11 再会
遅刻ぅ…。
次で三章ラストです。しっかり11/4に合わせて終われそうで胸を撫で下ろしてます…。
しばらく歩きながらむんむんとうなって考えていたのだが、よくよく考えればこの施設は『疫病研究センター』であったと思い出した。
なら、どっかに防護服の一着や二着はあるよねと考えて、マユを見つける前に探索の真っ最中である。
施設案内板は残念ながら落書きされてて読めなかったから、手探りなんだけどね。
「まぁ、これは定番のアイテムだけど…」
その途中で発見した、ゾンビ発生後もここに居たと思われる研究者の残した日誌を片手でもてあそびながら嘆息する。
まぁね?『かゆ…うま』しかり『四肢を切れ!』しかりゾンビ世界には付き物だよね。こういうの。個人的には『俺はこうやって生き延びた…』が好きなんだけどね。それか日記を集めて完成させるタイプ。
軽く斜め読みだけでもしておこうと、ペラペラページをめくりながら目を通していく。
うん。やっぱり≪生け贄≫を捕獲して何らかの実験をしてたみたいだね。≪生け贄≫はものすごく近付かない限り襲いかかってくることも無く、研究の素材としては優秀って書かれてるね。
どの世界でも研究屋のやることは変わらないな、とわずかに失笑を漏らす。あちらでも、魔物がどれだけ危険性を説いたところで絶対に聞き入れなかったのは好事家か研究者のどちらかだった。
「そして、危険性を省みなかった結果が化け茸の大量発生――と」
遅かれ早かれ発見はされていたのだろうけど、一ヶ所にここまでの量が集まることは無かっただろうと考えれば、くたびれた溜め息も出ようものである。……しかも下の方からまだクリック音が聞こえるから、まだいるんだろうね。
愚痴をこぼしたところで、現状を変えられないことはわかってるんだけどね。
「よし。あとで読もう」
気持ちを切り換えるためにそうつぶやいてから【ストレージ】に日記を放り込む。さいわいなことに部屋内に胞子はあまり入っていなかったから、これを誰かに渡すだけで感染。って事も無さそうだし、読み終わったら自衛隊に提出しよう。
そして何よりも。
「いやぁ、居るんだねえ…職場で迷う人って」
そう。日誌に手書きの地図が挟まっていたのだ。まあ色々と書き込みがあるから物資を運び込んでそれを忘れないため|―いや、これたぶん運び込んだゾンビの記録だわー…。
うん。その代わり、これで防護服のありかがわかった。さすがにそこにまでゾンビを押し込むことは無かった…と、信じたい。
若干の不安を抱えたまま、私はその部屋をあとにしたのだった。
◇◇◇◇
なんとか防護服の入手には成功した…成功したけどあのXXXX研究者、ゾンビを除菌装置の手前にまで運び込んでたよちくしょう。
そのせいでまた化け茸の襲撃を受けましたよ。
いやね。簡単に倒せるけどあの見た目はきつい。向こうで見た人間の頭に擬態する蛸ぐらいきつい。完全にグロ画像だよ!?
はぁ……。はやくマユに会いたい。会って癒されたい。それで、そのあとさっちゃんを甘やかしたい。生理的に受け付けない系の敵ってガリガリ正気度削りに掛かってくるのほんっと…。ダイスいくつ振ったらいいのかな?
