6 叔母
次回、主要キャラクター以外の視点となります。
また、土日はできるだけ二話投稿したいと考えています。目指せブクマ100件!
結局。時間もそろそろ夕方に差し掛かろうとしていたため、私は叔母さんと共に拠点としているマンションまで自衛隊の方の運転する装甲車にて送り届けて頂いたのだ。
道中の事は……語りたくないなぁ。異世界に行っていた事を明かしたのだけど、ずっと叔母さんの腕に抱かれたまま頭を撫で続らけれていたからね…。ルームミラー越しに、運転をしている隊員さんの生暖かい視線をずっと感じていたからね…。
叔母さんが異世界に行ってたことをすんなりと受け入れたのは何でだろうね?気になって聞いてみると。
「ゾンビが居たなら異世界もあるんじゃない?」
と真顔で返されたよ…。相変わらず柔軟すぎる思考だことで…。
マンションに到着したときは流石に驚いてたけどね。彼らの知るマンションとは似ても似つかなかったから。
跳ね橋の前で装甲車から下ろしてもらい、そこで送ってくれた自衛隊の方とはお別れする。
叔母さん曰く、今回の映画撮影に直接関わらない人らしいからね。いい女には秘密が多いのさ。
「とーる。これ、どうやって入るの?」
「こうやってだよー」
そう言って手をかざして向こうの言葉で『下げろ』と口にする。ちなみに、この言葉を地球の人が耳にした場合、フィンランドの古語に似た言語に聞こえるらしい。叔母さんの言だから、たぶんゲーム関連から得た知識なんだろう。
「音声認識!?」
「んー。異世界の技術かなー」
苦笑しながらそう言ったけど、正体は跳ね橋をゴーレムに変えただけなんだけどね。
向こうでは余り使われてなかったけど。理由は人間同士の戦いだと簡単に開閉可能になるから。
「あとで詳しく聞かせるのよ?」
「わかってる」
そう言って跳ね橋を渡り『上げろ』と命じて正面玄関をくぐる。
すると、私掛けて突撃してくる人影が見えたので、彼女を受け止めるために腕を広げる。
ポスリと軽い衝撃と共に飛び込んできたのは、上で待っているはずのさっちゃんだ。
「ただいま」
そう言って私の胸に顔をうずめたさっちゃんの頭を撫でるけど、なかなか顔を上げてくれない。
どうしたもんかと困っていると、ちょんちょんと叔母さんに右肩を後ろからつつかれた。
「そちらのお嬢さんは?」
「ん?この子はね――」
「恋人です」
私の言葉を遮って、さっちゃんが顔を上げずにそうつぶやいた。
うん。その話はもうちょっと隠しておこうと思ってたのに……。
その言葉を耳にした叔母さんは、一瞬真顔になり。すぐに目をつぶり何かを考え始め。そして、目を開くと私になぜか親指をたてた。
「ここに、タワーを建てよう!」
「すでにタワーマンションが建ってるけどね!?」
ああ、そういえばこういう人だった。収集の付かない状況になったと天井を仰ぎ見た私の耳にやけに耳慣れてしまった相棒の深い溜め息が聞こえたのだった。
◇◇◇◇
はい。何とか部屋まで戻ってからこの方異世界のお土産話をねだられるままに魔法を見せつつ叔母さんにしていた透だよー。
ちなみに、さっちゃんに叔母さんを紹介したらすっごい顔を赤くしてました。
新しい女を私が作って帰ってきたと思ったんだろうね。だから開口一番の彼女宣言。可愛すぎるでしょう、この子!
顔を更に赤くして、私の胸に顔を隠すさっちゃんを見て叔母さんは終始「尊い…」とつぶやくボットと化してたけど。
で、話終えた私は現在何をしているかと言うと。
「とーる、聞いてた?」
「とおるさん、聞いてましたか?」
はい。なぜか正座をさせられたうえで二人にお説教を受けている真っ最中である。
たまに話を聞いてないと見るや、さっちゃんから命じられたブラッドが鼻で私の足裏を押してくるおまけ付き。…【身体強化】の応用で足はしびれないけどね。
「えっと…反省してます」
ちなみに、お説教の大半は本日の私の行動である。
さっちゃんからは、勝手に姿を消したことを目に涙を溜めて怒られ。叔母さんからは、無計画に動いていることを怒られた。
言い訳?聞き入れられると思うのかい?
