5 心裡
いきなり閲覧数が倍近く伸びて混乱しながらも、嬉しさがヤバイです。
百合シーンとそうじゃないところで筆の進みが明らかに違う…。
私にお姫様抱っこされたままのさっちゃんからくぅくぅと寝息が聞こえてくる。結構イタズラした自覚はあるからね。もしかしたら、精神がオーバーフロー起こしたのかもしれない。
うん。美少女から向けられる熱っぽい視線はあれだね。キュンキュンきた。
「でも、不思議だねえ」
最近ずっと寝床に使わしてもらってるれーじくんのベッドに彼女を下ろして、苦笑しながら付いてきていたブラッドに話しかける。
彼は、若干呆れたような視線を向けてきたけど、どうやらこちらの話を聞いてくれるつもりはあるらしく、私の側に寄りおすわりをした。
「もっとねー。さっちゃんにも拒否反応が出ると思ってたよ」
ブラッドの隣に腰を下ろし、彼の耳後ろをコリコリと撫でながらそう言えば、彼は不思議そうにこちらを見つめてくる。
自分で言っていて悲しくなるが、私は大分人間不審を拗らせている。あちらの世界の人に向けられた様々な感情が心の重荷となって、例え知り合いであってもわざわざ心に仮面を着けなければ、顔を合わす自信も。ましてや話せる自信なんて無い。
本当なら、こっちに帰ってきて会いたかった人はたくさんいたハズなの。
私の初恋の人とか、親友とは呼べずとも仲の良い友人達。よくマユと喧々諤々と意見を戦わせた喫茶店のマスターに、スタジオを借りるお金がなくて頻繁に利用してたカラオケ店の店長さん。
他にもたくさん会いたい人や、話をしたい人がいたハズなんだ。
でも、向こうで戦い続ける内に。様々な人の意思に曝されていく内に。
段々、私の心がコワレテいった。
英雄としてしか呼ばれず。偶像としてしか見られず。種馬として狙われて。誰もが私を彼らの期待する『役割』としての価値でしか見ていない。私の心が上げた狂った叫びに苛まれる日々。
―――誰一人として『大柿 透』を見ていない。
そう気付いたのはいつだったか。
その時から、私の心に泥のようなナニかが産まれた。そしてそれは磨耗していく心を、私の思い出を蝕んでいった。
彼らは私の事を好いていたのか。
彼らの行動は打算にまみれているのではないか。
帰っても、彼らは私を覚えていない。
―――誰も『私』を見てくれない。
仄暗い汚泥は、私の思い出を。思い出の中の彼らを侵していった。
だから私は、本当に会いたい五人の人との思い出だけを守るために、蓋をした。彼ら以外の全てを犠牲にして。
マユがギターを保管していてくれたから、私の守った最後の『想い』を取り戻すことは出来たけど。彼ら五人だけには、例えそれがどんな形だろうと会いたいという渇望は取り戻せたけども。
汚泥に沈んだ輝かしかったその他のナニかに対する熱は、ついぞ取り戻せなかったし、これからも戻ることなどないのだろう。
―――ああ、だからか。
そこまでブラッドに愚痴じみた想いを吐き出し終えて、ふと思い浮かんだソレは妙に納得のいく考えで。そして、とてもとても汚ならしい人間としての欲求につい苦笑が漏れる。
「なるほど。SNSが流行ってたわけだ」
私があちらの世界でまた会いたいと願う二人も。他を切り捨ててまで守った大切な五人も。今隣で何も言わず私の想いを聞いてくれた彼も。そして、私にすがり付いた彼女も。
「みんな、私を"大柿 透"として見てくれる人ばっかりだ」
詰まる所、私はただ自己承認欲求を拗らせているだけのガキだったらしい。私に特別な『役割』を期待せず、私をただの一個人として見てくれる人だけを必要とする、ワガママなクソガキだったみたい。
「ははっ。自覚するとへこむなー」
そう言ってブラッドに抱き付くと、彼は少しだけ鬱陶しそうに体をゆすったものの、しばらくの間されるがままになってくれた。
「よしっ!切り替えた!ありがと、ブラッド。おかげで色々と吹っ切れたよ」
ガバッと体を起こすと、彼は私の頬をベロリと舐めてから小さく吠える。
「うん。ありがとう。おやすみ、また明日ね」
そう言うと彼は、尻尾を大きく一度だけ振ってリビングへと戻っていく。彼の寝床となったソファーへと向かったんだろうね。
うん。私も寝てしまおう。明日の予定を頭に思い浮かべつつ、さっちゃんの眠るベッドへと私も潜り込む。
「もし、さっちゃんが私の力を知ったら―――」
それでも私を見ていてくれるのかな?
