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5 魔石

皆さんはどのライダーが好きですか?もちろん私はア゛ー゛ル゛エ゛ッッッッ!


ところで、皆さんお忘れかもしれませんがこの作品『ファンタジー』なんですよ…。

 あまり広いとは言えない部屋は、痛いほどの沈黙で支配されている。

 その中の私と画面の向こうに居る叔父さん。どちらも黙っては居るけどその表情は対照的なものだろう。そう、私は考えた。


 自分では見えないが、私の顔はさぞしかめられているに違いない。たぶん、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

 対する叔父さんは、先程までの子どもの様な笑みを引っ込めて、大人の余裕に満ちた微笑みを張り付けたままニコニコとしているのだ。


 ああ、画面越しの対面でよかった。今目の前に叔父さんが居たら間違いなくぶん殴ってるから。


「……映画?」


 自分でもめったに耳にしないほど、私から漏れ出した声が不機嫌さに溢れている。

 まぁ、それを受け止めて尚、叔父さんの表情は一切変わらないのだけど。


『その通り。……まぁ主演女優っていうのは言葉の綾だけどね。透の配役は――スーツアクターだから顔は一切出さないよ』


 そう言うと、叔父さんはいつの間にか持っていた小さな端末を操作し始める。

 次の瞬間。私たちの対話に使われていた端末の真上の空間に薄緑色をした画像が投影(・・)された。


「……ナニコレ」

『ああ、見るの始めてか。SF御用達AR技術はゾンビ発生の前年から一般に出回り始めたからねー。まだまだ着色とかは出来ないから単色なんだけど』

「えーあーる」

『そう。とうとう時代がSF映画に追い付いた…と思ったらほとんどの世界がバイキングの時代に逆戻りしたけど』


 やばいなー。私が居ない間に世界は進歩していたみたいだ。VRゲームとか開発されてないのかな?


 驚きはさておき。これを突然展開したと言うことは、会話の流れ的に『広報映画』とやらに必要な事だったのだろう。

 空間に投影され、ひとりでにゆっくりと回転する画像を見る。

 何と言えばいいのだろう。あの特徴的な光る丸っこいのが無くなって、顔面がのっぺりとしたマーベリックな天才社長の着込んでいた空飛ぶスーツ、かな?


「これなんて鉄男(ヒーロー)?」

『空は飛べないし、掌からビームは撃てないけど、まぁ間違っちゃいないかな?』

「個人的には宇宙エンジニアなもっと()せる感じなのが好みなんだけど?もしくはチーフみたく量産型」

『アハハ…。相変わらずゲーム好きだね』

叔母(かあ)さんの影響だけどね」


 叔母さん、暇さえあればゲームに誘ってきたからなー。ちなみに、ギターは叔父さん。映画と読書は母さんから引き継いだ趣味だったりする。


『まあ、デザインの話しは置いておこう。開発者の趣味だから。話を戻すけど、これは日本で研究されているエグゾスケルトン(ES)。【試式戦殻(ししきせんかく)】だ。とは言っても、実はコンセプト自体はアメリカが既に二〇一九年には完成させていたんだけどね』

「わぁお覚悟完了しそう…」


 ちなみに、アメリカは既に【TALOS-Mk.IX】という名前で軍隊に配備しているみたい。……あれ?


「ちょっと待って。さっき自信満々に技術立国とかなんとか言ってたのに、もう他国で使われてるの?ダメじゃん!コンセプトからしてダメじゃん!?」

『確かにただのESを作ったところで意味なんて無い。でもね、昔から日本のやって来たことは最新の技術を取り込んで、それを魔改造してしまうことだよ?』

「……それは、確かに」


 機械しかり、料理しかり。日本人に目をつけられたばっかりにどれだけのモノがジャパナイズされてきたか考えれば反論できない。


『うん。試式戦殻(これ)もそんな魔改造被害の一員なんだけど…。今運用されているESの様々な問題点を解決して、かつ対ゾンビに特化させた代物さ』


 得意気に語る叔父さんに、目線で続きを促す。反応するのに疲れた訳じゃないよ。たぶん。


『問題のほとんどは既存の技術でどうにかなった。日本でも既に医療や介護、事故や災害の現場で実用化されていたからね。でも、既存の技術でもひとつだけどうにもならなかった問題があった。……なんだと思う?』

