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過去①

「その魔力なし(イニュテル)を、わたくしから見えない場所へ遠ざけて頂戴」

「母上、リオレイルはこれから魔法の才能が目覚めるかもしれません。それにもし魔法を使えないとしても、彼は私の可愛い息子に他なりません」

「ふん……王家に名を連ねる者が、魔力なし(イニュテル)など恥ずべきこと」


 何度繰り返したかも分からないやりとり。

 自分の祖母にあたる王太后と、父である国王の会話を、リオレイルは感情の乗らない表情で聞いていた。

 自分の隣には顔色を悪くした、第二妃である母が俯いている。


「テレサ、リオレイル、下がっていい。あとで部屋に行く」


 これ以上王太后のお小言を聞かせるわけにもいかないのだろう。国王はリオレイル達に退室を命じる。それに従い、一礼したリオレイルとテレサは王太后の部屋を後にした。



 リオレイル・ディルク・イルミナージュは魔法が使えない。


 ここ、イルミナージュの王家は代々魔力量に優れ、秀でた魔法使いになる者が生まれるのを常としているが、そんな中で第二王子のリオレイルだけは一切魔法が使えないのだ。

 魔力があるのは、魔力検査で分かっている。しかしそれを魔法へと転化させる事が出来ないのだ。どんな魔法医に診てもらっても、結果は同じだった。


 祖母である王太后は、魔力で劣るものを見下すところがあった。リオレイルの瞳が、王家の証たる紅でなければその出生まで疑っていた事だろう。


 リオレイル自身は、自分が魔法を使えない事は気にしていなかった。王太后に疎まれるのも気にしていない。しかし、母が辛い目に遭うのは悲しいし、それが自分の所為だと言うのは酷く苦しい事だった。




 第二妃が崩御したのは、春なのに冴返る程に鋭い寒さがぶり返した日だった。

 元々、体の弱い人だった。しかしそれに加えて、心労も重なっていたのだろうとリオレイルは思う。

 病床で母はいつも、リオレイルに謝罪の言葉を口にしていた。母譲りの砂色の髪を優しく撫でながら「ちゃんと生んであげられなくて、ごめんね」と。


 リオレイルはその度に否定をした。母の所為じゃない事は、リオレイルにも分かっている。母にそんな思いをさせている自分の存在が恨めしく、魔法なんてどうでもいいと思っていたのに、使うことの出来ない自分が情けなかった。


 

 明るく、美しく、国民にも愛されていた第二妃の葬儀は、大々的に行われた。

 国王も、正妃も、第一王子も涙に暮れた。王太后は体調が優れないとして、出席さえしなかった。そんな中で国民の涙を誘ったのは、やつれてしまった美貌の第二王子の姿だった。


「リオレイル……大丈夫か」

「……兄上、お気遣いありがとうございます」


 兄である第一王子は、まだ十歳の弟が可哀想でならなかった。元より第二妃との仲も良好で、その子どもであるこの弟も可愛くて仕方がなかったのである。

 祖母の小言から守ってやりたい気持ちはあれど、第一王子とてまだ十五歳。盾になるだけで精一杯だった事を、悔やんでいたのだった。



 国王も、正妃も、リオレイルに寄り添うつもりであった。なんせ彼はまだ、十歳の子どもなのだから。しかしそれは叶わなかった。

 当時、国外の情勢は非常に荒れていた。戦争は遠い国の話ではなく、いつイルミナージュ王国に飛び火するかも分からない、危うい緊迫状態だったのだ。国王はその対応に追われていた。

 だから、誰も気付かなかったのである。リオレイルが何もかもを諦めて、自分の生すら手放そうとしている事に。そこに王太后の悪意があった事に。




 ある日のことだった。春の花が満開になる、穏やかな日の午後。

 執務を執り行っていた国王の下へ、先触れも無くテオバルト・アメルハウザー公爵が飛び込んできたのは。


「公爵殿、無礼であるぞ!」


 執務を共に行っていた文官が騒ぐ。しかし公爵はそれを気にした様子もなく、怒りも露わに執務机の国王の下へ進んでいく。


「陛下。貴方はわたしの甥が、どうなっているかご存知なのか」

「……リオレイルがどうかしたのか」


 第二妃の兄であるアメルハウザー公爵に言われ、そういえば最近、息子の顔を見ていない事に気が付いた。

 言い訳をさせて貰うのなら、忙しくて離宮まで通うことが出来なかったのだ。侍女頭からは、塞ぎ込んではいるが問題はないとの報告も受けていた。誰にも会いたくないと言っているとも。


「あの子は生を諦めている」

「どういう事だ」


 国王の顔が、統治者ではなく父親の顔に変わる。それを見て、アメルハウザー公爵は深い溜息をつきながらも、怒りを少し和らげたのだった。


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