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9 拠点

PVやブクマがじわじわ伸びていき、それを見るたびにニヤニヤしております。

楽しんでいただければ幸いです。これからも、拙作をよろしくお願いいたします。

 レイジさんから託されたマンションを見て私が最初に思ったことは『これ、なんて要塞?』である。


 まず、一階から三階までの窓という窓に厚さが三センチもある鉄板が打ち付けられて塞がれている。

 地下駐車場に降りるためであろう入り口のシャッターまで同様の鉄板で塞ぐ徹底っぷりだ。

 更に攻城櫓を組まれて乗り込まれる事を警戒してか、見える限りのベランダには有刺鉄線が巻かれ、先端を斜めに切り飛ばした鉄棒が外を向くよう傾斜を付けられて溶接されている。


 ボイスレコーダーにあった通り正面玄関は車が突っ込んだ跡があり歪んで開かなくなっているが、防御能力にわずかも衰えを感じない。


 そして裏口へと回ると、鍛造鉄で出来ているであろう男の親指ほどの太さがある鎖が巻かれ、四桁のナンバーロック式のごつい錠を取り付けられた防火扉が鎮座している。


 え?ナンバーロックとか聞いてませんよ?と一瞬鎖を切り飛ばして開けてやろうかとも考えたが、もしかしたらと思いレイジさんの金庫の暗証番号を試してみると無事に鍵が外れた。


 ああ、彼は暗証番号を統一して痛い目見るタイプに違いないと益体も無いことを考えながら少し(・・)重い扉を片手で開いてブラッドを先に通してから私も中に入る。

 扉の鍵はどうすればいいのかと思って、閉まった防火扉を見れば閂の代わりに使うのであろうH鋼が二本とそれぞれの受けが用意されている。


 レイジさんとそのお姉さんは、一体何と戦うつもりだったのだろう?軍隊とか?


 偏執(パラノイア)すら覚える防備に若干呆れながら閂をかける。

 すると、人間が立ち入った事を感知したのかそこ――エレベーターホールがパッと明るくなった。


「おお、文明の光だ」


 本当に久しぶりに目にした人工的な光に感動しながらエレベーターに乗り込んで"20"のボタンを押す。

 ゴウンと一度(いなな)きを上げ、私たち三人を乗せたエレベーターは静かに動き始める。

 わずかに体へかかる人工的な重力を楽しみながら待つこと一分。軽快な音と共に扉が開けばもう目的地である。


 いやー。科学の力ってすごいね!

 あっちじゃこの高さまで昇るためにどれだけ体力を使うことか!ビバ!エレベーター!!

 原始的な水力昇降機はエレベーターとは認めない!


 そして二十階だけど、一部屋しか存在しないのね。屋上に上がるための階段はあるけど、メチャクチャ広い空間をそれ以外は一部屋だけが占領してる。


 ……レイジさん、何者ですか?


 ここを当面の拠点にすると決めたのは私だけど、すっごい気後れする。

 どう考えても、私が入居するはずだった家賃八万円(学校まで電車を乗り継いで一時間)の部屋と比べ物にならないぐらいお高い気がする…。


 あれかな?政治家だったのかな?やたら筋肉もりもりだったから、芸能人か何かだったのかな?


「お、おじゃましまーす」


 ちょっと生活格差にビクつきながら、解錠したドアを開く。

 ブラッドが『何してるの?』とでも言わんばかりにさっさと私を追い越して部屋へと入ってしまった。

 ……いやぁ、度胸が違いますよね。


 えいやと気合いをいれて中へと踏み込んで、玄関横のスイッチを入れて廊下を抜けリビングへ……。

 うん、想像してたけどすごいな!?


