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序章

「俺はな、実を言うと純粋な人間じゃあないんだ」

「いったいどういうことなんですか……?」


買い出しは無事に終了し、私とヤーニングさんは帰路についていた。


「ヒューマノイド型モンスターっているだろ?」

「……は、はい勉強しました。見たことはありませんが……まさか」

「見たことあるやつなんてほとんどいねえだろうよ。そのまさかだ」

「え……」


「俺は人間とモンスターのハーフだ。ヒューマノイド型モンスター、白唖族の純粋な血を引いている」


白唖族。伝説のモンスターで、ありえないくらい高額の賞金がかけられているという。

ヒューマノイド型モンスターとは人間の型をしているモンスターではあるが、多くがエルフやオークなどのように人間とは明らかに違う点があり、生殖器も違うため、繁殖を行うこともできない。……はずだ。


「驚いただろ?伝説の賞金首、白唖族の末裔だ。耳を見てみろよ。牙もあるんだぜ」

ヤーニングさんはいつも被っている帽子を取り、耳と牙を見せてくれた。

「ほ、ほんとうなんですね……」

「ガキの頃は、母親と父親と森の奥で暮らしてたんだ。ある日家が焼かれて、俺は意味も分からず逃げて逃げて、そして人間のじいさんとばあさんに拾われた。ナーハズィヒト家な。そこからは人間の暮らしをさせてもらえた。じいさんとばあさんの息子が俺の剣術の師匠だ。そして俺はその家族に助けられて、今ここに居るってわけ」


想像していた以上に壮絶な話で、私は息を呑んだ。


「ヒューマノイド型モンスターは人間と繁殖できない。学校ではこう習ったはず……。ドロシーは今こう考えてるんだろう?まあ基本的にはそうだ。……でも白唖族は違う。白唖族だけは人間と繁殖できるんだよ。だからこそ、森の奥深くに住んでいて人間と関わることを嫌う種族でもある。森の集落に住めるのは純血の白唖族だけなんだ。だから家を焼かれて追い出されたんだろうな。はっはっは」

ヤーニングさんは笑って話すが、私はどう反応したらいいのか分からなかった。


「ちょっと難しかったか?頭いたくなるよな。ごめんな。ドロシー」

「……そ、そんなことないです!話してくれて嬉しいです!」

「あ、ちなみに街にいる白い髪に赤い眼の奴らは全員俺と同じ白唖族の末裔だ。まあ、血が薄いか濃いか、だ。ほんの一ミリでも白唖族の血が流れていれば、男でも女でも必ず白い髪に赤い眼になる」

「白い髪に赤い眼って、そういう意味があったんですね。私ぜんぜん知らなかった……」

「まあ、差別の対象になるからな……。知らなくて当然だ。一部の地域では、実際に目を覆いたくなるようなひどい差別も未だにある。まったく皮肉な話だよな。俺もガキの頃は友達なんて一人もいなかった。そりゃあこんな見た目じゃ誰も近寄ってくれない」


「私は……私はとても素敵だと思います。白い髪に赤い眼……」

「はっはっは。ありがとな。ドロシー。今でこそ個性で通せるが昔は本当に酷かったんだぜ。……まあそんな俺にも友達ができた。マーカスは俺の初めての友達だ。マーカスも俺が初めての友達だと言っていたな。そう。出会ったのは初めて参加した野良パーティー。緊張しすぎて、偶然隣にいたやつに話しかけたら、なんとそいつも初めてだったんだよ。俺たちはすぐに意気投合したんだ」

「初めての……友達」

私も初めての友達のことを思い出していた。――トサヤマ・アガサ。教室で大人しかった彼女に話しかけてから仲良くなり、二人でいろんな遊びをした。そういえば、アガサにはウィンセントに行くことは何も言っていない。今頃どうしているだろうか。……元気かなあ。


「ロンバルの友達のこと、思い出してたんじゃないか?」

「もう!ヤーニングさんすぐそういう方向に話を持っていくんだから!私は帰りませんよ!」

「強情だなあ。でも、友達は大切だろ?俺もそうだ。マーカスは本当に大切な友達だ」

「……私も、友達は大切です。ロンバルの友達もだけれど、ノイくんも、初めての男友達だし」

「おやっ?ノイはそう思ってないみたいだぜ……?」

「え?そ、そうなんですか……。やっぱり私とペアなんて嫌なのかな」

「っっぷはははは!!! 本当にお前ら、お子ちゃまだな!! 変に大人ぶるなよ~」

ヤーニングさんはぽんぽん、と私の頭を撫でる。

「か、からかわないでください!なんでからかわれてるのか分からないし!」

はっはっは、としばらくヤーニングさんは笑っていたが、話を続け始めた。

「ま、男同士だし、“そういうこと”にももちろん興味があった。二人ともな」

「そういうこと……?」

「言わなきゃわかんねーのか?“えっちなこと”だよ」

「あっ……」

ヤーニングさんの口から“えっちなこと”なんて言葉を聞くなんて……。

私は正直ちょっとドキドキしてしまった。


「ご理解いただけましたかお嬢さん。んで、俺たちはある日狩りで“そういう街”の近くに行ったわけだ。もちろん帰りに“そういうお店”に寄る計画も立ててた。もちろん当時は二人とも貧乏で金もなかったから有り金集めても低ランクのお店しか選べなかったんだけどな……で、こっからだ」

「な、何が起こるんですか?」

「そんな人をゴミを見るような目で見るなよな~!男同士の会話なんてこんなもんなんだぜ!んで、俺らはしっかりサービスをしてもらったわけ。俺はそれで終了だったが、マーカスはその一回でお店の女の子に惚れ込んじまったんだよ」

「そ、それでお金を取られたと……?」

「純粋にお店に通ってお金を払うのは詐欺に遭ったとは言えないな。マーカスは何回もお店に通って、女の子との親密度を高めていったんだ。それで、女の子はお店を辞めてマーカスと結婚する、という話になったのだが、条件があった。それは女の子が抱えている借金を全額肩代わりすること。いわゆる身請けってやつだな。貯金も無く貧乏だったマーカスは昼夜問わずに働き、どんどんボロボロになっていった。一番近くで見ていた俺も辛かったが、あいつが幸せになるなら……と、止めなかったんだ」

ヤーニングさんの口調が重たくなっていく。


「それって……」

「そう。マーカスが身を削る思いで稼いだお金は、見事に持ち逃げされた。そういうお店で働いてる女の子の追跡ってさ、できねえんだ。源氏名っていう本名じゃない名前で働いてるから、本名も分からないし、マーカスが本名だと教えられた名前にも手紙は届かなかった。お金を持って逃げた以外に考えられなかった。お店に文句を言いに一緒に行ったが、迷惑客ということで出禁になっちまった」

「う、嘘……こわい……」


「こわいだろ?だがな、これはまだ一回目なんだ。序章に過ぎなかったんだよ……」

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