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26.遊誘

「グレイシア、明日の予定は?」


 リオレイルが優しく問いかける。ソファに並んで座り、リオレイルはグレイシアの腰に腕を回して引き寄せている。逆手では銀髪を指に絡めて解くことを愉しげに繰り返していた。


 距離が近い。

 グレイシアが誤解していると、リオレイルがその想いを告げてきてからというもの、彼はその距離を物理的にも詰めてくるようになった。

 無表情だの鉄仮面だの、グレイシアを前にしてはそう言われる事もないだろう程に、その表情は穏やかだ。さすがに外ではそうでないだろうけれど、グレイシアと気を許したものしかいない屋敷の中ではいつもこの状態だった。


 戸惑いも初めだけ。

 リオレイルの温もりは心地よく、グレイシアに馴染んでしまっている。リオレイルを目にするだけで嬉しくて、微笑みかけられると幸せで、傍に居ると胸が苦しい。

 きっとグレイシアもリオレイルに恋をしている、そう自覚はしていた。だけど自分がリオレイルに相応しいかを考えると、この気持ちを伝える事は出来ないでいた。

 かといって他の誰かがこの腕の中に居るだなんて耐えられそうに無い。


(浅ましすぎて嫌になる)



「グレイシア?」

「……え?」

「眉間に皺が寄っている。癖になるぞ」


 リオレイルは髪から指を離すと、グレイシアの眉間を軽くつつく。そんな触れ合いでもグレイシアの鼓動は跳ねるばかりだ。


「それで、明日の予定は?」

「ええ、ごめんなさい。明日で浄化が終わるの。それが終わったら、リヒトの講座を受けて……鍛錬かしら」

「そうか、それなら午後から出掛けないか」

「リオレイル様と?」


 お出掛け。

 嬉しそうにグレイシアが笑うも、リオレイルは困ったように眉を下げる。彼女の頭を自分の胸元に引き寄せると小さく息をついた。


「そう出来れば良かったんだが、陛下に呼ばれてしまってな。セレナと一緒に行って来るといい。あいつも君と一緒に出掛けたいと喧しいんだ」

「セレナがついてくれるなら安心だわ」

「本当は全てが終わってから、私が君を案内したかったんだが。明日だって私が出る予定で調整していたのに、まさか陛下に呼ばれるとは……」


 夜会で話した事を思い出して、約束を守ってくれようとした事に、グレイシアの心は温かくなる。後半は拗ねたように言葉を落とす素振りに思わず笑みが零れた。


(この人は本当に優しい。……わたしもちゃんと応えるべきだわ)


「次はきっと、リオレイル様が案内して下さいね。楽しみにしていますから」

「ああ、約束しよう」


 もう陥落している自分の心は一先ず置いておいて、明日の外出にグレイシアは思いを馳せた。その意識が自分以外へ飛んだ事を見抜いたリオレイルは、それを許さないとばかりに抱き寄せる腕に力を込めたので、グレイシアは肩を揺らした。



 翌日、昼食を終えたグレイシアは自室でメイサに支度をしてもらっていた。

 今日は歩きやすい膝下丈のワンピース。菫色の優しい色合が印象的で、シンプルだけれど立てた襟元やパフスリーブの袖部分には揃いの白い刺繍が入っている。歩きやすいよう足元は軽い編み上げブーツにした。

 髪は高い位置でひとつにまとめ、ワンピースと同じ菫色のリボンで結んで貰った。小さな真珠のイヤリングを耳に飾り、薄く化粧をして貰って支度はおしまい。


「今日もお美しいですわ。旦那様に今すぐご覧になって頂きたいくらいです」

「ありがとう、メイサ」

「旦那様は今日ご一緒出来ない事が、本当に残念だったようですよ」


 道具を片付けながら機嫌良さげに話すメイサに、グレイシアは僅かばかり顔を朱に染める。リオレイルは最近ずっとグレイシアから離れない。仕事をする時はさすがに離れるが、その時も名残惜しげに髪に口付けていく。そしてそれらはいつもメイサ達の前で行われるのだから、グレイシアは羞恥におかしくなってしまいそうだった。


「リオレイル様があんな方だと思わなかったわ」

「お嫌ですか?」

「そうではないけど……恥ずかしいのは分かってくれるでしょ」

「グレイシア様が愛しくて仕方ないのですね」


 メイサは悪戯っぽく片目を閉じて見せる。その仕草は大変可愛らしいのだが、紡ぐ言葉は容赦なくグレイシアを赤くさせる。グレイシアは誤魔化すように顔を手で扇ぐが効果はないようだ。



 ――コンコンコン


 ノックの音に、メイサが扉へ近付いた。扉を薄く開いてその人物を確認すると、背後のソファに座るグレイシアを振り返る。


「セレナ様がおいでになりました」

「お通しして」


 頷いたメイサが扉を大きく開くと、騎士の制服を凛々しく纏ったセレナが笑みを浮かべて入室してくる。


「グレイシア様、お迎えにあがりました」

「ごきげんよう、セレナ。今日はお願いね」

「はい、私にお任せください。デートですね!」


 嬉しそうに笑うセレナにつられるよう、グレイシアも笑みを深めた。セレナは胸に手を当て、逆手をグレイシアに伸ばす。その手を取って立ち上がると、メイサが背後で吐息を漏らしたのが聞こえた。

 セレナはその凛々しい美しさで、公爵家の侍女たちを夢中にしているのだ。肩で切り揃えられた茶色い髪は艶めいて、グレイシアを見つめる瞳は楽しげに輝いている。


「では早速参りましょうか」

「ええ。楽しみだわ」


 嬉しそうに笑うグレイシアをエスコートするその姿は、騎士と姫が紡ぐ恋物語の一幕のようだった……とは、侍女仲間に話すメイサの談である。


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