 リビング超広いぃ…。なんか高そうなトレーニングマシーンそろってゆぅ…。キッチンりっぱぁ…。ふえぇ…ベランダひろいよぅ…。


 幼児退行起こしそうになったわ。

 ブラッドさんは自分の場所を既に決めていて、高そうな革張りの黒いソファーを占領していらっしゃるけど…。

 うわぁ。シェパードに黒ソファーすごい似合う。似合いすぎて思わず笑みがこぼれた。


 うん。ブラッドのおかげでちょっと肩の力が抜けたから探検しよう。

 まず、リビングには廊下へと繋がるドアとベランダ…もとい、バルコニーへと繋がる大きな窓の他に二つ入り口がある。


 それぞれ『礼司』『MAYUMI』とネームプレートが掛かっているのでそれぞれレイジさんとお姉さんのプライベートエリアだろう。


 …それにしても、レイジにマユミか。やっぱり記憶に引っ掛かるモノがあるんだよね。


 未だ安らかな寝息を立てている女の子をブラッドの隣に座らせてから、いったん廊下へ。

 向かって左手側にあるのはトイレとお風呂場かな?そういえば、水は屋上のタンクに溜めないといけないらしいからあとでやっとこう。


 そして、右手側。

 こちらもわかりやすくプレートが掛けられており、それぞれ『医務室』『資料室』となっている。書いてある文字が若干女性らしさを感じるからお姉さんが分けたのだろう。

 几帳面かつかなり、真面目な人のようだ。


 まずは医務室に入る。

 ホコリがうっすらと積もっているから、最近は使われていなかったのかもしれない。

 天井まで届く棚と小さな冷蔵庫。そしてゾンビに噛まれたときのためだろう拘束具が付いたベッドが置かれている。

 とりあえず、女の子を寝かせるのはここにしよう。拘束具は使わないけどね。

 ということで、早速拘束具をベッドから外し、部屋中を魔法で軽くお掃除。掃除機が要らずで超便利。


 で、棚なんだけど。これがまたすごいのなんの。

 びっちりと薬品が詰め込まれてる。しかも素人目に何に使うのかわからない薬にはしっかりと『抗生物質』『鎮痛剤』とラベルが貼り直されている。素人が扱うとヤバイ奴はひとまとめにされて大きな引き出しに入っていた。

 小さな冷蔵庫には各血液型に対応した輸血パックがそれぞれひとつずつと、『栄養剤』とラベリングされた点適用のパックがいっぱい詰められてる。

 まあ、さすがに使い方がわからないんだけどね。

 そのうち医学書とか探して読み込んでおこう。


 一度リビングに戻って、ブラッドに寄りかかって眠る女の子を回収する。

 彼女を医務室のベッドに寝かせて、行動再開。資料室の方へと向かう。


 こっちはこっちですごいな。

 本棚にはびっしりと各専門書などが並べられている。あ、医学書あった。

 しかも本屋さんでよく見る仕切りで目的ごとにまとめられていて、すっごく探しやすい。


 で、本棚正面の壁にはこの近辺の地図が貼られていて、生存者コミュニティの場所や危険地帯など一目でわかるようにピンとか付箋が貼られてる。

 その下にある小さめの本棚にはバインダーがずらっと並んでいる。これが、レイジさんとお姉さんの作成した資料だろう。

 あ、物資の目録まで付けてる。とりあえず点滴の使い方だけでも調べたいから、先に医学書を読むとしても、次はこっちかな。


 本棚から医学書を引っ張り出して読みながら思う。

 医務室と資料室の二部屋を見ただけでも二人がどれだけ優秀な人間か、よくわかった。

 それでも、二人はもうここには居ない。お姉さんはわからないけど、レイジさんはゾンビに噛まれて死んだ。


 正直ここまで周到な準備を整えられる人が、ゾンビに負けるなど考えられない。

 特にレイジさんは体を鍛えていたし、着用していた衣服もよく思い出せば軍用装備だった。


 しかし、それでもゾンビに彼は負けた。


 なぜかは、わからない。


 だけど。彼らが残した資料にその答えに繋がる何かがある。


 思考の海に沈んだ私の耳に、ページをめくる乾いた音が響いた。



 ◇◇◇◇



 やっぱり【学習】の加護は便利だ。

 医学書を読み終わり、目覚める気配の無い女の子と点滴を繋ぐ。

 とりあえず栄養剤とラベリングされた物を彼女に投与する。飲まず食わずで眠り続けたら折角助けたのに栄養失調で亡くなっちゃうからね。


 うん。針を刺すときは緊張したけど、慈悲の針を使った経験のおかげで一発成功でした。


 いくら知識を得ても、実践できなきゃ意味無いからね。


 それでも、医学書は読んでおくべきだと判断した。


 確かに私は【治癒魔法】を使える。けど、そればかりに頼るのはよくないと思うの。

 自分はまあいいよ。肉体自体がひとつの武器だし、武器のメンテナンスを怠るのは良くないからね。


 でも、もしも今日みたく自分の前で散ろうとしている命を見つけたとき。

 私はそれを見捨てられるかと問われれば、首を横に振るしかない。

 賊や暴徒(わたしのてき)に関しては知ったこっちゃないけど、染み付いた勇者の(さが)が私にそれを許さない。


 いくら、勇者を辞められたからと言ってもすぐにそれから解放される訳じゃ無いからね。

 習慣の怖さって奴だ。


 じゃあ、そのたびに魔法を使うの?

