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胸騒ぎ。

"胸騒ぎがする……"


14時45分。スマホから見るEmailにはエリカからのメールが来ている事がわかる。


メールの中身は不明。

添付されているデータが重く、WiFiの環境が無いと開けないのだろう。


今まで真面目なエリカがこんな、約束以外の時間帯に送ってくる事なんて無かったのに……。


俺は学校の帰り、通学路の道のりを足が千切れそうなくらいに自転車を漕ぎ家に向かう。


メールの相手"エリカ"は異世界の軍人の騎士だった。

だからこそ、いつ過酷な戦闘を行う状況に置かれるかは分からないが為に、余計に俺の不安は増していくばかりだった。


自宅に着くと俺は自分の部屋までの階段を駆け上がる、別に家が大きいわけでは無い。普通の一軒家なのだが焦りもあり、この時ばかりは登る階段がやけに長く感じた。


電源を入れっぱなしにしているパソコンにはスマホと同じく14時45分にエリカからのメールが届いており、俺は直ぐに開く事にした。


添付データをダウンロードしている途中、先にテキスト部分のエリカのメールが開いた。


"急な報告ですまない。

今日の戦いは私にとって苦戦を強いられるものになるだろう。


もし、このまま連絡が途絶える事になれば、転移先に置いてある手紙を家族の元に届けてはくれないだろうか?


無理を言っているのは分かっているが、最後の頼みとして聞いてくれるとありがたい"


メールはそこで途絶えていた。

添付されたデータには以前、エリカと物を送り合った際に使ったものと似た魔法陣の様な画像が付いている。


エリカ……。

俺は悩みはしなかった。直ぐ様準備をする為にスニーカーと、適当に武器になりそうな工具をリュックに詰めて添付されていた魔法陣をクリックした。


俺の部屋には、以前より大きな黒いもやの掛かった様なエリカの世界へのゲートが開くと直ぐに俺はもやの中に飛び込んだ。


エレベーターを高速で下る様な感覚の後、少し強めの目眩が起きる。酔いそうになるのを堪えて屈むと、浮遊感は収まり、真っ暗な中に日の光が差し込むのが見えた。


"俺はエリカの世界についたのか……?"


俺は目眩が止まない中、目が慣れてくる。出口と思える木の扉を開けようとすると腐食が進んでいるのか木の扉はボロボロと崩れる様に人が1人通れる位の穴が空いた。


"外には出れそうだが、エリカは何処に居るのだろうか?"


ふと、部屋の中を見る。

手紙とマントの様な物が丁寧に置いてあるのが見え、それを見てエリカのメールの内容を思い出した。


"これがエリカが渡して欲しいと言っていた手紙なのだろうか?"


エリカが書いたと思われる手紙を取り、置いてあったマントを羽織る。魔道士のローブの様なフード付きの濃い茶色のマントは着古した古着の様な匂いがした。


外に出ると、よく晴れており、透き通る様な濃く青い空が広がっている。


オオォォォォ!!

ドゥーン。


少し遠くの方から沢山の人が叫ぶ声と腹の底に沈む様な低音が響く。その聴き慣れない音達は俺に戦場の場所を示しているかの様だった。


"エリカはこっちか?"


俺は音のする方に走り、近づくにつれ次第に金属が当たる様な音も聞こえて来る。


紛れもない、ここは戦場だ。

もう、メールにあった戦闘は始まってしまっているのだろう。


勢いで来てしまったものの、常軌を逸したこの状況下で俺は何かできるのだろうか?


いや、これくらいで心が折れるならそもそも来るべきではない。持てる知識をを振り絞れ、取り敢えず状況が見える位置まで移動するんだ。


エリカの戦況はどうだ?

相手は魔物なのだろうか?

それならば話は早い。

だが手前側の兵士は押されている様に感じた。


相手の魔物は緑色の肌に平均2mは超えているであろう巨体。異世界物によく出て来る"オーク"と言う奴ではないだろうか?


体格差を物ともせず、兵士達は勇敢に立ち向かっているのがわかり、所々光っているのは魔法を使っているのだろう……。


武器になりそうな物は持ってきた金槌と業務用のカッターくらいしかない。魔法も全く使えなさそうな状況で俺はどうすれば……?


