7 交渉
ラグビー日本残念でしたね…。オリンピックの7人制を頑張ってほしいところ。
ここから暫く百合が不足するんじゃ…。尊みシチュのご要望があれば、感想まで!(強欲)
10/22(火)追記。
本日18:00にもう一話投稿します。即位礼正殿でお休みだからね。仕方ないね。
ガヅンという鈍い音を響かせて校舎の周りをうろついていた最後のゾンビが崩れ落ちる。
合計八十七体。矢筒に詰められた矢が足りるはずもなく最終的に剣鉈で白兵戦に切り替えたが、何の問題もなくお掃除は終わった。
それでも【身体強化】使わなかったぶんどうしても時間はかかったけど。
倒れたゾンビの肩に足をかけ、頭頂から顔の半ばまで食い込んだ剣鉈を外す。いつもの様に魔力を回して刀身を清めようとするが、人目があることを思い出し結局ゾンビの着ていたボロボロの衣服でこびりついた汚れをぬぐうこととした。
多少見れる様になったツヤの無い刀身をあらためて、刃こぼれや歪みの無いことを確認してから腰に佩いた鞘へと納める。
そして、気配を感じて振り向くとそこには先ほど出会った六人組のリーダーらしき女性が、顔をひきつらせて立っている。
「あんた、強いな…」
その言葉に、私は肩をすくめる事で応える。
「とりあえず、外はこれで終わり」
「ん。あ、ああ。そうだな。しかし、疲れてないのか?」
「全然」
私の答えが予想外のモノだったためか、彼女はわずかに瞠目する。しかし、次の瞬間にはこちらを睨むような視線を向けてくる。
……小刻みに震えているのは見なかったことにしてあげよう。
「あんた、ここに何しに来た?」
「"何"とはどのような事を想定して質問を?もしかして、略奪目的で訪れた、と?」
「まあ、な」
緊張した面持ちで、彼女は私の言葉にうなずきを返す。
「そう思うなら、一人で話しかけるのは下策だよ。まぁ、いっか。とりあえず私が頼んだ後始末は終わらした?」
「まずはうちの質問に答えてほしいんだけどね…。あー、後始末ってことだから、とりまあんたの倒したゾンビは一ヶ所に集めたよ。あと、畑の真ん中にあった悪趣味なカカシも下ろした」
「それはありがとうございます。まずは他の方と合流を。お話はそれからってことで」
言い切った私は、不満そうに顔をしかめる女性の横をすり抜けて地獄門へと歩みを進める。
彼女は一瞬虚を突かれた様にポカンとしたが、すぐに気を取り直したのか、すぐに私に追い付くと少し距離を離して横を歩く。
「とりあえず、うちらは『ホテル』っつーコミュのもんだ。あんたは、ソロか?」
「コミュ…ああ、コミュニティね。うん。ソロでやってるよ」
ほんとは違うが、まぁ明かす必要も無い。
「珍しいな…。おっと、もう見えてきたし詳しいことはまとめて聞くよ」
そう言って歩調を早めると、彼女は正門前で警戒を続けている仲間のもとへ向かう。
よく見ると、正門のところにはなぜか私が倒したモノも含めて、敷地内に散らばっていたゾンビの死体がまるで道を塞ぐように積まれている。
バリケード、だろうか?よく見ると校舎の玄関にも同じように積まれている。
「お疲れ様。それで、これ何?」
正門前に車座を敷いて話をしている女性たちにゾンビの山を指差して聞くと、私を迎えに来た女性が、ああ。とそちらを見て口をへの字に曲げる。
「ゾンビ避けだよ。あいつらナゼかお仲間の死体を突破しようとしなくてね。数が集まったらさすがに崩されるけど、一時的なバリケードとしては結構優秀なの。あんたみたく、端から潰せるなら知らなくても当然か」
なるほど。生存者の知恵袋ってわけだ。
私が納得してうなずいていると、メガネをかけたつり目がちの女性が「いいですか?」と私に声をかけてくる。
うん。委員長だな。と心のなかで勝手に命名しつつ、どうぞと手で促すと彼女はひとつ咳払いをした。
「まずは、ゾンビの討伐をしていただきありがとうございます。たぶん"アカネ"から聞き及んでいるかとは思いますが、私たちはホテル――『グランドホテル』というコミュニティの一員です。性急で不躾かとは思いますが、あなたがここに来た理由をお聞かせ願えますか?」
なるほど。委員長は交渉役なわけだ。
「うん。まず、アカネさん?から聞いてるかは知らないけど、私はソロで活動している。サンタルチア女学院に来た理由は"人探し"のためだよ」
もちろん人探しなど真っ赤な嘘で、真実はさっちゃんの私物回収なのだが、貴族のお相手をするなどお手の物だ。一応、さっちゃんの受け入れ先候補ではあるから、悪印象を与える嘘はつかないつもりだけど。
