10 希望
前話の胸糞中和のため、百合の加速する幕間投稿を早めるべく投稿を加速します!
というわけで早速投下ァ!
屋上へと駆け抜けた途中。切り捨てたゾンビの多くが女性の個体だった。
そして、階を上るほど出てくるゾンビが衣服を着ていない個体が増えていく。そのたびに心に言い様の無い不快感が溜まっていくのを感じた。
そして、屋上入り口。張られたバリケードの前にたむろしていたゾンビを残らず切り捨ててから突入して、その光景を見た瞬間に私はキレた。
一匹の頭を引き抜いた時にある程度冷静になったけどね。
もう一匹の片腕を切り飛ばした方はまだ死なれると困るからヤバめのお薬打ち込んでから【治癒魔法】流したら白目向いて気絶したけどなに、すぐに飛び起きる。
散々ヤバイ光景を見せたためか、私の設定のような偽物では無い本物のお嬢様方が口を開けて間抜け面を晒していらっしゃる。
私は、目元だけに優しげな笑みを浮かべると、首を抜かれた男が持っていた万能包丁を彼女らの前に放り投げた。
ヒッ。と喉の奥から絞り出すような悲鳴を上げるお嬢様に猫撫で声で私は問いかけながら、白目を向いて気絶した片手の男を指差した。
「ねぇ、憎くないの?」
笑顔のまま持ちかけるのは、倫理観がぶっ壊れた世界だからこその甘美な誘惑。
取り戻せない尊厳を補うための儀式へのお誘い。
「アレを今なら好きにできる。もしもキツイなら、私が代わりにヤルけど――それでいいの?」
覆水は盆に返らない。だけど、その盆に新たに水を満たすことはできる。
「それで貴女たちは、スッキリするの?」
―――ドロリ。そうとしか形容できない怪しい光が、彼女らの目に灯る。
「貴女たちの信じる神様は、確かに復讐や報復に否定的だ。―――だけど、神様が今の世に存在すれば、そも君たちはこんな目に合わなかった」
ちがうかな?そう甘美な言葉をかけるたびに、彼女らの目に宿った光が強くなっていく。
サンタルチア――盲目の聖人の名を冠するこの学校の根底にあるのは神学校としての教え。興味がなかろうと、彼女たちの信じていた過去の常識には、その教えが根付いているだろう。
だから、私は彼女たちに絡み付く常識を引きちぎる。
まるで、人を誑かす悪魔のように。
「君たちは耐えた。そして傷ついた。だというのに!」
気分は舞台女優。両手を大きく広げながらクルリと彼女らに背中を向けて、嘆くように右手で露出した目元を覆い魔力を回す。
そして、ぐりんと首を後ろに向け、手を外しながら彼女たちを見やる。私の目は、彼女らから見れば涙に濡れている事だろう。
「嗚呼、神は君たちを救わなかった!未だ君たちを襲った暴虐を生かしたままだ!!こんなことを、許してもいいのか!!否ッ!!」
強く、そう言い切ってから地面に落ちた包丁を手に取り、まるで姫に捧げ剣する騎士の如く彼女らの前に跪いて恭しくそれを掲げる。
「君たちには、復讐する権利がある。君たちには、報復する義務がある。安心してほしい。私が、見届けよう」
ゴクリと唾を飲み込みながら、私の前に居た少女が柄を握るのを見届けてから、私は優しく微笑みを浮かべる。
「しかし、お嬢様方が奴と同じく畜生道へ堕ちるのは忍びない。よって、不肖私めが細工をさせていただきました」
そう言って、スッと立ち上がり未だ気絶している男の腹を人差し指をツイと這わせる。
「あ゛ぐぎゃアアアアアア!?」
すると。それだけで男はまるで熱した火箸でも当てられたように、悶絶し。絶叫しながら目を覚ます。
「このように、少し触れただけでもこの畜生には耐え難い痛みが走ります。ええ。例え、それを突き立てずとも、薄皮一枚切るだけで、貴女方の味わった苦痛の何千。何万倍もの苦痛に苛まれる事でしょう」
叫び続ける男が逃げないよう、彼女らに危害を加える事が無いように右足で踏みつけて縫い止める。少々煩いが、能面の様な表情を浮かべる彼女らの耳には届いていないらしい。
ふらりふらりと虐げられていた彼女達が、虐げていた男を取り囲み、見下す。
「あ…。あ゛や゛ま゛る゛!!あ゛や゛ま゛る゛がら゛!!やめ―――
男を襲った地獄の苦しみが終わったのは、それから二十分ほど後の事だった。
◇◇◇◇
復讐を終えて、ぼーっと呆ける彼女たちはそのまま屋上に残してきた。
一応、この後救助が来るから動かないように言って、気分の落ち着くお香だけ焚いてきたけどね。
ほんとなら男は尋問して色々と聞き出したかったけど、あんな状況を目にしたからには彼女らの今後を考えざるを得なかった。
