1 躑躅
大変お待たせしました!四章の開幕となります!
大幅に手直しするハメになりましたが、なんとか無事にストックが完成しました!!
躑躅
――足踏みすること。
うん。私は私がこの街で果たすべきだと考えていた最大の目標である"親友の救出"を終えた以上、少しばかり生活にゆとりというか。さっちゃんとイチャイチャ過ごす時間的余裕が生まれる物だとばかり考えていたのだけど。
少なくとも、引っ越しの準備をする余裕ぐらいは生まれるはずだったんだけどなぁ……。
「どうしてこうなるのかね」
「透ちゃん。黄昏てないで手を動かして!」
十一月にも終わりが見えて、グッと冬の気配が強まった青空に向けて愚痴をこぼすと、横から遠慮も容赦もないはるちゃんからの突っ込みが飛んできた。
現実逃避も許さない辺り、叔母さんの部下って感じがするよ…。
深い。それはもうふか~い溜め息を吐きながら魔力を回す。
諸々の事情により広がったマンション回りの防壁がそれに併せて形を変えていく。
私とさっちゃん。そしてブラッドの拠点だったマンション。只今本格的要塞化に向けたリフォームの真っ最中である。
「うーん。やっぱり便利よね、透ちゃんって。正式に【特務部隊】に所属しない?」
「いーやーでーすー!事情聞いてるんですから勧誘は止めてっ!」
「えー?」
「可愛く言ってもダメ」
やっぱり溜め息が漏れるよ。
叔母さんの部下がほとんど私の関係者とか聞いてない。
なんか、叔父さんの悪い笑顔が頭をよぎったけど気のせいだよね?
「お給料、いいよ?」
「はっはっは。現金化したらいくらのお金を私が持っているか知ってるでしょう?」
「うーん。東美さんの安全は確保できるよ?」
「うぐっ…。魅力的な提案だけど、さっちゃんが自分の意思で私に着いてきてくれる以上無意味な提案だねっ!」
「ちっ。やっぱりダメか」
もう何度目かもわからないほど繰り返された問答だけど、ほんっとあきらめてくれないからなー。
ほんとうに、なんでこうなったのか。
私はもう一度寒空へと大きな溜め息を吐きながら、マユを助け出した日の事を思い出すのだった―――
◇◇◇◇
「叔母さん、何の用?」
五年振りの親友との語らいを邪魔されたから、結構不機嫌な雰囲気を撒き散らしつつ臨時基地内の司令部へと踏みいる。
なんでか、そこには叔母さんと私のメディカルチェックを担当してくれた女性自衛官さんの二人しか人がいない。
まだ色々な後処理に動いているのかな?
「ごめんよとーる。真弓ちゃんとの再会に水を差しちゃうけど、必要なことを聞かなきゃだからね。」
悪い悪いと言いつつ苦笑する叔母さんの姿に溜め息を吐きながら、促されるままに正面の椅子に腰かける。
すると、女性自衛官――岡崎さんがスッとコーヒーの入ったカップを机に置いた。
お礼を言いつつ一口すする。
おおぅ。インスタントじゃない。
久し振りの挽かれた豆で淹れられたコーヒーの薫りを楽しんでいると、苦笑しながら岡崎さんが話しかけてきた。
「美味しそうに飲むねー。やっぱり悦子姉さんの親友だけにカフェイン中毒なのかな?」
「悦子ほどじゃないよ……。って、うん?」
一瞬スルーしかけたけど、彼女の言葉に動きが止まる。え?今エッコの名前が聞こえたんだけど!?
突然耳に飛び込んできた親友の名前に目を白黒させていると、岡崎さんはイタズラが成功したようにニンマリとした笑みを浮かべた。
「どうも。軍畑 悦子の妹。旧姓軍畑、現在岡崎 晴美だよー?全然気付いてなかったけど、おひさしぶりー」
ジリッと脳の隅にノイズが走って、わずかな記憶が顔を出す。そういえば、エッコの妹にも会ったことあるよ!