そんな心に浮かんだ疑問に蓋をして、彼女を抱きしめてからまぶたを閉じる。
―――変わらなかったら、嬉しいな。
遠退く意識のなか、そんなことを願った。
◇◇◇◇
―――あったかい。
まどろみの淵で、腕の中に感じたぬくもりをぎゅっと抱きしめる。
すると、そのぬくもりがいっそう強くなったので、私は更に体を密着するように絡めていく。
「――…さん、――の…!」
何か聞こえた気がしたけど、あまりにも心地よいぬくもりを優先してそれを黙殺する。
さらさらと頬に当たる感触が気持ちよく、ついついほおずりをすると『ぴゃっ!』と小動物の悲鳴のような物が聞こえてきた。
―――あり?
そういえば、私は昨日どうやって眠ったのだったか。
ぼんやりと眠気で曇った頭を働かせようとしたものの、上手く思考がまとまらない。
それよりもフワリと鼻をくすぐる甘い香りを嗅ぎとったので、その発生源であるやわらかな場所へと鼻を近付けて胸一杯に息を吸い込めば、ちょっとだけまともに動きかけた思考がトロトロと溶けていく。
鼻先に触れるやわらかなそれが、少しずつ熱を上げ、しっとりと湿り気を帯びていき更に甘い香りが強くなる。それが、どうしてもおいしそうで。
「あむ」
なぜか『歯を立てるべきではない』と、唇で挟むように甘噛み、舌を這わした瞬間。
「~~~~ッ!!」
声になら無い悲鳴を聞いて、一気に意識が覚醒する。ああ、そういえば昨日さっちゃんのお願いを受けて一緒に寝たんだっけー…。
そーっと目を開けて、わたしはやらかした事を悟った。いやね、目の前に広がる光景に一瞬『あ、このまま寝てしまおう』と考えてしまうほどこれはひどい。
どうやら、私が"おいしそう"と感じて舐めていたのはさっちゃんの首筋だったようだ。私は吸血鬼じゃないのに不思議だね!?
あ。さっちゃんの体がプルプルしだした。
彼女のオーバーフローの気配を感じ取って、ゆっくり、慎重に彼女の首筋にうずめていた顔を上げる。
「えっと、おはよう?」
「は、い。おはよう、ございます…」
私は布団のなかで見えてないのを幸いと【ストレージ】を開いてハンカチを取り出し、顔を真っ赤にして瞳が潤んださっちゃんを努めて目に入れぬようにしながら、私の唾液でテラテラと怪しく光るその首筋をぬぐう。
やめてー。さっちゃんやめてー。色っぽい吐息を吐かないで~!自制心が!自制心がぁっ!!
ガリガリと削れていく理性の音を頑張って無視して、私は腕の中から彼女を解放してから、のそりとベッドから脱出した。
時計を目にすればすでに両方の針が真上で重なる位置にあった。いやー、夜更かししてかつ寝過ごしたみたいだね!
「さっちゃん、何か食べる?食べるよね!うんうん、食欲があるのはいいことだ!!ちょっとご飯作ってきますっ!!」
ものすごい早さでそうまくし立ててから、逃げるようにれーじくんの部屋から転がり出る。
『まぁた、色ボケたか』
リビングで私を待っていたのは、そう言いたげにじとっとしたブラッドくんの視線と、彼の鼻から漏れでた呆れるような溜め息だった。
ほんと、ブラッドくん器用だなぁ!?
◆◆◆◆
どうしよう、まともにとおるさんの方を見ることができない……。
わたしが目覚めた時、彼女の顔がものすごく近くにあって心臓が止まるかと思ったのもつかの間。
とおるさんに混乱するわたしの体をぎゅっと抱きすくめられて、ハッとなる。
「とおるさん、あの!」
でも、ソレ以上わたしの声は続きませんでした。彼女は髪にほおずりをしたかと思うと腕や足を絡めてきたのです!
「ぴゃっ!」
聞いたことの無いような情けない悲鳴が口から漏れます。
ドキドキと口から飛び出るんじゃないかと不安になるほど心臓が高鳴って、しっとりと熱を帯びた肌が汗で湿っていくのがすごく恥ずかしい。
そんなわたしを、いっそうとおるさんは強く抱きしめて、鼻を鳴らしながら徐々に頭を下げていってとうとう首筋に顔をうずめたかと思うと、まるで深呼吸でもするように息を大きく吸い込む。
―――やだ、臭いかがれてる…!
えっと、いつから水浴びできてないっけ?ダメダメ!わたし絶対汗臭い!!
