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4 選定

二話に一度は百合を挿し込みたい侍。

 拠点へと帰った私を待っていたのは、ブラッドから突き刺さるとても冷たい視線でした…。


 うん。すごい音したもんね?ごめんね?


 高級マンションだけあって防音はしっかりしているため、すやすや寝ているさっちゃんを起こすほどの音にはならなかったみたい。


 え?生存者が見に来るんじゃないかって?しばらくゾンビがうろついてるし、堀も車程度じゃ突破不可能だし。


 わかってて十五メートルも横幅とったからね。

 人間の跳躍可能な距離の三倍弱だからね。落ちたら大惨事確定だし。


 あ。戻ってくる前に跳ね橋も掛けてきたよ。実を言うと、向こうで使わなかった総鉄製の跳ね橋一式が【ストレージ】に残ってたからね。

 勇者ってだけで便利に使われすぎじゃないかな、私。向こうには労基法とか無かったけど。


 何はともあれ、これで拠点の防衛は完璧とは言えないけど終わった。完璧を求めたら設置兵器とそれを扱う軍隊が必要になるからね。

 寡兵での防衛戦なんて本来は不可能だし。


 さてさて。それじゃ、あとは色んなプランを立てていこう。さっちゃんが目を覚ますまでに、彼女の今後も考えておかなければいけない。


 つまり、彼女の受け入れ先の選別作業(プランニング)だ。


 個人的には、情もだいぶ持ってしまったから一緒にいてほしいな。とは、思っている。

 だけど、身の振り方は彼女自身が決めること。だからそのために色々と情報収集しておかなきゃだ。まださっちゃんの体力が回復してないからフィールドワークには出られないけど、だいたいの情報は資料室に残る二人の作成した資料を読むだけで事足りる。


 さっちゃんを見守るために医務室へと入っていくブラッドを尻目に、資料室へと入った私は『コミュニティ』と背表紙にラベリングされたバインダーを棚から出して読み始めた。


 向こうに居る間に速読技能は身に付けているから、結構なページ数を誇るそれも三十分と掛からずに読破できた。魔道書とか読むのに便利だから【学習】の力を借りながら練習したんだよ。


 読み終わった感想は『あの姉弟頭おかしい』である。


 近隣の情報収集はまだしもコミュニティを調べるために遠征も繰り返してるし、モラルの低い連中の拠点に関しては内部に潜入までしてる…。てか、潜入によって得た情報の方が多い。まぁ、世紀末だからそれもやむ無しってことか。

 あ。サンタルチア女学院の情報もあった。モラル最良って書かれてるよ。


 あとは壁に貼られている地図と照らし合わせて、れーじくんが亡くなった時点までに壊滅したコミュニティを弾いていく。こう見ていくと結構初期から減っていることがわかるなー。

 そのぶん、れーじくんが懸念していた他地区からの流入が起きてるんだろうけど。


 最良なのは『サンタルチア女学院』にさっちゃんを帰してあげることだけど、壊滅した前提でコミュニティの選別を行っていく。


 本当はこの街から少し行ったところにある、首都郊外の農業地帯一帯を拠点とした『アストロノーカ』が良いのだけど、車を使わないで歩くと何も無くても一日。長ければ一週間は見て旅程を組まなければ到達も難しい。


 となればやっぱりこの街にあるコミュニティが候補となってくるのだけど、結構全体的に評価が低い。私達の母校が評価悪いのは結構クルものがあるなー。私は卒業した扱いになってるのか不明だけど。

 市役所なんて一言『屑』って書かれてる。まあマユの行方不明の原因となった人たちだから私も思うところがあるのは理解できる。


「と、なると候補としてはこの三つ……いや、ひとつはコミュニティとは言えないけど」


 候補ひとつ目は『一○八Z区内臨時基地』。

 どうやら、自衛隊は北海道への撤退後もゾンビの制圧下にある地域(通称、Z区)に定期的に偵察部隊を派遣しているらしい。コミュニティではないけど、うまく交渉すればさっちゃん一人ぐらいなら安全地帯へと逃がすことも可能かもしれない。

 交渉の手札として、最悪私自身を戦力として供出することも考えておこう。どうせ、最終的には山の中にでも引きこもるから四国の解放程度なら手伝ってもいい。ま、叔父さんの身内ってことを明かせばたぶん捩じ込めるけどそれは最後の手段。あんまり権力に頼るのもねぇ?


 ふたつ目は『警察学校』。

 この街最大のコミュニティで、内部はかなり統制が取れているとのこと。敷地面積も広く収容可能人数が多く、自衛隊からの支援も受けている為まだ車を使うことが可能だとか。

 先の『アストロノーカ』とも交流を行っていて食料も豊富なことから彼女の"移住"と考えるなら第一候補と言っても過言ではない。武器の放出をしたら受け入れしてくれるんじゃないかな?私どうせ銃使わないし。


 最後のひとつは『グランドホテル』。

 女性だけのコミュニティらしい。中核となるメンバーが技術職だったようでかなり防衛能力が強固だとか。

 更に『警察学校』と同盟を結んでいるため、必ず五人程度の"戦力"が常駐しているという。まぁ対価としてある程度"娯楽"を提供しているみたいだけど、そちらには"元本職"の方が回っているからさっちゃんの貞操の安全はある程度保証できる…かな?

