3 改築
今回、主人公の魔法チート回となっております。
真弓「ああ、やっぱりダメだったよ」
私にすがり付いて泣いていたさっちゃんから、少しずつ力が抜けていく。
泣き疲れたんだろう。しばらくすると寝息が聞こえてきた。
そっと彼女をベッドへと横たえさせて布団を被せる。涙とかで汚れてしまったその顔を、魔力を回して温め直したおしぼりで軽くぬぐう。
ずっとごめんなさい。ごめんなさいって嗚咽を漏らしながら謝り続けて、そのまま眠ってしまった。
「ブラッド。さっちゃんの側にいてあげて」
そう声をかけると、ブラッドは彼女が視界に入る位置に陣取って丸くなった。
その様子を見て、さっちゃんに対してブラッドがある程度心を開いたことに気付く。
うん。実はブラッドくん、今まで私と一緒じゃないとさっちゃんに警戒心バリバリで接してたのです。様子を見るように頼んだら、見ているあいだ絶対に楽な姿勢を取らなかったからね。
その彼がああやってリラックスした格好をするってことは"身内"とは言えなくても"客人"としての扱いをしてるってことになる。
……もしかして、泣いている女の子を放っておけない性格とか?何それイケワンポイント高い。
彼の背中を撫でてから、静かに医務室を後にする。
そして私が向かったのは、マユの部屋だ。目的は彼女の部屋の衣装箪笥。上から順に引き出しを開けていき、ブツを見つけたのだが――それを見つけた瞬間、マユに突き付けられたであろう現実を思い涙をこらえた。
「やっぱり、育たなかったんだね…!」
私の手にある衣類のタグには、燦然と輝く〔B〕の文字が…!私たちの努力は文字通りやっぱり実らなかった…!!
うん。探してたのはブラジャーなんだ。
オーケー落ち着け。座ってろ国家権力。私はなにも邪な考えでこれを探していた変態じゃない。これもさっちゃんのために必要な事だったんだ。
うん。彼女の下着。それも上の方が現在必要なのです。私の自制心の為にも。
今現在、さっちゃんを助けたときに彼女が身に付けていたそれは、ダメにしたズボンを除く彼女の衣類と共にお風呂場で乾燥されている真っ最中である。つまり、現在ノーブラである。
せっかく体をキレイにしたのに、汚いままの下着とか服着るのって、やっぱりイヤだと思うじゃん?だから、ズボン以外は洗濯してるの。
ちなみに、私の魔法で洗えばいいんじゃないかと思ったのだけど却下される運びとなりもうした。
化学繊維ちょっと貧弱すぎじゃないかな?
試しに破れたさっちゃんのズボンを魔法で洗ってみたら、ぼろぼろになったよ?……試しておいてよかった。
いや、確かに私がずっと愛用してる衣服ってほとんど魔物の素材だけど、ここまで強靭性に違いがあるとは思ってなかった…。
うん。服はマユのスウェット上下を借りたからいい。マユは私より背が高いからさっちゃんに彼女のそれを着せたら彼シャツミームを感じて私が小一時間悶えることになったけど、いいんだ。萌え袖尊ぃぃ…。
パンツも、新品の女性用ボクサーパンツがあったからどうにかなった。
でもね。上だけはどうにもならなかったの。
私。揺れない。
マユ。揺れない。
さっちゃん揺れる!!
胸囲の格差社会ですよ!そもそも、私にせよマユにせよブラなんてオシャレ以外ではスポーティーなのしか着たことねえよ!!
ありがとう親友!君の上下は私にジャストフィットだ!トップが擦れないって素敵だね!!クソァ!!
