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2 叔父

予約投稿ミスに気付くのが遅すぎたマンです…。


今回、ちょっと切りどころが難しかったので短めになってしまいました。

 少しだけ、今の日本の話をしよう。


 日本政府が撤退して、北海道に臨時政府を置いてから日本本土は【Z区】と呼ばれて占領地と仮定されているらしい。

 この【Z区】って言い回しは、いち早くゾンビの駆逐に成功した(・・・・)アメリカの【Z-area】という呼称をそのまま訳したモノだけど、まぁ今は関係ないから置いておこう。


 そして、この【Z区】から自衛隊も撤退をしたのだけど何も完全に放置しているわけでは無い。各都府県の中でも人口が集中していた地域には偵察や(場合によっては)生存者の救助や援助を目的とした部隊が定期的に送り込まれている。

 ちなみに【Z区】内は、完全に占領された扱いかつ、超法規的措置によってゾンビを含む(・・)敵対的存在に対しては一切の攻撃が許可されているとか。怖いね~。


 彼ら――自衛隊の活動拠点として【Z区】内に存在しているのが『Z区内臨時基地』と呼ばれる基地。そして、幸運にも拠点としているこの街の近くにも『一○八Z区内臨時基地』という名前のそれが存在している。さっちゃんの合流先として候補に上げたこともあったね。


 そして、私が今向かっているのもそこだ。


 うん。人員が足りないなら、動かせばいいよね?って事である。

 幸いにして、私は彼らと交渉できる手札既にを持っている。交渉出来るであろう権力者とのパイプも。


「あれかな?」


 ゾンビを適当にいなしつつ進むこと一時間ほど。私の目に見えてきたのは、金網と有刺鉄線に囲まれた武骨な軍事施設の姿。


 私の姿を見咎めたのであろう。迷彩服を着てヘルメット(てっぱち)を被り。そして、ちゃちな猟銃とは明らかに用途の違う銃を携えた男性が一人金網の内側に姿を見せた。


 こちらの目的を測りかねているのだろう。まだ銃口は向けられていないが、その瞳には私が敵対しようモノなら迷わずに撃つという強い意思の光が宿っている


 私は、声が聞こえるであろう位置まで進み、ゆっくりと両手を挙げながら足を止めて声をあげた。


「こんにちは!」

「……」


 まぁ、予想はしてたけど誰何(すいか)の声どころか挨拶すらも返さない辺り。彼らにとって既にここは守るべき祖国ではなく、敵地なのだろう。

 それでも、私の行動に思うところがあったのか、彼の瞳には先程とは違う光がちらついている。


 背中を冷や汗が伝う。吐き気もする。でも、すでに私は(さい)を投げたのだ。

 片手を動かしてフードと襟で隠していた顔を解放してから、私は声を張り上げた。


「私の名前は"大柿" 透です!私の叔――義父(とう)さん、大柿 通幸(みちゆき)と話がしたい、です!どうか、義父さんにそう伝えてはくれませんか!!」


 私の伝えた叔父さんの名前を聞いて、彼の目が驚愕で大きく見開かれた。



 ◇◇◇◇



 はーい。臨時基地内に通された透ちゃんだよ。


 叔父さんの名前を聞いた隊員さんは、私が大人しくしていた事もあってとりあえずフェンスの中には入れてくれた。

 よく見ると、これ電流が流れるタイプの防御柵だったよ。


 ここで待っているようにと言って、奥に見えるプレハブ小屋へと行こうとする隊員さんにコートの内側に手を突っ込んで、こっそり【ストレージ】から取り出した私の財布を手渡す。

 指紋も採れると思うし、中には私のマイナンバーカード含む身分証明書が入ってる。たぶん、健康保険書は無効になってるだろうけどね。世界情勢的にも年数的にも。


 お金は一切入っていないけどね。あっちの貴族に珍しいって言って接収されたから。あ、思い出したら腹立ってきた。まぁ、換金したらそれ以上になる程色んなモノ持って帰ってきてるけどさ。


