3 対話
三章は1日に1話投稿に戻す予定です。私のテンション次第ですが…。
私が静かに涙を流している間、叔父さんは何も言わずに待っていてくれたみたい。
うん。ごっさんも居るのにちょっと無防備な部分を晒しすぎだ。ただ、私の泣いてるところを見て目を丸くして驚いている事についてはあとで話し合おうか。
私の事をなんだと思っているのかね?
よしっ。と気合いを入れて涙を止める。未だに頬を伝っている残滓も親指を使って拭い取る。
ここに来た理由を思い出せ。私の交渉次第では大切な想い人を危険な旅路に誘うことになる。私のワガママに付き合わせた結果、もし彼女に何かあったらと考えれば、まだ会いたくない。話したくないとわめく自分の心など踏みにじることに訳はなかった。
感動の再会はもう済んだ。ここからは、私の義理の父というだけではなく、自衛官の『大柿 通幸』さんとのお話し合いだ。
……ちょっと予想外に出世してるけど。
陸幕長と言われてピンとくる人は少ないと思うが、陸上幕僚長…つまり、陸自とのトップと話し合いの席を設けられたことは、いきなりすぎて多少緊張するけどかなり幸運だと捉えた方がいい。
今回私が行おうとしている作戦に自衛隊という国の保有する"力"を巻き込めるのはもちろん。私の立場を明確に示しておくことによって、上手く行けば最低限日本という国からの干渉を大きく制限する事も可能になってくるハズだ。
まぁ、そのためにいくらかこっちからも歩み寄る姿勢を見せないといけないだろうけど。
取らぬ狸の皮算用と言うなかれ。私は事実としてこの世界でも有数の軍事力を保有しているのだから。
ふぅと息をついてから、画面向こうの叔父さんと目を合わせる。
うわ。すっごいニコニコしてるぅ…。そういえば叔父さんの前で涙流したのって数えるぐらいだったなぁ…。うん。実にお母さんのお葬式以来だ…。
そして、叔父さんの認識の上では私の年齢はアラフォーな訳でして……。
おっと。恥ずかしくなってきたぞ?
ゴホンと咳払いをする。うん。もう交渉を始めることとしよう。
私がピンと背筋を伸ばせば、叔父さんも何かあると察したのだろう。今まで顔に浮かべていた笑みを消して、役職に恥じない凛とした空気を身にまとった。
「まずは…。ごめんなさい。黙って姿を消してしまって」
『そのことについて、聞きたいことも多いのだが…話してくれるね?』
その質問に、私は首を横に振ることで答える。
「話は、するよ。ただ、こちらから提示する条件を飲んでくれたら。と、いう話にはなるけどね」
あえて、彼の姪にして義理の娘というスタンスで話に臨む。叔父さんと腹芸なんてしたくないからね。
『条件、ね。それを聞くのは"僕"としてかな?それとも"自衛官"として、かな?』
「んー。今回に限っては"どちらも"だね」
画面向こうの叔父さんが困ったように苦笑する。まあ、いきなり言われてもわからないのも確かだし、しゃーない。
「まずは聞いてくれると嬉しいかな。コホン。まず、私が今回こうやって顔を見せたのはある事情で"自衛隊の"力を借りる必要性が出てきたから。そして、そのために"叔父さんの"力を貸してほしいからなんだけど…。ちょっと文句言わせてね?叔父さん、出世しすぎだよ!?常々『上に上がりたくない』って漏らしてた癖にトップになってんのさ!?」
『え?それに文句言うの?トップになったのはほとんど透を探すためだよ?』
「へ?」
『んー。あんまり内情話すのもアレなんだけど、透が居なくなった当初の日本の法律じゃ推定他国の拉致被害に遭った日本国民を救出なんて不可能だったからね。ちょっと、上と法を動かすために最低でも閣僚まで権力に食い込まないといけなくてね~。全力で上を目指していた最中だったんだけど…。うん。必要なくなったかな?』
「えぇ…」
すっごいニコニコしながら言ってるけど、つまりは"私を探すために法改正目指してました"って事だよね?公私混同も極まれりだね!?
