1 論破
なんとか書きおわわわわわわ…… _(:3ノ<)_
お待たせしました!三章開幕です!
さっちゃんと歪ながら互いに情を交わし合い、恋人と呼ばれる関係となり一週間が経とうとしている。
ただねー。私、実のところ恋人と言うのがよく分かんない!だってさー、私の恋愛経験って中一で止まってるんだよ!?
確かに、夜の作法については精通している自信がある。ええ、ありますよ!?
だって、あっちの世界って娯楽がまったく無かったの。人の領域が削られてた訳ですから、生産力はほぼすべてを武器か物資に全力を注ぎ込んでたからね。余力なんて一切無しの右見ても左見ても『戦争のために!』ってなもんで、文明の開花なぞする余地が無かったの。
で。そうなってくると、人間我が身を使って娯楽にふけるしかないわけですよ。主に三大欲求に従うかたちで。つまり、食う・寝る・ヤるですよ。
けどねー。世界情勢がこっちよりはるかに世紀末してたあちらの世界。その三大欲求ですらなかなか娯楽にできないのよ。
食うに関しては、王族ですら常に強制高血圧対策料理しか食べられない。つまりは、調味料が無い。外食産業?強制的に上が食料の買い上げからの分配を行ってるのに育つとでも?
では寝るのはどうか。基本的にあっちの敵だった魔物ってね、昼夜問わず攻めてくるの。あいつらに人の都合とか関係ないの。
つまりは、寝てようと容赦なく。かつやかましく叩き起こしてくれる。【竜炉心】を手に入れるまでは常に寝不足になる程度には。
じゃあ、娯楽として成り立つのは。っていうとヤるしかないわけで。生存本能が刺激される世界ってのもあるんだろうね。
成人と見なされる十にもなる頃には皆そりゃもうお盛んだった。なんで十で成人だったか?そりゃ、戦争してて平均寿命が三十路かそこらだからね。
うん。そんな世界で五年も過ごしてたらそりゃあもう夜は達者になる。女に戻ったとは言え無駄に鍛えられたテクニックがなくなる訳じゃないからね…。
しかし、困ったことにあちらで恋愛に興じるなんて真似誰も許してくれない。こっちにいた頃はキスもまだしたこと無かったピュアガールだったんだけどナー…。せいぜい学校の帰りにおっかなびっくりお手々繋いで帰りましょーが関の山のピュアっピュアな関係しか知らなかったのにナー…。
天国のお母さん。透は汚れてしまいました。クスン。
うん。さっちゃんには照れ隠しもあって色々なイタズラしかけてるけど、完全に行動が思春期真っ只中の青少年のソレだよね。スカートめくりに情熱を捧げる小学生男子の心理を理解したよ。私二十三だけど。
まぁ。そもそも私にまだ恋愛に割いている余裕がないというのも事実。
この一週間は帰ってきてから特に忙しなくも精力的な活動に明け暮れていた。
だいたい、日中はフィールドワークに精を出し、生存者を見つけたら『グランドホテル』に立ち寄って。夜はマユ救出に向けて作戦書を作って、さっちゃんからストップがかかり次第彼女とまったり過ごす。
そんな感じで日々のルーティーンが固定されている状態だね。何回かさっちゃんが寝た後に夜の探索にも出掛けたけど。
まあ、精力的に動いた結果『緑の男』なんていう物騒な都市伝説が流れる羽目になったけど…。
一週間って短い間になんでこんなに働いてるのだろう?って私自身が疑問に感じるぐらい忙しい日々を送っていた。
そう、今日までは。
その時は、本当に唐突に訪れた。
ルーティーンと化している作業の諸々を終えて、さっちゃんと二人でそろそろ寝ようかなんて話ながらまったりとティータイムを楽しんでいた時。
かすかに聞こえてきたビープ音を私の耳が捉えた。
音の発信源は、彼女が生きていると信じているからこそ、用事(主に下着)が無ければめったに立ち入ることの無かったマユの部屋。
それを耳にした瞬間。私は弾けるように立ち上がると、転がるような勢いで部屋へと飛び込んだ。
音の発信源は、ウォークインクローゼットの奥に隠されていた武骨な。それでも、操作をできる限り簡略化された大型の無線機。
『――…。――デー』
音割れが酷くて、ノイズ混じりで。
『―じ。聞こ――……―なら―――』
機械を通した、とても聞き取りづらい声だったけど。
―――私が、その声を聞き間違えるハズがない。
私は、その声が途切れるのを待って【送信】と書かれているボタンを押す。
「……マユ。マユ、だよね?ただいま。透、だよ」
―――マユ。
