15.独白
上手くいくはずだった。どうしてこんな事になってしまったのか。
魔獣や“忌人”に襲われた事のない王都は、私の望む通りの混乱に陥っていたし、対処できる者はいなかった筈。王宮騎士は出陣する事が無かったし、街の自警団でどうにか出来るものではない。
社交シーズンだから商人も多く、それを守る護衛や依頼を探す冒険者も多かったが、それ以上に瘴気が溢れるほうが早かった筈なのだ。あんなに早く制圧されるわけがなかった。
手錬れが多少居ようとも、私の計画が崩れるわけがなかったのだ。その数少ない手錬れが民衆を守ったというのだが……この点はもう少し調べなければならない。民衆には犠牲になって貰わなければいけなかった。
魔獣たちに蹂躙されて貰わなければならなかった。そして絶望で瘴気が膨れ上がるはずだった。
絶望と喪失感と怒り。
私に必要なのはそれだったのに。
予想外だったのはイルミナージュ王国の騎士団が介入してきた事だ。王都の魔石に反応して王都外でも魔獣が増えていたのかもしれないが、だからといってまさかあんなにも早く参戦してくるとは思わなかった。
流石は魔法国家というべきだろうか。認識を改めなければならない。
越権行為と責めるには、彼らはバイエベレンゼにとって希望になりすぎた。街を救った、国を護った英雄とさえ崇められている。国王陛下も騎士団に対して感謝を示しているし、イルミナージュの騎士団に手を出すのは今はまずい。
そうだ。
イルミナージュの騎士団さえいなければ。今回の私の計画は成功した筈なのだ。
バイエベレンゼ王国とイルミナージュ王国は異形討伐に関する条約を結んでしまった。罪を被せようとした侯爵令嬢さえ連れていってしまった。
彼女がいなければ、王女とその婚約者は動かないかもしれない。なんとしてでも彼女をこの国に戻さなければ。
そして王女と婚約者の憎悪を受けて貰わなければならないのだ。
また同じように王都に魔石をばらまいたとして、侯爵令嬢がこの国にいない以上、罪をきせることが出来ない。それに同じ事をしても、条約がある限りイルミナージュがすぐに救援に来るのだろう。
次は王宮騎士を王宮に留める事もおそらく難しい。国王陛下も何か感づいているようだ。
しかし私はこの計画を諦めるわけにはいかないのだ。私の悲願であり、全てを正しい形に戻す為に。
私には力がある。
“忌人”も魔獣も魔石さえあれば思うままだ。
全てが私の為にあるのだ。
私が王となる為に邪魔をする物は全て排除しなければならない。私が全てを掌握する。
さすればこの国だけではない。この世界の全てを私のものに出来る。
まずは手駒を増やさなければ。




