疑似生物
感想を二件も頂いてしまいました!
気付いた時に変な声出るほどうれしかったです!
今回はさっちゃん視点のお話になります。
わたしに同性の恋人ができてから一晩がたってのこと。
探索から帰ってきたとおるさんは突然。
「さっちゃーん!今から一緒にお風呂入ろう!!」
と、ただいまも言わずにそうのたまいました。
「……はい?」
「いやいや。そういうイベントまだしてないじゃん!?ほら、本音で話すには裸が良いって昔の人もそう言ってるし!」
……たぶん、"裸の付き合い"にはそんな意味は無いと思うのですよ?
「ダメです」
「ぶぅ。お堅いなあ」
確かに、一度は肌をさらした事はあります。ええ、ありますとも!でも、あれはあくまでも介護の一環であり、やましい事が無いから許されることっ!
「もぅ。とおるさん、話し合ったでしょう。お互い一糸まとわぬ格好をするのは、しっかりと終の住みかを見つけてからにしようって」
「そうだけどさー」
そう。あのあとブラッドさんも交えて色々と話し合いました。……ブラッドさんは『ワン』としか言いませんが、絶対にこの子話の流れとかわかってますよね?
とおるさんには時間が必要。他の人に心を開くのは、まだ無理でしょう。わたしが聞いた限りでも、だいぶヘビーな体験をしたようだから。
だから彼女の友人であり、この家の本来の持ち主である"度会 礼司"さんのお姉さんの"真弓"さんの捜索を終え次第。わたしたちは新天地を求めて旅立つことを決めている。
ちょっと気になったので聞いたところによると、真弓さんはいたって『ノーマル』なお人だそうな。
……恋人としては、気になるじゃないですか。
「だったらブラッドと入ってくるよー」
「はい。そうしてください」
そう言ってプラプラと手を振りつつ、とおるさんはリビングを出ようとして。
「あ。さっちゃん、ただいま」
「はい。おかえりなさい」
思い出したように『ただいま』とわたしに伝えてからお風呂場へと歩いて行った。
こういう何気ない会話って、すごく素敵だと思うの。
◆◆◆◆
お風呂から上がり、カウチソファに腰かけてギターの調律をしているとおるさんの隣に座る。
昨日から、とおるさんと私がここに座ろうとすれば、ブラッドさんが場所を空けてくれるようになりました。本当に気遣いのできるワンちゃんですね?
「そういえば、ちょっと疑問なのですが」
「んにゃ?どしたの?」
しばらくギターを弾くとおるさんを眺めていたのですが、ふと疑問に思っていたことを思い出したので聞いてみることにする。
「いえ。下水道が止まっているのに、なんで台所やトイレを普通に流せるのかな、と。」
下水道が止まってしまえば、台所のシンクやお風呂。トイレから水を流しても処理ができない。そんなことをすれば最悪汚水が逆流することになってしまう。
前に身を寄せていた母校では全てのトイレを閉鎖して、テニスコートに汲み取り式のトイレを作っていた。
なのに、今の拠点では普通に水を流している。
ずっと聞こうと思っていたけれど、最近の色んな出来事に流されるまますっかりその疑問が抜け落ちていた。
とおるさんは、ギターを弾く手を止めて「あー」と気の抜ける声をあげる。
「そかそか。魔法について明かしたのも昨日だし、説明してなかったね。おおざっぱに言うと、それも魔法の一種だよ。ちょっと、待っててね」
そう言って立ち上がると、ギターをケースに仕舞ってそのまま無造作に胸の前に開いた穴へとそれを入れる。
……【ストレージ】と言っていましたが、この光景にはまだ慣れそうにないです。
パタパタと足音を鳴らしながら台所へと向かったとおるさんは、コップにお水を注いでなにやらゴソゴソとしている。
そして、作業が終わるとそのコップを持ってこちらへと戻ってきた。
ブラッドさんも興味を覚えたのか、首をこちらに向けていますね。
