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おまけ 証言映像2046/8/29

透「ケミカルな薬品全部レジストされるとか知らなかった…」

ブラッド「ワンッ(だいじょうぶか)」

 ―――ハロー、ジャパニーズ。ワタシは記録保管用AI【MeR】と申します。今日は貴重なお時間をいただき、まことに感謝しております。


『こちらこそ、よろしく頼む』


 ―――Mr.(ミスター)サワラビ。早速ですが極東【Z-area】内にて貴官が遭遇した【進化個体】と考えられている≪グリーンマン≫についてのインタビューをさせていただきたいのですが、よろしいですか?


『構いません。上からの命令でもありますから、なんなりとお聞きいただければと思います』


 ―――ありがとうございます。……気分を害されるかもしれませんが。おおよそ十年前のお話ですが、それほど明瞭に思い出せるモノなのですか?


『詳細に。と、言われると正直難しいですが――それでも、あの個体と出会った時の事は忘れることなどできないでしょう。それほど、衝撃的な出来事でしたから』


 ―――なるほど。それでは、お聞かせください。


『わかりました。あれは、そうですね。本官がZ区内の生存者――貴方たちアメリカでは"バンディット"と呼ばれるコミュニティの蛮行を止めるために派遣された日の事でした―――



 ◆◆◆◆



 砂利の浮いたアスファルトを踏みしめながら、慎重な足取りで廃墟と化した街中を進む。


「…クリア」


 斥候を務める隊員の声を聞いて、その場に居た部隊の全員がホッと息を吐き、真冬の外気に晒された呼気が白い跡を残して宙に消えていく。


 一〇八Z区内に存在した≪危険地区≫が解放されて、新たな【Z区内駐屯地】の設営が急がれている毎日ではあったが、自分達の部隊は今安全確保が成された領域から再びゾンビ(きけん)ひしめく場所へとその身を置いていた。


 無駄口を叩かずに、一糸乱れぬ動きで動く隊員達だったが、やはりその表情はこわばり緊張していることが一目瞭然といった具合。


 ―――無理もないか。


 自分もまた、連隊長という立場ではあるが少なからず緊張しているのだから。

 いつものように装甲車に守られている訳ではなく、生身でZ区内を探索するのは一体いつ振りの事になるのだろうか。

 しかし、今回命じられた任務を遂行するに当たって、エンジンの音を聞かれるわけにもいかないのだから仕方がないことではあるのだが。


 それでも久しぶりに感じる死した街の湛える静寂は、大いに我々の心を蝕んでいた。


 そもそも。なぜ、このように危険な任務に従事することになったかと言うと、三日前に保護を求めて臨時基地へと数名の生存者が駆け込んできた事が発端となる。



 助けを求めて来たのは女性だった。

 ひどく衰弱しており、どのような境遇に身を置いていたのか―― 一目見て理解した。


 現状、Z区にて生活を続けている生存者達に日本国憲法は適用されない(・・・・・・)。総理としても(はなは)だ遺憾で、断腸の思いだったのだろうが、我々自衛隊に武装の使用を許可するためにはそうするしか無かったのだと理解はしている。