「うーん。さすがにちょっとわかんないかな」

『まぁ、日常生活じゃ縁の無いモノだからね。答えは簡単。稼働時間さ』


 そう言って、叔父さんが小さな円筒状のモノを取り出す。


 それを目にした瞬間。私は『やっぱりあったか』と思わず変な笑いが出かけた。


 円筒状のナニかの中心部に取り付けられた青白く輝く鉱石(・・・・・・・)に見覚えがあったからだ


『核融合炉の小型化や既存のモノを上回るスペックを持ったバッテリーなんかの開発も進められてはいるけど、どれも結果は芳しくない。現行のモノだとどうしても通常稼働で二十四時間。戦闘機動をすればどれだけ節約しても六時間動けば良い方…。充電が望めない地域で運用を考えたら、最低でも無補給でその倍――四十八字間は稼働しなければ使い物にはならない。そう、ならなかった』


 賢者の石。火と硫黄。アナキティス。五色石。要石。これだけ、石に関する伝承が地球にも存在する以上、絶対に地球にもあるとは予想していたけど。


『しかし、日本国内にて五年前。たまたまメタンハイドレート採掘実験中に海底からコレ(・・)が採掘された』


 叔父さんは、取り出した円筒をコロコロと掌の上で遊ばせながら続ける。


『これの中心にある青い光を放つ謎の鉱石。仮称光石と言われるこれは――蓄光ではなく、採掘から五年経った今でも自ら光を発し続けている。つまり、驚くべき事にこれはエネルギーを生産していてかつ。そのエネルギーが尽きることはない――と、言われていた』


 ―――まさか、海底に埋まっていたとは。


『これは日本だけが現在独占している。いや、独占を許されている。と、言うべきか。なぜなら、どれだけエネルギーを秘めていても、それを取り出し、利用することが不可能だったから――でもとある偶然から、ある物質だけがこの内に秘められたエネルギーを伝達すると判明したんだ。その物資とは―――』


「銀でしょ」


 叔父さんの言葉に被せるように私は言葉を紡ぐ。叔父さんの顔が驚愕に染まるのを無視して、私は言葉を続ける。


「数ある様々な物質のなかで、地球(・・)でそれの伝導が可能なものは、銀。もしかしたら、水銀も。古来から言われるように、銀はある現象と――魔法(・・)と深く関わる物質とされているから」


 この世界に外魔力(エーテル)が満ちているなら、魔力(マナ)を生産できるならそれ(・・)も確実に存在しているから。


 ゆっくりと、画面の先の。机に置かれた石を私は指差して。


「私が五年を過ごした場所にも、それさ。あったよ」


 私は、はっきりとそれを口にした。


「それは【魔石】。【炉心(ハート)】を持たない生物が魔術を扱うための触媒にして――この世界に満ちる大いなる力(エーテル)の変換機構、だよ」

『魔術…?』

「そう。魔法のように定められた者。選ばれた者だけが持つ超自然的な力を、学問として技術として万人が扱えるように調整されたモノ。それが、魔術。やったじゃん叔父さん、歴史的発見だよ。今までおとぎ話でしかなかった魔法の存在証明ができるよ~」

『魔法が、実在した…?』

「かもね。今やそれを確かめるすべは無いけど。まぁ魔石って指向性を持たせなければ魔力っていう莫大なエネルギーを生産し続けるだけの代物だしどうせ魔法も魔術も失伝してるからね。証明のしようがないけど。さてと……」


