9 廃墟
大☆遅☆刻
データ飛ぶとはこのリハクn(ry
装甲車に戻るなり、私を包んでいた鎧が大急ぎで引き剥がされていく。
どれだけ怪我はないよー。って言っても誰も信じてくれませんよ…。
まぁ、私の事情全てをここに居る面々で知っているのが叔母さんとさっちゃん。あとブラッドだけだから仕方ないっちゃ仕方ない。一応【特務部隊】には叔父さん判断である程度の情報は開示してるみたいだけど。
「えっと。壊しちゃってごめんなさい」
「え?あ、はい。そこに関しては気にしなくていいですよ?むしろ、よくぞここまで壊してくれましたと感謝したいぐらいです」
私のメディカルチェックを担当している女の人に内心冷や汗を流しながら謝ると、そんな言葉を返されてちょっと困惑する。
「元々、廃棄する予定でしたから」
「……はい?」
テキパキとチェックを進めながらその人――岡崎さんが説明してくれたけど、今回の作戦の裏が明るみに出ることが無いよう元から【試製戦殻】は廃棄を予定されていたそうな。
機体については装甲も一晩で用意された突貫工事なうえに、中核部であるESもアメリカから研究目的に購入した払い下げ品を使っているそうで、失ったところで痛手はないそうな。
というか【ゼロ】の備品はヘルメットと網膜投射ディスプレイの組み込まれたヘッドセットだけで、機関砲すらも戦闘ヘリの予備をひっぺがして箱組でそれっぽくしただけ。剣に至っては模造刀しかないとのこと。
……あながち「アヴェンジャー」って叫んだのは間違いでもなかったみたいだね?
「ばれませんか?」
「オープニングとエンディングは別撮りなんて映画の基本ですよ?所詮は大国から色々むしるための商材ですよ。映像なんて」
ちなみに、通信記録も主演女優を任された女性隊員さんがアテレコするから問題ないとのこと。
途中でカメラを振り切ってしまっていたようだが、画像編集の手間が省けたと朗らかに笑っておいででした。
なるほどとうなずきながら、損害賠償が一切発生しないという事実にそっと胸を撫で下ろす。最悪【ストレージ】の解放まで考えてただけあって、杞憂ですんで良かった良かった。
メディカルチェックを終えた岡崎さんの「お疲れ様です」の言葉を聞いてから立ち上がる。もちろん、お礼を言うのも忘れない。
パンと両手で頬を叩いてから、気合いを入れ直す。この作戦――砂糖包みの掃討戦【ゼロ】を添えてはあくまでも自衛隊主導の≪危険地区≫解放作戦を隠れ蓑にした私による私のための救出作戦だ。
フェーズ・ワンは表向きは新兵器によるゾンビの掃討――実態は対象救出後の安全確保。いわば前座である。
主目的はフェーズ・ツーにある。区内のゾンビ残党の一掃後、持ち込んでいる機材にて≪危険地区≫を囲い込み新たな≪Z区内人類活動域≫の拡張を掲げてはいるが――たったひとりの生存者を見つけるためだけにこれだけの人数を動員しているに過ぎないのだ。
「待っててね、マユ」
漏れた私の小さなつぶやきは、廃墟の中へと霧散していった。
◇◇◇◇
メディカルエリア。そうかつて称されたこの区域は、かなり広い。
具体的には、東京にある有名なドームを五個ほど詰め込んでちょっと余るぐらいの広さがある…らしい。
元々はとある元財閥を経営母体とした工場地帯で、他にその従業員の居住してる場所だったんだけど、私が異世界へと拉致されて二年後。世界的に有名なスポーツの祭典が行われた翌年に日本を襲った大地震によって経営が悪化。
さしもの元財閥でもどうしようもなくなった結果、この一帯ごと国に売り払われたとのこと。
その翌年から国家主導のもと行われた≪医療特区構想≫にて白羽の矢が立った結果、世界でも類を見ないほどの大規模な医療機関複合施設として再生されたということだ。
巨大な総合病院だけでなく、有名な大学の医学部の分校や疫病研究センター。果ては医薬品の工場までその内部に抱えていたというのだから驚きである。
え?よくそんな範囲のゾンビを一掃できたなって?よく考えてよ。あいつら特に夜は音出してたら勝手に寄ってくるんだよ?
鬼さんこちら♪じゃないけど≪叫び屋≫一体が勝手に集めてくるんだよ?