 我々とて、未だ納得は出来ていない。

 我々が銃口を向けている者達は"Z(ズィー)"に感染した者ですら我々が守るべき国民だったのだ。


 ―――もちろん。暴徒と化した者達も。


 葛藤はした。何度も辞表を出そうともした。

 それでも、折り合いを付けるしか無かったのだ。こうやって、助けを求めてくる生存者(・・・)を一人でも多く救うためには。


 安心からか。それとも、残してきた者を思ってか泣き崩れる女性を見やりグッと拳を握りしめる。


 ―――きっと、俺は地獄に堕ちるのだろう。


 それでも、構わないと奥歯を噛み締める。彼女達の姿を見たその場の全員が心をひとつにしていると確信する。


 葛藤の刻は既に二年前に過ぎ去った。

 我々はもう、命を選定(・・)することに躊躇などしないのだから。余計なしがらみは戦地(・・)において自らの首に掛かる縄と同義なのだから。


 握りしめていた拳を静かに開き、掌を見つめた。


 そこに幻視()えたのは、救った命と奪った命で血塗(ちまみ)れた赤い手だった。



「隊長」


 物思いにふけっていたのだろうか。肩を叩かれるまで隊員の一人が近付いていた事に気付かなかった。

 眉間に寄ったシワを軽く揉みほぐしてから、そちらへと振り返る。見れば、彼もまた先程自分がしていたであろう険しい表情を浮かべていた。


「終わった時の事は、またその時に考えましょう。今は暴徒に囚われている女性達を救わなければ」

「……ああ。そうだな。その通りだ」


 見回せば、全隊員が覚悟を決めた顔をしている。ああ、そうだろうとも。ここにいる奴らは命令を聞いただけではない、自らの意思で手を汚す事を決めた馬鹿野郎共だ。


 あの日、どれだけ汚濁にまみれても国を取り返すと決めた。そんな愛すべき馬鹿共だ。


「今日は偵察だけだぞ?」


 肩をすくめて苦笑して見せれば、大荷物を抱えたひとりが鼻で笑う。


「分かってますよ。強行偵察(・・・・)でしょう?」


 その背に背負っているのは発破(・・)をかけるために必要な一式である。


「全く…本当に馬鹿しかいないな」

「隊長こそ」

「何のことやら」


 軽口を叩き合いながらも静かに歩を進めていく。

 適度な緊張は必要だが、過度なそれはストレスとなる。本来ならば隊長である俺が率先して行わなければならなかった事を部下にさせてしまったようだ。


 そして、そこからは全員が無言だった。

 すべての会話はハンドサインに変わり、わずかな衣擦れの音すらも聞こえない。

 ただ静かに――その瞳に憤怒を宿しながら――歩き続けて数十分立とうとした頃。

 女性達から聞いていた暴徒の拠点へと差し掛かった時。


 ―――そこで、我々は出会うこととなった。


 最初は、暴徒の一員かと思った。俺の挙げた停止のサインを見て、隊員の誰かが息を飲んだ音が妙に大きく聞こえた。


 立っていたのは、平均的な成人男性ぐらいの背丈をしたナニか。

 ふらふらと体を揺らしながらこちらへと近付いてくるそいつは、頭から膝までをすっぽりと緑のコートで包んでいるため表情の一切を窺い知る事が出来なかった。


 フードとマスクの間にできたわずかな隙間から、瞳だけを覗かせているだけで男か女かも判断がつかない。

 おぼつかない足取りと、たまに聞こえてくるわずかなうなり声。


 そして、その右手に握られた巨大な剣鉈は、真っ赤に染まっている。


 そして、そいつと目があったと感じた瞬間。ドロドロとした輝きをたたえた濁りきった目にした瞬間――全員が一斉に銃口を上げた。


 ―――こいつはゾンビだ。それも【進化個体】の。


 その場の誰もがそう思ったのだろう。

 未だに誰も発砲をしていないのが不思議なほどの重圧を身に感じながら、ただそいつとにらみ合っていた。


 しばらく互いににらみ合いを続けていたのだが。なぜか、そいつはこちらを見つめたまま微動だにしない。


 ―――何を、狙っている?


 俺がそう考え、全員に発砲を許可しようとしたその時だった。


 緑のコートに包まれたゾンビがゆっくりと剣鉈を手にしていない手で、後方を指差したのは。


 ―――行けと、言うことか?


 不思議に思って見つめていたのだが――次の瞬間。我々は驚愕に目を見開くこととなった。


「は…?」


 誰かが――あるいは、その声は俺の口から漏れたものだったか。


「き、消えた?」


 目を離してなどいない。

 それでも、そのゾンビが一瞬で我々の前から姿を消したのだ。


 ドッと、背中に冷や汗が流れる。

 早鐘を打つ心臓の音が、うるさくて仕方なかった。


「…瞬間移動とか、アリかよ」


 呆然とした隊員の呟きが耳に届いて、やっと俺の体が制御を取り戻す。

 見逃されたのか。そう思って安堵の息を吐いたが、それを咎める様な者はその場にいなかった。


「とにかく、行こう」


 そう声を絞り出して、全員に移動を促す。

 日々の訓練の賜物か。歩き出した俺に遅れる者は誰一人として居なかった。


 そして、踏み込んだ暴徒の拠点で。ヤツがなぜここを指差したのかを理解した。



 その日、ひとつの暴徒コミュニティが壊滅し。(しいた)げられていた十名弱の女性が救われたのだから。



 ◆◆◆◆



 ―――とまあ、これが本官が≪グリーンマン≫と出会った日の事ですね』


 ―――なるほど。その言い方ですと、そのあともコンタクトをしたことが?