 流石に歩き回ったら怒られるだろうけど、ぼーっと待ってるだけなのも暇だし臨時基地を観察してみる。戦車や装甲車を置いていないのは盗難対策になるのかな?いや、『警察学校』に物資を運び込んでいるのかも。支援を受けているって話だったしね。


 土嚢(どのう)を積み重ねて土塁を作って、その五メートルほど前には溝が掘ってある。たぶん、突撃してきたゾンビの足を取るためだろうね。傾斜を付けて掘ってるし、上手く前にこけるよう計算されている。

 うーん。やっぱり私の力業の空堀より遥かに洗練された戦術を感じる。自衛隊の教本とかもらえないだろうか?


 こうやって見てみると、臨時基地と言うよりはしっかりと対ゾンビだけでなく対人も考慮されている野戦陣地という印象だね。


 結構時間が空いてしまったので、頭のなかで自分ならどうやって攻略するかのシュミレーションを開始する。

 だいたい私の頭のなかで徐々に"縛り"を加えながら十回ほど攻略を終えた頃に、私を招き入れてくれた隊員さんが戻ってきた。


「お待たせしました。お話の前に確認をしたいとの事ですので、こちらまで来ていただけますか?」

「わかりました」


 ニカリと男臭い笑みを浮かべた隊員さんに連れられて奥のプレハブまで案内される。


「では、こちらでお待ちください」


 うなずきを返すとキビキビとした動きで隊員さんが退室する。


 五年ぶりに座ったギシギシと軋むパイプ椅子の感触が懐かしい。普通にこれを使ってたけど、こんなに不安定なモノの上でよく寝れてたね。

 そんな由無(よしな)し言を考えていたら薄いドアをトントンとノックする音。

 どうぞ~。と間延びした返事をすると、先程とは違う隊員さんが入ってきた。


 私の顔見てすごい驚いてるけど、私も結構驚いたよ。まさか、自衛隊になってるとは。


後藤先輩(ごっさん)、おひさ~」

「……マジか。その呼び方、マジか」


 うん。やっぱり年食ってるな~とは思ったけど、後藤先輩だ。私が中一の時に付き合ってたけど、半年もせずに別れた元カレ?さん。

 あれを男女の付き合いと言っていいのかは今でもわかんないけど。


「あー。久しぶりだな」

「ん。そうだね」


 私にとっては五年ぶりだけど。

 たぶん、どう接していいのかわからないんだろう。頭をかきながら私の正面の椅子に後藤先輩は腰掛けながら「これやる意味あんのかね?」とかなんとかブツブツと言っている。


「ゴホン!えーっと、いくつか質問させてもらっていいか?」

「スリーサイズ以外なら」

「ゴメン。そういう残念かつ残酷な現実を突きつける話しはしない」

「ほう。さすがは巨乳の高校生に浮気をしたヤツは言うことが違うねー」

「ほんと、質問する意味あんのか…?どう考えても本人だろ…」


 その高校生に遊ばれてたことが判明して、後日泣きついてきた話しないだけ情けを掛けていると思ってほしい。


「えー。まず、お名前は?」

「大柿 透。"大"きい"柿"が"透"明で覚えてねー」

「はい、わかりました。では次ですが――」


 そこから続いた質問は、すべて私個人の事を聞くものばかりだった。たぶん私の偽物も現れたんだろうね、叔父さんキャリアだったし。

 後藤先輩はいくつかの質問に首をかしげていたけど、そのだいたいが叔父さんと叔母さんとの間でしか通じない話だったしね。


「…えー。では、最後の質問。『大柿 通幸が妻・徹子に送ったプロポーズの言葉は?』」


 あー。叔母さんが酒で酔った時に愚痴ってたやつかー。


「『姪を義理の娘として引き取る為に結婚してほしい』。後に続けて『もちろん、キミ以外の女性に頼む気は無いが』だね。うん。改めて思うとプロポーズとしては最低だね。引き取ってもらったし感謝はしてるけど」