もじもじと体を動かしてとおるさんの腕の中から逃れようとしても、背中に回された彼女の腕からの脱出はかなわない。
「あむ」
わたしの首筋にやわらかなモノが押し付けられたかと思ったその瞬間。
甘美なしびれが背筋をかけ上がり、わたしの頭は真っ白に染まった。
くにくにと首を甘噛みされ、手足から力が抜けていく。
口からは妙に熱っぽい吐息が漏れて、チカチカと目の前が明滅して―――
「~~~~ッ!!」
ぬらりとしたとおるさんの舌の―――彼女に助けられた日。幾度となくわたしに挿し入れられたその感触を首筋に感じたその瞬間。わたしの頭が爆発したかと思った。
お腹の奥がキュンキュンと切なくしびれて、手足が電気風呂に入ったようにぴくぴくと震えだす。
―――気持ちいい。
とおるさんと絡め合った体が。彼女と触れている場所すべてが。背筋を走り抜けた甘やかなしびれが。
彼女から感じる、すべてが。気持ちよくて、仕方ない。まるで、絡み合ったままの体が溶けていって、彼女に混ざってしまいそう。
そのあとの記憶は、曖昧で。
わたしが我に返ったのは、部屋をあとにするとおるさんの背中を見送った後でした。
「あ、あぁぁあ~~~ッ!」
一気に爆発した羞恥心に身悶えて、枕に顔を押し付けながらボフボフと布団を叩く。
それから、彼女がわたしのご飯を手にして戻ってきてなお、まともに顔を見ることができませんっ!
「えっと、大丈夫?ごはん、食べられそう?」
「あ…いえ。まだ……」
突然声をかけられて、わたしは咄嗟にそう返してしまう。もうだいぶ具合がよくなって、自分で食べられそうなのに。
「そっか。じゃあ食べさせてあげるね」
わたしが自分の言った言葉に気付いた時には、彼女からすでにスプーンが差し出された後でした……。
「今日は雑炊にしてみたよ。これで平気だったら、明日からは固形物も食べていこっか」
差し出されたスプーンを、小さく口を開いて受け入れる。その時に目に入ったとおるさんの指を見ていると、足を撫でられた時のことを思い出してしまって―――
器に満たされた雑炊を食べ終えるまで、何も覚えていません。
わたしの口許をおしぼりでぬぐわれて初めて、わたしがご飯を食べ終えたことに気付いたぐらいです……。
「ご、ごちそうさまでした…」
「うん。お粗末様。おいしそうに食べてくれて何よりだよ」
そう言って食器を脇にどけられたおぼんに置くと、透さんが居ずまいをただす。
彼女のまとう雰囲気が変わったのを感じ取り、やっとわたしの思考が戻ってきた。
「とりあえず、今後のことを話そうか」
―――今後の、こと?
わたしは、この言葉を耳にするまで、そんなことを考えもしていなかった。
そうだ。わたしは、助かったのだ。命を、繋いだのだ。
まるで暖かな春の陽気に包まれるようなこの数日で、すっかりとわたしの頭の中から抜け落ちていた冷たい現実を急に突き付けられた気がして背筋が凍る。
「とりあえず、きっちり体力が戻るまでは私が責任持って面倒見るから心配しないでね」
そうだ。わたしは、ここの住人じゃない。
あくまでも、一時的に彼女の保護を受けているに過ぎない身。
「順調に快復してるから、そろそろさっちゃんの考えを聞いておくべきだと。そう、私は思うんだけど――ねぇ、さっちゃんは今後どうしたい?」
わたしは、わたしの帰るべき場所は―――
あの日の、光景が、目に浮かぶ。
壊された日常が。犯された友人が。汚された平穏が。
―――わたしへと向けられた。虚ろな視線が。
体が震える。息がしにくい。目の前がくらくなっていく―――
フワリと。力の抜けたわたしの体が、この短くて優しい日々で慣れ親しんだ。慣れ親しんでしまった温かさに包まれる。
―――ダメなのに。甘えてばっかりじゃ、ダメなのに。
いっそ、このぬくもりに包まれたまま死んでしまえれば。このまま、現実が終わりを迎えてくれたら。
そんな吐き気を催す醜悪な考えが、わたしのあたまをよぎる。
「ごめんね。まだ、決めらんないよね…。もうちょっと落ち着いたら、もう一度おはなししよ?」
甘い言葉。わたしのすべてを、汚い心まで受け入れてくれそうな、とおるさんの優しさが。今は、少しだけ痛い。
―――でも。
わたしから、その体を離そうとした彼女の背中に腕を回す。
まるで、拘束するように。駄々をこねる子どものように、とおるさんを抱き止めて。
―――本当に、汚い。
彼女の優しさに。憎からずわたしを想ってくれているであろう、彼女の心に付け入るように。
それでも―――
「ここにいちゃ、ダメですか…?」
わたしはまだ、このぬくもりに包まれていたかった。
10/20(日)投稿。
いつも、ありがとうございます。
はみだし世界観
②北海道
ゾンビ禍の起こったその時。偶然にも近年まれに見る災害級の大雪によって北海道は閉ざされていました。
しかし、結果的にそのおかげで北海道に渡航していた人間が少なくゾンビ禍の発生から逃れました。
また、災害派遣として多くの自衛隊員が北海道に派遣されており、それも自衛隊の撤退を助ける結果となりました。
今現在、北海道には日本の臨時政府が置かれ、日本がZ区を解放するための重要拠点となっています。人々の生活は切り詰められていますが、アメリカ・ロシアの支援を受けているため困窮することはありません。