『まぁ、その下準備として色々と動いてたのが今のふざけた情勢下ですごく役立ってるんだけど…。うん。その事でちょっと透に謝ることがある』
「……義父馬鹿拗らせたこととか?」
『いや、そうじゃない』
私の反応に一瞬肩を落としたけど、すぐに持ち直すと画面向こうで悲痛な表情を浮かべる。
『ごめん。真弓くんを死地に送り込んで…結果彼女が命を散らしたのは僕の責任だ』
そのあとの叔父さんの話を要約すると、まず私の親友マユこと旧姓(!?)度会 真弓は自衛隊内に存在する叔父さん肝いりの実験部隊に所属していたらしい。
そして、今回の事件――正式呼称『一二二四事件』発生後、弟の度会 礼司をZ区内の協力者としてずっとその身分を隠させた上で情報収集任務に従事してもらっていたという。
そして、作戦途中で彼女が行方不明となり、おそらく死亡している――というお話だった。
『ごめん、透。僕は君の一番大事な友達を――』
「あ、うん。マユ生きてるよ?」
叔父さんの言葉のなかにあった"旧姓"って言葉に驚きすぎて、もっと勿体ぶって伝えるはずだったマユの生存を伝えてしまった。
驚いたように固まっている叔父さんに、口が滑った事を苦々しく内心思いながらも、言ってしまった事は仕方ないと私はこちらの事情を話し始めた。
「えっと、今事情があってれーじくんのマンションにいるんだけど。昨日の夜に、マユからの連絡?通信かな?を受け取ったの」
『……本当か?』
「うん。途切れ途切れだったけど、私がマユの声を聞き間違えるハズないからね。いくら年取ってても。それで、実はマユがどこに潜伏しているかもだいたい割り出してる」
私からそう伝えられた叔父さんは、一瞬ポカンとした表情を浮かべたものの、すぐにハッとした様に目を見開いた。
うん。たぶん、私の言ったことの意味を理解したんだろう。
『まさか、力を貸してほしいのって』
「うん。叔父さん思い付いたことに間違いは無いと思う。マユの救出に向かうから力を――」
『ダメだ』
予想していたとはいえ、やっぱり断られるよね。一人の義父としても、立場ある自衛官としても。
『透。お前、今の日本がどうなってるかはわかってるだろ!たった一人助けるためにそんな危険を冒すなんて――』
「危険じゃないよ?」
『……なに?』
言葉を遮って、私は話を続ける。
「私にとっては、危険なんて何一つもない。万にひとつもありえない」
被るのは勇者の仮面。
私の忌み嫌う、誰からも頼られる英雄としての言葉を紡ぐ。
「私は、強い。断言するよ、誰よりも何よりも強いって。だから、マユの救出を以てその事を叔父さんだけでなく、日本という国に証明しよう」
大胆不敵に。傲岸不遜に。そして、絶対の自信を感じさせるように、晴れやかに笑う。
「私の提示する条件はふたつ。ひとつは、マユの救出に自衛隊の人を同行させてほしいということ。そして、もうひとつは次に私がそちらに提示する『協力』を最後として、以降私に国として、公僕として一切の接触をしないこと」
笑みを深めて。お道化る自身を嗤って。私は、彼らに提示する。
私という、余りにも巨大な力の存在をいっそ傲慢なまでに開示する。
「これらの条件を飲んでくれるなら、私一人の力を以て"四国"を解放しましょう」
制御できない化け物をたった一度だけ使える権利を私は国に提示した。
◆◆◆◆
―――馬鹿げている。
僕の目の前で、荒唐無稽な言葉を口にした義娘を見ながら、背中に嫌な汗が伝う。
過日と変わらない笑み。過日と変わらない姿で突然僕の目の前に現れた義娘。
姉――笹川 凪の忘れ形見のかつては姪。今は僕たち夫婦の義娘であるはずの彼女が耳心地の良い声で語るのは、まるでちょっとお使いにいく程度の軽い言葉で。この二年間どれだけ作戦を考案したところで不可能と断じられていた日本国の悲願を『私なら可能だ』とのたまった。
いっそのこと。今画面の向こうに居る僕の義娘が、かつてのようにどこからか掃いて捨てるほど現れた、彼女の偽物達と同じならばどれほど気が楽か。
しかし、どれほど完璧に彼女を真似ようと、絶対に答えられるはずの無い質問に一切の淀みなく答えて見せた事が。彼女がまごうことなく"大柿 透"その人であると証明している。
カラカラに乾いた喉で唾を飲み込んで、唇を舌で湿らせてから言葉を口にする。
「馬鹿な事を言うな」
それに対して、義娘は不思議そうに小首をかしげる。
『私は、事実しか口にして無いよ?』
なぜ、僕がそんなことを言ったのかわからない。そう言いたげな顔。
「不可能だ。夢物語をするためにこうやって話を―――」
『ねぇ、とうさん。実はね、私がここに帰ってきたのって五年ぶりなんだ』