 女性だけだから、結構頻繁に襲撃があるようなので優先順位は落ちるけど。ま、私が傭兵契約を結べば解決するか。


 候補も絞れた事だし、護送計画の叩き台でも作ろう。そう考えていたら、ドアをカリカリと引っ掻く音が聞こえてきた。

 時間的に晩御飯かな?そう思ってドアを開けたのだけど、ブラッドは私を見るとすぐに医務室へと引き返す。


 さっちゃんが目覚めたのを教えに来てくれたのだろう。彼を追って医務室へ入ると、ブラッドは彼女に頭を撫でられてゆるゆると尻尾を揺らしていた。


「さっちゃん、よく寝れた?」


 そう問いかけると、彼女はわずかに頬を赤らめてコクリとうなずなく。


「えっと。はい…。あの、お恥ずかしい所をお見せしました…」

「気にしてないし、気にしないで。おゆはん用意してくるからちょっと待っててね」


 そう言ってキッチンへと向かい、お粥とあんを温めてから器によそって吸い飲みとおしぼりを一緒に持って戻る。


「体起こすよ」


 サイドテーブルにそれらを置いて、さっちゃんと向き合う。体を起こそうと私が体を寄せると、頬の赤みを強めながらチラチラとこっちを見てる彼女を見て……ちょーっといたずらしたくなった。


 さっちゃんの正面に体を回し、覆い被さって彼女の脇に腕を差し入れて抱きかかえる。頬と頬がくっつきそうなほど顔を寄せて「んっ…」とちょい色っぽい声を耳元で聞かせながら、彼女の上体を抱き起こしてからそのままの体勢でサイドボードにクッションをセット。

 さっちゃんの腰をちょっと浮かせる程度に持ち上げて、そのクッションへ彼女の背中を預けさせた。


「顔赤いけど、もしかして体調悪かった?」

「ひゃ!い、いえ!絶好調でふ!!」


 おおぅ…自分でいたずらしといてなんだけど、耳まで赤くして目をうるうるとさせてるさっちゃんの破壊力がすごい…。


「さ、ごはん食べよっか」


 そう言って、じつに自然な動きでお粥の入った器を右手にセットし左手に持ったスプーンを使いお粥をすくうと、そのまま口許へ。


「はい、あーんして」


 そう私が言えば、恥ずかしそうにさっちゃんは小さく口を開く。可愛い。


 時々口許をおしぼりでぬぐうのも忘れないよ!うん。役得です!!


 お昼は途中でポロポロと泣き出しちゃったから半分は残しちゃったけど、今回は全部きれいに平らげる事が出来てよかった。

 ちゃんと、全部あーんできて私もご満悦です。


 器を置いて、吸い飲みを使ってお水を飲ませたところで人心地ついたのか、さっちゃんがほぅと息をつく。


「ごちそうさまでした。あの、おいしかったです」

「はい、お粗末様です。……それで、そろそろ落ち着いたかな?」


 うん。なにも彼女の雛鳥のような姿に癒されるために来た訳じゃない。


「何があったのか、ゆっくりでいいからお姉さんに聞かせて?」


 微笑みながら、私は彼女へとそう切り出した。



 ◆◆◆◆



 わたしがなぜ、学校から逃げ出したのか。それをとおるさんにすべて話終える頃にはすっかり日を跨いでしまった。


 その間彼女は、相づちを打つ以外は静かに。それでも、わたしが泣きそうになるたびにあやしながらも最後まで聞いてくれた。


 ―――まるで、シスターみたい。


 わたしの心に(おり)のようにたまった後悔を親身になって受け止めてくれる彼女の姿に、まるで懺悔をしているように感じたからか、そんな感想を抱く。


 わたしの話を聞き終わったとおるさんは目を閉じて、何かを考えているよう。

 そして答えが出たのか、ゆっくりと彼女が目を開く。


 ―――開かれた彼女の目をみた瞬間。わたしの背中がゾクリと震えた。


 彼女の目に宿ったのは、言い表すのが難しい感情。怒っているようで、それでいて悲しんでいるような。様々な感情がまざりあったその瞳がドロリとよどんだ光を湛えたように見えた。


