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10 STAND BY ME

これにて一章が終了となります!

「ん~~~!」


 官能の声が口から漏れ出る。口腔に入れられたモノが喉を通り、胃の腑へと落ちていくのはいっそ快楽的でもある。


 そう、今私は炊きたての白いご飯を食べているのである。


 いやはや、驚いたよね。自衛隊のレーションはあるってボイスレコーダーで聞いてたけど、まさか白米の備蓄まであるとは。

 その数おおよそ一トン。精米機は家庭用のモノが用意されていたから、精米したてというなんとも贅沢なことをしている。


 十九階の備蓄は本当にすごかった。

 そこに存在する四部屋すべてを倉庫として利用していた。三部屋が食料庫で、最後の一部屋だけ武器庫。

 武器庫もまぁよくここまで集めたねと呆れる量が集められていたけど、食料庫のすごさにはかなわない。

 うち二部屋には山と積まれた自衛隊のレーションが詰め込まれていたけど、最後の一部屋には大量の米とどうやって運び込んだのか業務用の冷凍庫が五台鎮座していた。

 明らかに豚や牛といった、今じゃ手にいれる術すら無いお肉に、真空パックに詰められた冷凍野菜。食料事情が豊かすぎはしませんかね?調味料も山ほどあったよ。


 やばいね。五年ぶりの白米。向こうにも水耕種の穀物はあったけど、到底米と呼べる代物では無かったし。

 そんなわけで、今私は晩御飯として適当に作ったお酒のお供の様な小鉢のおかず数品を肴にひたすら白米を掻き込んでる最中です!

 私が召喚される前は若者のお米離れなんて言われてたけど、やっぱり日本人の胃袋にはお米が必要だよ!


 いやぁ、テンション上がって土鍋で炊いちゃった!〆はお茶漬けだな!


 ブラッドにも勿論贅沢させてるよ。冷凍されてた牛肉と小松菜を油を使わずサッと炒めたモノだけど。

 彼のデザートにはあちらで唯一成功した飛竜肝の缶詰めを開けて作ったテリーヌもどきも用意してみた。


 しかし、ブラッドくんのご飯はどうしようかな?ドッグフードなんてまず手に入らないし、だからと言って毎回冷凍されている物資を使うわけにはいかないからね。

 となると狩猟するしかないんだけど、この辺りで野生動物見つかるかな?人の気配が消えたら彼らの行動範囲は広がるって言うけど、この辺り山が無いからね。ちょっと遠出になるかも。

 足がほしいね。ガソリン全滅してるだろうし電気で動くタイプが。


「ごちそうさまでしたっ!」


 サラサラとお茶漬けを流し込んで本日の晩御飯終了です。ブラッドさん、今日はもうおしまいだからそんな切ない声出さないの!テリーヌ(もどき)までしっかり食べたでしょ!


 うん。お腹が膨れたからか色々と悩んでたのがバカらしくなってきた。空腹はサバイバルの常とは言えやっぱりよろしくないね。

 あの子が目覚めたらお腹いっぱい食べさせてあげよう。たぶん、しばらく水しか口にして無いだろうから最初は薄いお粥からだろうけど。


 件の女の子は未だに目覚める様子もない。もう治療してから六時間は経ってるからそろそろ目覚めても良いとは思うんだけどね。


 キスしたら目覚めるかな?……無いな。


 ちゃちゃっと魔力を回して食器を洗い清めてから棚へと仕舞う。さて、あとはマユミさんとレイジさんの私室を見ておかなきゃ。

 資料は量が量だから、しっかり腰を据えて確認したい。どうせしばらくはあの子の経過観察でここから動けないんだし。


 さてさて、まずはレイジさんの私室から見ていこう。ブラッドさんどうする?あ、お腹いっぱいで今は動きたくないと。


 幸せそうに尻尾をゆらゆら振るブラッドに背を向け、おじゃましまーすと挨拶しながら部屋を開ける。

 目に飛び込んできたのは広いけど物の少ない、ザ・男の部屋といった感じのお部屋。


 一人で使うにはやや大きめのベッドと、立派なデスク。そして、その上に立派なデスクトップのパソコンが鎮座している。たぶん、ネットは使えないだろうけど。

 そして、ベッドサイドの小さな本棚には何度も読み返したのだろう手垢に汚れた小説。歴史物が多いな?


 あとは、ウォークインクローゼットとお酒が詰め込まれた棚があるぐらい。ほぼ蒸留酒しかないなー。強いお酒が好きだったのかな?