 魔石。これはラフィールでも、別に魔物だけから採れる物体では無かった。採掘され過ぎてほぼ枯れていたけど、元々は他の鉱物と同様に地下資源の一種とされていたらしい。

 そもそも『魔石を持った生物』だから魔石なのであって、魔物から取れた石で魔石ではないのだから、それが先に存在していた事は言うまでも無いのだけど。

 ちなみに、自然発生したものは青く、魔物から採れるものは赤黒い色をしているから、すぐにどっちかは見分けがつく。

 魔石の精製プロセスなんかはどうでもいいから省くけどね。


「私ならこれを効率的に利用する方法も知ってるけど、絶対にその技術――魔術については手を貸さないからね」


 混乱している叔父さんには悪いけど、これだけはしっかり釘を刺さしてもらう。


『……理由は?』

「私にしか出来ないからっていうのもあるけど。お手軽に、下手したら銃よりも強いモノが世界に溢れる危険性があるからね」

『……それはゾッとする話だな』

「私が手を加えない限り、誰一人として魔術を刻めないから安心していいよ」


 魔石を魔術触媒化するためには【魔方陣】と【指向性式】を刻む必要がある。そして、そのどちらも刻む事が出来るのは魔法使い――つまり【炉心】持ちだけなのだ。

 つまり魔法が既に失伝しているのが間違いない地球で、それを書き込めるのは私だけということになる。

 魔術という誰でも使えるモノを普及するために魔法という誰でも使えないモノを利用しなければいけないとは、これいかに。


 ちなみに、魔石を用いずに銀やミスリルに魔方陣と指向性式を書き込む事で外魔力を無理やり利用しているのが【回路(サーキット)】である。


『まぁ、魔法とか魔術にはおとぎ話のまま居てもらおう。論じたところで本筋じゃない』

「だね。ただのエネルギー源として使うなら純銀だとむしろ通しにくいから、銀四十パーセントぐらいの合金が一番ロスが少ないよ」


 魔方陣使わないとどうしてもロスは出るけど。という言葉は飲み込んでおく。


「あと、そんなガチガチに固めるのはダメ。指輪の爪みたいに固定して。じゃないと外魔力を吸収できないから」


 ちなみに魔力は不思議なもので、全く手を加えない状態だと電力と互換性がある。向こうでは魔石灯っていう照明器具としてしか使われてなかったけど。

 外魔力に晒しておけば半永久的に魔力を生み出すから確かに利用できれば理想的なエネルギーだろう。ただ……。


「で、日本に銀ってあるの?」

『あったら広報映画なんて作る必要あると思う?』

「だよねー」


 石見銀山は閉鉱してるし、私が召喚される前に採掘されてたのは確か九州。残念ながら日本の領土に銀の産出地は無い。同様に伝導体として可能性のある水銀も産出しない。

 ちなみに、水銀は中国がほとんどのシェアを握っていたから、今後産出される可能性がとても低い。


『そして、これ――リアクターもやっと一個作れるぐらいだ。光石――えっと、魔石でいいのかな?これもほとんど東京の研究施設に保管されていたせいで現物がこのひとつだけだしねぇ…』

「つまり、銀という伝導体どころか本体すら無い…あれ?試式戦殻って動くの?」

『残念なことにただの鎧だね』

「鎧……なるほど。それで"スーツアクター"なわけだ」


 やっと叔父さんが私の配役がスーツアクターだと言ったのか理解した。


「つまり、私が中に入って無理やり動かすと」

『そういうこと。ダミーとか使っていかにもそれっぽくしたヤツを着てもらうことになるかな?』

「ゾンビを相手にヒーローショーをやれと?」

『ご明察。≪危険地区≫内のゾンビを駆逐してそこを解放した映像が撮れたら、間違いなく大国だろうと興味を持つだろうからね』

「ドキュメンタリーフィルムじゃなくて、モキュメンタリーフィルムを撮るのね…」

『成功すればドキュメンタリーさ』


 なるほど。映画とは上手いこと言ったもんである。


「それで、銀を搾り取るわけだ。米露豪は産出量も多いし。そのリアクターについては公表するの?」

『されるだろうね。そこらへんの内容とタイミングはお偉方に丸投げするけど。ついでにメタンハイドレート採掘用のプラントまで建ててくれたら尚良しかな。あくまでも魔石はそれの副産物だし』

「それで、量産は日本が担うと?」

『そうなるだろうね。何せ新技術だ、テストをする必要がある。そしてテスターとして日本はとても都合が良いからどの国からも拒否はされないだろう。ゾンビに国土を奪われていない大国からは特にね』