「と、いうことで貴女たちに私も聞きたいのだけど『東美 幸』って名前の女の子知らないかな?」
「トウミ…申し訳ありません。ホテルにその名前の方は属していないですね」
委員長はそう言って首を横に振る。ここでさっちゃんの名前を出したのはひとつの布石だ。もしも後日、彼女を『ホテル』へと預けることとなっても探し人が見つかったと言い訳が立つ。
……なぜか、その光景を思い浮かべたら胸がチクリと痛いけど。
「そっか。そっちにはいないか。うん。私と彼女の関係性を一応明かしておくよ。私は『東美 透子』彼女の従姉妹だね。と、言ってもちょい事情があって彼女のちっさいころしか会ったことないけどね」
「事情、ですか?」
「そ。まぁ、サンタルチアに通ってる時点で察しが付くとは思うけど、結構『東美』ってカネモチなわけ」
これは本当。さっちゃんに聞いた話だけど、彼女のご実家である東美家は『トウミグループ』っていうホテル経営を生業とする資産家らしい。
サンタルチア女学院は伊達に『お嬢様の温室』と呼ばれていたわけでなはなく、ガチの上流階級しか通えないのだ。
東美 透子?偽名に決まってるじゃないか。
「いわゆる不良娘ってやつ。親に反発してちょいと渡米してね。高校出てすぐだから五年前からかな?向こうで働いてたわけ」
「なるほど。事情は理解しました…。ですが、どこであそこまでの戦い方を学んだのですか?明らかに素人ではないですよね?」
うん。聞かれると思ってたから、そこらへんもキッチリ"設定"考えてますとも。
「PMCって言ったらわかるかな?」
「…PMC、ですか?私はちょっと。ねぇ、誰か知ってる?」
その言葉に反応したのはアカネさんだけだった。彼女だけがなるほどと納得した顔をしてるね。
「PMC。private military company――民間軍事会社。まあ、簡単に言えば傭兵だね」
「どーりで強いわけだ」
こんな世界になっても尚、軍人っていうのは彼女たちのような『一般人』からすれば縁遠い存在だ。いや、こんな世界になったからこそ余計に。隔絶した実力差を知ったことによってそれは遠退いたと言ってもいい。
だからなぜ強いのか。そう言われた時には荒唐無稽な――例えば、一子相伝の武術の使い手だという嘘をつくよりも、想像しやすい強者――軍人や兵隊。そして傭兵と言っておけば納得してくれやすくなる。
ま、実際戦場返りであることは嘘じゃないしね。
「"発生時"は中東の紛争地帯に派遣されててね。日本に帰り付くまで一年半もかかったよ。別に実家の連中とは会いたくないけど、懐いてくれてた従妹のさっちゃんだけ心配でさ。どうせ東美の奴らだったら彼女をここに入学させるだろうって当たりを付けて訪れた…。まぁ、今は生存してるかもわかんないけど」
そう言いながら、寄宿舎の方向を憂いを帯びた目で見つめると、少し空気が重くなった。
もちろん、狙ってのことだ。話し相手の『理解』を得られたら次に狙うのは『共感』。それを得るために哀愁を漂わすのは非常に有効なのだ。あっちでも、よくやられた手だ。
私は、暗くなった空気を吹き飛ばすようにパンパンと手を打ち鳴らして注目を集める。
「ま、希望は持ちすぎないのが長生きするコツってね。とりあえず、私の事情は理解してもらえたと思う。で、貴女たちの事も聞きたいけどその前に」
そこで一度言葉を切って、私は放置していたバックパックへと近寄って中から『とりめし』『きのこめし』『せきはん』とプリントされた銀色の缶詰を各ふたつずつ取り出して並べていく。
「貴女たちにこれをあげましょう」
そう言って彼女たちに差し出せば、委員長から鋭い疑惑の視線が向けられる。他の皆様?カンメシに目が釘付けですよ?
「透子さん。いったい、どういうつもりですか?」
まぁ、いきなり『はいあげる』ってこの世界じゃ貴重品も貴重品の食料を。しかも、めったに口にできない『米』を出されたら、そりゃあ警戒するよね?
「理由はもちろんあるよ。まずはさっき私が頼んだ後始末を代行してくれた事に対する報酬。そして、これから校内及び寄宿舎の探索を手伝ってもらうための心付け」
そう言いながら取り出したのは、歯が折れるほどの固さで有名なアイスで有名な製菓会社が販売している非常食向けのようかん。ゾンビ発生の直前に作られたもので、まだ二年超の保存が可能なモノ。日本の技術力すごいな?
