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7 道中

ヒロイン登場回ですが、後半に胸糞表現あります。

苦手な方は視点の切り替わり(◆◆◆◆)以降の部分は、大筋には余り関係ありませんので読み飛ばしてしまっても良いと思います。

 彼――レイジさんを私は彼の遺言通り眠らせたあと、先程埋葬した少女と同様に葬儀を執り行って埋葬した。

 ……噛んでいた鎖を外したときに露になった顔にどこか既視感を覚えたんだけど。どこで見たんだったか…。


 向こうで教わった教義の上では、ゾンビに変じた人に葬儀を上げるのはダメなんだけどね。

 彼が自らが誰も襲わないように処理していたこともあるけど、『人として死にたい』という願いを聞いたし、おうちまでいただくわけだしそのぐらいはしなくちゃね。

 神様だってお目こぼししてくれる。きっと。


 彼のボイスレコーダーに残されている言葉が確かなら、私が向こうにいっている間に実に十六年と半年が過ぎた事になる。

 友人達は三十路を越えたのに、私はまだ二十三。いつの間にか十年以上も年の差が生まれてしまってた事に少なからずショックを覚える。

 会ったとしても何を話したらいいんだろう…。

 ちょっと、泣きそう。


 本格的に、私は他の生存者と接触を控えるべきなのかもしれない。

 となると『サバイバル終了のお知らせ!』と喜んでばかりもいられない。むしろ、積極的に山奥か離島に拠点を構えるべく動くべきだろう。

 離島は避難した人とか、他国からの避難民が既に住み着いてそうだけど。


 それと、自分を知る人がいるかもわからないこの街からは出るべきだ。自宅のある隣街も論外。

 いつか落ち着いたら会いたかった人に顔を見せようと考えていたのだけど、その考えも改めるべきだ。

 落ち着いたら手紙を出すぐらいにしておくべきかな。郵便局も無いだろうから方法は思い付かないけど。


 そう考えると、本格的にゾンビにも人にも遭遇しない土地に最終的な住居を探すことになるんだろうなー。

 いいもんいいもん。私には超絶イケワンのブラッド君がついてるもん。


 ……ブラッドにもお嫁さん探そう。


 なんで当面の拠点が見つかって、緊急の問題が解決したって言うのに次から次へと問題が増えてるんだろう?あれか?勇者の理不尽な運命って言うやつか。


 地球の神様が性格悪いってことだな!?(八つ当たり)


 はぁ…。考えててもラチが明かないし、別の事を考えよう。

 もう日が暮れるし、今から託されたマンションに向かうのもなんとなーく危なそうだしね。

 こういう勘は昔からよく当たる。向こうでも何度も助けられたし。


 泊まっていってもいいかな?そうブラッドに問いかけると、現・家主さんたるイケワン様は『ごゆるりと』とでも言わんばかりに短く吠えて、玄関へと入っていく。

 うん。本格的に惚れ直しそう。どうして私は犬じゃないのかな?


 ―――ちなみに、この時の勘が正しかったことはレイジさんから譲られた拠点に残された資料で知ることになる。

 なぜ、人類がゾンビに敗北を喫したのかも。


 そんなことを知るよしも無かった私は、久しぶりに見つけたお風呂に狂喜乱舞し、魔法で張った湯船につかりながらのんびり過ごしたのでした。



 ◇◇◇◇



 日本人にはお風呂が必須だと言う世界の真理に触れた翌日。私とブラッドは当面の拠点となるマンションへと移動を開始した。


 昨日お風呂につかってたら、ブラッドも入ってきたのには驚いた。初混浴はなかなか楽しかったよ。色気は欠片もなかったけど。


 一晩お世話になったブラッドの自宅――西条家――にしっかりと鍵をかけて、私たちは遠目にも大きく見えるマンションを目指して一路移動中である。


 ほんとなら、大通りを通って行ければ二十分もかからないのだろうけど、どういうわけかそちらからはゾンビの気配がとても多い。

 今歩いてる入り組んだ住宅街にも、明らかに昨日よりゾンビが増えているし。


 ブラッドのおかげで相変わらず遭遇率は低いのだけど、それでも昨日よりも避けられない位置にたむろしている。

 まぁ、物の数にも入らないけどね。今は出会う端から撲滅してるし。


 得物をブッチャーナイフからスレッジハンマーに変えたのも生存者との遭遇を遅らせることが目的だったりする。


 一刀のもとに切り捨てられたゾンビを見たら、間違いなく私の存在に気付かれるだろうしね。


 ……私が全力で殴ると『パーン』と景気よく吹き飛ぶから手加減しながらだけどね。スッゴクツカレルヨ。


 それだけでなく、住宅街を行くことには生存者との遭遇する可能性を減らす意味もある。

 見える範囲に存在する住宅全部がもうりゃくだ――コホン。探索済みなんだろう。ドアや窓はだいたい破壊の跡が見られる。


 ちなみに西条家も探索はされていたようで、娘さんが眠っていた部屋ですら衣服から文房具のひとつに至るまで持ち去られていた。

 ブラッドが自分の好物を隠していた場所すら何もなくて、彼が珍しくしょげかえってた。

 いたたまれなくてとっときの飛竜肉の瓶詰めを献上しちゃったよ。

 すごくお気に召したみたいで、お代わりの要求までされちゃいましたとも。

 ええ、もちろんあげましたよ?私ってば貢ぐ女ですから!!


