9 蹂躙
後半胸糞表現あります。書いてる私の精神がキツイ。
カニバルなどを連想させる表現があります。ご注意ください。
◆◆◆◆以降になりますので、苦手な方は読み飛ばしてしまっても次話は話が伝わるように書きますので、問題ありません。
サンタルチア女学院の施設のひとつではあるが、校舎と寄宿舎の間には割りと距離がある。
学生達に規則正しい生活を心がけさせることと、自然に触れることで豊かな情操を育むという目的で、あえて二キロほど離れた森の中に寄宿舎を建てているんだっけ。
叔母さんと一緒に学校説明会に参加して既に十年も経っているため少しうろ覚えだけど、確かそんな理由だったはず。駐車場もその裏手になってるんだよね。
そんな事を思い出しながら、秋も深まったためか枯れ葉の積もる寄宿舎へ続く遊歩道を歩く道中。緊張からか六人は死角を減らすように目線をあちらこちらへさまよわせる。
―――まぁ、杞憂に終わるだろうけど。
たぶん、森に囲まれた場所の探索自体が初めてなのだろう。だけど、秋の森というのは非常に索敵が楽な部類となる。下生えを覆うように枯れ葉が積もるからだ。
特にここのように森が深く、風の通りにくい場所ならなおさらだろう。
一応私も耳にだけ【身体強化】を掛けてはいるが、警戒すべき音は聞こえない。せいぜい狸か狐の軽い足音を拾うぐらい。
それも当然だ。ゾンビは生存者へと引き付けられるのだから。
「見えてきたよ」
十分も歩かない内に寄宿舎を囲む、お洒落なレンガ造りの塀が見えてくる。
気持ち全員の足が早まった事に苦笑しながら、念のために棒手裏剣を両手に持つと、それを見た蛍さんが慌てて狩猟用のパチンコ――スリングショットを構えた。
「で、やっぱりこうなってると」
開け放たれた門をくぐって見えてくるのは、バロック様式と言うのだったか。日本ではあまり見られない洋風な建物と、その周りをうろつく数体のゾンビが目に入る。
射程内のゾンビの頭めがけて棒手裏剣を投擲しつつ横目で確認すれば、正面ホールへと続く重苦しい造りの玄関扉前にはバリケードにしたであろう家具が、残骸となって転がっていた。
思わず舌打ちが漏れる。
破壊されたバリケードと『待機状態』に戻ったゾンビ。それが示すことは内部に生存者が残る可能性が非常に少ないということ。
少しだけゾンビの生態について説明しよう。
ゾンビは基本的に人間を見つけるまでは『待機状態』と(マユが名付けた)状態で最後に立ち止まった場所を中心として半径一キロの範囲内で何をするわけでもなくうろついている。生きた人間の反応をおよそ半径二十メートル範囲に確認すると『警戒状態』に入り、反応を見つけた地点までゆっくりとした速度で近付いていく。
そして、ゾンビが人間を目視できる距離――だいたい五メートルぐらいまで近付くと『行動状態』となり完全に見失うまで走って追いかけてくる。
ちなみに、横方向だけでく縦方向にも同じだけの索敵範囲を持つらしい。
視力が低下しているため、ほとんどの索敵を聴覚に頼っていて尚且つゾンビらの聴覚は人間以上に発達しており、例え防音設備があろうともどこからか音を聞き付けて殺到するらしい。
寄宿舎は一階のみ天井までの高さがおよそ五メートル。二階以上はおよそ三,五メートル。防音に優れている建物らしいから床の厚みが結構あると考えても二十メートル少しの高さとなる。
例え生活音をギリギリまで出さずに、それこそ隠れ潜むネズミのような生活をしたとしてもこの建物ではゾンビらの索敵範囲から逃れる事は無い。
加えて、今さっき頭から棒手裏剣を生やしたゾンビは飢餓状態に無かったということは、奴らは餌を食ったか、それとも共食いした後で腹が満ちているということになる。
散発的に集まってくるゾンビを皆で対処し終えると、私達は中にいるであろうゾンビを刺激しないように静かに塀の外まで出てから小声で話し始めた。
「さて、どうしたもんかね」
「トオコさん。言いにくいのですが、これ以上の探索は無意味かと」
私の言葉を聞いてすぐに蛍さんから返答が帰ってくる。
「全面的に同意だね。たぶん、残ってるとしても屋上以外望みは薄いかな」
