米軍新兵教育資料"Z" 全訳②
ブックマークがいつの間にか100を悠々と突破しておりました!
沢山の方にお気に召していただけたこと、作者として嬉しく思います!
新兵の皆様、十五分振りの再会を喜ばしく思います。
それでは、今よりゾンビの基本的な能力の解説を開始していきましょう。
まず、ゾンビは軒並み平均的な成人男性の三倍前後の身体能力を有しています。
特に膂力の発達が著しく、コンクリート程度ならば腕を振るだけで破壊してしまう事が可能です。掴みかかられた場合は、引き剥がすことが生身の人間には不可能となりますので、特に歩兵課程へと進まれる皆様は絶対に接近を許さないよう気を付けてください。
移動速度もそれ相応に向上しますので、逃げることはほぼ不可能と考えた方が良いでしょう。
仮にES兵を含まない部隊で接触したならば、生存の確率を上げるためにも必ず分隊以上の人員で対処をするようにしてくださいね。
ああ。そう言えば平時のゾンビは極端な上下運動を行うことができません。つまり、階段を上れないのです。下りる事は……転がり落ちるという形でなら可能ですが。
ですが、最悪の状況で高所に上れば生存の確率が上がりますので覚えておいて損はないでしょう。
ゾンビの攻撃方法は掴みかかるか噛みつくかの二通りだけです。落ち着いて対処できればさしたる脅威と成り得ません。……平時ならば。
さて。ゾンビを人間が恐れる最大の要因は何か。皆様は理解しておりますか?
高すぎる身体能力。確かに、脅威です。
なかなか倒れないタフネス。間違いありません。
圧倒的な物量。これも正解です。
しかし、最大の脅威は長すぎる『継戦能力』これに尽きます。
どれだけ鍛えられたスーパーソルジャーでも、人間である以上食と睡眠から逃れる事はできません。
しかし、ゾンビ達はこれらを――食に関しては一定期間。睡眠に至っては完全に無視して行動することができるのです。
睡眠に関してはある程度研究が進んでいるのですが、その言わば『燃費のよさ』については一切の判明が未だなされておりません。
一説では体中に張り巡らされた根が何らかの栄養を与えているとの事ですが――未だ仮説の域を出ません。
おおよそ二ヶ月の間、水を一日に一リットル程度摂取するだけで行動が可能なのです。
かつて我が国が辛酸を舐める事になったベトナム戦争で判明した通り、軍隊は過剰なハラスメント攻撃を不得手としています。
昼夜の区別なく延々と攻撃を断行されたことによって"Z"発生後間もない時期の人類は、世界各国で敗戦を重ねることになりました。
さらに、夜間になると別項にて詳しく解説する統率個体――≪スクリーマー≫が出現することで散発的な日中の行動とうって代わり、夜間のゾンビは恐るべき物量攻撃。通称≪波≫を発生させるに至るのです。
故に、航空機ならびにES兵以外の夜間行動が原則禁止されているという事を忘れないように。
日中の勤務時間が終わりましたら、すみやかにタイムカードを押すことが推奨されているのはこのゾンビの継戦能力を重く見ているからですよ?ブラックな環境をゾンビ達が駆逐したため、軍隊のワークライフバランスは保たれているわけですね!
……おや、笑いが起きません。
元帥殿に教えていただいたジョークなのですが……。
では、次にこの『燃費のよさ』と関連したゾンビの凶暴化――≪飢餓≫についての解説をいたしましょう。
どれほど優れたエネルギー効率をゾンビが誇っているとはいえ、人体が生きている以上エネルギー補給は必須です。
よって奴らは二ヶ月の断食を終えると、ほぼ全個体が同じタイミングで≪飢餓≫と呼ばれる一種の暴走状態に陥ります。そう。≪ブラッディクリスマス≫を引き起こした原因もこれに関連しているのです。
この状態に陥った個体を見分けるのは非常に簡単です。
まず、眼球のほとんど――つまりは白目と呼ばれる部分が充血して、真っ赤に染まります。そして、人間を発見するとはっきりとその表情が歪んだような笑みに象られるからですね。
どうも≪飢餓≫となると平時よりも更に身体能力が向上するらしく、乗用車の車体程度でしたら素手でスクラップにしてしまうほどの膂力を発揮し、移動速度も更に上がるため非常に危険な状態となります。
しかも、階段を上るようになります。四つ足になって不格好に走りながらですが。
この状態のゾンビは"Z"に感染させることを目的としていません。自らの趣向に合った獲物を捕食する事のみに執着します。まさにパニックムービーのそれのように。
では、捕食対象は?……皆様の想像通り"人類"です。
奴らは最高級のステーキも、巨大なピッツァも。フレンチのフルコースにも興味を示しません。それが生きているか死んでいるかに関わらず、人間のみを捕食いたします。
ゾンビ発生で荒れ果てた【Z-area】にて、生存者たちが悪質な伝染病にて命を落とすことが無かったのは、皮肉にもゾンビたちが亡くなった方のご遺体を"処分"していたからだと言うことが判明しています。
一応≪飢餓≫中に何も口にできず一週間が経過すると緩やかに衰弱を始めるのですが、共食いも平然と行いますのでほぼ餓死する個体が居ないと言うことは残念でなりません。
更に残念なことに≪ファンガス≫や≪ベヒモス≫といった再生能力を有した変異個体達のせいで共食いを起こして個体数が激減するという事もありませんしね。
さて。それでは本日最後の議題へと移りましょう。
お次はどのようにしてゾンビは人類を発見しているかについてです。
まず、先程ゾンビは身体能力に向上が見られるということはお話ししましたよね?