「はるちゃん?え?えっ!?あのちっこかったはるちゃん!?」
「でーす。まぁ、透ちゃんの記憶の中じゃ私まだランドセル背負ってた頃で止まってるんじゃないかな?」
うわー。マジか。そうだよね、これだけ年数経ってるし成長するよね。
蓋をしていた記憶が流れ出して、わずかな頭痛を覚えながらも彼女の事を思い出す。
エッコの妹のはるちゃん。そもそも、彼女との出会いが悦子と心海の二人と出会うきっかけだったよ。
まず、私の親友と呼べる子達は皆高校に入ってから縁を持った人ばかり。
最初は駅前でギター弾いてたら話しかけてきた真弓。
そしてエッコとココの二人とは本当に接点が無かったのに、出会ったその日から妙に馬が合って仲良くなったのだ。
ちなみに、私と出会う以前から二人は友達だったんだけどそれはさておき。
私たちの間を繋いだのは間違いなくギターと彼女、晴美ちゃんだ。
いつも路上ライブしてる場所に私とマユが行った時に、二人とはぐれてグスグス泣いてた女の子を見つけたのだ。
話しかけても泣いてばかりで返事が無かったから、確かとある童謡の替え歌をマユと歌いながら通行人の方々を巻き込んで捜索してもらったんだったなー。
で、その歌を耳にしてはるちゃんを迎えに来たのがエッコとココの二人。
特にエッコは普段『どこのレディースの総長ですか?』って雰囲気なのにぐちゃぐちゃに涙を流しながら来たもんだからビックリしたっけ。
「うわー。あの"まいごのこねこちゃん"が自衛官さんか…」
「う゛…いらんことまで思い出してる!」
おっと。叔母さんが好奇心に溢れた顔をしてらっしゃる。
……流れ弾が来る前に話を変えよう。
「はるちゃん。あとでエッコと話したいから電話できたらよろしくね。んん!そういえば叔母さん、用事があったんじゃないの?」
「ん?あ、そうそう。ちょっと聞きたいこと…というより、お願いしたいことがあってね」
ニヤニヤとした表情を引っ込めて、叔母さんは真面目な顔をこちらへ向ける。その瞳に揺れているのは…申し訳なさ、だろうか。
「とーるの事情は理解してる。理解してるんだけど、私も立場があるから…。先に謝っておくわ。ごめんなさい」
「ん。まぁ二十年近く迷惑かけてるし、気にしないでよ」
「それはそれ。これはこれよ。日本を取り戻したらたっぷり叱ってあげる。コホン。まず、お願いその一。あのマンション、譲ってくれない、かな?」
すごく申し訳なさそうに眉を下げて叔母さんはそう口にした。
「もちろん、あなたの拠点である最上階を。とは、言わないわ。できれば、その下の部分。十九階から下を―――」
「ん。いいよ」
「ええ、そうよね。勝手なお願いだってわかってる。でも……え?」
あっさりと同意したけど、そんなに意外だろうか?一応、叔母さんには説明したと思うのだけれど…。
「特に条件とかいらないよ?元々れーじ君の持ち家だし、マユが生きてた以上相続の権利は――いや、マユのお母さんになるのかな?」
そこのとこどうなってるの?そう聞くと、叔母さんは首を横に振ってから説明を始める。
まず、マユのお母さんとその旦那さんは北海道に避難済み。で、あのマンションも本来オーナーの名義はマユのお母さんとなっていたらしい。なんでも、れーじ君がお母さんと旦那さんの為に建てたんだとか。……れーじ君の資産力がやべぇ。
ただ、日本政府が北海道に機能を移転させてから施工された法律によって、Z区内に存在する資産の一切を避難した人には、その所有権を放棄してもらったとのこと。
その代わりに本土から避難した人の生活はすべて政府が面倒を見るというのが条件みたいだね。
もちろん。国土回復が叶った暁にはしっかりと権利証明が叶う場合に限り、放棄した資産の所有権は回復されるらしいけどね。
Z区にて生活している生存者が後々罪に問われないようにするためなんだろうね。
いくら現在生存者に権利が認められていないとはいえ、国土を回復したら日本国民に戻るわけだから当然と言えば当然か。
じゃあ、建物は今誰の物かと言うと名目の上では日本という国の物とのこと。もっと正確に言うならばその『土地』は国の物で、建物に関しては誰の物でも無いらしいけどね。
「……えっと、それって私に聞かなくても勝手にマンション使えばいいのでは…?」
「そうね。自衛隊にはその辺りの裁量も与えられているわ。でもね、ここからがややこしいの」
疑問をぶつけてみれば、叔母さんは深い溜め息を吐く。
基本的に、日本政府の要請で動いている自衛隊にはZ区内の建物を利用するのに制限は無い。
そう、基本的には。
例外として、利用したい建物を生存者。または、コミュニティが利用していて且ついくつかの条件を満たしている場合【Z区内緊急避難所】として建物が認定されてしまうとのこと。
これの認定が下りてしまうと、その建物は生存者またはコミュニティが優先利用者として扱われることとなり、自衛隊がそこを利用するためには彼らと交渉して譲渡、もしくは割譲してもらう。または"暴徒"と認定できるほどの証拠を集めて強制接収する。それか、付近一帯のゾンビを完全に排除の後、防衛設備を敷設して【Z区駐屯地】としてしまうことで認定外としてしまうしかないとのこと。
それだけだったら、最上階以外は利用しても私は文句は言えないのでは?