私にできることは、真摯にその言葉を受け入れることだけさ……。
「もう…。私の安全のためとはいえ無茶しすぎです」
「これからはしっかり、報連相を徹底させなきゃダメよ?」
「ワンッ」
最後はブラッドにまで怒られたよ…。
気落ちしつつも立ち上がると、叔母さんがパンと手をならす。
「さて、それじゃあ改めて自己紹介をさせてもらうわね。私は大柿 徹子。そこのバカ義娘の義母です」
「あ、わたしは東美 幸と申します。その、ふつつかものながら、娘さんとお付き合いをさせていただいており、ます」
「さっちゃんね。こちらこそ、よろしく。……さて、今回本官が透に同行してきたのは義母ではなく統合幕僚監部所属【特務部隊】の人員として大柿陸幕長より下命を受け行動しているからです」
おっと。叔母さんが私の名前を間延びした呼び方ではなくきっちり呼んだって事は、こっからはお仕事の時間だね。
私の叔母さんで義母さんの徹子さんは、見た目こそキャリアウーマンという言葉がとても似合う女性であるが、実態は重度なゲーマーでサブカル好きなかなりだらしな……おおらかな人だ。
だから≪お仕事モード≫に入るとかなり分かりやすい人だったりする。
「さて…。まずは、今回の作戦概要の説明をさせていただきます。第一目標としては第一〇八Z区内、通称≪危険地区≫内における対Z戦術攻殻の運用テストと映像記録。ならびに同エリア内"Z"の駆逐。第二目標として【特務部隊】属、潮音 真弓一尉の救出となっております」
そう言いながら机においたタブレットを操作すると、ARによって詳細な地図や突入方向等を示す矢印が目まぐるしく展開されていく。
そして、真弓の現姓がしれっと判明する。
「状況開始は明日。十一月四日、時刻一:〇〇。まずは戦殻を用いて≪危険地区≫内の"Z"を攻撃を予定。これを一次攻撃とし、"外部協力者"ニ名と犬一匹。そして、【特技研】より二名と本官含む【特務部隊】より四名が装甲車ニ台にて随伴することになります。
一次攻撃より一二〇分後、または"Z"掃討率が全体の七割を上回った時点を持ち【関東Z区駐屯部隊】からの抽出戦力として四個連隊、並びに民間協力者として関東平野部コミュニティ≪アストロノーカ≫より六十名の"Z狩猟者"の戦力を持って速やかに≪危険地区≫内"Z"を一掃。制圧後"生存者"の捜索を行い、終了次第一〇八Z区内に関東攻略の橋頭堡を構築を以て状況の終了となります」
おおう…。叔父さんとの対談から半日も経ってないのに作戦の立案が終了してる。
それに、当初"鎧"と装甲車一台のみと聞かされていた戦力がものすごい数に膨れ上がってる…。
うん。でも確かに今は医療施設は著しく不足していることだし、それによる略奪もまた頻繁に起きている。この作戦で≪危険地区≫つまり、メディカルエリアの解放には色んな面で利益があるだろう。
「質問は後にしてもらうとして、とーるは分かってるとは思うけど、戦殻は現状動かない張子の虎。それをあなたが着る事で無理やり動かすのだけど……本当にできるの?」
先程の様子とは一変して、その顔を不安げに曇らせた叔母さんが私に問いかける。
私は、いっそふてぶてしいまでに自分の顔に自信を漲らせる。
「余裕だよ。ゾンビの特性はほぼ把握してる。もしもゲームみたいにボスが存在していたとしても問題ないよ。てか、百キロ程度で重いとかなんの冗談?あっちで最初に使った鎧とか槍と盾込みで百六十キロもあったんだよ?」
いくら【竜炉心】を得たあとで【身体強化】使えるとはいえ、あれはヤバかった。重さじゃなくて主に関節部が干渉起こしまくって一切動かないという辺りが。
強制的に石像の気分を味わえる最低の一品だったね。無理やり動いたら壊れたけど。
「改めて人間やめてるわね…。赤い石の着いた仮面でも被ったの?」
「失礼な。ちょっとドラゴンと殴りあっただけだよ!」
「あの、とおるさんそれは"ちょっと"ではありませんよ?」
まぁ、あれは人生で一番ヤバイ戦いだったから…。魔王より普通に強いからね、私の友達。
動いたら世界が崩壊するんだけど。
「信じましょう。魔法なんて証拠見せられた以上、疑いようが無いし。何より、このマンションをとーる一人の力でここまでにしたってのを知ったらねえ…」
叔母さんからの評価は『マジノ線でも作りたかったの?』である。誰が引きこもりかっ。
「じゃあ、今回あなたのまとうことになる鎧――【試製戦殻】仮称≪零式≫。これのスペックについて説明させてもらうわね」
そう言ってタブレットを操作すれば、AR画像が切り換わる。
昼間と違ってそれは、両手に箱形の何かを逆手で持っていて、腰の両側には背中から延びたコードが柄頭に繋がった剣を佩いている。これらが、武装と言うことだろう。
