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2 介抱

実は幕間が一話増えておりますよ(・ω・|壁

 えっと、どういう状況だろうね?ブラッドさん。

 三日ほど眠っていた女の子が目覚めたと思ったら、また気絶したでござる。


 ……ブラッドさん。溜め息吐かないで。なんとなく事情は察してるから。私のせいだから。


 くったりと私にもたれかかるように気を失った女の子を、そっとベッドに寝かし直してから改めて彼女を見る。


 一応ね、ずっと汚れたままんじゃかわいそうだからブラッドさん監視のもとお体を拭いたり、魔法を使って髪の毛洗ったりしたからわかってたけど、なんというかこの子『守ってあげたくなる』女の子だ。


 日本人にしては色素の薄い亜麻色に近い髪の毛と日本人離れした白い、キメの細かい肌。

 整った細い眉と、派手になり過ぎない程度に長いまつげに縁取られた目は、少したれ目で愛らしい。

 可愛らしい小さい鼻と、ぷっくらと肉厚な健康的ないろ(・・)を取り戻した唇。

 すいーっと視線を動かせば、くぅくぅという可愛い寝息に連動して上下する立派なおやま(・・・)が鎮座している。うん、私のを小山(見栄)だとすると彼女のは巨峰と言って然るべきだ。うん。

 てかさ!?なんでこんなに立派なのお持ちであらせられるのにこんなにちんまいの!?身長は私より十センチは低いし、すっごい小顔だし!ちょっとずつ健康を取り戻してるけど体は細いし!それなのにさっき体を支えた時だってすっごく柔らかいしーっ!役得ですっ!!


 ……うん。落ち着こう。

 正直、まだまだ女に戻って一週間も経っていないせいか、精神が男に引っ張られている感じがする。


「はぁ~…。ご飯でも食べて落ち着こう」


 ちょっと落ち込みながら静かに部屋を出てキッチンへ移動。うーん。今日のお昼はどうしようか?


 朝は昨日のうちに炊いてたご飯と、フリーズドライのお味噌汁。それと干し肉を適当に煮込んで作ったおかずだったし、肉から離れたい。

 ブラッドにはブロッコリーと塩抜きした干し肉を混ぜたのでいいかな?あれ?犬って二食でいいんだっけ?んー。わからないから量を調整しよう。


 煩悩に支配されかけた脳の容量を無理矢理献立で埋め尽くすことで、思考を正常に戻すよう心掛ける。


 がんばれ、私の自制心。



 ◇◇◇◇



 コトコトと音をたてる土鍋を見守りながら、ちょっとした調理なう。まだ『なう』って通じるのだろうか…?


 結局、私のご飯は自衛隊のレーション。いわゆるミリメシとなりました。名高い鶏飯の缶詰めだったけど、すごく美味しかった!はいそこ、結局肉じゃねーかとか言わないの。


 で、ご飯食べ終わったのになんでまたキッチンに立ってるかと言うと、あの子が起きたときに食べる物を作っていたりする。


 人間って不思議でね。ちゃんと口からご飯をとらないと、どんどん弱っていくんだ体も、心も。たとえ、栄養剤を点滴していたとしてもね。


 気絶したとはいえ、また今日中に目覚めるだろうと踏んで彼女のためにご飯をこさえる。といっても、ほとんどおも湯に近いお粥なんだけど。


 あの子を助けた時の状態から考えて、おそらく彼女は最低でも一日。最長で三日程度水ぐらいしか口にしていなかったと思われる。

 で、そこに足すこと三日の計六日。ほとんど一週間も消化器官を使っていなかったと計算。


 たかが一週間。されど一週間。彼女の消化能力は今現在非常に弱い状態にあるはず。

 そんなときは、例えやわらかく煮込んだうどんだろうと体に負担をかけることになる。


 それでも、体を戻すための第一歩として何かを口にすべきなんだ。


 栄養って面で考えたら麦粥(ポリッジ)が一番良いんだけど、牛乳が手に入らないし、なにより日本人の舌に合わない。私は普通に食べれるけど、それはあちらでの経験ありきの話。

 次点は甘酒なんだけど(こうじ)がない。マンションの一室改装して麹作ろうかな?


 妥協案としてのお粥だけど、エネルギーの補給と消化器官の活性化を考えて作っております。


 まず、お米は消化しやすいよう完全に形が崩れるまで煮込む。こちらは薄く塩を振っただけで特に味付けしない。

 吹き零れないよう注意しながら、横であん(・・)を作るよ。葛粉は無かったけど、片栗粉あってよかった。


 鼻と舌がだいぶ臭いに敏感になっちゃうから、動物性の出汁はダメ。ということで、昆布と干し椎茸の戻し汁をベースに醤油とお砂糖、お酒を使って味を整える。一度火にかけてひと煮立ちさせ、アルコールを飛ばしてから火から下ろし熱を冷ます。


 その間に、今回の秘密兵器(ててーん♪)梅干しの蜂蜜漬け~!まろやかな甘味と爽やかな酸味が食欲を増進するぞ!