 あ。金庫はお酒の棚に嵌め込まれてたよ。開けてみたら、彼が言っていた通り通帳と印鑑。遺言状と書かれた茶封筒と、書き終えたものだろう三冊の日記帳。そして、マンションのマスターキーらしきものが入っていた。


 あとで読むために日記帳だけを取り出して金庫を閉める。いくら懐に入れていいよと言われたとはいえ、なんとなくそれらに手をつけたくは無かった。


 デスクに置かれていた書きかけの日記帳の上にそれらを重ねて置いておく。これもあとで読まなきゃね。


「さてさて、お隣はどうなってますかね?」


 レイジさんの部屋の探索を終えて、とうとう最後の部屋を見ることにする。


『MAYUMI』と書かれたネームプレートの掛かる扉におじゃましますと声を掛けてから踏み入って。


 ―――私は、彼女の部屋の壁にかけられたモノに釘付けとなった。


 それは、何の変哲もないアコースティックギター。三万円もしない、安物の部類に入るだろうモノで、ボディにはどこかでぶつけた時に付いた傷がついていて。


「なんで、これが、ここにあるの?」


 ―――私は、これを知っている。


 弦は張り替える前で、今は付いてないけど。これは、私のアコギだ。


 中学に上がる前、どうしても初恋の人と接点を持ちたくて。一緒に暮らし初めた叔父さんに最初にねだって買ってもらったギター。初恋は、音楽店の店長さんが既婚者だと知って儚く散ったけど、その時にはすっかりハマっていて、召喚される前日まで弾いていた私のギター。


 ふらふらと近付いて手に取る。何度も修理した跡があるそれは、やはり私の手に馴染んだ。

 裏返してみれば、色褪せたプリクラが貼られていて―――


『へぇ、ギター弾けるんだ』


 高校に入学してすぐ、駅前で弾き語りをしていた私にそう声をかけてきた女の子。

 最初はなんだこいつ。って思ったけど、話を聞いたら同じクラスだった。


『ねぇ、私にもギター教えてよ。興味あったからやってみたかったんだよね』


 凛とした雰囲気をまとっていた、私より上背のある女の子。バレンタインデーのたびに二人して女の子からチョコを貰っては肩を落とした。


礼司(・・)が卒業したら親が再婚するから、苗字変わるから"オオガキコガキ"は名前変えなきゃね。新しい苗字がまた結構珍しい苗字でさ―――』


 なぜ気付かなかった。なぜ、気付けなかった。

 彼女は私の親友(・・)なのに!


「マユ…。マユ!!」


 レイジさんに見覚えがあるはずだ。当時はスポーツ刈りにしていたとはいえ、彼と私は会ったことがあるんだから!!


 ギターを胸に掻き抱く。そこに、彼女の温もりが残っている気がして。帰ってきて真っ先に会いたかった蓮っ葉な親友との思い出を抱き締めるように。


 闘争の日々でセピア色に褪せていたそれが、ギターを見た瞬間に急激に色を取り戻した気がして―――


『おかえり』


 そんな彼女の幻聴(こえ)を聞いた私の瞳から、幾筋もの涙が溢れた。



 ◇◇◇◇



 一度溢れだした涙はなかなか止まることがなかった。

 次から次へと凍り付いていく心を守るために、心の奥底へと封じ込めていた思い出が。取り戻したかったかつての日々への思いが溢れだして止まらない。


 涙を流したまま私はさっき出たばかりのレイジさん――れーじくんの部屋へと戻る。

 そして重ねたばかりの日記帳を手に取りページをめくる。


 どうして、彼が一人きりだったのか。

 どうして、自らシスコンを公言していた彼がマユと一緒にいなかったのか。


 ―――もしも、マユが死んでしまっていたら?


 そう考えるだけで指が震えて、ページをめくるのが怖くなる。

 それでも、彼女の足跡を。彼女へと繋がる手懸かりを求めて読み進めていく。


 それは、日常が崩壊していく記録だった。

 日に日に日常が失われていく情景が、れーじくんの主観を以て克明に書かれている。


 ―――そして、私の指が止まる。


 それは、三冊目の日記にあった。

 そのページだけ、悲しさからか。それとも、悔しさからかまるで殴り書きのように歪んだ字で記されていて。


 でも。


 それでも―――


 日記を静かに閉じる。

 流れていた涙は止まった。


 私の心に覚悟の炎が灯る。


「泣いてる場合じゃ、ない」


 どうやら地球(こっち)の神様はドラマチックをお望みらしい。


 ―――だから、これは私の決意表明だ。

 マユの部屋へと入り、弦の張られていないギターを手にする。

 弦は、過日と変わらず、彼女の鞄に入れっぱなしだった。


 日記を読む限り、日本はまだ終わっていない。

 れーじくんの遺した『北海道を目指すといい』という言葉の通り、日本政府は本土の放棄をしたあと、北海道へと撤退したという。

 自衛隊のほとんども又、無事だった北の地へと撤退し、奪還作戦に備えて牙を研いでいる事だろう。


 ならば、救世は彼らに(・・・・・・)任せよう(・・・・)