うん。つまり、サイズが合わないんだ。私らが戦闘力5に対して彼女は戦闘力53万なんだ。
男性諸兄にはわからないだろうが、摩擦は凶器(これは体験談)だし、慣性は暴力(心海談)なんだ。つまり、これからさっちゃんと行動するしないは別にしても、彼女には防具が必要なのだよ。一着だけだと、破れたら大変だしね。
そんなこんなでことあるごとに二人で涙ながらに語った「将来性」に一縷の望みを託して家捜しに踏み切ったけど、やっぱりダメだったみたいだ。
まぁ、スポブラ見つけた時点で予想はついてたけどさ。
「やっぱり、探索は必須かぁ…」
このマンションに無いことは知ってるから、やっぱり外か。それも可能性があるのはそれを必要としない者達が略奪を行ったであろう場所。
「つまり、さっちゃんの私物がある場所」
実は、彼女がどこから逃げてきたのか。それについては聞かずとも知っている。
何度も補修され、実用的に改修されていたし、下に履いていたのはズボンだったけど。
彼女が着ていたのは制服だ。
私が召喚される以前からこの近辺では知らない者がいないほど有名な女子高の。
「サンタルチア女学院」
その名をポツリとつぶやく。
街から離れた山中に建てられており、全寮制を敷く『お嬢様の温室』とまで称された中高一貫の女学校。
学校見学で行ったことがあるからよくわかるが、なるほど二年間と言う長い時間をゾンビの驚異から身を守る環境としては正に最適とも言える場所だ。
自然豊かな山の中というロケーション。畑として転用するにはうってつけの広い運動場を備えている上、電気と水は自前で用意可能というふざけた防災設備。
『乙女の砦』と揶揄される、学校の敷地をぐるりと囲う高い外壁と、青少年から『地獄門』と嘆き称された、強固な門扉までを備えたそこはアポカリプスな世界にあって尚、女生徒達を守り続ける事は容易だっただろう。
巷に溢れるゾンビからも、蝕まれ変質した外界のルールからも。
そこは、楽園だったに違いない。
自給自足の生活に変わっても尚、以前の価値観を守り続けた前世界の箱庭だったに違いない。
しかし、そこからさっちゃんは逃げ出さざるを得なかった。一人で、仲間を置いて。
楽園が失楽園に変じたから。
では、ゾンビに陥落不可能な砦を落としたのは何か。
決まっている。要塞を陥とすのは、難攻不落を攻略するのはいつだって―――
人間しか、いないのだから。
「ま、様子見ってところかな」
うん。落とされた前提で話してたけど、全部私の想像でしかないからね。
もしかしたら、私の予想が外れていてゾンビ達があっちの世界よろしく大瀑布を起こし、結果防衛に失敗しただけかもしれない。
籠城戦によくある話だが内部分裂の末、抗争に発展して崩壊した可能性だってある。
もしくは、何らかの理由で食物が壊滅して探索に出ることを余儀なくされて出てきただけで、問題なくコミュニティとしての運営は続けているのかもしれない。
……とまぁ、なんのかんの理由をつけているけども。下着問題という大義名分を得た私は、結局そこへと出向くのだろう。
だって、そうでしょう?
隠居した物語の英雄だって、乙女の涙には勝てないのだから。
◇◇◇◇
てなわけでさっちゃんが夢の世界に旅立っている間に現在の拠点改修を始めてしまおう。たぶんこれから頻繁に拠点を留守にするから、留守番担当者が安心できるようなALS◯Kも真っ青な改築をしてしまおう。
思い立ったが吉日とも言うので、さっそく私はマンションの外へ。
うん。サンタルチア女学院が落ちたと仮定したならば、このマンションの防衛設備だって完璧とは言いがたいだろうしね。
まず作るのは一週間区切りされたゾンビ世界にお馴染み『空堀』である。
皇居とかみたいに水の張ってない堀の事ね。
重機がないのにどうするかって?
そんなもんリリカルマジカルで一瞬でございますのよ?