「……なに?」
やけに『ここ』と『五年ぶり』を強調した言葉を耳にして。一瞬思考が止まる。
そんな馬鹿なことがあるはずがない。だって、透が姿を消してから既に十七年の時が―――
そう考えたところでハッとなり、改めて画面を通して彼女を見つめる。
女性は化粧で化ける。そう言われているが、改めて見てみると彼女の姿に違和感を覚えた。
―――若すぎる。
もし、彼女がどこかの国に拉致されていたとしても、時は平等に過ぎていくハズだ。なのに、どうして透を見て僕は過日と変わっていないと感じたのか。
「これ以上は、私は話さないよ。聞きたいのなら、さっきも言った通り条件を飲んでもらわないと」
それきり、画面の向こうで義娘は微笑みを湛えたままの顔で口を閉ざす。
おそらく、彼女は自ら口にした通りこちらが提案を飲まない限りはしゃべらないつもりなのだろう。
「…質問は、していいだろうか?」
僕の言葉に、泰然とした態度のまま義娘は静かにうなずきを返す。
「まず…提案のひとつ目。仮に実効するとすればこちらは何をしたらいい?」
「何も…って言いたいけど、私の同行者二人…いや、一人と一匹の護衛かな?それ以外は見届け人として同行してほしいってぐらい。あ、車は出してくれたらありがたいかも?」
言外に義娘から『基本的に自分でやるから手を出すな』そう言われた気がする。
「まぁ、今回はデモンストレーションも兼ねてるからね。勿論、自衛隊という組織。ひいては日本という国に対して示威行為としての意味もあるけど」
示威行為…。示威行為と来たか。つまり本来は複数人で行う行為を一人で実行できるほど自分に力がある。ここまで自信に満ちた様子で言い切るからには、姿を消した十七年…彼女にとっての五年の間にそれだけの経験をして、そしてそう確信できるほどに力を付けたと言うことか。
ふと、頭の隅で酒の席で妻がポツリと呟いた言葉を思い出す。
『これだけ探してもいないんだし――もしかしたらとーるは、異世界にでも行ってんのかもね』
サブカルチャーに明るい妻いわく、当時の日本国内にてそんなフィクションの数々が雨後の筍の様に乱立していた時期があったらしい。
曰く。ある日突然、地球とは異なる世界に呼び出されることによって始まる物語だとか。
その後は戦ったり、戦わなかったりと話は派生していくのだがひとつだけ。テンプレートとしてこれだけは外せないという要素が存在してるという事だったが。
何を馬鹿な。違う世界に拉致されたのなら探しようがないじゃないか――確か、当時そんな風に返したんだったか。
しかし。しかしだ。
僕は割りと直感というものを大切にしてきた人間だ。だから今唐突に閃いた妻の言葉は、ともすれば正解だという可能性も考えられるのではないだろうか?
そう。ここまで言い切れる彼女の自信の一端。
それはつまり―――
「ズルい能力…」
ポツリと思わず漏れた言葉に、画面の向こうに見える義娘の瞳がわずかに揺れる。
それを見て、僕の頭の中でひとつの仮説が組上がった。
笑わば嗤え。こんな荒唐無稽な話があるかと、お伽噺ではないのだぞ、と一笑に伏すがいい。
だが、それでしか説明がつかない。
義娘が若々しいまま現れたことも、彼女のいっそ清々しいまでの不遜さも。
―――そして、そんな自分をまるで嘲るような、どこか悲痛さを感じさせる壮絶な笑みも。
当たり前だ。娯楽小説の様なことなど有るわけがない。姿を消す前は、比喩でなく虫も殺せない人間だった彼女が体験してきたであろう事を思うだけで気が狂いそうになる。
―――ああ、確かにそれは"チート"と呼んで相応しいだろう。その世界が負うべき責務を、その呼び出された一個人に総て押し付けるべく与えられる能力は。無責任で。卑怯で。横柄で。横暴な唾棄されるべきそれに与えられる名前として、実に相応しいではないか!!
画面を通して、義娘と目を合わせて。
「聞かせてほしい」
―――君の話を。
「透の異世界での体験談を」
彼女の目が見開かれ、瞳は驚愕に彩られた。
10/29(火)投稿
拙作をお読みいただきありがとうございます。
もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくおねがいいたします。
はみ出し世界観
③アメリカの現状
いち早くゾンビ禍を退けた背景には、事前に対応作戦を決定していたというモノがあります。
現在は、ロシアと長年の蟠りを捨ててお互いに手を取り合って全世界のゾンビ禍に対応していますが、互いに腹に一物をかかえてはいるようです。
ゾンビが居なくなったとき。間違いなくケーキの切り分けが始まることになるのですから。