コップに入っていたのは、うす青く色の付いた水。何をするのだろうと眺めていると、とおるさんはまた【ストレージ】を開くと、トランプのカードほどの大きさをした金属片を取り出した。
『―――――』
とおるさんが、なにやら聞きなれない言葉を口にすれば、その金属片に幾何学的な図式がひとりでに描かれていく。
そして、すっかり図式で埋まったそれを水のなかにぽちゃりと落とすと、なぜかその金属片は底まで沈まず、コップの中ほどでピタリと落下を止めた。
そして、次の瞬間。
水がブルブルと震えたかと思うと、のそりとコップから這い出した。
わたしとブラッドさんは、目を丸くしてその不可思議な光景を食い入るように見つめてしまう。そんなわたしたちを見て、とおるさんは得意気に笑った。
「ふふー。驚いたでしょ?これが、廃水の処理を行っている正体の≪ウーズ≫だよ」
「ウーズ…?」
わたしが首をかしげると、彼女はウーズと呼んだモノの中へ何か丸い物を落とし入れる。
すると、入れられた物はしゅわしゅわと音を立てながら姿を消してしまった。
「この金属片は【回路】って言って、いわば擬似的な【炉心】の役割を持った代物なの。で、これを一定の手順を踏んだ土や水なんかに入れると【ゴーレム】を作ることができるの。で、これはその中でも汚物処理に特化したゴーレムの一種。正式名称≪粘体疑似生物五號≫。商品名≪ウーズ≫だよ」
そう言って、それをコップへと回収して【回路】という金属片を抜けば、また普通の水へと戻ってしまった。
「えっと、殺したんですか?」
「ん?違うよ。またこれを入れたら動き出すよ?あくまでも停止させただけ。じゃないと設定した大きさまで勝手に育つからね」
彼女の言葉に、へ~と感嘆の声を漏らす。ブラッドさんは動き出した水が信じられないのかしばらくの間臭いをかいでいたけど。
「ここを拠点として、次の日には地下深くにウーズ槽を作ってね。下水管を適当に繋ぎ直して生活廃水の一切がそっちに向かうようにしてるから、トイレを問題なく流せるんだよ」
他にもねー。そう言いながらさまざまな物に【回路】を埋め込んでいくとおるさん。
砂に埋めれば≪サンドゴーレム≫に。石にくっつけると≪ストーンゴーレム≫に。一番驚いたのは、植物の植わっている土に埋めるとその植物が立ち上がった事だ。
これは、とおるさんも予想外だったのか。立ち上がり走り回るその姿を見て楽しげな笑い声をあげていた。
「いやぁ。シュールな光景だった」
ひとしきり笑い終えたとおるさんによって、走り回る植物には≪ランナープラント≫と名前が付けられる事になったのだが、そんな安直なネーミングをして良いものなのだろうか。
「とまあ、こんな風に≪疑似生物≫っていう向こうの技術を使うことで私達の快適な生活は成り立っているのだよ」
「なるほど…。あ。思い付いたのですが、それを使ったら誰でも魔法が使えるのでは?」
魔法使いというモノにほのかな憧れを抱いていたのでそう提案すると、とおるさんは困ったような笑みを浮かべる。
「理論上は、可能かな」
「ほんとですか!」
「最後まで聞くようにっ!あくまでも理論上だからね。試した人は居ないでもないけど…。みんな失敗してる」
「そうですか…。ちなみに、なぜ失敗したのですか?」
そんなわたしの問いかけに、とおるさんはすごく悪い笑みを浮かべると。
「そりゃあ、胸を切り開いて直接心臓にこれを埋め込むんだもの。途中で被験者がことごとく死亡して失敗したんだよ」
……異世界の方。頭おかしい。
そんな感想を抱いてしまっても、わたしは悪くないと思います。
10/25(金)投稿。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
お気に召しましたら、ブクマや評価。感想など頂ければ嬉しく思いますので、よろしくおねがいいたします。
ちょっとした幕間を三~五話程度投稿しようと考えています。
三章はよ!という方は、ぜひ急かしてください(笑)




