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本日二本目の投稿となっております。
一本目見てください!異世界転移要素なんです!
地球へと帰ってきた私を迎えてくれたのは、夕暮れ時のオレンジ色した空。
しばらく自分がどこに立っているのかわからなくて、ぼんやりと立ち尽くす。
まるで、迷子になったような錯覚を覚えた。
しばらくただぼんやりとしたまま、沈んでいく夕日を眺めていたのだが、なんか妙に息苦しい。気持ち的なそれではなくて、物理的に。もっと言うなら男用に作られたブレストプレートと胸板の間に詰め物をして、何かが潰されているような……。
ハッとして瞬時に、自身の股間に触れる。
無い。
乱暴に鎧を脱ぎ捨ててどこぞへ放り込み、シャツの襟から覗いてみればこの五年間影も形も無かった双子山(見栄)がそこには復活していた。
「……お帰りなさい。マイおっぱい…そしてグッバイフォーエバー、マイサン…!」
強制性転換した身としてはね、実際男の姿便利だったのよ?
月の物の心配は無いし、性倒錯者が居ない限りはどこで寝ようと味方陣地ならちゃんと次の日を眠った場所で迎えられるし。
消え去ったナニも排泄器官として見る限り優秀だったし。
玉蹴られる痛みも、月一毎に襲い来る痛みと比べれば持続しない分楽だったなァ!
女の子にはなー。悩みがおおいんだぞー。男の子諸兄はそこのところ理解しろよなー。
「やったー!……って、まぁ喜ばしいのはここまでよねー」
いやいや、これも現実だし。逃避では決してないんだけどね?
ただ、インパクトで言うならば未だ目を背けていたいこちらの方が絶大な訳でして。
うだうだしても変わらないし、いっそのこと意を決して口に出してしまう事にした。
「どうして、誰もいないの?」
ここは、あの日私が光に包まれた時に居たショッピングモールだと、頭ではとっくに理解できている。
本来なら学校帰りの学生や、夕飯の準備をする為に買い物する人たちで溢れかえっている時間帯のハズなんだよ。
なのに、誰も、いない。
それだけじゃない。人の気配を、息づかいを、営みを感じない。
よく見たら、あの世界に行く前に居たはずの喫茶店らしき場所も、一瞬そこが本当に同じ場所かわからなくなるほど荒れ果てている。
カウンターはボロボロだし、椅子や机も壊されていて、各所にはまっていたハズのガラスは割れている。
そして、極めつけは所々に見られる茶褐色の汚れ。……向こうで嫌になるほど見た光景が思い出される。
あれは明らかに、血の乾いた跡だ。
地震や災害にでもあったのだろうか。
そう思って店内をぐるりと見渡したが、そうでもなさそう。
なぜなら、店内の破壊に人の意思を感じたから。
「ファンタジーが終わったと思ったら、次はホラーってこと?」
皮肉気にそう呟いたが、妙にその考えにしっくりきた。
「それもバ○オじゃない。デッ○ラとかの生存者とも敵対するタイプ」
ああ。と、独り言を漏らしながらもその考えは間違ってないだろうと確信した。
そう。これは戦闘跡地だ。
横倒しになった机や椅子は簡易的なバリケードとしていたのだろう。
飛び散った血の汚れの向きと、全て外側へと向けて割れてしまったガラスから、入り口側から店内に向けて攻撃――恐らく銃撃――があったのだろう。
そして、今や寂れきった店内。
痛いほどの静寂の中、がらんどうに響き渡る私≪人間≫の声。
ああ、このあとの展開に予想がつく。だって、さっきから何かを引きずるような音が聞こえるんですもの……。
「う゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」
人間の喉から出してはいけないうなり声のした方を向けば、ボロボロのパンキッシュな―というには無理のある―服装の、すっごく不健康そうな人影が……。
「ですよねー」
そう諦めたように呟いて、私は逆方向へと駆け出した。
認めたくなかった。だけど、認めよう。
異世界があったのだから、こういう展開も有ることを。
どうも、私の愛した日常は、ゾンビによって食い荒らされたみたいだ。
◇◇◇◇
うわぁ おほしさま きれー 。
以上。現実逃避、終わり。
今現在、私のいる場所はショッピングモール屋上に設けられた屋上駐車場である。
とっぷりと日が沈み、地上の明かりがすっかり消えてしまっているためか、キラキラと光輝く星空が綺麗なのは確かなんだけどね。
んで、どうして上に逃げたかって言うとゾンビさん走れはするものの、階段上れなかったの。
これ幸いとエレベーター、エスカレーターの停止した今。階段しか移動手段の無い屋上へと逃げ込みました。
ちなみに下がり階段をゾンビ達は転がって(落ちて)移動できてたから、吹き抜けから眺めた下階の風景は壮観だったよ!
ゾンビ。と、呼んで良いのかはわからないが、向こうでも実は割りとポピュラーな敵ではあった。
何せ、しっかりと供養されずに残った死体の大半が歩き出す世界だったから。正直、日本人に馴染み深いファンタジー生物第二位辺りに位置するであろうゴブリンよりも頻繁に見かけるぐらいだ。
兵士どころか村の子どもですら、夜に出会わない限り驚きもしない生命?体であった。
向こうの奴らは武器使ってくるけどな!!
