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14.執務室②

 グレイシアとセレナが共に鍛錬をした翌日。

 イルミナージュ王国第一騎士団団長執務室にて。


「団長ー、グレイシア様ってどうしてあんなに剣を使えるんですか?」


 執務室に入ってくるセレナは相変わらずノックをしない。その様子に従官であるカイルが眉を寄せた。カイルは執務室の近くに設置された自分の机で、書類の整理をしている。


「セレナ、何度も言わせるな。ノックくらいしろ」

「あれ、してなかったっけ」

「ノックをして入室許可が出てから入るものだろうが」

「団長、入っていいって言いましたよね?」


 カイルの小言に、セレナはわざとらしく首をかしげて見せる。もちろんセレナはノックをしていないし、入室許可も出ていない。セレナはそれを分かっていてとぼけているのだ。

 セレナとて気配くらい読める。執務室から不穏な空気を感じ取れる時はこんな不躾な事はしていないのだ。


「昨日グレイシアと手合わせしたと聞いた。グレイシアも喜んでいたが、お前も楽しかったようだな」


 書類から顔を上げることなくリオレイルが声をかける。咎めない上司の様子にそれ以上カイルは口を挟む事無く、手元の書類を纏めていった。


「はい! とっても楽しかったです! ……正直、あそこまでとは思いませんでした。ご令嬢の護身かな……なんて。でもあの事件の時に一人であれだけの敵を掃討していたんですもんね」

「アーベライン侯爵領は辺境の地を守護する役目も担っている。それは“忌人(いみびと)”や魔獣に対してのものであるし、人に対してのものでもある。お前が昨日うっとりとしていた侯爵夫人も相当の腕前らしいな」

「あの女神が?!」

「領地では守護団が結成されていて、それは軍と比べても遜色はないだろう。率いているのは侯爵家の次男だが、グレイシアも守護団と共に魔獣討伐に参加しているそうだ」

「道理で……」


 リオレイルは書類にペンを走らせるとカイルの方へそれを寄せる。席から立ったカイルは書類の束を受け取ると、その書類をくるくる纏めてセレナの頭をぽんと打った。


「呆けた顔をするな。だらしないぞ」

「呆けてないわよ。だって、グレイシア様ったら本当に凄かったんだもの……」


 セレナは胸の前で両手を合わせると思い返すように吐息を漏らした。

 ドレス姿にも関わらずしっかりとした軸で剣を奮うグレイシア。徐々に剣を打ち合う速さをセレナが上げていっても、彼女は難なくそれについていった。薄くかいた汗が光る中、彼女は楽しそうに笑っていた。思わず熱くなってしまって、最終的に剣を弾き飛ばしてしまったけれど、騎士としての面目躍如といったところか。


「グレイシアから頼まれている。またセレナに手合わせに付き合って欲しいと」

「喜んでお付き合いしますよぉ! 剣を持つグレイシア様の美しさっていったらもう……っ!」


 セレナは頬を上気させて何度も大きく頷いている。カイルが苦笑いしたのをセレナは視界の端に捉えたが、放っておくことにした。

 あの神々しさを目にしていないから、そんな顔が出来るのだとセレナは思う。


「指令が出るまでは付き合ってやってくれ。事態が動き始めたらそんな時間も無くなるだろうからな」

「かしこまりました!」


 セレナは胸に手を当て一礼すると、今にもスキップしそうな程機嫌よく部屋を出て行った。その姿にカイルが盛大な溜息を吐くと、可笑しそうにリオレイルが肩を揺らした。


「セレナはすっかりグレイシアに夢中だな」

「いいのですか? あんなに側に置いて」

「構わないさ。グレイシアを心から守る者は多くていい」

「ご執心ですね」

「笑うか?」

「まさか。(あるじ)の幸せは私の幸せですから」


 腹心の言葉にリオレイルは低く笑う。立ち上がるとカイルが机の上を軽く片付けてくれた。リオレイルは背後の壁に立てかけていた大剣を手にすると、それを背負う。

 机を片付け終えたカイルも自分の机に戻り、脇に置いていた剣を腰に差して準備を整えた。


「グレイシア様がいらした事、主とグレイシア様が共に歩いていた事がうちの団でも噂になっていますよ」

「どうせ発信元はアウグストだろう。浮かれた空気でも締めに行くか」

「副団長が逃げないよう見張っておきます」


 軽い言葉を交わしながら二人は修練場へと足を向ける。

 その後、修練場からは剣戟だけでなく魔法の爆裂音が響いた。空からは氷の槍が降り注いで、団員達は口々に「鬼!」と嗚咽をもらしたとか。


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