 こっちじゃ手に入らないから大事に食べるつもりだったのに。クスン。


 ブラッドのテンションがブイ字回復したから良いんだよ。メッチャ尻尾振ってたし。

 次は地竜肉の瓶詰めを献上しましょう、そうしましょう。

 ちなみに、瓶詰めは私があちらでもたらした唯一のいわゆる"知識チート"だったりする。

 保存食に叔母さんがはまってた時期があって、色々作ったからね。でも、考案者の名前はしっかり広めてきたよ。

 だから、向こうでは瓶詰めではなくて『ナポレオン』って呼ばれてたりするのだ。


 うん、どこまで話したかなブラッドさん?

 そうそう、生存者避けに住宅街を通ってるって話だったそうだった。


 角が多くて見通しも悪い。そのうえほぼ物資の回収を終えた場所に生存者の影があるはずもなく、そして大先生ブラッドさんの探知能力のおかげでゾンビとの遭遇も最低限と結構ここまでの旅路は順調だった。


 そう、だった(過去形)


「どー考えてもあれ、人間だよねー」


 マンションまであと十数メートルとない場所で私たちは足止めを余儀なくされている。


 なんかねー。歩いてたらテレビドラマとかゲームではよく聞き慣れた。日常生活ではまったく聞き慣れない乾いた破裂音が前方から聞こえてきたのさ。


 あ。これあかんやつだ。

 そう悟った私とブラッドは、すぐにちょっと引き返した場所にあった雑居ビルに引っ込んだの。先住者(ゾンビ)にはご退去願ってね。


 どう考えても銃声です。本当にありがとうございました。


 こっち来んなと願ってみたものの、ちょっとずつ近付いてくる気配。

 んー。ゾンビ多いのにあんなに音を響かせてて良いのだろうか。今まで観察した限り、ゾンビが最も頼りにしているのは音だろうと当たりは付けている。

 そして、文明の灯りを失った世界。生活音の消え失せた今、ちょっとした音でさえバカみたいに遠くまで響くわけでして。


 余程危機意識の低いバカか、それとも(おもちゃ)を手に入れたことでタガの外れたバカなのか……。


 あ、間違いなく後者だ。なんか品の無い笑い声まで聞こえてきた。


 そして、笑い声と共に大声で何かしゃべっているのも聞こえる。

 内容はよく聞き取れないけど、どうにもキツネ狩り(・・・・・)の真っ最中らしい。

 証拠に、明らかに逃げている一人ぶんの足音と、銃声に隠されていて聞こえづらいけど短い悲鳴まで聞こえた。聞こえてしまった。


 あーね。理解した理解した。


 そうか、こっちでも、そういう奴(・・・・・)はいるのか。


 ―――私の敵がいるのか(・・・・・・・・)


 思い出すのは、あちらでの忌々しい記憶の数々。

 人間同士力を合わせて難局を乗り越えなきゃいけない時に限って姿を見せる、どうしようもないクズども(・・・・)


 今を必死に生き抜こうとしている人間の足を引っ張ることしか考えないヒトと同じ形をした害虫(・・)


 文明が崩壊した世界で、これ(・・)を決めるのはあくまでも私の胸先三寸。つまりは、個人の判断基準に委ねられる。


 もしかしたら。

 彼らには守るべき者がいるのかもしれない。

 もしかしたら。

 彼らには大切な家族がいるのかもしれない。

 もしかしたら。

 彼らには、彼らなりの正義があるのかもしれない。


 ―――知ったことか(・・・・・・)


