8 立案
一章につき10話+幕間の予定が狂いそうな予感。
追記:少し文章に手直し
最終的に、私と六人組との間で共同戦線が結ばれることとなった。
ま、あれだけ魅力的な餌を提示したからには成功しなきゃ困る。最後まで委員長――ホタルさんは消極的な姿勢だったけど、サイレンサー(ホタルさん曰くサプレッサー)と追加の弾薬を見せたら即決されました。
そのあと、私は彼女達の自己紹介を受けた。
まずはリーダーとなっていたガッチリした女性。
彼女は藤堂 茜さん。
元々は民間警備企業に所属していたらしく、現場でのリーダーを勤めていたことから探索に出るときもリーダーを任されているらしい。
身長が私より高く、鍛えられた体をしているけどニカッとした笑顔がどこか大型犬を思わせる。得物として手に持った消火斧が恐ろしく似合っててちょっと笑ってしまった。
次に勝手に委員長と呼んでいたメガネの女性。
彼女は上城 蛍さん。茜さんとは腐れ縁だとか。
コミュニティでの役割は作戦参謀兼交渉役の元弁護士さん。ショートカットがビシッと決まった怜悧なお人だけに、今のサバイバル向けの格好がちぐはぐに見える。
こうなる以前はサイパンのシュートレンジに三ヶ月に一度は行っていた銃好きだと、茜さんがこっそり教えてくれた。
甘味に反応を見せたシニヨンの女性は鬼龍院 真琴さん。
名前に反してぽやっとした女性だけど、実家の寺で槍術を嗜んでいたらしく師範代の資格を持つ実力者だという。
普段は拠点防衛を担う警備班にの中核で、同班に属する人に槍術の手解きも行っているらしい。
槍を振るうときは普段の雰囲気が一変して、まさに"女傑"というにふさわしい空気をまとうそうな。
ここからは、交渉の席で一度も発言をしていない人たち。
薄紫のパーカーを着ている小柄な女性が竜胆 詩織さん。偵察員。
元々は写真家だったらしく、ドローンの扱いが上手いそうで、この災害が終わったらピューリッツァー賞を取ると息巻いているそうだ。
唇に引いた真っ赤なルージュが目立つきつめの顔立ちをした須藤 楓さんと、ミニ茜さんといった感じのこれまた体格のいい佐藤 桂華さん。
二人とも茜さんの元部下で、今回は食料などの運搬や物資回収用の鞄を運ぶいわゆる運び屋。
二人とも警備班として拠点に詰めているとのこと。
彼女たち『グランドホテル』とここ『サンタルチア女学院』。そして、『警察学校』の三コミュニティ間は同盟を結びあっていたそうだ。まあ、サンタルチアは警察学校の人員派遣を断っていたそうだけど。たぶん"娯楽"の提供を嫌ったんだろう。
そしてこの三コミュニティ間では何か起こった時に、互いに救援や人員の受け入れをスムーズにするため、それぞれに無線機を置いていたそうだ。
一週間ほど前。生存者の間で『開かずのマンション』と呼ばれている場所付近で大規模な爆発音を観測。安否確認を行ったのだが、サンタルチア女学院と一切の連絡がつかなかった。
……『開かずのマンション』ねぇ。それに爆発音かぁ。私、犯人知ってるなぁ(遠い目)。
ゴホン。ともかく、連絡を取ろうとしてから一週間経っても音沙汰の無い事に疑問を覚えたため、何か不測の事態が発生したと断定。
グランドホテル内でも特に能力の高い六名でチームを組んで探索に出発。
山の麓からドローンを使用した偵察を行ったところ、正門付近にて私を発見したそうだ。
「――ってのが、私たちがトオコさんと出会った経緯だな」
お赤飯を掻き込みながら茜さんがそう言って話を締める。
うーん。ドローンとか私が地球に居たときはまだまだ一般的では無かったから、全然警戒していなかった。向こうじゃ空からの偵察って普及してなかったからね。
やっぱり生存者との接触を避けるには夜間行動が必須みたい。
やっぱり一度は行動してみないとわからないことが多いね。
「なるほどね。あ、お茶わいたからどうぞ」
「さんきゅー!」
鍋で煮出したたげのドクダミ茶をそれぞれが持ってきたマグに注いでいく。ちょっと独特な香りがするけど、それでも久しぶりに"お茶"を飲んだのか六人の顔には笑顔があった。
ちなみに、ドクダミ茶を作ったのはさっちゃんだ。突然ドクダミを摘んできて欲しいって言われてビックリしたよ。
「ごちそうさまでした!久しぶりに日本人らしい食事できた!トオコさん、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず」