「絶対に死んじゃダメだよ。私が迎えに行くから。私が、助けてあげるから」
おそらく、あちらの通信機はバッテリーすらも残っていなかったのだろう。私の言葉が終わると共に、ブツリと耳障りな音を立てて目の前の機械が沈黙する。
心臓が、痛いほど高鳴る。
さっちゃんを前にしたときとは違う。明らかにこの胸の拍動は戦を前にした時の、狂おしいほどの血の滾りに起因したソレ。
ユラリと立ち上がる。服を光が透けるほどに【竜炉心】が紅く輝き、身体中に魔力を満たす。
喉元までせり上がった咆哮を飲み込んで、私はゆっくりと部屋から出ようとし――足を止めた。
「さっちゃん…。何、してるの?」
開いたドアの先に、私の恋人が見える。
でも、なぜか彼女は荷物の点検を始めている。
「何って。出るのでしょう?」
訳がわからないと言うように、彼女は首をかしげる。既に≪魔法≫についても明かしたから、荷物なんて必要がないハズなのに、なんでさっちゃんはバックパックの準備を始めているのだろう。
私の訝しげな視線を受けても、彼女が点検をやめる様子は無い。
「さっちゃん。気持ちはありがたいけど、私に手荷物は―――」
「いえ」
短いけど、確かにその言葉には、さっちゃんの強い意思が宿っている。
―――まさか。
サッと、自分の顔から血の気が引いたのが分かった。高まった戦意が急速に萎えていく。それは、それは想定していた中でも最悪のパターン。
危険については重々承知しているだろうと考えて、恋人となる前にさんざん話し合って。
草案として起こす事無く、切り捨てた極少の可能性だったわけで。
「ダメだよ…」
口から出てきたのは、自分が意図したようなモノではない、焦りを含んだひどく弱々しい言葉。
先程とは違う意味で、心臓がバクバクと鳴り始める。つぅと、冷や汗が頬を伝いアゴへと落ちていく。
荷物の点検を終えたさっちゃんの視線が、私を射抜く。そこに宿った意思の光は、私の心を抉るような強さを湛えていて。
「わたしも、行きます」
危険に晒したくないから、その一心で切り捨てた可能性だったのに。
「わたしも。とおるさんと共に――≪危険地区≫に、着いていきます」
私が、守りきれる保証なんてどこにもないのに。
「助けましょう。三人で」
強い意思を秘めた彼女の言葉が私の胸をえぐった。
◇◇◇◇
覚悟を決めた人間は強い。それが全てを承知した上で、更に理論武装に加えて感情論まで勘定されたなら最早太刀打ちできない。
早くマユの救出に向かいたいと逸る気持ちを抑えながらさっちゃんの説得を行ったのだが、結局その翻意が叶わなかった私は、天井を仰ぎ見ながら溜め息を吐きながらそれを痛感していた。
彼女と出会ってから一ヶ月も経っていないわけだから、その全てを知っていると言うのはひどくおこがましい気もするけど、ある程度【東美 幸】という人格のおぼろ気な輪郭は理解しているつもりでいた。
しかし、まだまだ彼女を私は理解していなかったらしい。
温室育ちの守られる存在。そう私が考えていたさっちゃんは、存外アクティブさに溢れたおてんばさんだったわけだ。しかも、地頭は間違いなく女子高生の頃の私よりも良いときた。
説得するつもりだったのだが、いつの間にかコピーしていた私作の作戦立案書片手にダメ出しされていたよ…。
私の言い分(ほぼ懇願)を聞き終えた彼女は、にっこりと微笑み放った第一声が。
「帰路に推定負傷者を抱えているのに、お一人でゾンビの群れを突破できるとお思いですか?」
そこから始まったのは、私の立てた作戦に対して朝まで続くダメ出しの嵐だった。
指摘された事の大半は、大規模な魔法さえ使えれば全く問題は無いんだけど、今回はそれを使うことは想定せずに作戦を組んだ私が悪いっちゃ悪い。
その事を若干不貞腐れながら口にすれば。
「ええ。目立たないことを前提に作戦を組んでいますものね。とおるさんの事情については良く良く理解しておりますので、その事については思うところは全く無いです。しかし、とおるさん。この作戦は全くあなた自身の負傷などは考慮されておりませんよね?ゾンビに噛まれて、自身が≪転化≫しない根拠はどのようにお考えで?は?私は大丈夫?では、要救助者である真弓さんについては?もしも負傷していた場合、その体に血の一滴でも付着したらそれでアウトですよ?」
立て板に水を流すごとく、ひとつ反論すればその倍以上の反論がさっちゃんから飛んでくる。
