはスマホを持つと、
「多分、魔道具だと思うのですが私は見た事はございませんね……」
まぁ、そうだろうね……。
「通信機の様な物なのだが、これを魔道具の詳しい物に見て貰いたいのだ」
「なるほど、でしたら帝国に居るアルカナイを紹介致しましょう」
「アルクさんの親戚かなんかですか?」
「いえ、道具屋の繋がりの者ですが、何故でしょうか?」
「いえ、なんとなく……」
名前的に繋がりが有るのかと気になったが、特に関係はなかった。
それからエリカは何やらナイフを見ると、
「これはミスリルか?」
と尋ねる。
「いえ、こちらはミスリルを加工し強度を増したアブリルでございます」
「なるほど……」
なんでアブリル……?
エリカはそのあと、紹介状と購入した商品を受け取り、俺たちは店をでると、俺にパンパンに膨らんだ紙袋を手渡した。
「修平、私からのプレゼントだ」
「マジで?」
袋を開けると、新しいローブマントとさっきエリカが見ていたアブリルナイフが入っていり。
「いいのか? 別に穴あきマントでも俺はよかったのに……」
「何故私のマントを着ているのかは分からないが結構気に入っているみたいだからな」
その一言で俺は悟る。
手紙の横に置いていたのは"俺用"では無く、たまたまエリカのマントを置いていただけだった様だ。
俺は恥ずかしくなり苦笑いで返す。
「あ、ああ……ありがとう……」
「それとも私の使い古しが良かったのか?」
「ち、違うって!」
「冗談だ」
それにしてもこのナイフ中々かっこいい。
金槌より様になっているのが俺の心を掴んで離さなかった。
それから俺たちはアルクさんの言っていたアルカナイさんの店を目指して帝国に向かった。