座りながらも、真琴さんが綺麗なお辞儀をして私に謝意を伝えれば他の面々からも口々にお礼が告げられる。
私はそれを面映感じてついつい素っ気なく答えてしまう。しかし、それと同時にこちらにある程度心を開いた彼女たちに未だ顔を晒さずにいる事に少しだけ罪悪感も覚えた。
まぁ、だからといって彼女らにこちらの事を明かすことはしないけどね。
「さてさて、皆さんもお腹が膨れたことだろうしそろそろ行動に移りたいのだけど、どうかな?」
「そうですね…。はい。今回の事はイレギュラーながら既に契約を結んだ以上。こちらはクライアントの意向に従うことに異論はありません」
「だねー。もうすでにようかん食べちったし!」
私の言葉に蛍さんが同意すると、カラカラと笑いながら桂華さんが応じる。
他のメンバーも別段反対意見が出なかった事を受けて、私は口火を切ることとした。
「ありがとうございます。…まずは確認ですけど、詩織さんはドローンを閉所で操作できます?」
「んー。ちょっと難しいかな。今回は開けた場所を飛ばすだけの予定だったから大型持ってきちゃったし。ギリギリ飛ばせて森の中。建物の中は厳しいね…」
なるほど、サイズの問題で不可能と。
詩織さんは申し訳なさそうにしてるけど、私としては使えたらラッキー程度の考えだったので気にしないよう伝えてから、頭の中で作戦を組み立てていく。
……うん。突貫の立案としてはこんなもんで上等だろう。
「では、作戦を伝えます。と、言っても難しい事を皆さんにしていただくつもりはないです。皆さんにお願いしたいのは後詰め。私が吶喊しますので、先程と同じく後始末と言ったところです」
ぐるりと六人を見回して、特に反対も無かったので私は胸元に手を突っ込むと見えないように【ストレージ】を操作してその中からたたまれた寄宿舎の見取り図を取り出し、全員の見える位置に広げる。
「校舎があの状況ですので、私は寄宿舎の探索から始めようと思います。寄宿舎は五階建て。内部はこのように西棟、東棟に分かれていますが、中央階段ホールにて繋がった作りをしています。一階はほとんどが共用施設ですね。出入り口は正面ホールに面した物がひとつ。二階以上には各階それぞれ非常出口と通じたものが計八つ。皆さんはまず外側の非常出口が開いているかどうかの確認をお願いします。
皆さんが外側の確認を行っている間、私は正面玄関口よりアタック。正面ホール及び二階以上にゾンビが存在している場合それを撃破します。皆さんは外の確認が終わり十分後に正面より寄宿舎へ突入。まずは正面ホールの制圧をお願いします。ああ、ゾンビが残っていても防火扉を閉じる、バリケードを構築するなどして安全確保を優先してください。その後、私はゾンビを駆逐し終え次第屋上より生存者の捜索を行いますので、皆さんは二階部分から順次生存者の捜索を行うようにしてください。無論、部屋内にて生存者がゾンビと変じている可能性があるため慎重な行動を心がけてくださいね?合流後情報の交換を速やかに行った後、一階共用スペースの捜索及び制圧を敢行。寄宿舎を解放します……以上が私の立てた作戦だけど、何か質問はあるかな?」
聞き取りやすいようはっきりと。尚且つ流れるように言い切る。
おっと。六人ともポカンとしているぞ。
「えっと…。そ、そうですね。校舎の探索はどうしますか?」
いち早く再起動した蛍さんがそう質問をしてくる。
「うん。その事なんだけどねー、ぶっちゃけ必要無いと考えてるよ。理由としては、正面玄関が破られていること。あと、畑の真ん中にあった死体にゾンビが群がっていたことから、やつらが既に『飢餓状態』になっていることの二点から内部の生存者は皆無だと断定してる」
ゾンビは階段を上れないと思ってたのだけど、やつらが『飢餓状態』に陥ると階段を四つん這いで駆け上がってくるようになるそうだ。
うん。帰還初日にモール屋上で無防備に寝たのってすっごい危険行為だったらしい。資料にこの記述を見付けたときは、流石に背筋が凍ったよ。
私が示した根拠は納得が行くものだったのか、蛍さんからそれ以上の追求は無かった。
そして、作戦参謀を務めている蛍さんから反対意見が上がらない以上、他のメンバーに異論は無いようだ。
「じゃあ、作戦に入ろうか。あと、生存者を見つけた場合の話だけど、コミュニティとしての『サンタルチア女学院』に男性が身を寄せてた。そんな話を聞いたことある人はいる?」