 正直に言おう。私の知り合いっていう例外を除けば、今日助けた女の子以外に使う気は無い。


 どう考えてもろくな未来にならない。


 魔法という異質で異常な力。

 良くて便利屋、悪くて排斥。平穏が訪れたら間違いなく吊るされる。


 だから助けるなら多少不自然に見えても、地球のやり方に沿うべき。と、いうのが私の出した結論。


 ……うん。まぁ、それだけじゃないんですけど?


 何回も言うけど、ただの人に魔法を使うって拷問に近いの。それが【治癒魔法】でも。

 傷が治っていくのに、それを上回る痛みに襲われるの。


 で、それを回避するにはあの子にしたようにキスを介するのが一番手っ取り早いわけだ。しかもディープなやつ。


 あの子に――女の子にすることはなんの抵抗も無かったのに、男にするって考えただけで無理でした!


 確かにオトコノコを五年ほどやってましたよ!その時にいやというほど男の汚さとか、獣性とか目にしましたよ、ええ!自分のも含めてっ!


 いざ女に戻ったことですし、ちょいと中学の時付き合ってた元カレ思い出して色々とイメージしてみたんですよ?


 開始十秒で諦めました。ごめんよ後藤先輩…。


 もうね、手を繋ぐって考えただけで鳥肌が立つ。

 キスしようと考えたら、それだけで吐きそうになるわ、寒気が走るわ。


 それ以上?発狂するわ!!


 いやね?正直に申しますとお昼の時も結構ノリノリだった自分がいますっ!!

 救命行為にかこつけて、色々してたけど【治癒魔法】って即効性高いの!実はあそこまで何度も何度もキスを繰り返す必要なんてどこにも無かったの!!

 傷なんて魔力を通してたら治ってるかまだかなんて目をつむっててもわかるの!太もも柔らかかった!じゃない!触診とか必要ないのー!


 もうね!ちょっと汗の混じった女の子の匂いとか、キスをするたびに熱で潤んでくる瞳とか!!絡めた舌の温度とかー!!

 抱き締めたときのやわらかさとかーーっ!!


 めっちゃ興奮しました、はい。


 どうもね。勇者生活の結果私は『男性』ってモノに対して拭えないトラウマを抱えてしまったらしい。

 たぶん、男性だった経験が抜けきらない面もあるのだと思う。

 それで、同性(じょせい)を恋愛対象として、情欲を抱く対象として見てしまうことに何の疑問も沸いてこない。


 ―――拝啓。天国のお母さん、異世界の女神様と親友のドラゴンへ。

 地球に戻った結果。私はどうやら同性愛(レズビアン)に目覚めたようです。敬具。


 ……うん。申し訳ないけど、あの子のお風呂はまた今度か、目が覚めたら自分で入ってもらおう。

 絶対にいらんことする自信がありますよ。ワタクシ。


 コホン。またあの子が怪我したら私があの子に何をするかわかったもんじゃない。っていう理由もあってしっかりと色んな知識をモノにしておこうと考えた次第です。


 それに、あの子だってずっと一緒に行動する訳じゃない。そうなると、あの子を元居たグループに返すのか。それとも違うグループに預けるかするためにいつかは生存者と接触を持つ必要が出てくる。


 その時、仮に彼らが何か困難に直面していたとしても、私が魔法という手札を安易に切ることがないようカードの枚数を増やしておかなければならない。


 幸い、ここには結構な数の本がある。

 それに、あの子の体調を考えると出発は早くて一週間後と考えれば、これらを読み込む時間もそれだけ得た事に他ならない。


 食料もちらっと目録を見た限り一個下の階(19F)すべての部屋に分散して保管してあるというし、問題ないだろう。


「とりあえず、確認もしなきゃだしご飯かな」


 ―――もしも、あの子が私たちと一緒にいることを望んだとき。私はどう答えるのだろう。


 ふと頭によぎった疑問を黙殺して、今だ眠る彼女の頭を軽く撫でてから部屋をあとにする。

 もう答えなんてわかってるくせに、ね。

10/15(火)投稿。

お気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくお願いいたします。


人物名鑑

③ショウタ、ケンジ、コウタ

透によって人誅された三人組。ゾンビ禍が起こる前から大学のヤリサー仲間だった。

ゾンビが発生した直後は、大学内で他の学生と共にコミュニティを形成して生活を送っていたが、共同生活に窮屈さを覚えて袂を分かつ。

なお、その際に女性数名を誘拐。大学のバリケードを一部破壊して脱走している。

その後も小規模な生存者コミュニティをいくつか壊滅させながら移動を繰り返す。その途中、拳銃を数丁手に入れたことで増長。

透の帰還する一ヶ月前にショッピングモールに居を構えていた大規模なコミュニティを壊滅させた。

ちなみに拠点は山中にあるラブホテルを利用していた。

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