「うん。クズはどこにでもいるよね」


 底冷えのするような声を耳にして、自分に向けられた言葉ではない。おそらく独り言を漏らしただけなのだろうけど、それだけで体が震えだした。


 そんなわたしを見て、とおるさんは一瞬ハッとしたような表情を見せると、バツが悪そうに指で頬をかく。


「んっと…怖がらせてごめんね?私も色々とあったから」

「い、いえ。大丈夫です…」


 わたしの声は震えていないだろうか。一瞬彼女から発せられた雰囲気に飲まれてしまった自分を、恥ずかしく思う。


 ―――残酷に変わってしまった世界だもの。


 わたしだけが後悔している訳じゃなくて当たり前だということをすっかり失念してしまっていた事に気付いて、わたしの胸の中で羞恥心が広がっていく。


 そうだ。今のとおるさんはとても強そうに見えるけど、最初からそうだった訳では決してなかったハズ。たぶん、わたしが抱えている以上の後悔を。そして葛藤を乗り越えた末に今の彼女があるにちがいない。


 悲しんで、怒って、苦しんで、憎んで。


 それでもなお、微笑みを忘れないとおるさんは、本当に強い人なのだろう。


 それでもわたしは無意識のうちに、彼女のことを最初から強くて優しい。まるで、おとぎ話の英雄のように見てしまっていた。


 ―――恥ずかしい。


 穴があったら、埋まってしまいたい。自分勝手な妄想を通して彼女を見てしまっていた事実を消し去ってしまいたい。


「大丈夫だよ」


 わずかに目を伏せたわたしの手を、彼女の手が優しく包み込む。まるでわたしの汚ならしい心のうちを全て(ゆる)すような優しい声音(こわね)で微笑みかけてくれる。


 トクン。と心臓が跳ねる。その笑顔で見つめられるだけで、胸が高鳴って仕方ない。


「私が、見てきてあげる。さっちゃんの私物も取りに行かないといけないでしょ?」


 少しだけおどけるようにそう微笑む姿が、わたしの心を溶かしてしまう。


 ―――もっと、もっと近くにいてほしい。


 そう思ってしまったのが悪かったのだろう。気付けばわたしは、彼女の胸にそっともたれかかってしまっていた。


「ありゃ。眠くなっちゃったかな?」


 そう言いながら、とおるさんはわたしの頭を優しい手つきで撫でてくれる。


「今日はもうお仕舞いにして、また明日に話そうか。疲れたでしょ?」


 そう言いながら、優しく彼女が体を離そうとした瞬間―――


「あ、あの…!き、今日は、一緒にいてくれません、か?」


 気付いた時には、わたしの口からそんな言葉が飛び出していた。


 ―――わたし、なに言ってるの!?


 自分が口にした言葉だというのに、その言葉を耳にいれたわたしの頭が混乱している。

 こんなこと言うつもりなんてなかったのに!こんなこと、口にしちゃいけなかったのに―――


 そして、次の瞬間。わたしの体は軽々と、とおるさんに抱き上げられていた。


 ―――お姫様抱っこされてる…!


 かっと顔が熱くなる。ドキドキと高鳴る心臓の音がうるさい。


 そんなわたしの様子を見ながら、彼女はにっといたずらっぽく微笑む。


「こっちじゃ狭いから、広いベッドに行こうか」


 そう耳元に顔を近づけて囁かれた瞬間、背筋に今まで感じたことのない、甘いしびれが走る。


 ―――わたし、どうなっちゃうの?


 不安と期待が胸のうちに広がっていくのを感じながら、わたしは力が抜けてとおるさんの胸に頭を預けてしまった。


 彼女の鼓動を感じながら、徐々に暗闇へ落ちていく意識のなか。

 誰かが吐いた溜め息の音を、聞いた気がした。

10/20(日)投稿。

本日18:00にも投稿いたします。百合百合しい雰囲気を出したいのに、すごく難しい…。


お気に召しましたなら、ブクマや評価。感想など残していただけますと幸いです。

これからも皆様に楽しんでいただける作品を書けるよう精進していきます。


はみだし設定小噺

⑤アストロノーカ

四人組の男性バンドユニット『T.A.N.(TOKYO-ASTRONAUTS)』のメンバーが音頭を取って立ち上げた生産コミュニティ。当たり前だが現状で本土最大の食物生産地。農業も酪農だけでなく、範囲内に建て直された家屋すらもすべてT.A.N.のメンバー指導のもと行われている。

自衛隊の部隊『関東Z区駐屯部隊』とも合流しているため防衛体制も万全である。食料を得ようとひゃっはーしにきた略奪者はだいたい捕まり気が付けば農業の楽しさに目覚めてコミュニティの一員となっている不思議な空間。


関係ないが、T.A.N.のリーダーはギタリストとしても有名な人物で、ボーカルは男臭いイケメン。ドラマーは実家が小料理屋で料理もプロ級でキーボーディストは長らくテレビショッピングなどのMCもしていた。

そして、全員が何らかの特殊な免許を持ち、農業界隈でも有名人である。

走り出しそうな村がモデルですが、この物語はフィクションです(ry

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