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19.夜会

「リオレイル・アメルハウザー公爵閣下! バイエベレンゼ王国より、グレイシア・アーベライン侯爵令嬢!」


 高らかな声と共に扉が開く。

 足を踏み入れた大広間は細やかな細工のシャンデリアが煌びやかに輝いて、楽団が美しい旋律を奏でていた。


「まずは陛下の元へ伺おうか」

「はい」


 大広間のあちこちから突き刺さるような視線をグレイシアは感じていたが、気付いていない素振りでにこやかに笑う。促されるまま楚々と歩を進める間も、周囲からの視線はねっとりと纏わり付いてくるようだった。


「陛下、この度はお招きありがとうございます」

「よいよい、堅苦しいのは無しだ。グレイシア嬢、息災か」

「はい、ありがとうございます。皆様のおかげで大変楽しく過ごさせて頂いておりますわ」

「それなら良いのだ。この朴念仁でそなたの相手が務まるかは不安であったがな」

「誰が朴念仁ですか」


 国王陛下とリオレイルの口調は相変わらず気安いもので、お互いの信頼がそこに載せられているようだった。

 視線を感じたグレイシアがその方へ目を向けると、国王陛下の隣にきらきらと目を輝かせる王妃がいた。催促するよう、国王のマントを引っ張っている。


「ああ、分かっている。彼女が噂のグレイシア・アーベライン嬢だ。グレイシア嬢、これは私の正妃で、名をオフィーリアという」

「グレイシア・アーベラインと申します。お目にかかれて光栄ですわ」


 国王とリオレイルが顔を合わせるなり話し始めてしまったので、グレイシアは挨拶が出来ないでいたのだ。グレイシアは膝を折って淑女の礼を見せる。


「噂以上にとっても綺麗だわ。グレイシアと呼んでもいいかしら? わたくしの事はオフィーリアでもお姉さ――」

「オフィーリア様」


 楽しげに話す王妃の言葉を遮ったのは、リオレイルの鋭い声だった。呆れたようなその表情におろおろするのはグレイシアばかりで、国王も王妃も笑っている。


「オフィーリアと呼んでやってくれ。これは綺麗なものに目がなくてね」


 国王にまでそう言われて、否と言えるわけがない。


「ではお言葉に甘えて、オフィーリア様と呼ばせて下さいませ」

「ええ、ええ! わたくしのお茶会にも招待するわ。リオレイルはどうせあなたをお屋敷に閉じ込めているんでしょう? 悪い男の言うことなんて聞くことないの、わたくしとお話をしましょうね。ああ楽しみ!」

「オフィーリア様、私は閉じ込めているわけではありませんよ」


 リオレイルは額に手を添えると大袈裟なまでに溜息をついた。グレイシアはどうしていいか分からずに、リオレイルと王妃の間に視線を彷徨わせるも、国王が可笑しそうに笑っているのを見て気が抜けた。これはいつもの彼らのやりとりなのだろう。


(それにしても国王陛下や王妃様とこれだけ仲が良いだなんて、やっぱり騎士団長というのはそれだけ王族との接点があるのね……)


「行こうか、グレイシア」


 いつの間にか話は終わっていたようだ。促されるままグレイシアも一礼すると、再度リオレイルの腕に手を添えホールへと戻っていった。



「驚いただろう、すまないな」

「オフィーリア様のことですか?」

「ああ、気のいい人なんだが……ちょっと癖のある人でね」

「明るくて素敵な方だと思いましたわ。でも、リオレイル様がわたくしを閉じ込めている、というのは間違っていましたわね」


 ドレスを纏って夜会の場に立つと、躾けられた侯爵令嬢としての意識なのか、グレイシアの言葉も変わる。笑みの乗った口元はどこまでも優雅で艶めかしい。


「いや……閉じ込めているのも確かだからな」

「それはわたくしの安全を思ってのこと。自由にさせて下さっているじゃありませんか」


 リオレイルには王妃の言葉が堪えたようで、何か思案するように目を伏せている。その様子が珍しく、グレイシアは彼の腕に添えていた手で宥めるようにそこを撫でた。


「わたくしは気にしておりませんのよ?」

「私が気にする」

「では全てが落ち着いたら、是非お出掛けに連れて行って下さいませ」

「……そうだな」


 珍しい様子に思わず笑みが零れる。顔を寄せ小さな声で話しているので、周囲のざわめきの中では話が他に聞こえていないと思うが、二人を囲む視線は未だ暑苦しい程だ。


「……注目を浴びているな」

「メイサに聞きましてよ。リオレイル様は滅多に夜会にお出ましにならないと。今日は是非お近づきになりたい方々が、その機会を窺っているのでは」

「まぁそれも無くはないが……この視線は君に向けられたものだろう」

「わたくしですか?」

「バイエベレンゼから留学している美しい令嬢の話を、知らない者はいないだろうからな」

「あらまぁ……」


 困ったように眉を下げると、グレイシアは不躾にならない程度に周囲に視線を向ける。目が合った人々は男女問わずに顔を朱に染めるので、グレイシアにしても居た堪れない。


「目が合っただけであれだ。微笑みかけないほうがいいな」

「微笑みは淑女の嗜みなのですが」

「無表情でもいいだろう。君に見惚れる奴を見るのは気分が良くないな」

「リオレイル様は無表情でも、注目を浴びていますわよ」


 グレイシアは扇を開き、口元にそれを寄せると楽しそうにくすくす笑う。その微笑に、周囲からほう……と感嘆の吐息が漏れるが、それがざわめきに変わったのはすぐだった。

 リオレイルがその無表情を崩し、グレイシアへ柔らかく笑いかけたからだ。

 きゃあ、と令嬢方の悲鳴にも似た嬌声が上がった。


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