 向こうで作ったものだから、正確には梅干しもどきだけどね。味が梅干しだからいいんだよ!


 コホン。で、これをひとつ取り出しまして種を取り、包丁で叩く。形がなくなってきたら裏ごししてペースト状に。

 それで、梅ペーストを冷ましておいた出汁とまぜまぜ。果肉が残らない様にこしてから、再度弱火で火にかけて沸騰しない程度に温める。

 温まったら火を止めて、水溶き片栗粉を加えれば、お粥のあん(ほんのり梅風味)の完成です!

 叔母さん直伝だよ!


 ……うん。三分クッキングなノリで作ったけど、美味しいよ?ほんとは味醂使いたかったけど無かったからお砂糖と日本酒(大吟醸)使ったけど。


 うーん。卵が欲しい。明日は卵粥食べさせてあげたい。どこかで採ってこようかな?


 丁度お粥が炊き上がったと同時に、女の子の様子を見てもらっていたブラッドの声が聞こえてきた。


 うん。やっと彼女と話すことができそうだ。


 吸い飲みとお水のペットボトル。そして温めておいたおしぼりを乗せたおぼんを持って医務室へと向かう。

 目覚めたばかりの女の子は、ぼんやりとした目で天井を見つめていたのだが、私の姿を見てほんのりと顔を赤くした。


 ―――意識させちゃってるなー。


 つとめて気にしていない風を装いながら、ベッド横の椅子に腰掛けて、おぼんをサイドテーブルにおいてから安心させるように微笑みかける。


「まず、点滴外そうね」


 うん。なんでこの子微笑みかけただけでお顔が真っ赤なのかな?

 そんな彼女を意識しないようにして点滴を外す。何か声に出そうとしたのだろうけど、たぶん喉が乾きすぎて痛かったんだろう。咳き込んでしまった。


「まず、水飲んでからね。体起こすよ?」


 彼女の肩を抱いて上体を起こす。血が足りないからか、彼女はわずかに頭をふらつかせると私の胸に頭を預けた。


 よしよしと女の子の背中をやさしく撫でてから吸い飲みを差し出すと、ゆっくりとそれをくわえて水を飲み始める。


 うん。私の自制心がガリガリ音を立てて削れてるよー…。


 背中にビシビシと突き刺さるブラッドの視線を感じながら過ごす時間はとてもつらいです…。


「も、う…平気、です」


 彼女のかすれがちな声が聞こえてきたのは、吸い飲みで二回、むせながらもゆっくりと水を飲み干してからだった。


 その間ずっと私が支えてたよ!よくもった私の自制心!!ブラッド、誉めて!!


 あ、鼻で笑われた。


 ブラッドの犬とは思えない塩対応に若干へこみつつ、彼女体をゆっくりとベッドに横たえさせる。


「あり、がと…う。えっと…」

「うん。どういたしまして。私は大柿透。そっちのワンコはブラッドくんだよ」


 そう言うと、彼女の顔には弱々しいながら微笑みが浮かぶ。


「おおがき、さん。たす、けてくれ、て。ありがとう、ござい…ます。わた、しは。東美(とうみ) (さち)、です」


 まだ喉が痛いのかつっかえながらだけど、女の子――東美 幸ちゃんはそう自己紹介をしてくれた。


「あー。ちょい事情があって、苗字で呼ばれなれてないの。透でいいよ。」


 あちらでの生活では、ほとんど『トール』って呼ばれてたせいか、苗字で呼ばれると違和感があった。だから、そう伝えたのだが、なぜだか彼女の頬がほんのり赤くなったぞー?