しかし、意外なことに低下した部分も存在しているのです。
どこだと思いますか?……おや。発言は無しですか。
それでは、正解を発表しましょう。低下した能力。それは、視力です。
人間の脳というデリケートな部分を"Z"が弄くってしまった代償か、奴らは著しく視力機能を喪失しています。
なので、人間の発見のため主に使われているのは聴覚と嗅覚だと言われています。
おや?挙手がありましたね。はい、訓練生番号三七。発言を許可しましょう。
ええ、どのようにしてそれを調べたか。ですか?
まさか、視力検査をしたとでもお思いですか?
これもまたゾンビの習性を研究する事で割り出されたデータです。それでは、今から皆さんに実際に行われた実験の映像を鑑賞していただきましょう。
本データは親愛なる日本から提供されたモノになります。
どのような実験かと言いますと、ゾンビの索敵能力検証のための実験です。
この実験によって、ゾンビは三つの段階を経て人間を捕捉。追跡に至ると判明いたしました。
まず、第一段階。
ゾンビは転化した地点、もしくは最後に足を止めた地点を中心に半径一キロ圏内をウロウロと歩き回っています。この状態を≪パッシブ≫と呼称しています。
ほとんどうなり声も上げずに、静かに歩き回っていることがわかりますね?これは、人間の立てる音を聞くためだと言われています。
では、映像を進めましょう。
今、わざと物音を立てました。それに反応したゾンビが音のした方に歩き始めたのがわかりますね?この状態を≪アクティブ≫と呼称しています。
しきりに首を動かすなどしていることから、臭いを辿っていると言われていますが――嗅覚に向上が見られるかは不明です。多少の向上があるとは言われていますが。
≪アクティブ≫に移行してから五分間人間の姿を捉えられなかった場合、また≪パッシブ≫へと戻るのでなるべく近付いてきたゾンビを発見したら静かにその場を離れることを推奨しておきます。
そして、今カメラからおおよそ五メートル地点にまでゾンビが接近しました。この時に、はっきりとカメラの方向に視線を向けたのがわかりますか?つまり、この距離がゾンビの視界限界とされています。
はい。ゾンビが走り出したのがわかりますね?
この状態を≪チェイス≫と呼称しています。
こうなると、最早人間のとれる手段はゾンビに食われるか。もしくはゾンビを打倒するか。このどちらかしかありません。
逃亡は不可能だと考えてください。生身の人間はもちろん。ESを装備した状態でも追跡を開始したゾンビを振り切ることができないのですから。
この状態のゾンビが前二段階に戻るときは、獲物を感染させる。または捕食した場合のみです。
この中に≪チェイス≫へと移行したゾンビから車両なら逃げられると考えた者はいませんか?いませんね?それは自分だけでなく最悪味方の命まで危険にさらす行為へと繋がります。
言い忘れておりましたが≪パッシブ≫から≪チェイス≫へと一瞬で移行するパターンが存在しております。
それは、七十デシベル以上の音をゾンビが察知した場合です。
その場合。ゾンビは車両を追いかけて基地まで詰め寄る事となるでしょう。
ゆえに追いすがるゾンビは確実に打倒してください。後方の仲間の為にも。
今日の授業はここまでです。
明日はゾンビの変異個体と進化個体について説明します。
それでは皆様。明日の授業でお会いしましょう。
11/6(水)投稿。
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