ぶっちゃけると【身体強化】の副作用で最高に『ハイッ』てやつになってたからよく覚えてないけど、たぶんギリギリ万いないかぐらいは倒したと思う。
うん。改めてゾンビを相手にしていて思ったけど、人類が敗北するのも仕方ない。
近代戦の最も苦手とする戦いはいわゆるゲリラ戦……というかハラスメント攻撃と数による圧殺だ。昼間には散発的な攻撃を捌いてたのに、夜になった瞬間に敵の数が膨れ上がる。
ただでさえ混乱した情勢下にありながら、昼間は防衛や誘導で疲れきってるのに、夜になったらバカみたいな数を率いて攻め込まれる。
こっちは疲労困憊なのに、向こうは疲れ知らず。銃口や砲口を向けても怯まないうえに、頭等の中枢部を破壊しなければ止まらない。
さらに、噛みつかれるか血しぶきの一滴でも口に入れば敵の数が増えていく始末。
特に対処法の確立していない混乱初期は、さながら戦国時代の籠城戦を思わせる悲惨な戦いが各地で繰り広げられる事になったことは想像にかたくない。トップが早々に"国土放棄"という選択をしなければ――間違いなく、日本という国は滅びていたにちがいない。
正直、アメリカが異常なんだよ?なんで≪対ゾンビ戦略≫を持っていたのだろう?あの国、本当に宇宙人とも戦えるんじゃないかな?
話が脱線したね。
そう。本来なら≪危険地区≫内でたったひとりの生存者を見つけるのは正に砂漠の中でコンタクトレンズを探すほどの難易度なんだけど――
「ブラッド、どう?」
廃墟となった総合病院の臭いを探っていたブラッドに声を掛ければ、彼はフンと鼻をならす。
うん。犬を連れているっていうアドバンテージがある時点で人探しはイージーモードも良いところである。それがブラッドのように奇妙なほど頭の良い子なら尚更である。
人間の嗅覚とは比べ物にならないぐらい、犬の鼻は優れている。さすがに数ヶ月経っているから道路とかからは辿れなかったけど、マユが生きているなら常にその体臭は空気中に漂っている。
彼女の臭い(洗濯物漁ったよ、マユごめん!)を覚えてもらい、それが建物内に漂っているか判断するなど訳もないからね。
さっきから目につく建物の臭いを嗅いでもらいながら進んでいるのである。
「しかし……楽ですね」
アシストアーマーを着こんだ岡崎さんがぽつりとつぶやく。
それもそうだろう。なんたってゾンビと接敵しても、それを落ち着いて対処できるだけの余裕がある探索なのだから。
それもブラッドの手柄だ。彼はマユの臭いを辿りながらも優秀な斥候としても働いている。ゾンビをいち早く見つけてくれるから、同行する隊員さんの持つ消音銃や私の弓による狙撃で一方的に狩ることができているのである。
叔母さんが真剣な顔で「軍用犬の導入をするべきなのかも…」って呟いていたぐらいだ。
しかし、現実的に難しい問題でもあると語っていた。それもこれも人間のせいらしい。
なんでも、食肉の不足が発生してから家犬は加速度的にその数を減らしたらしい。生きた人間の姿を見て、尻尾をふりふり近付いた彼らをあろうことか人間は『食い物』と認識して狩って回ったとか。
ブラッドのように異常なまでに警戒心の強い個体しか本土には残されていないだろう。とのことだった。
叔母さんの言葉に、開いた口がふさがらなかった。そりゃ、肉が口にできなければ人間は弱るだろう。でも、飼い主を失い。それでもなお人にすがろうとした彼らを人は裏切ったのだ。
もちろん。生きるためだから、理解できないわけではない。私だって、野生動物を狩ることで日々の糧を得ているのだから、非難できるとは思っていない。ただの食物連鎖の一環だと言われてしまえば、反論することもできないだろう。所詮は個人のエゴでしかない。
それでも、人を信じて近付いた彼らを無慈悲に殺すとはなんたる非道か。
そんなことを考えていたら人間不振が加速しかけたよ。うん。付き合いを持つ前に『崩壊後に犬を食べたことは?』ってこれから聞くことにしよう。
何度も言うけど私が言えた身分でもないけど、さすがにそんな人間と付き合いを持ちたいとは思わないからね。私は意外と狭量なのです。
さすがにそういう文化圏で暮らしてた人には何も言わないけどね。食文化として根付いてきたものを否定することはよろしくない。