復讐は何も生まないって言うし、私も概ね同意するけど、暴虐に曝された人が前へ進む儀式としては必要だと考えている。
江戸時代には『仇討ち』は立派な権利だったしね。
殲滅できないのは業腹だけど、どうせどっかで出会うときがあるだろう。その時にキッチリ落とし前をつけさせればいい。
さて。私は今、ゾンビの死体溢れる寄宿舎内へと戻って、生存者の捜索を名目に目当てのモノを探している。
うん。あくまでも賊の抹殺も、生存者の救出も今回ばかりは寄り道で蛇足だ。本来の目的を忘れてはいけない。
「おっと、ここだ」
そう言って立ち止まったのは【527】とプレートの掛かったお部屋の前。
流石は天下のサンタルチア、寄宿舎の部屋数が半端ない。中高合わせて全校生徒が千人越えてて、その半数以上が寄宿舎を利用していた以上仕方ない事だとは思うけどね。
それでも一階につき三十部屋以上とかカプセルホテルかよ。ってレベル。
心の中で愚痴を漏らしながら部屋を開けると、案の定部屋には荒らされた跡。
ただ、さっちゃん曰く相部屋の人たちも襲撃時部屋から出ていたらしいため、性臭や死臭はせずに、息をすればほこりっぽさだけが鼻を突く。
襲撃者たちにとっても娯楽も、食料も無い。せいぜいあって女の子の服しか見つからない部屋には用がなかったのか、私の目当てのモノ。つまり、さっちゃんの衣類を集め終わるまでそう時間はかからなかった。
さっと集めた衣類をボストンバッグに詰め込んでから【ストレージ】へと放り込む。
「おーい、トオコー!」
いやはや、これで一安心とホッと息を吐いたところで茜さんの声が聞こえてきたため、私は部屋から顔を覗かせる。
すると、結局五階に上がるまで私と合流できず気を揉んでいたのか、茜さんは私の顔を見てあからさまな安堵の表情を浮かべた。
だが出てきた私の姿を見て、表情が凍りついた。
「あー…」
彼女の表情を見て、私は全身を改めてから納得する。
うん。そりゃあ、人の頭を引き抜いたらこうなるよねー。
「だいじょうぶ、返り血ですよ?」
なんか言い回しが某攻略本っぽくなったけど許してほしい。割りと頭に血が上ってて気にしてなかったのさ。
「えっと、ゾンビの血じゃあ、ねえよな?」
半身をずらした茜さんの問いかけに、ああと納得の声をあげる。
そういえば、血液を浴びてもアウトなんだっけ。茜さんや真琴さん、桂華さん前衛組が突撃前に口元をバンダナで覆って居たことを思い出す。
ゾンビはすれ違い様に切って、そのまま駆け抜けるから血を浴びたこと無いや。
「アウトロー気取ったバカの血だから問題ないよ」
「……それはそれで問題だとは思うのですが?」
おっと蛍さんからの突っ込みが入った。まあ、上を見たら苦言は出ても文句は出ないだろう。
「あれを生かしておくのは、ねぇ…。ま、今は置いといてそっちはどうだった?」
私の言葉に、一瞬蛍さんが眉根を寄せたが、彼女を遮るように出てきた真琴さんが首を横に振った。
「ここまで収穫無しです。トオコさんの方は?」
まぁ、このぐらいの茶目っ気は許されるだろう。一応は、生存者の捜索をお題目に掲げてたのだ。
私はすっとブイサインを作って、口元を覆っていたマスクを外し、露出させた口角を引き上げる。
「六人。生存者、見つけたよ!」
私の言葉に全員が固まったが、次の瞬間には全員の顔に笑みが浮かび、茜さんが快哉を叫んだ。
人でなしの私も、歓喜に震える雰囲気を嬉しく思い、わずかに微笑んだ。
◆◆◆◆
陥落したと思われていた『サンタルチア女学院』内にたった六名とは言え生存者が見つかった。それは、最近流入者が増えたことで荒んでいたうちらに久しぶりにもたらされた朗報だ。
あのあと屋上に上がり、そこで繰り広げられていたであろう狂宴の跡を見つけた時は流石に絶句したが。
あれを見た後で、トオコを責める事はうちらの誰にも出来なかった。
むしろ、同じ女としてよくやった。そう言っちまったね。
その後、一階の寮母室にて発見した無線機を使い『警察学校』に応援要請を出したことで、うちらのサンタルチア捜索は終わった。
そして今うちら『グラウンドホテル』選抜隊の面々と、今回の雇用主にして今作戦最大の功労者たる女性のトオコ――東美 透子は迎えに来た『学校』の装甲バスの前で別れの時を迎えようとしていた。
トオコは、バックパックから次々に「追加報酬だよ」と言いながら貴重な缶詰を取り出している。
お前のぶんはいいのかよ?そう聞いたのだが、元々缶詰は"通貨"として仮の拠点から持ってきていたらしく、最初から自分の取り分は考えていなかったそうだ。