 いつだって、人間同士の戦争って言うのは互いが声高く叫ぶ正義(しゅちょう)正義(しゅちょう)同士のぶつかり合いだ。

 それらをぶつけ合って、より強い正義で相手の正義を押し潰すだけだ。


 ―――手前らの正義(いのち)を、私の正義(ぼうりょく)で潰してやろう。


 【ストレージ】から取り出すのは、大鯨の骨から削り出して、その口髭を弦とした灰色の大弓。

 成人男性でも引くことの叶わない、勇者専用の馬鹿みたいな強弓。


 矢をつがえる私を見て、ブラッドが溜め息を吐いたのがわかる。


 あれだけ生存者との接触を避けてたくせに、いざ襲われてる人を見ると助けに入ろうとする私に呆れているのだろうけど。


 それでも、私は止まらない。止まれない。


 これが私だから。

 どうしようもなく二律背反な姿勢だけど、最早病気とまで満場一致で友人一同から認められたほどの。


 世界ひとつを(・・・・・・)女神の涙に絆されて(・・・・・・・・・)救ったほどの(・・・・・・)―――


「私はね、お人好しって病気だから。もちろん、それだけが理由じゃないけ、ど!」


 魔力を回しながら弦を引く。


 ―――【身体強化】【望遠】が発動。世界が狭まる。


 キリキリと音を立てながら、つがえられた矢の矢羽が私の顔の横にピタリと付く。


 ―――前方に見える交差点。そこに、逃げ惑う人の姿を認める。女の子。足からの流血を確認。治療の要アリ。


 静止した(やじり)の先を見つめ、軽く深呼吸。


 ―――銃を持った男が、下卑た笑い声を上げながら交差点へと侵入。数、三。

 無風。距離約二十メートル。仔細問題なし。


 恐らく、その瞬間の私は酷く無表情ながら、その瞳だけは憎悪で爛々としていたことだろう。


 一瞬脳裏に浮かんだのは、髭面の男の横顔。

 大の大人数人でも引けない弓を作ってやるよ。そう言って笑いあったドワーフのジョー。

 彼は、私にこの弓を手渡すことなく殺された。村ごと焼き殺された。


 ―――友となれるかもしれなかった、大切な隣人を失ったその時から。

 私は奴等に容赦していない。女子供に関係なく、目につく限り狩って回った。


 狩って、殺して、晒し続けた。


 距離もあり、万能感に酔っていて聞こえないのは分かっていても、私は矢を放つその瞬間。


「さぁ私の敵(ぞくども)絶望(ゆうしゃ)が来たぞ!!」


 私の鬨の声と共に、憎悪を乗せた矢が飛んでいった。


 ◆◆◆◆



 ツイてる。それが、態々遠征して来た俺達の総意だ。

 まずこの街に入った俺達が襲ったのは、かつてはここらで一番でかかったショッピングモール。

 あそこは最高だった。食い物を溜め込んでいたし、何人も女が居た。


 それに、トップの頭がゆるかったのも好都合だった。こんな世界になったってのに、未だに人を疑わないマヌケ。

 ちょっとあわれっぽく演技すりゃあ、涙ながらに俺達を受け入れてくれてよぉ。


 バカすぎて笑いが止まらなかったぜ。


 しかも、ロクな武器もねえ。せいぜいが改造したガスガン程度。ホンモノ(・・・・)を持っていた俺達の敵じゃ無かった。


 その日の夜に壊滅させてやったぜ。


 いい女が多かったし、前に捕まえたのがコワレちまってご無沙汰だった事もあったから、ついつい頑張っ(・・・)ちまった。


 まぁ、俺ら三人とも溜まってたからな。十人居たのに一晩で壊しちまったのはちと想定外だが。


 ドンパチしたりゲーム(・・・)で遊んでたら、その音を聞き付けてゾンビが来ちまった。

 女の股に挿したまま逃げようとしたケンジには呆れるぜ。もう死んでるのが良いって奴の性癖だけは未だに理解ができねえ。


 それでも一ヶ月は自由に飲み食いできるだけの飯が手に入ったのは最高だった。酒もあったしな。


 そんで一ヶ月は占拠したラブホに籠ってたんだが、まぁ奴隷ども(・・・・)を使い潰しちまった。

 やっぱりモールで回収できなかったのは痛かった。って全員で話し合ってたときよ。


 やっぱり、神様は俺達を祝福してるって思ったぜ。


 高校生ぐらいのオスが二匹と、なんともまぁ旨そうな女がノコノコ俺達の城に迷いこんできやがった。


 オス二匹を瞬殺してよ。さぁメインディッシュと思ってたら、コウタが言うわけよ。


『ショウタ、貴族の遊びしようぜ』ってな。


 なんの事かと思ったら、いきなり銃を女にぶっぱなして逃げさすわけだ。


 ピンときたね。なんともイイ趣味じゃねえかって。

 すげぇ楽しいのなんの。必死になって逃げ回るメスガキを追い回してるだけで、勃起が止まらねえのよ!


 まぁ、ケンジがミスって足に弾当てちまったせいでこれももう終わりだけどな。


「ハハっ!道路の真ん中で青姦たぁスキモノのビッチじゃねえの!!」


 そう叫びながら、ズボン下ろそうとして―――


 それが、最後に見た光景だった。

10/14(月)投稿。

追記:10/18(金) 幕間との整合性を持たせるため改稿。

お気に召しましたら、ブクマや評価。感想などいただけましたら、作者が喜びますのでなにとぞよろしくお願いいたします(強欲)。


人物名鑑

度会(わたらい) 礼司(レイジ)

西条家にてゾンビになっていた男性。ゾンビ禍以前は、総合格闘家としてかなり有名人だった。

元自衛官の姉と行動を共にしていたが、数か月前遠征中にはぐれてから音信不通になる。

唯一の肉親ということもあり探していたのだが、その途中、ゾンビに襲われる生存者数名を見殺しにできず助勢に入り、噛まれる。

偶然見つけた西条家でボイスレコーダーに遺志を残し、自ら脚を破壊。手と口も無力化した上で息絶えた。享年29。


~さらにはみ出し小噺~

実は、初期構想の主人公。ゾンビに噛まれた彼がTSしてサバイバルするという話だったのだが、それでは百合が造花ではないかと気付いた作者によって降格の憂き目にあった。

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