『いえ。ただそのあとも同じようにヤツは暴徒のコミュニティを潰したようでしてね。何度か救助要請を受けて訪れた先で同じような場面には遭遇しましたが――後にも先にも、ヤツと出会ったのはそれが最初で最後です』


 ―――なるほど。一目見て≪グリーンマン≫の犯行だとなぜ判明したのでしょう?


『ああ。そこですか、まずひとつは暴徒の全員が一太刀で殺害されていた事。そして、もうひとつは――残らず男の陰部(・・)が叩き潰されていた事ですかね』


 ―――陰部、ですか?


『端的に言えば急所…あー。AIに性別はありませんでしたね。あれですペ◯スですよ』


 ―――なるほど、理解しました。


『だからこそ、わかりやすかったのですが――それでも、ひとつだけ不可解な事例が報告されているのです』


 ―――ほう?それはどのような?


『これはヤツと関係ないとの声もあるのですが、それでもよろしいですか?』


 ―――構いません。≪グリーンマン≫については謎の方が多いですからね。ゴシップだとしてもひとつでも多くの情報を我々は欲しています。


『なるほど。ひとつだけ、まったく異なる殺害方法で潰されたコミュニティがあるのですよ。ただ、集めた情報から考えるに≪グリーンマン≫の凶行としか考えられないのです』


 ―――なるほど…。どのような?


『一人残らず、潰されていた(・・・・・・)のですよ』


 ―――潰されていた?


『ええ、文字通り。立ち入った隊員が言うにはまるで手榴弾で爆破されたような有り様だったとか。しかし、爆発物を使った痕跡が見られなかったことから我々は≪グリーンマン≫の凶行だと確信しています』


 ―――なるほど。興味深いお話ですね。では、次のインタビューはその時踏み入った方に是非お願いしたい。そう、広報官殿にお伝え願いますか?


『わかりました』


 ―――ありがとうございます。Mr.サワラビ、本日は貴重なお時間を頂き、まことにありがとうございました。




 ◇◇◇◇



 ――自衛隊達と出会った日のグリーンマン(真相)――


「うぅう~…。頭痛い。お腹痛い。吐き気がやっばい。なんで生理がヤバイときに喧嘩売られるかなぁ…。よし、叩き斬ろう」

11/9(土)投稿。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などいただければ、作者のモチベーションがぐいぐい上がりますので、是非よろしくお願いします!!


はみ出し世界観小噺

④本作世界での日本の法律

北海道以外の国土を喪失した日本は、現行の憲法改正を迫られる事となりました。なぜなら、自衛隊をZ区に派遣する際、現行の憲法では一切の発砲などが認められないからです。

そこで、内閣総理大臣 扶桑(ふそう) 是清(これきよ)は自らが主導し強引な憲法改正に踏みきります。


そして、生まれたのが【Z区特殊法】。

後の世でも大いに議論されることとなる特殊法案が生まれることとなったのです。


最後に、その内容の中でも中核を為す五つを書いて締めとさせていただきます。


・Z区を外地とし、その領域における自衛隊の交戦は全て必要なものとして保証。

・Z区に残された"生存者"の行動の一切に憲法を適応しない。代わりに、一切の人権の保証も行わない。

・"Z"感染者は人間ではなく、害獣として扱い、その"処分"を行っても一切の処罰を与えない。

・生存者の中で特に他者に対して攻撃的な行いをした者は"Z"感染者と同様に"処分"したとしても処罰の対象にならない。

・生存者から救助要請があった場合72時間の隔離をしたのち、感染を認められなかった場合に限り日本国民として復権。Z区内での行動の一切を罪に問わない。

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