その証拠に、バックパックには小袋が入っており、その中には干し肉が詰め込まれていた。
一枚もらったが、なかなか美味かった。ついでに言うと、まこっちゃんは肉を口にするのも久し振りだから泣きながらしゃぶってた。
「ほんとうに、いいのかい?」
バスに乗り込んで、窓から顔を出して『うちらのコミュに合流しなくていいのか』と意味を込めて問いかけても、彼女は覗かせた目元だけを優しく細めて首を横に振るばかり。
「うん。まだ従妹ちゃん見つけてないからね」
少し寂しさと諦めをにじませた声は、その従妹がどうなったか理解していることを雄弁に語っている。
うちらも確認したが、彼女の従妹――東美 幸というらしい――の部屋は荒らされていたが、そこに人のいた痕跡が少なく、かつ荷物がいくつか無くなっていた。
それは、トオコの従妹が一人。地獄となった学院から脱出出来た可能性を示す、彼女にとっての『蜘蛛の糸』。
―――二年間、たった一人で探し人を求めてさ迷うのは、どんな気持ちなのか。
つい、そんな疑問が頭に浮かんだからか。
「寂しく、ないのか?」
私の口をそんな言葉が突いていた。
その言葉に、トオコは一瞬だけ目を丸くしたが、フッと息を吐いて愉快げに目を細めた。
「ありがと。もう慣れたからへーき」
なんの感情も感じさせない。本当に、何でもないようにトオコの放ったその言葉は、うちの心を軋ませた。
いったい、それを「平気」だと言えるまでに彼女はどんな経験をしたのだろう。
戦地帰りと言うだけあって、異常なまでの戦闘力と精神力をあわせ持っていても。その答えを口にできるようになるまで、いったい彼女はいくつのモノを捨てねばいけなかったのか。
それを思うだけで、うちの胸の中にはまるで鉛を飲んだような息苦しさが広がっていく。
周りの奴らだってそれを想像したのか、一様に苦虫を噛み潰したように顔をしかめている。
だって寂しさに慣れたと言うヤツは。本当に平気だとのたまうヤツは。
一度だけ晒されたトオコの口元に浮かんだような、優しくて。それでいて儚げな笑みなんて忘れてしまうのだから。
うちらの間に下りた重苦しい空気を吹き飛ばすように、トオコが明るく声を上げる。
「本当に大丈夫だって!さっちゃん見つけたらそっちに合流するから!」
「……そうだな。そうだよな!何も今生の別れって訳じゃねえよな!」
それは、本当に彼女へと向けた言葉だったのか。
「そうそう。折角日本に帰ってきたんだから、私は絶対彼女を見つけるよ!だから、今はここでお別れしよう?」
「そうだな、またな!」
「次も銃には期待しますね!」
「こっちに来たら一度手合わせをお願いします!」
「次は名誉挽回させてね!あたしのドローン操作は本当にスゴいんだから!」
「ようかん、美味しかった!!」
「今度会ったら軍格教えてね~。男の急所を潰す技があれば、尚良しっ!」
口々に別れを告げると、うちらの乗ったバスが走り出す。
トオコは、その姿が見えなくなるまで手を大きく振っていた。
「また、会えるよな」
そう私が呟くと、隣に座っていた蛍がうなずく。
「そう信じましょう。希望を持つことは、大切です」
そうだ。こんな世の中になってしまったからこそそれは必要なことだ。暗い日々に揉まれている内に忘れていた、本当に大切な事。
そんな忘れちゃいけなかったモノを彼女は思い出させてくれた。
誰もが絶望視していた地獄の中を彼女だけが生存者を信じて切り開いていた。
後ろの席を見ると、彼女によって救われた六人の女の子達が安らかな寝息を立てている。
―――だから。
「あいつなら希望を見つけて現れるさ」
そんな何の根拠もない言葉だけど、うちら六人は確かにそれを信じられた。
10/23(水)投稿
お読みいただきありがとうございます。
お気に召しましたなら、ブクマや評価。感想などよろしくお願いいたします。
はみ出し設定小噺
⑦サンタルチア女学院
ゾンビ禍発生時、生徒・教員合わせて986名が在籍していた女学院。
プロテスタント系の学校で、透は見落としていたがチャペルも学校敷地内に存在している。
周りの山や森の全てが学校所有の敷地となっているお嬢様学校で、その名は舞台の街だけに留まらず日本全国に有名なほどであった。
詳しくは拙作本文に譲るが『お嬢様の温室』『高嶺の花園』『ナンパ師最大の難関』など様々な名前で世の男たちから羨望の眼差しを向けられていた。
作中で壊滅。犠牲者合計948名、行方不明者(おそらく襲撃犯に連れ去られた)31名。
生存者、7名。