「さらっとバラしていいのか?それ」

「いいのいいの。義母(かあ)さん酔っぱらったら毎回その話してたし」


 たぶん、上官だから笑うに笑えないんだろうね。


「あー。それじゃあ、ちょっと報告してくる。まず間違いなく大柿"陸幕長"とは話せると思うぞ」

「ごっさんありがとー」


 うん。なんか出ていくときに気になる単語聞こえたなけど、本人と話せるって事だしそこで聞けばいいさ。……叔父さん出世したなあ。


 ちょっと遠い目をしながらはめ殺しの窓から覗く青空を眺めていると、後藤先輩が大きめのタブレットを片手に戻ってきた。


 なぜかさっきより少し(しお)れているけど。うん、まぁこの部屋の音声どっかで拾ってるんだろう。


「ごっさん、電話使えるの?」

「一応、自衛隊と政府関係者は使えるぞ」

「ふーん…」


 まぁ、確かに連絡手段がないのは不便だもんね。

 質問に応じながらも後藤先輩は、てきぱきと用意を済ませていく。そして、タブレットを操作するとテレビ電話モードにしてから、彼は部屋の隅っこに移動した。

 保安の意味もあって、同席はしなきゃいけないんだろうね。


『……』


 タブレット画面に映し出されたのは初老ぐらいに見えるスーツを着た男性。

 白髪が増えてシワも目立つようになったけど、その男性の事を私が見間違えるはずなんてない。


「……叔父(とう)さん、ただいま」


 親を亡くした私を引き取って育ててくれた、お母さんの弟さん。結婚式もあげずに『家庭』の体裁を整えてまで、私を養子として迎えてくれた、優しい叔父さん。


 やっぱり同年代ならまだわかりにくいけど、画面に写る彼の今の姿は、私がこの世界にいなかった時の長さを改めて痛感させるモノだったけど。


『透、なのか…?』

「うん。母さんに十二歳まで育ててもらって、母さんのお葬式で『親子になろう!』って強引に当時二十八だった叔父(とう)さんに言われて。何不自由なく育ててもらったってのに、卒業式前日に居なくなった――透だよ」


 母さんの死が受け入れられなくて、なかなか泣けなかった私をギュっと抱きしめながら言ってくれたよね。


『透…お前、二十年近く何をしてたんだ…』

「うん。そうだよね。そうなるよね」


 叔父さんは何か言いたげに一度口を開いたけど、言葉にならなかったのか。それとも、あえて言葉にしなかったのか。

 言いたいこともたくさんあるのだろう。聞きたいこともたくさんあるのだろう。それでも、グッとそれらを飲み込んで、画面の中の彼はフッと優しげな微笑みを浮かべた。


『おかえり、透』


 旧交を暖めに着たわけではないし、本当なら今の私には叔父さんと顔を合わせる覚悟なんてできちゃいない。

 正直に言えば打算的な考えで顔を出したし、こうやって画面越しの再会といえ、今でも逃げ出したい気持ちで一杯だけど。


「ただいま…。ただいま…!」


 たった六年っていう短い時間しか『家族』でいられなかったけど。

 それでも、他の何を犠牲にしてでも守り抜いた私の大切な思い出だったから。地球(ここ)へと帰ろうと切望する程に会いたかった人のひとりだから。


 胸の内に溢れだした思いの数々は、言葉ではなく私の目からカタチとなってこぼれ出す。


 子どもっぽいって笑われてもいい。

 らしくないって自分でもそう思う。

 こんなことする時間がないのも、わかってる。

 刻一刻と親友の命の灯火が消えようとしていることだって、理解してる。


 それでも。それでも、今だけは。


 私に、涙を流す時間をください。

10/28(月)投稿。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくおねがいいたします。

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