未開封の三本入りの箱をふたつ取り出せば、さしもの委員長ですら生唾を飲み込んだ。
「前払いで、これまで出すよ。だから、皆さんに手伝ってほしいなって」
プラスで二リットルのミネラルウォーターも二本付けちゃう!さっちゃん!入れすぎ!!
「ほ、ほんとにいいの?」
おっと。槍を持っていた髪をシニヨンにまとめた人が参戦した。委員長にすっごい睨まれて引っ込んだけど。
たぶん、甘味なんてしばらくとってないよねー。うんうん。わかるよ。私もここ五年ほど食べてなくて、拠点にあったガッチガチに凍ったバニラアイス食べたとき泣くほど美味しかったからね!!ちなみに、食べるのは自己責任だけどアイスはきちんと保存すれば十年ぐらいなら余裕で食べられる。
「んー。ご飯は受け取ってもらっていいよ。さっきも言ったけど、これは私からのお願いに対する報酬だからね。あ、お水もいいよ」
おおう。これだけでアカネさんすっげえ笑顔。さっきまでの警戒心が嘘みたい。
「で、ようかんは私の手伝いをしてくれる人たちへの"前金"みたいなモノ」
私の言葉を聞いて、一瞬委員長のメガネがキラリと光ったような気がした。
うんうん。交渉役だもんね。言葉の端に私から提示する『利益』がこれだけではないって気付いてくれたようだね。
人を動かすために必要なものは?
以前の私達の日常のように、ある程度豊かで、満たされていて、安全ならばお人好しであれば動いてくれるだろう。
しかし『衣食満ち足りて礼節を知る』と言うように、それは自分に余裕があるからこそできる行いだ。
じゃあ、今の荒廃した世の中では?
力で従えるか、物で釣るかして人を動かす。そのどちらかだ。
注意する点として、どちらの場合も提示した本人の方が強者でないといけないことね。
例えば、百近いゾンビを一人で殲滅できるような。
「前金という言い方をされたと言うことは、後金――つまり、成功報酬がある。そう、考えてもいいでしょうか?」
委員長がそう言うと、他の五人が色めきだつ。
それを見て私は、この交渉がまとまったことを確信して、襟の下で口角を歪ませた。
いやぁ六人組で良かった。交渉役が存在するグループと遭遇出来たことは非常に幸運だ。
だって、実質彼女たちは五人で意見を決めないといけない。交渉役は中立の立場でいなければ交渉役たりえないから。
奇数の人数。つまり民主主義が成立する人数。
だから、私は交渉を委員長としながら常に後ろの人たちを狙い撃ちしていた。
冷静な一人に全てを任せているがゆえに、意見を揺さぶり易い人間をこちらへと傾かせるために。
そんなことをおくびにも出さずうなずく。
「もちろん。……と、言ってもさすがにこれ以上食料は出せないけどね」
そう言うと、六人全員がわずかに落胆したような雰囲気を出す。
うんうん。欲が出るって言うのはいい傾向だよ。実に与しやすくて。
「代わりに、貴女たちがご飯の次に必要としているであろうモノを提示するね」
そう言って、私は自らのコートの胸元に手を差し込んで彼女たちに見えないように【ストレージ】からソレを取り出す。
私の手に持ったモノに、六人全員の視線が集まる。シンとしたその場に、委員長が喉を鳴らした音がやけに大きく聞こえる。
「このアポカリプスな世の中。ご飯も欲しいだろうけど、身を守る手段も――大事だよね?」
露出している目だけを笑みに歪めながら、私は手に持ったそれを。トリガーに指をかけないよう気を付けながら、顔の横まで掲げた。
「私が使っていたそこのアーチェリー一式――そして、このハンドガンと弾薬。報酬として進呈するけど、どうする?」
彼女らの目の奥に、確かに灯った欲望の炎を見た。
10/22(火)投稿。
いつもお読みいただきありがとうございます。
お気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくお願いいたします。
はみ出し設定小噺
⑥カンメシ
正式名称は『戦闘糧食Ⅰ型』。現実では平成28年を以て陸上自衛隊納入分は生産を終了しているが、作中世界ではゾンビ禍発生時も生産されていたという設定。
現行の『戦闘糧食Ⅱ型』(パック飯)と比較して嵩張る、ゴミが出る。食しやすさ(早さ)などの点で劣るが、保存期限の長さや頑丈さに勝る点に改めて注目された結果、改良されて『戦闘糧食Ⅰ型改』として緊急用の備蓄として再生産されている。
最長保存期間も技術躍進により従来の3年から5年に延びている。
銀色の缶詰だが、『とりめし』『せきはん』など中に入っているものが一目でわかるよう工夫されている。なお、作中に登場するご飯もののカンメシだが、一合も入っている。
他国のレーションと比べておいしい。おいしい(重要)