「うちもそう思う。ここって、屋上には非常口無かったか?」
茜さんは、おそらく非常階段から静かに上がる事を提案したいんだろうけど、私は小さく首を横に振る。
「屋上には非常口は無いよ。戦前は寮母さんがシーツとか干すのに使ってたけど、確か最近はクリーニングを外注するようになってて、一切使用されてなかったはずだから」
「……詳しいな」
「一応、OGだからこのぐらいはね」
設定上ってだけで、ほんとはさっちゃんからの又聞きだけど。
まだ『名家の家出娘』という設定が効いているのか、茜さんはなるほど。と呟いてしきりにうなずく。
「んー。皆には負担になるかも知れないけど、護衛してもらえるならドローン飛ばしてみようか?三世代前ぐらいの型落ち品だけど、持ってきてる奴は軍用だから結構距離飛ばせるし」
「魅力的な提案だけど詩織さん、バッテリー残ってる?」
「……オーケー。聞かなかったことにしといて」
いくら軍用と言え、本日一度飛ばしてる以上気になって突っ込むとすごすごと詩織さんが引き下がってしまった。
「ま、仕方ないよ。……作戦を一部変更。非常階段の見回りはせずに全員で突入。速やかに正直ホールを制圧した後、茜さん達はバリケードの構築。私は予定通り二階以上を制圧。他の面子はホール制圧三十分後に二階から順次捜索開始。これで動こう」
そう言って、胸元からハンドガンを取り出して蛍さんに手渡す。
驚きながらこちらを見つめる彼女へサイレ…サプレッサーと予備の弾丸も押し付けた。
「報酬の前渡しになっちゃうけど、今は戦力の底上げがしたいから渡しておくね。あと、無理もさせるから報酬の上乗せもする」
「いえ、私達にはメリットしかありませんからそれで良いですが…本当によろしいので?」
その問いかけは『後ろから撃つ可能性』についてだろう。私は威圧を込めて目元に笑みを形作る。
「試してみる?」
「……いえ、無礼をお詫びします」
うんうん。彼我の戦力差を理解してるのは素晴らしいね。
「よし。他に質問は?……ないね。それじゃあまずは私が先陣を切るよ。それじゃあ―――」
全員が背に背負った荷物をその場に置いて、手に手に武器を持つ。
「突入!!」
そして、私を先頭にして正面ホールへと突入していく。
「数、二十弱!」
目に飛び込んできた情報を伝達。入り口近くで出待ちしていたゾンビの首を飛ばしながら、私は勢いを殺さず次へ次へと斬りかかる。
「疾ッ!」
裂帛の気合いをあげながら、私の次に飛び込んできた真琴さんの槍が、銀線を残してゾンビの首筋を貫く。
「トオコ!まこっちゃん!そのまま右方向の通路抑えろ!!残りは左ッ!」
真っ赤な斧を振り下ろし、ゾンビの頭を砕きながらも茜さんが指示を飛ばす。その後に聞こえるわずかな音は、指示に従って放たれた蛍さんの銃撃の残滓。茜さんへと向かってきていたゾンビの頭が弾け飛ぶ。
横目でそれらを確認しながら、私は目当てのものを天井に見付け、ゾンビの頭をソールで踏み潰しながら上へ跳躍。
それに指がかかった瞬間、一瞬だけ魔力を回してその自重を操作。一気に防火シャッターを引き下ろす。
丁度下に居たゾンビを巻き込む形でシャッターを下ろして、着地と同時に床を蹴った。
「右制圧終了!そのまま上へ行く!」
返答を聞かぬまま、落ちてきたゾンビの首を切っ先に引っかけるようにしながら撥ね飛ばし階段を上へ。
―――さあ、ここからは自重無しだ。
階段を上ったところに居たにたいのゾンビの首を飛ばしてから魔力を回す。
瞬時に【身体強化】を起動。私の体は音を置き去りにする。
一度駆け出せば、それだけで右最奥の非常出口に到達。途中に居た全てのゾンビの首を飛ばし、そのまま蹴りつけた鉄扉を歪ませながら逆に跳ぶ。
数秒も経ずに逆側の非常出口に到達。そのまま、階段に向けて駆けながらも反応できないゾンビの首を飛ばしていく。
「……ああ、胸くそが悪い」
切り捨てたゾンビを一瞥して奥歯を強く噛む。
その光景を振り払うように刀身へと魔力を回して血脂を吹き飛ばす。
自らが切ったゾンビの姿に、置いてきた少女を幻視した私は、滾る激情を憎悪に変えて、階段を駆け上がった。