「しかし、困ったことになったね」
【身体強化】を施した耳は、未だに"下"から化け茸が発しているクリック音を捉え続けている。にも関わらず、地下への入り口がどこにも見当たらない。いや、正確にはひとつ見つけてるんだけど階段が見つからないんだよ。
「仕方ない…やるか」
私は、唯一見つけた入り口――すなわち、エレベーターの扉を見つめながら溜め息を吐く。
何度かボタン押してみたけど、うんともすんとも言わないんだよねー。
除菌装置が動いてたから、電源は生きてるんだろう。それでも動かないって事はエレベーターが破損してるか――または、何か動かなくなるような事情があるか。
エレベーターの扉の隙間にブッチャーナイフを差し込んでから魔力を回す。刀身から伝わった魔力によって、鉄製の扉が徐々に崩壊していく。
十分な穴が開いたことを確認してから、エレベーターの本来あるべき暗闇を覗き込み――若干後悔した。
あの天井にへばりついてるの、どう見ても化け茸だよね?しかも、ハッチに頭突っ込んだ状態でもがいてる。一体いつからそうしてたをだろうねー。
うん。丁度いいクッションがあったと考えて飛び降りよう。そうしよう。
えいやっと掛け声を上げながら【身体強化】。化け茸を蹴りながらエレベーターの中へと着地すれば、一斉に上げられる不快な叫び声。……いい加減、腹が立ってきたよ?
上の階で倒した化け茸の数は確か三十といったところ。うん、サンプルとしては十分だと判断することにしよう。
「というわけで、お前らは跡形も残さん」
ブッチャーナイフを【ストレージ】にしまってから魔力を充填していく。【竜炉心】からバカみたいに生産された魔力が、半ばプラズマのように空間を走り始める。
―――【本施設地下一階】に存在している【すべての化け茸とその胞子】を【それらの一切を灰と化す】まで【焼き尽くせ】。
「励起。【焼尽魔法】」
それは、四段階の行程を経て世界を改編する超常。
生成された魔力を以て外魔力を介して行われる事象淘汰。
私の指令を受けた荒れ狂う外魔力が、白色の炎と化して対象となったモノの全てを瞬時に焼き尽くしていく。
壁や床や天井。そして私の体すらも舐めていく炎は、しかしてそれらの一切に影響を与えること無く与えられた命令通りのタスクを粛々と執行してから消え失せる。
汚された人の成れの果てと、それが撒き散らした害悪の一切を燃え滓だけを残してきれいさっぱりと焼き払った。
これが真なる魔法。魔法の真髄。【魔力励起】や【事象励起】と言ったそれらの上澄みを掬い上げたモノではなく、一切のセーブなしに解き放たれた【魔法励起】。
勇者の全力全開である。
「やっぱり派手だなー。誰も見てないからこそできる事だね。うん」
ひとりごちてからエレベーターを降りる。ついでに空気中の胞子も焼き払ったおかげで空気もキレイだね。ちょっと薬品臭いけど。
なんというか。踏み込んだ地下階はかなり広さはあれど、通路は人が二人通れるかどうかといった広さしかない。他はラボになってるのだろう。ガラス張りで人の姿は見えずとも中の機械は未だに稼働を続けているのが見えた。
一体、何を研究していたのだろうか。専門的な知識があればわかるんだろうけど、あいにくとその辺の知識を得るための授業を受ける機会はこの災害が終息するまでは得ることができそうにない。
「くだらない、感傷だけどね」
もしも、異世界に召喚されていなければ。向こうに召喚されたばかりの時はそんな事を延々と考えていた。
ちゃんと皆と卒業して。そのままの足でマユと二人で路上ライブをして。独り暮らしをしながらキャンパスライフを楽しんで。
そして、素敵な恋をして。そんなあり得た未来を思って何度も悔しさに枕を濡らした。
だけど、もしも召喚されていなければ。私はこうなってしまった世界で生き残り。そして、こうやって親友を迎えに行くなんてできはしなかっただろう。
誰にも会うこと無く、ゾンビの群れに襲われて。絶望の淵で無念のままにその命を散らしていたにちがいない。
だから今ならあの最悪な環境に身を置いていた事に、少しなら感謝してもいいのかもね。
