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過去②

 国王の執務室には、現在、国王とアメルハウザー公爵しか居ない。人払いをした室内は酷く静かで、そして緊張感に包まれていた。


「外交になんて行くのではなかったよ、クロノス(国王陛下)


 長椅子に深く背を預け、その瞳には未だ鋭さを残すテオバルト・アメルハウザー公爵が、低い声で言葉を紡ぐ。それは国王と公爵という括りではなく、旧友としての会話だった。


 アメルハウザー公爵は、いわずと知れた英雄である。数多の戦場で活躍し、イルミナージュ王国に勝利を齎してきた。そんな彼は、いまにも戦争を始めてしまいそうな、ある二国間の調停を乞われて、国を出ていたのだった。



「リオレイルが生を諦めているとは、どういう事なのだ」

「お前は最近、あの子に会ったのか?」

「いや、忙しかったといえば言い訳になるが……」

「お前だけを責めるわけにもいかない。僕もテレサ()の葬儀以来だ。あの後すぐに出国して、一ヵ月半。気にかけてやれなかった」


 テオバルトの顔は苦悩に満ちている。


「リオレイルは食事を摂っていない。夜に眠れているかも分からん。あのままでは、あの子は儚く消えてしまうだろう」

「な、っ……! 侍女頭からそんな報告はきていなかった。人に会うのを拒み、塞ぎ込んではいるが体調には問題ないと……」

「その侍女頭は、王太后のお気に入りだろうが」

「……まさか、母上が」

「確定は出来んがな」


 国王は拳をきつく握り締め、今にも執務室を飛び出してしまいそうな剣幕だった。公爵は深い溜息をつく。


「……あの子は、テレサの死が自分の所為だと思っている。ここ()に居ては、あの子の気も休まらないだろう。連れて行くぞ」

「……お前の屋敷にか?」

「いや、しばらく国を出る」


 公爵の言葉に、国王は何か言いたげに口を開く。しかし、それ以上の解決策も見出せず、情けなさに表情を翳らせると深く頭を下げた。国王ではなく、父として。


「すまない、テオバルト。リオレイルを頼む」

「ああ。お前がやらなければならない事も、分かっているな」

「もちろんだとも。母上には避暑でもして貰った方がいいかもしれん。お気に入りの侍女頭も連れて行けばいいだろう」

「そうだな。……リオレイルにはいま、僕の側近がついている。今日にも連れて行くぞ」

「……会えるだろうか」

「それはリオレイル次第だな」


 テオバルトは立ち上がり、執務室を後にする。残された国王は後悔からか、深い溜息を何度もつくばかりだった。



 

 出発は夕方になった。

 リオレイルが母と暮らしていた離宮に、既に使用人の姿は無い。国王の命の下、既にその任を解かれたからだ。それぞれ別の場所で働く事になるが、地位の向上は望めないだろう。


「リオレイル……ごめんな」


 第一王子である王太子が、やつれきったリオレイルを見て涙を零す。自分の子のように思っていた正妃も同じく、頬を涙で濡らしている。彼らの胸は後悔でいっぱいだった。

 もっと気にかけるべきだった。

 侍女の言葉を鵜呑みにせず、傍に居るべきだった。

 彼らはテレサ(第二妃)が好きすぎたのだ。だから朗らかな彼女のいない離宮に、来ることが出来なかった。彼女がいない事を実感しなければならないから。


 しかし、僅か十歳のリオレイルは、そんな離宮で一人で過ごしていたのだ。気にかける者もなく、母を亡くした喪失感だけを胸に抱えて。

 リオレイルの美しかった瞳に、光は無い。深淵を覗き込むかのような、(くら)い色。


「リオレイル、不甲斐ない父を許してくれ」


 国王の言葉にも、リオレイルは反応しない。彼の心はもうどこかへ居なくなってしまったかのようだった。

 表情も感情もない。それでもその美貌は失われず、まるで人形のよう。



 テオバルトは、見送る国王達にひとつ頷くと、描かれた魔法陣へと足を踏み入れる。幼い甥の手を取って転移をする目的地は、バイエベレンゼ王国。旧友であるアーベライン侯爵の屋敷へと。


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