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36.沙汰

 国王に、室内の全員が意識を向ける。

 特にフローラインとエーヴァントの顔は酷く青ざめていた。


「まず……魔導師レオナルド。そなたは魔導師でありながら魔法を悪用した。それは重大な咎である。そなたには魔封じの紋を刻み、騎士団での下働きを命ずる」

「お言葉ですが……陛下、私の罪に対してその罰は軽いのではないかと……」

「そなたは此度の証言でも協力的だったからな。それに、アメルハウザー公爵の魔力を前にして、もう罪を重ねようとは思わぬだろう」


 魔導師は声を震わせている。罰の軽重はグレイシアには分からないが、傍らのリオレイルを見ると、いいんだとばかりに小さく頷いている。

 魔導師に畏怖される程のリオレイルの魔力が空恐ろしかったが、それはここで口にするべきではない。


「次いで、フローライン・エーデルハウト。そなたにはモアラグナ修道院にて修道女の務めを命じる。公爵家との縁は……どうする? エーデルハウト公」

「この娘は公爵家から放逐します。修道院に身分は不要でしょう」

「ふむ、ではそのように取り計らえ。神の導きを受け、此度の罪を償うが良い」

「……かしこまりました……」


 フローラインはぎり、と奥歯を噛み締めている。ちらりとグレイシアを窺うような視線には未だ憎悪が揺らめいていた。あの炎が消えるまでは恐らく出られないのだろう。それがいつの事になるのか、グレイシアにはさっぱり分からなかった。


「エーヴァント・ボーンチェ。そなたは……バイエベレンゼの公爵子息だな。そなたの罪をここで裁くのも容易いが、バイエベレンゼで裁かれるべきであろう。明日の朝、国に戻るが良い」

「………」


 エーヴァントは床に視線を落としたまま、返事もしない。その顔は蒼白で恐怖以外の感情を読み取ることが出来なかった。


「エーデルハウト。そなたの家にも追って沙汰を知らせる。放逐する娘の事とはいえ、お咎め無しとはいくまいて。相応の覚悟を持つように」

「かしこまりました」


 エーデルハウトは口を一文字に引き結ぶと、一礼した。王だけではなくグレイシア達にも頭を下げてから、どこか苛立った様子で部屋を出て行く。

 国王が兵士に合図をすると、フローライン達も鎖や手錠を引かれてその場を後にした。フローラインはただずっとリオレイルを目で追いかけていたが、その視線が重なることは終ぞなかった。



 裁きが終わると、誰ともなく吐息を漏らした。

 緊迫した雰囲気が薄れると、数人の兵だけが国王の周りに残り、あとは部屋を出て行った。

 国王と兵士の他に部屋に残っているのは、グレイシアとリオレイル、カイル、セレナ、アウグストのみである。


「グレイシア嬢、此度の事は誠に申し訳なかった。バイエベレンゼから預かっている大事な客人にも関わらず危険な目に晒してしまったな」

「勿体無いお言葉ですわ。皆様のお陰でこの通り無事にございます」

「有難い。体を労わるようにな」


 心配する様子に偽りはない。グレイシアは笑みを浮かべながらそれに応えた。


(……そういえば、この方はリオンの兄上様になるのだわ)


 先程の話を思い出し、改めて国王とリオレイルに視線を向ける。国王のほうが精悍な顔付きをしているが、造形は似ていなくもない。ただ国王は表情豊かに笑みを浮かべているのに対し、リオレイルは常の無表情。その違いで、似ていると思う人はいないのかもしれない。


「リオレイル、明日の朝にボーンチェを連れてバイエベレンゼへ。向こうの準備も整ったようだ」

「では全て終わるのですね」

「ボーンチェの証言と照らし合わせても問題ないだろう。……グレイシア嬢、留学も終わりだ。先日の事件を解決出来る目処もついたのでな」

「……左様にございますか」


 留学が終わる。

 元々、学ぶというよりも避難してきた意味合いの強い『留学』だった。国に帰れるのは嬉しいけれど、そこはかとない寂しさが胸を覆った。

 そんな感情が顔に出ていたのか、国王が苦笑いをする。


「あまり嬉しくなさそうだな。これはリオレイルにも希望があるのかな?」

「陛下、彼女は私との婚姻を承諾してくれています。それについてもバイエベレンゼでアーベライン侯爵と話をしてくる予定です」

「ほう、侯爵はまだ王都にいるのか?」

「そう聞いています」

「そうかそうか……まさかこの間に、グレイシア嬢を口説き落としてしまうとはな」


 面白そうに肩を揺らす国王に、リオレイルは肩を竦めて見せる。自分が何かを言わずとも、この場の人々にリオレイルと想いを重ねた事が知られてしまって、グレイシアは羞恥にどうにかなってしまいそうだった。

 揶揄(からか)いめいた視線を送ってくるのは恐らくアウグストだろうが、そちらを見ることは出来なかった。グレイシアは羞恥を誤魔化すように、ドレスの刺繍を数え始めていたからだった。


 その後、国王とリオレイルがどんな話をしていたのかは、グレイシアの耳には届いていない。失礼だとは分かっていたが、居た堪れなさに現実逃避をしたからである。

 国王が退室する時になってようやく、グレイシアは意識を戻して淑女の礼で見送ったのだった。


 ちなみにリオレイルには現実逃避も羞恥心も、全てがばれてしまっていた。


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