 私は私のためだけに力を使う。


 ―――ギターに弦を張る。いつだって、彼女と私は何かを決める前に。覚悟を決める前夜にはギターで語らったから。


 私が救うのは、私の大切な人達だけ。


 この瞬間。私は決定的に勇者では居られなくなったのだろう。救世主には二度となれないのだろう。


 だって、大切な数人とその他大多数の生き残りの命を、確かに天秤にかけたのだから。

 決定的に、等価値なモノに優先順位を決めたのだから。


『姉さんが、行方不明になった。ゾンビの波によって、分断され―――』


 たった一文。たった、それだけの言葉にすがる事を決めた私にはもう世界を救う資格なんて、無い。


 たぶん。私は力を隠すことをやめる。自分の持てる全てで大切な人(かれら)だけを救う為に全力を尽くす。


 結果として、人目を憚る事無く振るう力を沢山の有象無象(ほかのひと)が目にする事になる。

 私の力を知れば。私の戦いを見れば求めるに違いない。


 救済を。救命を。助力を。助勢を。協力を。協賛を。


 力があるのだから、力を持っているのだから。


『助けてくれ』と、私に求めてくるのだろう。


「知るかっ!」


 吐き捨てるような言葉が漏れる。なに、世界は誰か(・・)が救ってくれる。もしも力が及ばなかったら?この日々が終わらなかったら?


 私は、私の大事なモノさえ救えるなら。取り戻せるなら、このまま終わる世界でも構わない。


 だから、私に求めるな。


 無事かなんて、わからない。

 生きている保証なんて無い。


 だけど、どちらにせよ救うこと(・・・・)が出来るまで、私は期待に応えない。


「叔父さん。叔母さん。真弓。悦子。心海。待っててね、絶対私が助けるから」


 ―――例え、それがどんな形であれ(・・・・・・・)


 弦を張り終えたギターを片手にリビングへ戻り、ブラッドの横へと腰かける。


「ああ、ブラッドは絶対助けるよ。キミももう私の『大事』の側に居るからね」


 突然何言ってんだと言わんばかりに首をかしげられたけど、気にしない。


「あの子は……。意思を確認してからかな?」


 未だ目覚めないあの子には悪いけど、切り捨てる事も視野にいれておく。


 ギターの弦を爪弾いて、軽く調律。

 弾く曲は、もう決めてある。


 ―――初めてギターで弾いた曲で。彼女とのライブのトリをいつも飾った思い出の曲。


 叔父さんにコードを習って。

 叔母さんに初めて披露して。

 真弓と出会った時にも弾いていたし。

 悦子と心海との間を繋いだのも、この曲だった。


「まぁ、ちょっとこの状況だと皮肉(エスプリ)の効きすぎた曲だけどね?」


 死体を探す訳じゃないからね。そうブラッドに苦笑を漏らしながら、構えたギターを弾きながら。

 それでも、彼女らとの再会を願って。


 私のそばにいてほしいという願いを込めて、唄を口ずさむ。


 不安と期待を乗せて紡いだ私の歌声を、ただブラッドだけが聞いていた。

10/16(水)投稿

おきに召しました方。また、続きが気になるという方。はよ二章を上げろや!と思った方。ぜひぜひブクマや評価。感想をお寄せください!!


一応、予定として明日・明後日と幕間を二話投稿した後本格的にイージーなサバイバルが開幕する二章の投稿を開始します!



はみ出し世界観

①世界の現状

事実上、政府機能を残しているのはアメリカ・ロシア・イギリス・スイス・オーストラリア・日本の6カ国のみ。

アメリカとロシア以外の国は国土の80%以上を喪失した状態となっている。

アメリカはほぼゾンビ発生初期で国土防衛に成功。ロシアは寒すぎてゾンビか凍った為、被害が軽微だった。

日本は北海道に撤退後、現在は橋頭堡として四国奪還作戦を展開している。


なぜアメリカがゾンビを撃退できたのか。知りたいかたは『CONPLAN 8888-11』で検索すると楽しめますよ?

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