さっちゃんも危険だよね?待ってた方が良いよ?って情に訴えようとすれば。
「え?私一人ぐらいなら、とおるさんなら守りきれるって信じてますから。これでもゾンビ発生から生き残っていますので自衛程度できますよ?もちろん、≪夜≫も≪飢餓≫も経験済みです。それに、確かにこの拠点は強固なのは認めます。でも、籠っているからと言って絶対に安全なわけではありませんよ?特に冬に向けて空気が乾燥してきていますので火をつけられては、いくらスプリンクラーが生きているとはいえ、水を貯水タンクに頼らざるを得ない以上防火設備は完全とは言いがたいですよね?二十階ですよ?逃げ場なんてありませんよ?」
そう私への絶対の信頼を覗かせながらも、こんこんと理論展開していって、泣き落としすら通じなかった。私の嘘泣きは魔法使ってるってバレてるんだよねぇ…。
もうね。最後の方は「はい…」「いえ…」しか口にできなかったよ…。ハハ…。
最終手段のベッドインからの甘やかしをしようとしたら、いつの間にかさっちゃんに懐柔されていたブラッドによる妨害工作が行われた。
うん。どうやら、彼もさっちゃんの話を聞いて私の作戦の問題点を理解していたらしい。
キミほんとに犬?人間インストールされてない?ファスナー背中にないよね?
かくして、二対一の状況に追い込まれ数の優位すら失った私には勝機など無かった。
さっちゃんがすごくいい笑顔で『やり直しです♪』って持ってた書類を破り捨てた時点で私の敗北が決まった…。
ちょっと破くのに手間取ってたさっちゃんは可愛かったけどね!
で。私は現在眠るさっちゃんを横目に必死で同行者の増えた救出作戦の立案真っ最中。
一度眠ってから、もう一度考えましょうって私の心配をしてくれたさっちゃんには悪いけど、こればっかりは後に回すことはできなかった。
私は現代戦には疎いけど、それでも今までそれができる状況でありながら一度も使わなかった通信がマユから届いた意味ならわかる。
もう、マユには後がない。暗号すら使われなかった通信が何よりの証拠だろう。
だから、一刻も早く彼女の。私の親友を助け出さなければいけないんだ。色んな意味で手遅れになる前に。
「うん。覚悟決めなきゃ」
気持ち良さそうに眠っているさっちゃんを横目で見ながら、決意を新たにしよう。
ある程度リスクを抱え込むことを決めたのは自分だ。それがひとつふたつ増えた所で、最終的な目標さえ間違わなければいい話だ。
私は、もう世界を救わない。
それでも、この両手で救える分は。私の決めた大切なものだけは救えるように。
「私になんかあっても、さっちゃんだけは無事に帰してあげるからね」
私は、この世界で私が持つ最大の鬼札を切ることを決める。
机に置かれたペンが、コトリと音を立てる。
作戦の立案は終わった。じゃあ、巻き込む準備をしに行こう。
カレンダーを見る。
そこには、今日の日付に付けられた丸印と『定期便』の文字。私の予想が正しければ、彼らにアプローチできるはず。
―――もうちょっと、先伸ばしにしたかったけど。
弱い私の心がそう溜め息を吐いたけど、利用できるモノはなんだって使わないと。
「ちょっと出掛けてくるね」
眠るさっちゃんの頬にキスをして立ち上がる。
部屋を出れば、ブラッドが『付いていこう』と言わんばかりに立ち上がったが、それを制してさっちゃんの護衛を頼む事にした。
渋々了承してくれた彼に苦笑しつつも感謝を伝えて、私は一人駆け出した。
さあ、叔父さんと話に往こう。
10/27(日)投稿。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくおねがいいたします。
次回。透の設定が明かされます。
はみ出し設定小噺
⑧『メディカルエリア』
舞台となる街に存在した医療施設の集合地。元々は工業地帯だったのだが、経営母体の倒産後しばらく放置されていたその土地を、国が医療モデルケースの設立を目的として買い上げ、そこに巨大な総合病院を中心に近隣でも類を見ない複合医療特区として再興させた。
ゾンビ禍発生直後、負傷した人たちがその街だけでなく、近隣の県からも大量に運び込まれた結果被害が拡大。
現在では日本国内有数のゾンビ過密地域として知られることになった。生存者からは《危険地区》として知られており、近付くと命は無いと言われているが、それでも手付かずの物資が眠る場所のため危険を承知で入り込む生存者があとをたたない。