その瞬間、俺は銀色の小さな鎧が目に入る。

以前エリカがメールで言っていた事を思い出した。


"私の鎧は、白銀製の鎧だ"


白銀……艶のある銀色のあの鎧に違いない。


羽の無い竜に騎乗する小さな鎧からは幾つもの炎の矢の様な物が放たれ、オークの兵を貫いた。


その一人だけ幾つもの矢を同時に放つ様子は何処か神秘的にも見え、他の兵士をみても頭ひとつ抜けている迫力があった。


"エリカすげーな……"

エリカとは決まった訳ではなかったが、俺は何故か確信めいたものを感じた。


このまま見ているだけでも大丈夫なんじゃないか?そう思った矢先、一際大きな人影がエリカに向かうのが見える。


"なんだよあれ……"


オークの中でも二回り以上大きなオークがエリカを目指す様に、捨て身の如く突き進んで居るのがみえる。しかも草原を走っているかの様な速さだ。


俺は咄嗟にエリカに向かい走り出した。

魔法を放ち続けるエリカは気付いては居ないのだろうか? 


くそ、気付け……気付いてくれ……。


全速力で走りながら奴を見る、このペースだとギリギリ間に合いそうも無い。


「エリカー!!」

俺は大声でさけんだ。


声に気づいたのか、気づいては居ないのかはわからないが、エリカの魔法の矢が奴に放たれた。


矢は直撃するも大きなダメージにはなっていない様子で、スピードが落ちる気配が無い。


異常な耐久性に危機を察したのか、エリカは剣を抜く。だが相手は戦斧を振り回している、間違い無く不利な様に思える。


だが奴は剣を抜いたエリカでは無くエリカの乗っている騎竜を狙った。


ギャグァァ!!


騎竜の脚から血が飛び散るのが見える。

反応はしているが攻撃が当たっている。


もう少し……


あと、もう少し……。


俺はオークの前に飛び込む様にエリカの騎竜を突き飛ばす。

騎竜の肉の柔らかさと骨が砕けるのを肩で感じ、先の攻撃で骨までやられていたのだろうと思った。


突き飛ばした事で2回目の戦斧は俺の直ぐ上をかすめ、空振りした。


倒れた衝撃で銀色の騎士の兜が飛ぶ。

青味がかった髪に透き通る様な白い肌。メールの画像で見た姿がそこにあった。


「エリカ!」

俺は駆け寄り肩を抱く。


「!? 修平? 何故来た!?」

戦場にエリカの怒号が響いた。


「だってあんなメールほうって置けるわけないだろっ!」


そう言って俺は恐怖を押し殺すと、エリカに笑顔を見せた。


「避けろ!」

エリカはそう言うと俺に炎の矢を放つと、矢は俺の頬をかすめ後ろに当たる。


大型のオーク。そう、後ろには奴がいた。


だが、矢の直撃も奴には大したダメージにはならず再び戦斧を振り下ろす。


間に合わない……無理だ……。


そう悟った俺は決死の覚悟を決め、エリカの両肩をトンッと押して突き飛ばす。


避けるまでは案の定間に合わず、戦斧は俺の肩をめがけ振り下ろされた。


「あああぁぁ!!」


突き飛ばしだ瞬間に何をしようとしたのか理解していたのだろう、普段感情を出さないエリカが俺の顔をみて、泣きそうな叫び声を上げたのが分かった。


その姿を見てメールを始めた頃が走馬灯の様に思い出された。



俺はエリカとメールを始めるまで、何かを夢中で話し合う様な友達は俺にはいなかった。


そのせいもあり、高校生活は退屈で学校と家を行き来しているだけにさえ思えていた。


エリカとメールを始めたのは1か月前の事だった、通販で頼んだ漫画の到着日を確認しようとした事がきっかけだった。


発送メールとは別に、アドレスが文字化けした、いかにも怪しげなメールが俺のメールBOXに届いていた。


そのメールをたまたま開いた事が、その後の俺の人生を変える事となる異世界の騎士"エリカ"からのメールだというのはこの時全く予想しては居なかった。

読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず独創性がある物語を書きますね~(*'▽')
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