平時、男性は文字通り一人として居なかったはず。学校の方針か、用務員や警備員。果ては学校に出入りする業者の人間に至るまで女性しか出入りできないと噂があったほどだ。
私の質問に対して答えたのは楓さんだった。
「男性は絶対にいないと断言しておくわ。警備会社時代に茜さんのチームに入る前ここの警備員したことあるけど、本当に女しか受け入れなかったのよ、ここ。そして、こうなってからも男性の受け入れは皆無よ。交渉のたびに蛍さんが『学校』の奴らと相席しなきゃ入れないぐらいだったしね」
「なるほど。じゃ、もしも寄宿舎にて男性が発見された場合、それは襲撃犯と断定。……この中に"尋問"の経験がある方は?」
尋問を強調して言うと、全員の顔色が変わったことから正確にその意味を捉えたのだろう。
代表して茜さんが首を横に振るのを見て、私は肩をすくめる。
「ま、心得あるし私が担当します。どうせジュネーブ条約なんて今は意味無いですし」
おっと。笑いどころのつもりだったんだけど、誰一人として笑ってくれない。
私にジョークのセンスが無いことなんて理解してたけど、滑ったみたいで恥ずかしいじゃないか。
「まぁ、状況から見て既に撤退した線が濃厚ですけどね」
そう言うと、彼女たちはあからさまにホッとした様子を見せる。
私はこう言ったけど、何人かは居ると思うんだよねー。コトに及んでいた場合、間違いなく逃げ遅れは発生してると思うし。
さっちゃんの話からの想像ではあるが、ここが襲撃を受けたのがおおよそ二週間前。彼女が脱出したのがそれから三日後。そして、脱出に成功した彼女はこの近辺で生存者と遭遇している。
つまり、ゾンビがここに雪崩れ込んだのは最短でもそれから一日後。しかも、現在バリケードと化しているゾンビが侵入するまで襲撃犯はその存在に気付いていなかった可能性が高い。
根拠は地獄門に続く山道にゾンビの死体が存在しなかったことと、学院敷地内に放置されていたゾンビの死体のほとんどが車に轢かれたモノであるため。
つまり、襲撃犯達はかなり慌ててここから脱出したであろうと想像できる。
慌てて脱出すれば、その時に間に合わない人員も当然居ただろう。
彼らが後から脱出できたのか?それは否。
正面突破しようにも、百近いゾンビに囲まれた状態でそれを手に持った武器で行えるのなんて世界中どこを探したって私しか見つからないだろう。
近接戦でその状態から脱出できる人間が何人も居たなら、そもそもゾンビに人類が負けるなんてあり得ない。
ならば、それを私以外が行うためには圧倒的な手数と面制圧能力を持つ武器。つまり、銃。それも単発式ではなく、フルオートでばらまける物を複数人が手にしている必要がある。
銃が規制されて久しい日本で、それらを手に入れるのは非常に難しい。
なんでマユとれーじくんがあそこまで集められたのかほんとに謎だ。
まぁ、百近いゾンビに囲まれて冷静に頭を撃ち抜かないと無力化できない。しかも、外したら音に釣られて敷地内のゾンビが勝手に集まってくるなんて狂った難易度な状況。
一縷の望みに賭けて脱出へと踏み切るか?そう問われても大多数は否定する。
ならば、どうやって生き残るか?
私じゃなくてもこう答えるだろう。
籠城戦を行う、と。
では、籠城戦に適した場所がサンタルチア女学院内でどれだけあるか。
―――校舎。侵入する場所が多く、複数人が通ることを想定した通路。扉が薄く突破は容易。防衛戦には不適格。
―――体育館。扉はある程度防音を考え分厚いが、通路が広すぎる。銃があれば釣り野伏からの殲滅も出来るが、逃げ場がないため不適格。
―――部室棟。食料問題が発生する。不適格。
―――食堂。一階の大部分がガラス張り。不適格。
―――寄宿舎。侵入口をひとつに絞れ、通路にそこまでの広さは無いためバリケード作成も可能。朝晩用に食堂も併設されているため切り詰めれば五日程度なら食料も(それ以前に食い尽くす事がなければ)確保でき、どうしようも無くなれば最悪脱出も可能――適格。
だから、私は確信している。あそこには、逃げられなかった無辜の命が残っていることを。それと同時に―――
私の敵が、いることを。
10/22(火)投稿。
いつもお読みいただきありがとうございます。
お気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくお願いいたします。
次回、透ちゃんフルスロットル(デデデデストローイ)モードです。