ちなみに、お馴染みファンタジー生物第一位であろうスライムさんは、特級危険生物でした。
物理どころかほとんどの魔法すら効かない。水さえあれば際限無く復活するヤベー奴でした。
「まぁ、屋上は屋上でこれだけどもさ…」
確かに、ゾンビは居なかった。居なかったのだけど、先達も私と同じように上を目指したのだろう。
そこにあったのは、生活感が少しばかり残るキャンプ跡地だった。
破壊されたテントの錆の浮いたフレームだけがいくつも残されている光景を見るに、結構な数の生存者がここで生活をしていたハズ。
ひっくり返されたバーベキューコンロからこぼれ落ちたハズの炭はすっかり風に飛ばされているが、わずかに残る焦げ跡からして恐らく襲撃を受けたのは飯時と予想がつく。
そして、等間隔で屋上の縁に杭で打ち付けられたロープが外へと向かって伸びている。
地上からおおよそ30メートルにもなろう場所からラペリングで脱出したとは考えられないから恐らくあれはそういう事。
風が吹くとわずかに揺れる辺り、繋がれているモノは大分軽くなってしまったのだろう。時折カラカラと寂しい音が聞こえてきます。
一応確認の為覗いてみたが、まぁ予想に違わないモノがそこにはあったわけでして。
つまり、ここは落とされた砦だ。
吊るされた彼らは、敗残兵のなれの果てだ。
ゾンビが蔓延るような世の中。人と人とが争うことになるのは目に見えている。
不足する物資。止まった生産。ヒトモノ問わず資源は先細るばかり。
人々を文明に繋ぎ止めてくれる、法という錨は既に無く。街中にはゾンビと言う名の危険に溢れ、人命の価値は大暴落を続けていく一方。
明確なルールを定めた共同体を作る?正しい。
圧倒的なカリスマの下集まって、前時代的な階級社会で生きる?それも正しい。
バイキング的な略奪と征服を目的に、いっそ刹那的な快楽に溺れる?……忌々しいが、間違ってはいない。
だって、ルールは再構築しない限り存在しない。それら主張がぶつかった結果が、この凄惨な光景。
どこにでも転がってる、生存競争の敗北者の末路である。
「確かに気に入らないけど、こんな感想が出てくるとは…」
勇者失格だな、私はと呟いて、自嘲的な笑みを浮かべようとして…失敗した。
いや、笑みを作るのは失敗してない。
だけど、それは自嘲的と言うにはあまりにも晴れやかで。
頬っぺたに両手を当てると、明らかに形作られているたのは満面の笑みで。
ああ、そうか。
ストン。と、勇者失格という自らがこぼした言葉が胸に落ちる。
もう勇者じゃないんだ。
勇者、しなくていいんだ……。
「アハっ!アハハ!アハハハハハ!!」
そして、喉を突き。口から割り出でたのは晴れがましいまでの。それはもう久しぶりに聞く自分の笑い声。
爆発した歓喜の大音声。
ちぎれ飛ぶ鎖を幻視する。
あれは、人からかけられていた期待だろう。
重りが砕け散るのを幻視する。
たかだか18の若造に、それも一般人の細っこい両肩に世界は重すぎた。次はアトラスに頼んでほしい、彼はプロだから。
「ごめんね!みんなごめんなさい!!私、みんなに会いたくない!!アハハハハハ!!」
いつしか、狂笑には嗚咽が混じり初めて。ようやく私は自覚した。
耐えられたと思い込んでいた、痛みを。
我慢できたと信じていた、理不尽を。
無理なことだとわかってたくせに、目を逸らして。背をそむけて。気付かないふりをしていた。
あの世界の全人類から心に深く深く突き立てられた心無い≪私≫に向けられた悪意と。≪勇者≫へと向けられた無償の善意は。
トラウマとなって心を蝕んでいた。
だから、ごめんなさい。
たぶん。今叔父さんと叔母さんから温かい言葉を掛けられるだけで私は嘔吐することでしょう。
おそらく。友人が涙ながらに抱擁してくれたら狂乱してしまうにちがいありません。
人間から向けられる私への善意も好意も。信じることなんてできないほど、自分が傷ついてたって自覚して。
こんな世の中だから、誰とも会わなくても仕方ないって言い訳が通ると理解した今。
会えないことが嬉しくって仕方がないなんて。
だから、ごめんなさい。
もうちょっとだけ、時間をください。
安売りして足の出た勇気が戻ってくるまで、会いに行かない事を責めないでください。
「ひっぐ…!ごめん、なさい!ごめ……ぁぁぁぁぁぁっ!!」
肩を掻き抱いて、膝がくずおれて。
小さくうずくまりながら涙を流して。
声も涙も枯れさせてやっと。
私は、勇者を終えたことを自覚した。
◆◆◆◆
彼は、飢えていた。
そこらを歩き回るニンゲンモドキは見るに耐えない。
たまに見かけるニンゲンも、危険で不快な臭いを撒き散らしている為、近寄る気さえ起こらなかった。
そう、彼は飢えている。
愛する隣人がオカシクなってからこの方ずっと。
腹一杯食事をしても、ゆっくり日長一日まどろんでみても、隣人と共に歩んだ道を歩いてみても。
一向に、彼の飢えが癒えることなどなかった。
そんな折りにふと、彼の耳が遠くから響く音を。誰かしらの上げた声を拾い上げた。
吠えるように響くそれは、何という感情の発露であったか。
いつしか、それは聞こえなくなったが、聞こえなくなると何故か、彼の心が大きくざわついた。
―――声の方向へ往こう。
自然と、脚が向く。
何の根拠も無かったが、優れた本能が彼に囁いたから。
―――あの声を見付けられたら、飢えが癒える気がする。
その巨体からは考えもつかない程の速度で。彼は夜闇へとその身を踊らせた。
10/9(水)投稿②
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