◆◆◆◆
「くそっ…!」
腹立ち紛れに組み敷いた女を殴っても、いよいよ声も出さなくなりやがった。
どうも、また壊れちまったらしい。舌打ちをしながら、調理担当の男にソレを手渡すと、そいつは口をへの時に曲げて抗議の声を上げる。
「おい!もうメスも少ねぇんだぞ!テメェ一人で楽しんで潰すのヤメロや!」
「ハッ!肉が食えるんだからむしろ感謝しろや!食いもん運ぶ前に自分だけさっさと屋上に逃げやがって!黙って捌けや!!」
そんな俺達のやり取りを、首輪を付けられたメスどもが震えながら見てやがる。
あぁ~初物はあと何匹いやがったか。
「しかしよぉ」
くたばったメスの首を飛ばしながら、調理担当がぼやく。
「いつんなったらあいつら助けにくんだよ。もう俺らしか生き残ってねえぞ?メスもあと六匹しかいねえ」
「知るかよ!あいつら、オレがいなけりゃなんもできねえ癖に置いていきやがって!誰のおかげで今までイイ思いしてきたと思ってやがる!」
吐き捨てるように叫びながら、コンロがわりの
一斗缶を蹴飛ばすと、中から昨日食ったメスの燃え滓が飛び出て、それが近くに転がったメスが甲高い悲鳴を上げる。
その様子が滑稽すぎて、笑いがこみあげてきた。
「おいお~い?ひでぇーじゃん!そ・れ、お前の友達だったもんよ?キャー!なんて言ったらカワイソーだろ~?」
そう言いながらそいつに近付いて、燃え滓を拾い上げる。
「タスケテー。タスケテーって言いながら俺のを突っ込まれて泣いてたじゃ~ん?そもそもぉ、お前の代わりに俺に股開いたオトモダチだろ~?なのに悲鳴上げるとか、ひどいなぁ?」
なぁ?と言いながら、その燃え滓のてっぺんを撫でてやれば、ガタガタ震えながらメスがしょんべん漏らしやがった。
「こいつ、漏らしたぜ!?きったねぇなあ?あ!イイコト思い付いた!てめぇのアナにオレが今からせんして――」
そう言いながら、メスへと手を伸ばそうとして―――
「は?」
伸ばそうとした手が、途中で消えていた。
「は?え?なん…」
「んー。二匹いるなら、一匹はいらないかな」
屋上の入り口から聞こえてきたのは、男にしては高めの声。
振り向けば、そこには目元しか露出していない緑色の不気味なヤロウが立っていた。
「ぐげ」
そして、次の瞬間。俺の腹に感じた衝撃に立っていられなくなる。
「だ、だずげろぉ゛…」
そう言って、調理担当に残った手を伸ばしたが、そこにあったのは調理担当といつの間に動いたのか、緑は調理担当の横に移動していてナニかわめく頭をひっ掴むと。
「ばぁ゛…?」
グギリという聴いたことの無い音が鳴り、首が引き抜かれた。
「さて、お前はあと少しだけ生かしてやる」
そう言うと緑はオレの目の前に一瞬で移動して、髪を掴んで目を強制的にオレと合わせた。
「ヒッ」
―――そして、ここに来て初めて、オレは腕の痛みすら忘れるほどに恐怖した。
ドロドロとした輝きを放つ瞳孔が開ききった目に見つめられ、歯がガチガチと音を立てて震え始める。
そしてオレの顔を強制的に上げさせている手とは反対の緑の手には、いつの間にか太いペンの様なものが握られていた。
「どしたの?まるでオンナノコみたいに震えちゃって」
クスクスとマスクの下から緑の嘲笑う声が聞こえてくる。
「ああ、そのままだと血が一杯出て死んじゃうネェ……」
そう言って顔を近づけて。
―――まるで地の底から響く様な声で、優しく囁いた。
「楽に死なせるとか、誰が許すと思う?」
次の瞬間。首にナニかが突き刺さると同時。
掴まれた髪の毛を伝うように、まるで奥歯をへし折られた様な痛みが、全身に走った。
「安心して?しっかり、地獄見せてから殺すから、ね?」
妙に優しい口調で囁かれた言葉を最後に、オレの意識は途絶えた。
10/23(水)投稿
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
お気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくお願いいたします。
これを書いたとき、自分が何を思っていたかコレガワカラナイ