ちなみに、その場の全員に聞いたけどそれはちょっと…って反応が返ってきたよ。犬を食べるというよりも、こっちに心を開いて近寄ってきた存在に手をかけることに忌避感を持っているみたい。
そんな小さな問題に直面しつつも探索はおおむね順調。ほとんどの建物にブラッドがマユの痕跡を見つけることが無かったからだ。
「ここで大きな建物は最後だね…」
そこは、ありし日は『疫病研究センター』として稼働していたという場所であった。
何度もゾンビから襲撃を受けていたのだろう。白い外壁にはべっとりと褐色の染みで汚されていて、見るからにおどろおどろしい雰囲気を放っている。
利用目的の特性ゆえか窓が少ないからか、ここは防衛拠点としてはそれなりに有用な場所だったのではなかろうか。強化ガラス製だと思われる正面玄関から覗き込めば、暗い屋内にわずかだが破られていないバリケードが残っている。
「もしかしたら、潮音一尉以外にも生存者がいるかもしれませんね…」
隊員さんの誰かがぽつりと漏らした言葉に、果たして誰も返答を返さなかった。
それは、確かに希望のある話だろうけど。それでもここに立て籠った人間が生き残れるか。そう問われれば、ここに居る誰もが『否』と口にするしかないからだ。
なぜなら、それも又この建物の特性を考えれば仕方のないことだったから。
常日頃から"防疫"の看板を掲げていたであろうこの施設に、いったいいくらの食料が備蓄されていたと言うのか。
それに誰もが思い至ったがゆえに、誰もが言葉を発することができなかった。
場を包んだ痛いほどの沈黙を破ったのは、短く。それでも鋭く発したブラッドの声だった。
誰もが、ハッとする。今までゾンビを見つけた時以外は沈黙を保っていた彼が突然上げたそれは、たしかなシグナルであったから。
『ここに、いる』
それは確かに。マユの――私の親友がここにいると。彼女を見つけたという何よりの証拠が見つかったということなのだから。
◆◆◆◆
「―――クソッ!!」
あたしは、幾度となく修理を試みた通信機器をしたたかに殴り付けた。
さいわい、防音が完璧になされた区画に身をおいていたため、内部にうろつくヤツらに音を聞かれる心配はないのだが――この時のあたしに、そんなことに気を配る余裕などすでに無かった。
「繋がれッ!繋がれよ!!」
貴重な水分が、目から流れ落ちていく。とうとう食料は昨日底を尽き、水も残りわずかとなったが――そんなことすらも、どうでもよかった。
「頼むから、繋がってくれ!!じゃなきゃ、じゃなきゃ……」
透を、殺してしまう!
親友の性格をよく知っているが故に、絶対に自分を助けに動くとわかっているが故に。
この場所が危険だと。余りにも危険だと早く伝えなければいけないと言うのに、バッテリーの切れた通信機が再び音を発することは無く、沈黙を守ったまま。
どうにか、電源を直結させたはいいものの、変電装備すら無い以上。復活する可能性というものは皆無ではあるが。それでも、手を止めることなど出来なかった。
だからと言って、早々に自決を選ぶことも出来ない。銃弾が尽きたことは元より、ナイフすら喪失し。さらに、逃げ込んだ場所にほとんど何もないということもあるのだが。
―――発見した新たな脅威を誰にも伝える事無くその命を散らすことを許せなかった。
自らに与えられた責務はもちろんだが――何より、突然帰ってきた親友が知らずに死地に飛び込もうとしているのに――何も出来ないと考えるだけで気が狂いそうだ。
「頼む…頼むから…!お願いだから、繋がってよ…!」
気付けば、機材を殴り続けた右手からは血が滴っている。それでも、一度黙した通信機は無情なまでに呼び掛けに応えない。
無力感で力が抜ける。とうとうすがりついたまま、あたしは嗚咽を漏らしていた。
―――目の前に迫った未来に。あたしは絶望するしかなかった。
11/3(日)投稿
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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はみだし設定小噺
⑪アシストアーマー
突然文中に現れた装備。ESの一種。
元々は災害派遣時に身につける装備で、瓦礫をどけるなどの用途で使われていたもの。
浸透作戦などで、大量の物資を運搬する時などに使われている。