「で、は。とおるさん、と。お呼びしま、すね。わたしの、ことは。さちとお呼び、くださ、い」

「ん。了解したよさっちゃん」


 幸ちゃんだから、さっちゃん。安易だね。


「えっ、と…」

「うん、まあ混乱してるよね。目が覚めたら知らない場所だし。とりあえず、お話の前にさっちゃんご飯食べよっか」


 お腹すいてるでしょ?そう尋ねると、ちょっとだけ恥ずかしそうにしながらもコクリと小さくうなずく。


「食欲があるのは良いことだね」


 そう言って、席を立ちキッチンへ。

 ほどよく熱のとれたお粥を器によそってからあんをかける。


 ついでに、さっちゃんがもたれ掛かれるようにマユのベッドルームから大きいクッションをひとつ持って戻った。


「自分で食べるのは…難しいよね」


 おぼんの上にお粥とスプーンを置いてから聞くと、またまた恥ずかしそうにしながらのうなずきが返ってくる。


 さてさて、もてよ私の自制心さん。



 ◆◆◆◆



「はい、あーん」


 ちょっとハスキーな声で彼女はそう言いながらスプーンを口許に差し出してきた。

 小さい子どもに戻ったようで恥ずかしさを覚えたけど、わたしは言われた通りに口を開ける。

 やさしく口内へ差し入れられたスプーンには、形が崩れるまで煮込まれたお粥。

 お米なんて、久しぶりに口にした。ほんのりと梅のような香りのするあんのかけられたお粥は、噛まなくてもするりと喉を通る。


 ―――ああ。わたし、助かったんだ。


 お腹のなかがぽかぽかしてくるのを感じて、やっとそのことを実感する。


「ん。ゆっくりお食べ」


 口の端からこぼれたお粥を、やさしくおしぼりでぬぐいながら彼女――大柿 透さんは微笑んだ。


 ご飯を食べさせてもらいながら、彼女をそっと見つめる。

 真っ黒な髪の毛と、切れ長な瞳。中性的な雰囲気に短く整えられた髪の毛がよく似合う美人さん。

 すらりとしたモデル体型で、ピンと背筋を伸ばす姿がよく似合う、カッコいい女の人。


 肩を抱かれたときや、彼女にもたれかかってしまったときに感じたのだけど、その体はかなり鍛えられていた。


 たぶんわたしよりずっと前から、この世界に適応したんだろうことがよくわかる、しなやかながら力強さを感じる体だった。


「おいし、い、です」


 ちょっとつっかえながらだけど精一杯の感謝を伝えると、とおるさんはにへっと相好を崩す。


 その少女の様に屈託のない笑顔を目にして、またわたしの心臓がトクンと跳ねた。


 ―――わたし、どうしちゃったのかな?


 目覚めてからずっと、とおるさんの顔を見つめてしまう。

 彼女と目線を合わせようと必死になる。その口許を見つめては、彼女と唇を重ねたことを思い出して、頬が熱くなる。


 こうやって、子どもの様にご飯を食べさせてもらっているだけで、ぽかぽかと、心があったかくなってしまう。


 お話ししたい。


 ―――声を聞かせて?


 見つめていたい。


 ―――微笑みかけて?


 ―――その唇で、もう一度キスをして?


 自分だけが助かったという罪悪感よりも、彼女とこうやって過ごすことに幸せを感じてしまったことで、自分の浅ましさを見せつけられている気がして―――


 気付けば、わたしの頬を涙が伝っていた。


 生き残れた嬉しさや、生き残ってしまった後悔が一気に押し寄せてきて、涙が、止まらない。


 フワリ、と。突然わたしの体が暖かさに包まれる。


 抱きしめられている。そう理解したときには、わたしはすでにとおるさんにすがり付いていた。


 わたしの頭をやさしく撫でながら、「がんばったね」「よく生きたね」そう、憐れむでも励ますでも無いことばをとおるさんからかけられた瞬間、わたしは彼女の胸に顔を埋めたまま、声をあげて泣いてしまった。


 ごめんなさい。わたしだけが、生き残ってしまって。

 ごめんなさい。みんなを、助けてあげられなくて。

 ごめんなさい。みんなを、見捨ててしまって。


 後悔の念が、頭のなかでぐるぐると渦を巻く。


「大丈夫だよ。だーいじょーぶ」


 そんなわたしに優しくしてくれる彼女に申し訳なさと――彼女ならなんとかしてくれるかもしれないと考えてしまう自分への嫌悪を覚えて、いっそう自分のあげる泣き声が大きくなってしまう。


 それでも、とおるさんはわたしを突き放すことなく抱きしめてくれた。

 何も言わず、頭を撫でてくれた。


 ―――ああ、だめだ。こんな気持ち、自覚するべきじゃないのに。女同士なのに。こんな汚い(・・)わたしが、持っていいモノじゃないのに。


 まだまだ体力の戻らないわたしの体から、力が抜けていく。とおるさんにもたれかかったまま、その体温に、匂いに包まれたまま。


 ―――ドキドキして、当たり前だ。


 まぶたが落ちるその瞬間、わたしははっきりと自覚した。


 ―――わたし。この人に、恋してる。

10/19(土)投稿。

お気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくお願いいたします。

皆様のおかげで、総合評価が100ptを上回りまして狂喜乱舞しております。これからも、拙作をよろしくお願いいたします。

また、二章連載中も土日とも18:00にも更新をしたいと考えておりまし。


完全にはみ出した小噺。

本作主人公である透ちゃんは、百合を成立させやすくなる。女の子に恋心を抱き、欲情しやすくなるという作者の汚い思惑のせいで、TS異世界転移の経験を持たされました。


透「おい作者てめぇ表に出ろ」

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