「実際、本体の重量はそこまでじゃないのよ。ESの核とも言えるフレームはニ十キロも無いし、装甲もほとんどがカーボン・プラスチック製だしね。 ほとんどの重さがこの両手に保持している箱――【試製ES用30㎜機関砲】と腰に付けてる【対Z格闘剣】のモノなんだけどね」
「銃はともかく、剣か…」
うん。ここは、提案しておこう。
「叔母さん。この剣だけど、見た目だけ真似したモノ作るから画像出せないかな?」
「なぜ?いくらESがほとんどモックアップだとはいえ、武装は本採用品よ?」
「まぁ、見てて」
そう言って【ストレージ】から副葬品として持ち歩いている普通の剣を一本引っ張り出す。
「何度見ても不思議な光景ね…。間違いなく手品師が廃業するわね」
「手品師残ってたらね…。さて、今からこれに魔力を流すから見ててね……【武装強化】」
流すと言っても基本的に何らかの属性を付与しなければ魔力は無色透明だから、わかりやすいように口にしてから魔力を回す。
すると、手に持っていた剣は魔力が流れた瞬間に砂状になって崩れた。
「と、まぁこの様に普通の素材だと本気を出したら残らないの。だから、特殊な素材を使って剣を作っておきたいわけ」
「……なるほどね。ちなみに、作戦終わってからその素材ってもらえたり?」
「絶対やだ。終わったら再利用します」
魔石が存在したから、たぶんあるんだろうけど採れたとしても海底からだろう。特に魔鉄は頑丈で粘りもあるから使い道が多いので在庫を減らしたくない。
「そう、残念」
「ちなみに【対Z格闘剣】ってなんでコードが付いてるの?」
「それはね、本来の運用方法としてはリアクターに接続してヒートソードとして運用予定だからよ。ゾンビから出る体液対策ね」
「なるほど…青い方?それとも三連星?」
「モデルはタンク狩りって言ってたから青い方ね」
生身の歩兵と肩を並べる想定だろうから、二次被害対策って訳だ。
「オーケー。魔法でどうにかなる範囲だからやっぱり自前で模造するよ」
ちなみに、バイブレーションソードだとお手上げだった。宇宙世紀が好きな人が開発者で良かった。
「本当に万能なのね…」
「万能じゃないよ、できる範囲で有能なだけ。本格的に励起させたら被害範囲がやばいから小技で補ってるってのが真実だよ」
「それでも、生身の人間ができる範囲を越えてるわ。そりゃ、人間不振にもなるわよ」
「ハハハ…。まぁ、ね」
言いながら叔母さんが私をぎゅっと抱擁してくる。本当に、この人は抱きつくのが好きだなぁ…。
おっと、さっちゃんも手を握ってくれた。ブラッドも足元にその身をすり寄せてくる。
……ほんとにもう。
「はい、離れて離れて!」
ちょっと気恥ずかしさを覚えたから、みんなを引き剥がす。
「私の事はいいから、今は作戦を成功させることに全力を出そうよ」
「……そう、ね。ええ。一応、ヘルメット部分だけは本採用されるモノと同様だから、ドローンリンクから戦況の推移は逐次報告されることになるわ。無線も内蔵してるから、撤退の指示が出たら即戦闘を終了。指揮車輌も兼ねている装甲車まで引くこと。掃討部隊に引き継ぎが終了次第真弓ちゃんの捜索に移ることになるわね」
「……だね」
そうだ。これは自衛隊の作戦を隠れ蓑にした私の親友の救出作戦だ。
「待っててね、マユ」
小さく呟いた言葉は、果たして誰の耳にも入ることはなく虚空へ消えた。
―――そして、私たちは決行の時を迎える。
◆◆◆◆
―――これは、まだ未来の話。
西暦二〇三六年十一月四日に日本一〇八Z区にて行われた大規模作戦は後に【極東の奇跡】と呼ばれることとなる。
日本国公式発表作戦名『OPT-Sc0』。それは間違いなく後の対ゾンビ戦事情を一変させる兵器技術の転換点が起きた日であり―――
人類の勝利を決定付ける希望がもたらされた日であるからだ。
作戦に関わった全ての人と、死に瀕して尚希望を守り抜いたひとりの女性を世界は人類の英雄と称賛した。
―――二人と一匹の現地協力者が居たことを。そして、そのうちの一人の貢献が最も大きかったことは誰も知らないままに。
11/1(金)投稿
拙作をお読みいただきありがとうございます。
もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などいただければ、作者のモチベーションがぐいぐい上がりますので、是非よろしくお願いします!!
はみ出し設定小噺
⑨統合幕僚監部所属【特務部隊】
2030年に【陸幕長】大柿 通幸、【海幕長】武蔵野 大和、【空幕長】坂井 直の三名連名によって統合幕僚監部に提出された【特殊任務部隊構想】を元に設立された部隊。一般には部隊名だけを発表しているが、構成人数などは秘匿されている。
実情は男女問わず陸海空それぞれから優秀な人材のみを選抜。さらに選抜された者に過酷な訓練を課し、ふるいに掛けられた人員でのみ構成された生え抜きのエース部隊である。