―――それこそ、感傷でしか無いのだけど。
頭を振って、様々な妄想を振り払う。
うん。今からずっと一人で頑張ってきた親友を迎えに行くんだ。そんな時に、私が暗い顔をしていてどうするっての。
廊下の向こうに見える≪資材倉庫≫と書かれた看板のかかる重苦しい扉に閉ざされた部屋。
その前にだけやたら灰が多く積もっている事から、あそここそが目的としている場所だとわかる。
―――会ったら、何て言おうか。
あの中に私の親友が――マユが居ると考えるだけで自然と歩みが早くなる。
あっと言う間にドアの前へとたどり着いたとたんに感じる不安。
―――彼女は、自分の顔を見て喜んでくれるのだろうか。
未だに心の底で、弱虫な自分が私の足を止めようとする。それでも、私は彼女を救わなければ前に進むことなんて、できないから。
大きく息を吸って深呼吸をしてから、一度心を落ち着けて。
私は、ゆっくりとドアをノックする。
「……迎えに来たよ、お寝坊さん」
朝が弱い彼女を毎日起こしに行っていた過日のように。最初のノックの後は少し待つ。
『グスッ……あと、五分』
聞こえてきた涙声に、一刻も早くドアを開けたい気持ちに駆られるけど。のって来てくれたからには、ちゃんと返そう。
たぶん、これは二人にしかわからない。ささやかな、日常の一ページだから。
「えー?ダメだよ!今日はせっかくのライブ日和なんだから!こんな日に惰眠をむさぼる暇なんてないよ!!」
ドンドンと強めにノックをすれば聞こえてくる。ちょっとだけ嗚咽を堪えた泣き笑い声。
『あ、と五分…いや。十、分待てよ…あ、たしのベッド、が…抱き、しめて離さない、んだよ』
ガチャリと、錠の外れる音。掛かっていた鍵が、外れる音。
うん。覚悟とか、もうどうでもいい。
私の大好きな親友を迎えに行くのに、そんなものはいらない荷物だ。
いつだって、彼女を迎えに行くときは。ギターケースだけを持ってればいいんだから。
ドアノブに手をかけて――少しだけ考えてから【ストレージ】を開いて、ギターケースを肩から提げれば。少しでも、私はありし日と同じ姿でいられるかな?
「――おいおい相棒!オオガキコガキは一人じゃあ歌えないぜぃ!さぁ、今日も張り切ってグルーヴしよう!さん、はい!オハヨー!!」
あの日のように。いつものようにありったけの笑みを浮かべてドアを開く。
すると、私の腰に腕が回された。私の探してきた人が、お腹に顔をうずめている。
私は彼女の頭に優しく手を回して、すっかり傷んでしまった髪を撫でた。
「ば…がぁ…起こすときは…起こす…ときは…」
「うん。起こすときは、もっと静かにしやがれギター狂い――だよね?覚えてるよ」
「―――っ!!バカ…!バカ!!この大バカァ!!今まで、今までどこに居やがった!」
「うん」
「どれだけ、探しても見つかんなかったのに!どんだけ、心配したと思ってるっ!!」
「…うん」
「突然帰ってきて!あたしの心臓が不安で破れたらどうしてたんだ!バカ!」
「……うん」
「おまえに、透になんかあったら!どうしようって……!」
普段泣かない私の友達がグスグス泣きながら私を強く抱きしめる。
ああ。良かった。ちゃんと、帰ってこれて。本当に良かった。
「聞きたいことが山ほどあんだよ」
「私も、聞いてほしいことがたくさんあるよ」
「言いたいことも、山ほどあんだよ…」
「うん。私も」
グリグリと私に顔を押し付けて、そのまま彼女は深呼吸すると、肩を掴んで立ち上がる。
やっぱり、思い出の姿からは年を取ってて。涙とか鼻水でひどい顔になってるけど。
それでも、互いに過日と変わらない笑顔を浮かべて。
「おかえり、透」
「ただいま、マユ!」
私はやっと。会いたかった人を助け出せた。
11/4(月)投稿。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などいただければ、作者のモチベーションがぐいぐい上がりますので、是非よろしくお願いします!!
やっとゾンビの設定明かせる!