「つまり、リアクター搭載のESで日本国内のゾンビ駆逐に成功すれば」

『間違いなく、その技術を開示した日本の貢献度は大と見られるだろう。今のお荷物という現状を打破できる目が出てきたんだ。日和見主義者共も十分動く』


 私の目的も試式戦殻を隠れ蓑に達成できるし、叔父さんとしても日本を解放できる可能性に手をかけられ、ついでに日本も現状から脱出できると…。

 うん。どうなるかと思ったけど、受けても問題なさそうだ。


「オーケー。叔父(とう)さんの提案に乗らせてもらうよ」

『ありがとう。……ところで、装備まで含めて大体百キログラム近いんだけど、着て動ける?』

「問題ないけど。…それ、最初に言うべきじゃない?」

『テンションって怖いねえ』


 そう言って屈託なく笑う叔父さんに溜め息を漏らす。


『まぁ、終わりよければってやつだよ。それじゃあ、準備があるから作戦決行は……明日の夜にしよう。真弓くんの救出がメインだから突貫で用意するよ』

「ありがとう、叔父(とう)さん」

『何。可愛い義娘(むすめ)の頼みさ。多少の無茶は通して見せよう。……ああ、あと連絡がスムーズに行くように一人今から同行させてもいいかな?』

「問題ないけど…ごっさん――後藤先輩はちょっと気まずいから遠慮したいかな?」


 私の言葉を聞いた叔父さんは、なぜか満面の笑みをその顔に浮かべる。


 ……なんでだろうね。すごく、嫌な予感がするよ?


『大丈夫。()そっちに丁度いい人が帰ってきたはずだから』


 叔父さんがそう言うと、プレハブ小屋の外からこっちに戻ってきてからとんと聞かなくなった音が――車の、エンジン音が聞こえてきた。


『丁度ね。今日の定期便に徹子さん(・・・・)が同行しててねぇ…』


 荒々しい足音がプレハブ小屋に響くのを耳にして、私の背中を冷や汗がつぅと流れる。


『久々の再会だ。異世界とやらの話は今度聞くから――今はしっかりと叱られなさい』


 叔父さんがそう言って通信を切ると同時に、扉が壊れるんじゃないかと不安になる勢いで開かれて、私の方にまっすぐ見知った人が駆け込んできて―――


「このっ!不良娘ェ!!」

「ふぎゅ!?」


 怒鳴り声と共に、顔がやわらかな何かに押し付けられて、視界が真っ暗に染まる。


「どこほっつき歩いてたの!どれだけ心配したと思ってるの!?」

「むぐーっ!?」


 息が、息が出来ない!

 必死に体を動かして拘束(ほうよう)から脱出すれば、目の前に見えるのは涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった、懐かしい人の顔があって。


 叱るときも、誉めるときも。こうやって私を包み込んでくれた優しい感触を懐かしく思いながら、私は笑顔で彼女へ告げた。


「……ただいま、叔母(かあ)さん」


 ちなみに、このあと何度か窒息しかけたけど。それは言わぬが花なんだろう……たぶん。

10/31(木)投稿

拙作をお読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくおねがいいたします。


はみ出し設定小噺

⑧魔石

透が説明を投げ出したので、こちらで補足。

魔石は、世界を満たしている外魔力(エーテル)が龍脈上の吹きだまりに集まることで凝固し、物質化したモノです。見た目は青白く輝いている石となります。

正式名称は『魔力変換石』。外魔力という、そのまま利用するには巨大すぎる力を魔力(マナ)という人間にも使いやすいモノへと変換する力を持ちます。その詳しい原理は不明ですが、一説によると【炉心(ハート)】を持つ生物のように世界(星)が魔力を利用する為に魔石へと形を変えていると考えられています。

尚、ラフィールで魔王が産み出した魔物は、魔石発生の仕組みを魔王が解明して、自らに都合のいい命を作るために利用して作られたモノだと言われています。

そうやって歪められて産まれた魔物から採れる魔石は、魔物の血と混ざりあって作られているためか、赤黒い光を放つ物質となります。

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