まずは目測でマンションから二十メートルは離れます。そして~魔力を回しまして~地面に手をつきま~す。そして、だいたいの縦横幅を頭のなかで思い浮かべれば~。
次の瞬間。まるで爆発が起きたかのような音が空気を震わし、イメージした通りマンション周り二十メートルを残して、そこを囲うように地面を覆うコンクリートと、ついでに周りの建物が砂に変わる。
そして残った残骸も再利用先が決まっているため全て【ストレージ】へと収納していけば、横幅十五メートル。深さ十メートルの空堀の完成である。
この地下に水資源が無いのは確認済みだし、上下水ともに崩壊してるから水が入る心配も大雨以外には無いから完全無欠の空堀さんである。
なぜ、空堀である必要があったのか。その理由は爆音に釣られて走ってきたゾンビさんを見れば一目瞭然。
「あの世へまいりまーす。ってね」
私へ殺到した憐れなゾンビは、次から次へと空堀へと落下していく。そして下から聞こえる何かが潰れる音。
十分な成果を得られた事を確認した私は、また地面に手をついて魔力を回す。
今度は特に音のしない静かなモノだったけど、堀を覗き込んだ私はそれを見て満足げにうなずく。
「これで、登れない」
堀の内側は、まるで磨きあげた大理石のように日の光を反射して煌めいている。
魔法でちょちょいと土を熱してその全てを固めてやっただけなんだけど、つるりとしたその表面には僅かな凸凹すら存在しない。おっと、ついでにさっき落ちたゾンビが灰になった。
あっちの突貫砦建設でもよくやった手だけど、こうやって壁面を均しておかないとたまーにフリークライミングする奴がいるからね。
これでゾンビも人間もこの堀を越えることはほぼ不可能である。
空飛んだら普通に入れるけど、そちらにも対応させてもらおう。
堀から五メートルぐらい離れてから、マンションの周りを先ほど【ストレージ】に保管した砂をばらまきながら歩く。
そして、三メートルほど残してぐるりとマンションを囲むようにそれらを配置して魔力を回せば―――
「城壁の完成。ってね」
私の歩いてきた後を辿るように、砂がうごめき壁が形成されていく。
これぞ、ラフィール流インスタント砦建設術(要魔法使い)である!豊臣秀吉もびっくりの一夜城建設だけど、向こうじゃいくつもこさえましたとも。
あとは、魔法で動く跳ね橋を付ければ完成だけど、それは後回しにして内部防衛を充実させよう。
しかし、結構バカスカ魔力消費したけど使う端から補充されていくせいで全然減らないな?もしかしたら地球はあちらより外魔力が濃いのかも。
「そうなると、ちょっと困ったことがあるんだけどなー」
外魔力は不可視だから濃度なんて調べようがなく、感覚で掴むしかないのが痛い。これから使おうって考えてた魔法がいくつか使用不可の可能性が出てきたぞー?
ま、悩んでても仕方ない。
てくてく歩いてエレベーターホールへ。
あんまり考えたくないけど、防衛戦に移行する可能性を考えたら備えは絶対に必要だからね。
まずは拠点の部屋へと直通するエレベーター。これはマスターキーか部屋の鍵が無いと動かないから、直接登ってくる外敵への備えだけしよう。
天井の整備ハッチを塞ぐだけなんだけどね。
次は階段。こっちは踊り場に簡単なバリケードを作って対処しよう。
取り出したるわでっかい麻袋さん。これに、さっき使った砂の残りを詰めていくよ。いくつもの麻袋にせっせせっせと砂を詰めて土嚢を作っていく。
そしてこれを階段を塞ぐように積み上げながら水で濡らして、スレッジハンマーを使って軽く上から叩いてやれば、防衛戦の要。土塁の完成である。
それだけ?と思うかも知れないけど、土塁って銃撃戦ですら有効な防衛手段だからね。
コストは用意した袋だけで砂は現地調達だから無料とローコスト。
更にサンドバッグを殴ったらわかるけど、粒の細かいモノを詰め込んだ袋って衝撃を吸収するから銃弾はおろか、条件次第では爆風をも防ぐ事ができる。
そして何より、重い。
重いということは、それだけ撤去に時間がかかるってことだ。まあ、高さはせいぜい一メートルちょっとだから乗り越えられなくもないけど二十階まで続く階段の踊り場に嫌がらせの様に次々と設置していく。
そして、階段を上りきった先には金属糸を膝ぐらいの高さに設置。
魔鉄で作った特性のもので、ほぼ視認が不可能な細さながら強靭性が電線ぐらいあるって言えばその凶悪さがわかるんじゃないかな?
そして、それに魔力を流して鋭く研いでやればワイヤートラップの完成。
流石に倉庫に使ってる十九階と二十階を繋ぐ階段と、屋上への階段にだけはワイヤートラップは設置しないけどね。間違ってブラッドとさっちゃんが触れたら大惨事だし。
屋上は元々置いてある貯水槽とソーラーパネルのせいでヘリポートとしては利用できないから空中降下対策に物干場に屋根に棘の着いた金網の囲いを設置すれば、作業終了!!
「いやぁ、やらかした!!」
歩兵には攻略不可能な砦と化したマンションの上で、私は晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
あー!バリスタとか付けたい!!
10/19(土)投稿。
お気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくお願いいたします。
ところで、百合展開でブクマ5件増えたんですよ。やっぱり百合は世界を救うんやなって…。
透「これが異世界の砦建設の常識です」
女神様「透ちゃん、無いから」