そう思って聞いてみたんだけど、あのマンションはそれも不可能とのこと。
というのも、この避難所制度。どうやらいくつかのランクが存在しているようで、私の行った改築の結果その最上ランクである≪特A≫が与えられることが決定したとのこと。
どういう基準かは聞いてないけど、特Aに認定された避難所を借り受ける場合。その建造物の利用代表者(この場合は私)と必ず交渉の席を設けないといけないそうな。
すごくはしょって言うなら、私とさっちゃんの二人は割譲に同意した瞬間から≪Z区生存者≫という身分から≪Z区在住国民≫にランクアップ。一部権利と、国土回復後の居住地確約がされるらしいね!
……これは、ちょっと聞いておきたい事を尋ねるべきだ。
「ねぇ叔母さん。質問していい?」
「なあに?」
「この居住地確約について、ちょっと詳しく聞きたいんだけど…これって、具体的にはどこの土地がもらえるの?」
「国土回復の時点で居住地としていた場所よ。その建物の家主がいなければね。……できれば、私の目の届く範囲に居て欲しいのだけど」
うん。叔母さんは私が何を言いたいのか気付いたみたいだね。隣ではるちゃんは首をかしげているけど。
事情を全部明かしている以上。私がこんな言い方したら嫌でも気付くよね。
「そう言うことなら割譲と言わずきっちり明け渡すね。もちろん、マユとその家族の意思はきっちり確認して欲しいけど」
「……それに関しては、同意を得ているわ」
「うん。なら、私からは何も言わないかな。今すぐ――は、さすがに何も準備してないから厳しいけど、一ヶ月ぐらい時間をもらえたら嬉しいかな」
「ほんとうに、それでいいの?」
「うん。……ごめんね」
いくら自分の知った人が居るとはいえ、やっぱり私はまだたくさんの人と顔を合わせる生活に戻れそうにない。
限定的なものなら≪グランドホテル≫と交流した結果。可能ではないかと考えている。
それでも、完全に生活圏が被る生活を送ることは――まだ、無理だと考えているから。
皆まで言わずとも私の言いたいことがわかったようで、叔母さんは諦めるように深い溜め息を吐いた。
「やっぱり、どこかに引きこもるの?」
「引きこもりはしないよ?ただ、最低でも半年はリハビリしたいかなって」
そう言って微笑む。……微笑みを浮かべれたハズだ。
「……わかったわ。じゃあ完全譲渡の形で話を進めるわね」
「ごめんね。ワガママ言って」
「いいわよ。本当ならとーるは独り暮らししてるはずだったんだし……」
まるで自分に言い聞かせるように、叔母さんは一度目を伏せる。
しかし、顔を上げた叔母さんが浮かべていた表情を見た瞬間。私の背には嫌な寒気が走った。
……召喚される前に、今の顔をした叔母さんにろくな目に合わされたことが無いよ?
「うん!じゃあ話もまとまったことだし、私はマユとお話をしてきたいかなっ!はるちゃん、コーヒーおいしかったよ!ごちそうさま――」
「まぁまぁ、透ちゃん。もうちょーっと話をしていこうよぉ」
戦略的撤退とばかりに椅子から立ち上がろうとした私の肩にはるちゃんが両手を置いて邪魔をしてきた!ちくしょう、ブルータスお前もか!
「とーるぅ~。ちょーっとかあさんのお願い聞いて欲しいなぁ~?」
目を放した隙を突いた叔母さんが、身を乗り出して猫なで声で話しかけながらテーブル越しに私の頬をつぅと撫でる。
……あぁ!逃げられない!!
「あのマンションね。一〇八Z区駐留女性自衛官の寮にしたいのよ~」
「へ、へぇ~?」
「でもねぇ、色々と物騒でしょう?だ・か・ら。今の防備じゃあちょ~っとかあさん不安なの」
……くそっ!それでこの二人しかココに居ないのか!!最初からハメられてた!!
「改装。お・ね・が・い」
断ることの出来ない雰囲気に、私はただ重い溜め息を漏らしながらうなずくしかなかった…。
11/14(木)投稿。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などいただければ、作者のモチベーションがぐいぐい上がりますので、是非よろしくお願いします!!
はみ出し設定小噺
⑮【Z区内緊急避難所】
暴徒でない生存者やコミュニティがZ区にて生活拠点としている建造物を『生き残るために使うこと』を許諾する為にできた特別法案。
Z区内での治安悪化を防ぐために施行された。
立地や、居住する生存者のモラルによって特A・A・B・C・Dの五段階で評価されており、高く評価されると国から支援を受られる。国土回復後に居住地が与えられる等優遇措置が受けられる。ただし、この制度があること自体知らない生存者の方が多い。
評価項目は以下の五点。
1・ゾンビが居住地周囲に存在しており、それに対する防衛を行えている。
2・暴徒的行為を行っていない。また、暴徒との交流を絶っている。
3・派遣された自衛隊に対して協力姿勢を持つ。および外部協力者としての実績がある。
4・他の生存者との交流がある。もしくは、交流を絶っていたとしても救助要請に応じる意思がある。
5・狩猟等、遺留物資に頼らずとも自活できている。




